アリュード・マクシミリアン伯ー妖精麗人の愚直なる復讐ー   作:護人ベリアス

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お久しぶりです。
ようやく展望が少し見えてきたので投稿を再開します。


第三幕 復讐への道?
九死に得し一生の用途


ふと気がつくととても暖かい場所にいた。

 

痛みも苦しみもない。そんな場所。ただそれだけではない。

 

ふと見てみると赤い髪を持つ私の恩人がいる。

 

…ようやく会えた。ずっと私はアリーゼに会いたかったのだ。これでようやく私はアリーゼに直接きちんとお話しできそうだ。

 

アリーゼだけじゃない。

 

ミア母さんも輝夜もアーニャもライラも。みんな。私の大切な人達がみんなここにいる。

 

なんて暖かくて和める場所なのだろうか。

 

不安なんて生まれそうにもない平穏な場所。

 

 

「…ュ…さん…」

 

 

…なのにどうしてだろう。

 

 

「…ュー…さん。」

 

 

私を…呼ぶ声が聞こえる。

 

その声は私が本当にずっと聞きたかった声で。

 

失礼だけれど、ここにいる誰よりも大切で恋しくてどんな時でも忘れることのなかった人の声で。

 

 

「リューさん。」

 

 

その声を無視し続けることができない。

 

私は一言一句聞き取ってしまう。

 

その声のする先へと振り返らないといけないと思いもする。

 

けれどこんな暖かい場所を離れるのも嫌。

 

アリーゼともみんなとも離れたくなんかない。

 

だけどみんなは微笑みながら首を振っている。

 

私はまだあなた達の元には逝ってはいけないということ?

 

まだ私は苦しみながら戦い続けなければいけないということ?

 

私はそう思うと憂鬱になって、振り返りたくなくなってしまう。

 

 

「リューさん。」

 

 

けれどその声は私を襲いくる苦しみよりも幸福を与えてくれそう、だなんて楽観的な考えも浮かんできて。

 

私はその誘惑に勝てない。

 

その声の持ち主のためなら不幸になったって苦しむことになったっていいとまで思えてしまって。

 

私はついに振り返ってしまった。

 

ごめんなさい…みんな。

 

私はみんなの好意に甘えます。

 

みんながまだ私がみんなの元にいてはいけないと言うならば…私は…あの人の元に…

 

私は私の名を呼ぶあの人の声に応えた。

 

 

⭐︎

 

 

「ベルッ!!」

 

リューは彼女の想い続けた人の名を叫びながら勢い良く身体を起こす。ただ全身に激痛が走ってしまい、リューはそれ以上の言葉を続けることができなかった。

 

それでもリューは自分の名を呼んで、暖かい場所から呼び戻した人の姿を必死に見渡して探す。

 

けれどその姿はなく見えるのは木の壁だった。それでも辺りを窺い続けると…

 

「やっと目が覚めたね。何日も寝込んでたから心配したよ。」

 

「シル…」

 

代わりにいたのはシルだった。シルは心底ホッとしたような表情を浮かべて飛び起きたリューを見つめていた。リューはその時ようやく意識を失うまでの経緯を思い返し、大きな安堵の溜息を漏らした。

 

「…よかったです。シル。あなたも無事で…もし恩を受けたあなたの身に何かあれば、私は死んでも死にきれなかった…」

 

「もぅ…恩とかそんなのどうでもいいの!私とリューは友達だよ?私達は友情で結ばれててそれ以上もそれ以下もないんだから!いい?」

 

「はぁ…」

 

リューは自身のシルから受けた恩を否定し、友達であることを強調するシルの物言いに少々の違和感を抱いたが、先に尋ねるべきことがあると考えその点を追及するのはやめておくことにした。

 

「それで…ここは何処です?それと追手は?」

 

リューの問いにシルは川に身を投げてからの出来事を掻い摘んで話した。

 

二人は飛び込んだ後しばらく意識を失ったまま川の流れに身を任せて漂流していたが、何とか河原に漂着。その漂着先が幸運にも事前にシル達が準備しておいた隠れ家に近く、先に意識を取り戻したシルが何とかリューをそこまで運び、今までここに滞在し続けていること。

 

追手は川に身を投げて絶命したと思ったのか二人が追手の予想よりも漂流していて見つけ出すことができなかったのかは見当がつかないが、少なくとも今まで追手に居場所を掴まれていないこと。

 

リューは軽傷だったものの長期の牢獄生活のせいで衰弱し、今まで意識が戻らなかったということ。

 

シルは安堵を浮かべたままリューにそれらを語った。

 

「状況は…掴みました。ひとまず落ち着ける…ということですね。」

 

「そう。とりあえずは安全だと思うよ。それでリューはまず体調を整えないと、ね?」

 

シルはそうリューに微笑みかける。そんなシルにリューは思い詰めた表情を浮かべて言った。

 

「あの…シル?私のせいで貴方だけでなくミア母さんやみんなを…」

 

リューが語ろうとしたのはリューを助け出すために命を賭けたリューにとって大切な人々のこと。

 

落ち着きを取り戻したリューは彼女達のことを思い出し、シルに何かを言わずにはいられなかった。

 

だがリューの口から出てくるのはきっと自分を責める言葉ばかりで。

 

そんな言葉聞きたくなかったシルはすぐさま遮った。

 

「言わなくていいよ。リュー。私はリューの言いたいことが分かってる。」

 

「シル…私は…」

 

リューはシルに懇願するような目を向ける。それはあえて自分を責める言葉を吐き、シルに慰めてもらいたいからか。それともシルに断罪して欲しかったからか。そこまではシルにだって分からない。だがリューに全てを言わせてもいいことなど何一つないことはシルには分かっていた。

 

「リュー?ミアお母さんもみんなもリューを助けたいと思ったから行動したの。当然私も同じ。決して強制とか義務感からとかじゃない。理由はそれぞれかもしれないけど、みんなリューのことが大好きで命を賭けてでも助けたいと思った。それだけは間違いない。だからリューは自分が助けられたことを否定しないで。それはみんなの死を否定することにもなる。それはリューにも理解できるよね?」

 

「…っ。…分かります。…すみません。シル。」

 

シルの言葉を理解したリューはハッと息を飲むと自らの考え方の間違いを悟り、謝罪を言葉にする。そんなリューにこくりと頷いたシルは続けてリューに語る。

 

「それにリューは過去のことにばかり囚われすぎてる。確かに過去の過ちや後悔から学ばないと成長は絶対できない。けれどずっと過去ばかり気にしても何もできないよ。前に進むこともできない。過去を忘れていいとは言いたくない。だけどリューはもっと今や未来のことを気にしてもいいような…気がする。」

 

「シルの…言う通りです。」

 

「だからリュー?これからどうしたい?リューは何がしたい?」

 

シルの持ち出したのは先日追手に妨害されて途切れていた未来を問う質問の続きだった。その問いにリューは困惑した表情を浮かべたまま戸惑いがちに答える。

 

「それは…特にないです。なのでシルの望むように…」

 

リューはあの時心で出した答えと同じシルに委ねると言う答えを口にした。

 

だがその答えをシルは許さなかった。

 

「ダメ。私に自分の未来を委ねるようなことを言っちゃダメだよ。恩があるからとか理由をつけて私の考えに従おうとするのもダメなんだからね!」

 

「シル…」

 

シルの言葉にリューは困り果てる。シルにそう言われてもリューには未来を決めることができないのである。

 

あのとき思い浮かべた未来は二つ。

 

平穏な生活か復讐か。

 

どちらも命懸けで助けてくれた大切な人達の思いに応えられない…そう感じるリューはどうしても答えを決められずにいた。

 

そんな困り果てるリューにシルはリューが気づいていなかった決定的事実を告げた。

 

 

「まぁ…決められないよね。だってリューはいつも自分の意思で行動を決めれてないもん。」

 

 

「シッ…シル…?今一体何と…」

 

リューの声は震えていた。それはリューの気づいていない核心を突かれたようで思わず恐れを抱いてしまったから。その核心を告げられたくない。そう瞬時に思ったから。

 

だがシルは冷たい表情を浮かべて続ける。

 

「そうだよね?リュー?リューがいつも行動するときは『【アストレア・ファミリア】の正義が…』とか『シルが…』とか『ベルが…』とかばっかり。リューがリュー自身が何したいどうなりたいとかはあんまり言わないよね?それもリューの個性で優しさとかの現れなのかもしれない。けど少なくとも私はリューが他人を理由にしたり他人の考えの受け売り以外の自分の考えで行動しているのをほとんど見たことがない。」

 

「それは…」

 

思い当たる節がリューにはあった。

 

ある時のリューは主神であったアストレアの唱える正義を受け売り。

 

またある時は【アストレア・ファミリア】の仲間達の未練や恨みを理由に復讐を敢行し。

 

またある時はシルへの恩返しを理由に行動して。

 

またある時はベルの窮地を理由に手助けを行なってきた。

 

リューは自身の行動基準は正義があるかどうかに置いていた。そして【アストレア・ファミリア】にいた頃の正義は人々や平和に害がある者を倒すことにあった。だからリュー達は闇派閥(イヴィルス)の討伐に力を尽くした。

 

だが忌まわしき【厄災】の一件以来リューは何をした?

 

治安を正すために行動しているはずのリューが治安を乱すことなど多々あった。

 

リューには自身が【アストレア・ファミリア】の元で抱いた正義を遂行し続けていたという自信があるとは言うことができない。

 

『豊穣の女主人』でウエイトレスとして働き続けたこともベルを何度も助けたことも周囲に求められたから、という理由は立てられてもそれはかつての正義とは関連性はあるとは言い難い。

 

リューの行動には一貫性がなくなっていたのは明らか。それはリューには本当の自身の正義がないからだというのはシルに言われてしまえば、そうだと言わざるを得ない。

 

リューはシルの指摘に動揺を隠しきれず呆然と言い訳を捻り出すための考えを巡らせるしかなくなる。そんなリューにシルは小さく溜息を吐いた。

 

「ごめん…リュー。私もその原因を作った一人だもんね。私がリューに色々頼んでリューが行動する理由を作ろうとした…リューの何かが変わって欲しいと思った…それは認めるしかない。それがリューに悪い影響があったなら私が悪いよ。リュー。本当にごめんなさい。」

 

「違う…謝らないで…ください…これは…私の意志の弱さ…里を出てからも何一つ変われなかった私が…悪くて…」

 

シルが深々と頭を下げるのにリューは首を振って否定する。

 

リューには元々明確な夢も正義もなかった。それは故郷の里を出た時からずっと。だからアリーゼやアストレアの語る正義がそのままリューの正義になった。それがリューが変わることのできる正義(希望)になりうると思ったから。

 

だがリューは里にいた頃と何一つ変わっていない。エルフの慣習に縛られているのが何よりの証拠であることはアリーゼと出会った時から気付かされていたのに。

 

ただ里を出るだけで。ただアリーゼ達と共に正義を執行するだけで。私は何かが変わるだろう、変えてくれるだろう、と心の何処かで期待していたのかもしれない。

 

そして私は周囲が私を気遣ってくれることに甘えると同時にその意図に気付けていなかったのかもしれない。シルだけでなくアリーゼも輝夜もライラも。私は彼女達と意見をぶつけることで対等になったと勘違いし、幼いままの自分を変えることに一切の関心を払ってこなかったのだから。

 

輝夜が私を幼いと表現したのはまさにその通りだったのだ。

 

変われなかったのはリュー自身が努力を怠ったためであることは明らか。

 

それがリューだけでなく周囲にまで不幸をもたらしたのである。

 

そう気付かされたリューは自らを呪いたくなった。リューは表情を歪ませて自らの積み重ねた過ちに絶望する。

 

何度も何度も周囲が変わることを促していたのに変わろうとしなかったリューを普通の人なら見捨てるだろう。ここまで過ちを重ね続け、変わろうともしない愚か者など何度言おうと無駄であると誰でも思いそうだ。

 

だがリューのそばにいるのはリューの親友だと自認するシル・フローヴァでリューを決して見捨てたりなんかしなかった。

 

「リュー?後悔を身に染みて感じるなら…変わらなきゃ。」

 

「しかし…どうせ私など…」

 

「どうせじゃない。リューなら変われる。リュー・リオンは…ポンコツで愚直すぎて間違えることもある。けれど最後には必ず正しいことができる人。私の親友はそんなすごい人。今からでもリューは変われる。自分を信じて。リュー。だからまずは自分が何をしたいのか自分で決めなきゃ。ね?」

 

「シル…」

 

シルは真摯な目でリューの背を押すようにそう言う。そしてシルはリューにもう一度問うた。

 

「もう一度聞くね?リュー?あなたはこれからどうしたい?あなたは何がしたい?あなた自身は何がしたいの?」

 

シルの二度目の問いを今度こそリューはきちんと受け止める。

 

シルの言う通り自分は変わらないといけない。そう思ったから。

 

今はシルに背中を押されながらでも遠くないうちにリュー自身の考えで決断しなければ。

 

これがリューの第一歩にならなければ。

 

そう強く思ったリューは深く深くシルの問いへの答えを考えた。

 

答えを出すのにリューは長い時が必要だった。リューは目を閉じて静かに思考に没入した。考え込むリューをシルは黙って待ち続けた。

 

そしてリューがその目をゆっくり開いた時。シルはリューが答えを出せた時だと分かった。

 

 

「やはり…私には分かりません。」

 

 

その答えはシルにとってあり得ないと思わせるものだった。シルはその瞬間呆れと怒りでリューに掴みかかりたくなる衝動にまで駆られた。

 

当然だ。結局リューは結論を出そうとしなかったと思える回答だったから。結局リューが変わろうとしていないと思える回答だったから。

 

だがその言葉には続きがあった。

 

「…情報が足りなすぎます。これでは私が何をすべきか判断できません。私を陥れた者達のことも。…ベルのことも。あらゆる周囲の状況や動機などをきちんと知らない限り…私が正義に反することを為していて陥れられるに値する者だったのか。それとも陥れた者達こそが間違っていて復讐する必要があるのか。また…その陥れた者達が正しいことを為し…ベルに危害を加えていないなら私は復讐するべきではないと思います。その全てを今はまだ私には判断できない…」

 

シルはリューの語りに目を丸くさせた。リューは自らの考えで色々な将来を見出すことができていたから。そしてその中から自らの意志で一つの将来を選び取る覚悟を垣間見ることができたから。

 

そしてリューは一つの答えをようやくシルに差し出す。

 

 

「…私はオラリオに今すぐ戻らなければなりません。全てを知るために…私の未来を決めるために…」

 

 

「…今すぐじゃないといけないの?オラリオから脱出してきたばかりだから警戒が強い可能性も…」

 

「いえ。私自身のことを考えると時を置く理由は全くありません。…不義を為した者がいるならばその専横し続けることを許すわけにはいきません。それに…ベルの今にも関心がありますから。」

 

リューにあえてシルは翻意を促す言葉を告げて自身の言葉によってリューの意志が揺らぐか試してみるが、リューの決意がシルの言葉で揺らぐ様子はない。リューは決然と自らの行動の根拠を述べてくれた。

 

シルはリューの進み出た第一歩に小さな満足感を覚えながらコクリと頷いた。そしてシルもまた自身の決意を告げる。

 

「そっか。よし。リューがそうすると決めるなら私は親友としてリューを助けるよ。」

 

シルがそう決意を告げると、リューはなぜか不満げな表情を浮かべる。

 

「…私がシルの意志に従うのは許されずシルが私の意志に従うのは許されるというのは些か矛盾していませんか?」

 

「それとこれは違うよ。リューは私に頼まれて行動してた。でも私はリューに頼まれてないし、きっと断るつもりなんでしょ?」

 

「…当然今のオラリオに戻るのは私にとってもシルにとっても危険極まりありませんから。本当はをシルを止めたいですが…」

 

「私は止められようとも付いて行くよ。私自身の意志で。親友を助けるために。」

 

「…お言葉は嬉しいですが…分かりました。お願いします。」

 

リューの指摘はあっさりシルに論破され、今までの如くシルの発言をリューは認めるほかなくなる。こういったシルのわがままを断固として抑える力もリューには必要かもとシルは思いはしたが、これ以上頑固になられては非常時の柔軟性を失いかねないと思い直し指摘を控える。

 

ともかくリューは失礼な考えだが、シル的にはまだまだ未成熟だと言うしかない。だから自分が少しでもその背を支え、成長を促すしかないとシルは密かに決意していた。

 

それがリューをこれまで振り回し続け、リューに不幸が襲いくるのを防げなかったことへのシルなりの償い。

 

シルはリューの同意に笑みを零すと徐に立ち上がった。

 

「じゃあ…私に策があるから聞いてくれる?」

 

「策…ですか?」

 

「オラリオに戻るための、ね。」

 

あとはリューがオラリオに戻り、真実を見定めた上で未来を決めるだけ。

 

どんな未来であろうとリューを支えるとシルは決意を固めている。

 

だからシルのまずすべきことはリューが真実を知るための道筋を整えること。

 

その準備をもう既にシルは整えていたのである。




リューさんの正義…
作者の中でのこの揺らぎが休載に追い込まれた原因の大半を占めてました…お陰でベル君の処遇もリューさんのあり方も今後の展開も全部消し飛びました…
みんなダンメモのクリスマスイベントのせいなんだ…と言い訳しておきます。

ちなみにこの混乱をTwitterで延々と呟いてたのでご覧になりたい方がいらっしゃれば、どうぞ。
@ryu_beru
です。フォローすれば、ほぼ毎日リューさん語りを見れますよ!(笑)

リューさんの正義に関しては原作で希望だと出ていましたため、あくまでこれは個人的解釈です。(正義=希望→希望を守ること、だったのなら一貫性が保てますが、そのままの意味だとイマイチ意味が通じないなーと。個人的所感ですけどね。)
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