人形だって寂しいし、切ないときもあるという話

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チェリーフェイス

「AR-15、随分と陰気臭い顔してるじゃないか。後方支援は不満か?」

 

 背中を叩きながら歩いてきたM16が気さくを装いながら喋りかけてくる。思い立ったように自分の肩に積もった雪を払う。慣れたとは言え雪もよく飽きずに降ってくるもので、彼らにはきっと落ちる以外の楽しみもないのだろう。

 

 AR-15が丸くなった背中も正さずに、ぼんやりと振り向きながらM16に冷たい視線を送る。薄桃の髪がはらりと視界を遮った。

 

「任務は任務よ、貴賤なんて付けないわ。あんたじゃあるまいし」

「ひどい言い草だな、私が仕事にやる気云々なんて持ち出したことなんかないよなー、M4?」

「えっ。あ、まあ多分ない…………はず」

 

 自信なさげな返答、M4の返答がM16の日頃の行いを端的に表していた。

 返答が意外だったのかしょげ気味なM16を放置しながらAR-15が雪道を進む、運ぶ荷物はトラックに積まれては居たが積もる雪が重ったるい。足を一歩に前に出すだけで一苦労だ。

 

 俯きながら赤くなった足元をじーっと見る。

 

「指揮官、最近会えてない…………」

 

 心細そうにボソリと呟いてみたものの、其処から始まる回想は酷いものだった。

 というのも大体指揮官が悪いもので、彼女の記憶にある指揮官は「ジャケットの袖に手を突っ込んでくる」、「パンツ鑑賞をする」、「他の人形にウザ絡みをする」と言った中々癖の強いもので、段々寂しいどころか苛立ちすら覚える。

 

 けれど。自分の薬指の純銀を眺める。

 そんな女癖の悪そうな男も、指輪を渡してからはぱったりと何もしなくなった。まるで何もなかったように、記憶に靄がかかるくらい。

 

「こんな感情、処理できるわけ無いでしょ。馬鹿」

 

 それは悩みの種であったはずだけれど、気づけばちょっと寂しいなんて変なことを考えてたりして。

 凄く変な話なのに、でもそう思うと胸の奥が少しだけ冷えてしまう感覚がある。それはそれで彼の信頼や興味関心が向いている証拠なのではなんて考えてしまうと、もう頭の中をぐるぐるぐるぐる。

 

 胸の前で手をきゅう、と握りしめて歩く。

 

「何考えてるのよ」

「お前こそ何を考えてるのか分からん、素直に会いに行ってやればいい。違うか?」

 

 M16がどんよりした顔つきで応える、M4に返答を濁されてしまったのを引きずっているらしい。

 気づけば横にあった顔に思わずAR-15が横にのけぞった。

 

「いきなり話しかけてこないで! 怖いじゃない」

「五秒ぐらい横に立って様子は見てた」

「何も言ってないのが尚更怖いわよ!?」

 

 それは悪かったな、と何故かM16の方が鼻を鳴らして返事をする。あんまりにも身勝手なM16の態度、とうとう空色の瞳が閉じられると大きなため息がこぼれていく。

 

 冬。基地はもうすぐ見えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官は?」

「あら、イチゴちゃん。おかえりなさい、指揮官さんなら今は他の基地を視察しているわ」

 

 トントン、と書類を机で揃えながらKar98kがほわほわした笑顔で答える。相変わらず辣腕と雰囲気の合わない人形で時々侮りそうになる。AR-15は今回もまた”雰囲気で侮るな”と自省の機会を得た。

 光る銀のラインの特徴的な軍帽、その奥の瞳は確かに血の色をしている。美しくとも、愛らしくとも、以前変わらず血の匂い。

 

 さて、”それはそうと”。そんな感じの気持ちで顔をしかめながら腰に手を当てる。

 

「その”イチゴちゃん”って呼び方、辞めて下さい」

「でも可愛いわ、イチゴちゃんは少し取っつきにくいから」

「お節介も過ぎると迷惑です」

 

 うぅ、とKar98kがしょんぼりする。その姿は設計よりもずっと幼い子供にも思えてやはり掴めない、戦場で見た鋭い眼光のフラッシュバックに目が眩んだ。

 

「私達はこれでもハイエンドで、そしてどんな人形とも長く付き合える身分でもありません。親近感も、愛嬌も――――――別れを疵にするだけよ」

 

 何だか言葉を吐き出す喉がひりついた。言葉が喉奥から灼いていったよう。

 指揮官も、そういうものなのだろうか。考えてしまったのだろう。

 

――其処に残っていくのは本当に痛みだけ? それ以外何もない?

 疑問を解決する時間もなく、Kar98kが瞳を細めて見透かしたように笑う。

 

「痛みが苦痛と決めつけるのも狭い価値観、そうは思いませんこと?」

「それは」

 

 虚を突くような重々しい声色、固まって瞬きすればもういつも通りのRF人形だった。

 

「そんな事より! イチゴちゃん、よければ書類を運ぶのを手伝ってくださるかしら! 指揮官さんったら、私が運べないのも分かってらっしゃるはずなのにこんなに一杯積み上げて困ってるのよ!」

「ああ、はい。まあ構いませんよ、何処まで持っていきます?」

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、あのOTs-14だったか? あの子めちゃ欲しい~、うちは夜戦の脇が甘いからな…………げっ、15じゃん」

「げっ、とは随分な言い草ですね、指揮官。AR小隊、帰投しました」

 

 口で言うほど怯えもせず、どかりと席に座り込んでクルクル回り始める。いつもやっている妙な癖だ、実は子供みたいでAR-15はちょっと好き。

 

 Kar98kは別件で食堂に残ってしまったらしく、執務室には指揮官と彼女の二人きり。ぎこちなくはないが静かな空気の中で、指揮官が伸びをしながら欠伸をする。

 

「そう言えばKarに仕事押し付けた気がするんだけど、あの娘何処行ったの」

「食堂に用事があるそうで残っています、まだ用事でも?」

「いいや、しばらく帰ってこねえんだと思ってな」

 

 妙なことを聞く指揮官だと思ったが、一瞬だけ変な予想が混じってしまう。違う違うと首を振って誤魔化した、相変わらず耳は紅い。

 

 AR-15が副官に従事する時の彼らのやり取りときたら、まあそれはそれは無愛想なもので。

 

「資源収支」

「これですね」

「ちょっと飲み物」

「ブルーマウンテンです」

「俺の名前は」

「クロウ・アマミヤ」

「それだそれ」

 

 こんな感じで会話らしい会話は無い。全く寂しいものである。

 AR-15も入隊した時に少々妙な空気を作りすぎたと一抹の反省は有る、けれど指揮官が見た目含めて真っ当に仕事をする姿というのも意外と珍しい。あまりやっているという顔つきをしたがらないのだ。

 

 他の人形が知らない顔を知っていると思うと、この詰まりに詰まった空気感もちょっとだけ好きになってしまう。

 不思議なことだった。

 

「何ニヤニヤしてんだ。きも~」

「仕事もろくに出来ない中年手前の男はもっと”キモい”でしょうね、さっさと書類仕事をして下さい」

 

 手慣れた返しに指揮官はノリノリだったがそれはそうと頭をクシャクシャにする。

 

「つめてー! ってか中年手前ちゃうわ、可愛いところの一つも見せてくれんのかキサマはー!」

 

 ぴくり。ショーケースの端、埃を掬う手が止まった。

 指揮官は今度こそ何やら怒られるのかと身構えてしまうが、ツンケンした声が聞こえてくるどころか、ふいと指揮官からそっぽを向いてしまう。

 

 てっきり機嫌を損ねたのか立ち上がりそうになったが、後ろ姿がどうにも弱々しく見えてきて、段々と別の色を帯びているのが見えてくる。

 

「おいおい、急に黙られると張り合いが――――――」

「よう指揮官! 帰ってたのか、今夜も飲まないか!」

 

 扉を蹴破ってきたM16に指揮官ですら口をあんぐり開けた。ジャック・ダニエルを持った手を弱々しく引っ張るM4の顔、見ただけで「可哀相に」という言葉が零れてしまう。

 

 AR-15がどんどん遠くなっていく。きっと物理的距離は変わらないが、それ以上の何かが遠ざかった。

 いつもどおりに仕事に戻ってしまった横顔がどうにも気がかりだったが、既に酔っているんじゃないかと疑われる人形も放置しきれない。

 

「おい酔っぱらい、仕事を邪魔すんじゃねえよ」

「サボり常習犯が言う台詞かよ~。そうつれない事言うなって、今夜、なっ?」

 

 肩を絡めてくるなり鼻にかかる吐息が凄まじいアルコール臭、匂うだけで酔いそうだ。

 

「ええい酒臭い口だ、お前思ったより飲んでるな! M4も困ってっぞクソ姉貴!」

「えっ、私はその、まあ…………困ってます」

「何、M4が困ってるだと!? 何処だM4、すぐ行くぞ!」

 

 手を目の上に置くなり見渡すような仕草をしてキョロキョロするM16、指揮官が頭を思いきりしばいた。

 

「お前の手を引いてるこの子だよ馬鹿、酔っ払っても顔忘れんな!」

「あ~、此処かM4~! 私が来たからにはもう安心だぞ、誰にいじめられたんだ?」

「付いてきたのはM4、お前が実質いじめてる! ほらもう寝とけ酔いどれ、夜の酒は付き合ってやっからよ!」

 

 げたげた笑うM16を部屋から追い出す途中、黒髪の向こうから青い瞳がこちらを見つめていたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「お前マジで呑みすぎだ、正気じゃねえ」

「そう言うなよ指揮官」

「それ416」

 

 M16が肩をだんだん叩いていたのは416、同時に凄まじい舌打ちとともにビールを飲み干した。今日は嵐と誰もが悟ってしまう。

 急にKar98kが指揮官とM16の間に入ってくるなりベタベタと指揮官の手を握る。

 

 指揮官は焦るどころかむしろ調子が良さげだ。

 

「いつもチャールストンを捲ってる腕の触り心地は如何かね、Mauser Karabiner 98 kurz嬢?」

「それはいつも気分サイアクです! でもお菓子ももらえるので嫌いではありませんね!」

 

 むふー、と言わんばかりにえばるKar98kだが、何をえばっているのか誰も理解できない。

 M16が416に椅子の上でジャック・ダニエルを追いかけ回されているらしく、Kar98kの背中に当たると銀髪が指揮官の膝下になだれ込む。上体ごと乗り出す形になったためか非常に柔らかい感触が彼の太ももにダイレクトヒット。

 随分ともふもふしている。色々と。

 

 一通りファーを触って堪能。割と密着は平気な男らしい。

 

「庇わせる形になって悪いな、俺は平気だぞ」

「いえ、どっちかと言えばそこではなく………………まあ指揮官さんに言っても仕方ありませんね」

「なんかひどい」

「だってあなた、あんまり女性の扱いに慣れてないから……」

 

 否定はできないぞ、と首を傾げながら悔しそうに唸る。

 指揮官がちらりと、離れのテーブルの薄桃色の髪を探す。随分と遠く、M4と何とも静かな様子で飲んでいるのが見えた。

 

 あまりAR-15は酒は嗜まない。次の日に響くのが嫌なのだと聞いたことはあるが、まあ仔細はともかく指揮官も表立って飲んだくれているのは見かけない。

 何で今日に限って、そんな事を考えているうちにM16が指揮官の胸ぐらを掴んでKar98kの上から逃げ込んでくる。

 

 ぷぎゃっ、と下の小さな人形がギブアップする可愛い声がした。

 

「お、おい指揮官!? 何で416はこんな怒ってるんだ!? ヘルプミー!」

「何言ったの」

「ちょっと「最近調子いいらしいじゃないか、上手くやれてるんだな」って言っただけだが?」

「そりゃお前が悪いわ、女の扱い下手なの?」

「は?」

「M16、今日という今日は許さないわよ!」

 

 うわ、と言いながらとうとう席を立ったM16が追いかけてくる416とともにBARの外へと消えていった。一同は過ぎ去る嵐に感謝の敬礼を、指揮官は少しばかりの同輩であるM16A1に哀悼を。各々思うところのある騒動だった。

 

 潰れていたKar98kを摘み起こしてやるが、軽く目を回してしまっている。顔も赤く、見た目よりは飲んでいるようだ。

 

「うぅ…………気持ち悪い、ちょっと指揮官さんをからかっただけなのに」

「なんか不憫ではあるな、部屋まで送ってやろうか?」

「えっ、それは辞めておいたほうが良いかと――――――うっ。駄目ですね、気分が…………」

 

 Kar98kがしきりに向こうのテーブルの方を見るが、誰のことを見ているのかはついぞ指揮官には掴めなかった。

 

 しばらく指揮官と問答を続けては首をふるふると横に振り続けるが、その度に白い顔が青ざめていく上、元気も明らかに削がれていく。

 幾ら当人が良いと言っても、男は放っておけるたちでもない。

 

「もう良い、連れて行ってやるから部屋で寝るんだ。良いな?」

「駄目ですってば、そういうことを他の子にしては…………め、目眩が」

 

 やかましいわ、と言いながらKar98kを軽々と抱き上げる。所謂お姫様抱っこの絵面となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「はーいお嬢さん、お大事に~」

「…………イチゴちゃんに、ちゃ、ちゃんとフォローを……うぅ、吐き気がぁ~…………」

 

 扉越しに呻くKar98kに静かに合掌。だが勿論死んでいない、この男が無駄に不謹慎なだけである。

 快復を祈りつつ居てもしょうがないのも事実というもので、時刻ももう中々更けてきている。

 

 何度考えてもこれ以上やることも浮かばず、ふらふらと寄り道をしているつもりだったのだが、気づけば自室に着いてしまう。足は覚えてるものだし、人は見知った道以外を通るのは意外と難しいらしい。

 

「うーむ…………俺の身体が安眠を求めているか」

 

 阿呆なことを言って扉を開いて、歩こうとした瞬間に誰かとぶつかる。思いっきりすっ転ぶ小さな人影。

 明らかにあちらも面食らっているようだったが勿論彼のほうが大声を出す。

 

「おわ!? おま、誰だよ! 俺の部屋の合鍵持ってるやつなんて一体……くらい………しか……あー」

「その一体よ…………った」

 

 薄桃の髪に空色の瞳、誰も間違えない。AR-15だ。

 

 しかし合鍵は渡しておいてみたものの、彼女が自室に入ってきたのは指揮官にとって初めての経験だった。それはそれで目を丸くして驚いてしまう。

 

「えっ、めずらし。どうした、何か用か?」

「別に。ちょっと偶に話ぐらいしたくなったらおかしい?」

「良いや全く? ようこそ、殺風景な我が家へ」

 

 ただの基地の部屋の一つじゃない、なんてボヤきながらも彼女の唇は少しだけ弧を描く。

 

 指揮官の私室は確かに殺風景で、人形との写真と着替えと、あと大きなベッドと机ぐらい。机はせっかくの引き出しも殆ど空で、生活感などというものはまるで無い。

 まあ当然だ。彼には本来の家があるし、此処は仮住まいだ。何よりそれほど没頭するものを持つ時間の余裕もない。

 

 自分でも部屋を眺めながら呆れていた彼だったが、机に小さなハーバリウムが置かれていたのを発見。綺麗な桜のようだが、置いた犯人は一人しか心当たりがない。

 

「俺の部屋に似合わねえな、カカカッ!」

「殺風景なくらいなら不格好なインテリアの一つでもあったほうがマシよ、あんたにはお似合いじゃない。故郷の桜ではないけれど」

 

 自嘲気味に笑うAR-15に指揮官が至って真面目な顔をする。

 

「それでもお前がくれたものなら嬉しいよ。似合う部屋には出来ないかもしれんが、大事にする」

「…………っ。当たり前でしょ」

 

 口元を手で隠しながらつっけんどんな仕草でベッドに座り込む。

 

 指揮官が椅子に座ろうとすると恥ずかしそうに手招きをしてくるものだから、仕方なく彼は隣に座ってやることにした。

 

「それで? まさかインテリア一つで部屋に来ようなんて、そんな大袈裟な女でもないだろ?」

「…………」

 

 答えにくそうに体ごと逃げようとするものだから、面白がって指揮官がAR-15の腰をぐいと腕で引き寄せる。

 息のかかる距離、彼女の柔らかい唇がすぐ口の前。指揮官は動揺の一つもするどころか、まるで嘲笑うようにニヤニヤと囁く。

 

「こういうのでもお求めか?」

「…………違う」

 

 顔を真赤にしたAR-15に”結構可愛いな”なんて思いながら腰から手を離す。

 

「悪い悪い、からかいすぎたな――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指揮官が唇の感触に気づいたのは、何秒も遅れてからのことだった。

 ふわふわと髪から甘い匂いが漂ってくる。目を必死で瞑りながら、逃げる指揮官の顔を両手で押さえつける。豆鉄砲を食った顔とはまさにこの事で、指揮官は何よりもまず驚きに顔を染めていた。

 

 別段大したものでもないとは思っていたが、存外に彼女が一生懸命なものだから彼まで顔が熱くなってくる。自分の中で咄嗟に処理はできなかったようだが、彼が抱いたそれは答え合わせをするまでもない。

 

 数秒か、数分か。思ったよりも長く、意外と短い刹那が終わる。目を開けて顔を離した彼女の顔は凄い色だった、そのまま燃え尽きてしまいそう。

 

「…………なんか。俺まで恥ずかしいわ、やる時はやる女だったか」

「うっさい」

「ごめん」

 

 逃げるように指揮官が立ち上がって距離を取ろうとするが、そうは問屋が卸さない。何時だって色めき立った女は強いものだ。例えそれが人間でなかろうと。

 

 追うように立ち上がった彼女がそのまま彼の腰元に手を回すと、胸に顔を埋める。力が強いような弱いような、人形ならもっと強くも出来るからきっと加減はしているのだろう。

 だが指揮官から見れば、それで”一生懸命”な気がする。

 

「――――――――何か悪い。寂しい思いとかさせたかな、分からねえや」

「分からなくていい。いいから、ちょっとだけ。ちょっとだけギュッとしてて…………」

 

 声は弱々しく、また切ない。震えるような透き通る声に、指揮官も何やら決心がついた。

 躊躇っていた手をゆっくりと彼女の背中に回すと、ゆっくりと抱き返す。

 

 彼女しか知らない秘密だが、彼は真面目な時の女性の触り方は酷く割れ物を触るようなおっかなびっくりで、やっぱり子供みたいでちょっと可愛かったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官さん、ちゃんとイチゴちゃんに謝りましたか?」

 

 朝一番に乗り込んできたお嬢様RF。復帰はえーなコイツ、と率直に指揮官は感心した。

 結局謝る心当たり自体はさっぱりなかったし、やっぱりKar98kの言い分はよく分かってはいないのだが、昨日のことが相当頭に残ってしまったのだろう。

 

 口元を抑えながら珍しく目をそらし気味に応える。

 

「分からん。ただ、何かあっちの要求には答えた。うん、多分な」

「…………本当ですか~?」

 

 机に身を乗り出すなり、息のかかる距離でじーっと指揮官の目を見るKar98k。

 鮮血色の瞳の美しさも去ることながら、唇を見た時に彼は咄嗟に焦ったような感じで彼女を押し返した。

 

「本当だって! ってかKarはなんで俺とアイツの一挙一投足に首を突っ込むんだよ! 何でもいいだろ!」

「だってー! いっつもいっつも見ててヒヤヒヤするんですもの、私は放っておけるほど出来た人形じゃないわ!」

 

 やいのやいのと言い争い。毎度ながら妙な仲はいい。

 

 いつまでやりあっているのだろう、というぐらいに扉が急に開く。

 

「しきか――――――はあ。また喧嘩してる」

「「喧嘩じゃない」」

 

 二人して声を揃えたのに、AR-15がくすくす笑う。

 

「指輪でも送ったらどうですか? 随分仲良しみたいですしね」

「ばっか、滅多なことを言うもんじゃねえ。誰がこんなお節介と」

「わ、わわわわ私そういうのじゃありませんから! 本当ですからね!?」

「いやお前は動揺しすぎやろ…………」

 

 あわあわしだすKar98kを宥めにかかり始めた指揮官の前、AR-15が書類を置くなり耳元でささやく。

 

「別にいいわよ? 三人でも」

 

 今度は指揮官の方がカンカンになった。

 

「馬鹿野郎! そんな俺が浮気性に見えるってか!?」

「言ってみただけじゃないですか。指揮官って結構初心なんですね」

 

 余裕ぶって出ていくAR-15に

 

「アイツ、今度滅茶苦茶にするか…………」

 

 と指揮官が一人で呟いた。



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