「雪女って知ってる?」
「…冬に現れる妖怪の類か?」
寒くなって来た11月某日の飲み会の帰り道。まだ11月の中頃だが街は早くもクリスマスの商品が並んでる
そんな街の風景を見ていると悪友の藤堂が雪女の話を始めた。
藤堂は同じ大学で民俗学を専攻している。だからか藤堂との会話は自然と民俗学だの伝承がどうだとか、そういう話になる。
俺は言語学専攻だから、民俗学は得意じゃないが、藤堂の話を聞く分には面白い
「で、雪女が何だ?彼女にしたいのか?」
「無理だろ、そもそも我輩の解釈では、雪女は女とは限らない」
藤堂は変わり者で、民俗学の話をする時は一人称が我輩になる、普段は僕なのに。一度レポート課題で、うっかり一人称を我輩にしたまま提出して笑われるような奴だ。
「ほう…それはそれは興味深い…」って言って欲しいんだろうなぁ
「雪女の活動期は冬の初めと冬の終わりだ。」
「一番輝ける真冬は活動しないのか?」
「うむ。我輩も疑問に思って調べた、どうやら雪女は真冬には冬将軍になるらしい」
笑うべきか迷い、曖昧な表情で藤堂を見るが、藤堂の演説は止まらない。スイッチが入ったようだ。
「雪女の活動期の共通点は気温だ、まだ暖かい冬の初めと、暖かくなって来た冬の終わり、この時期は弱体化している…そこでどうするか?」
「さぁ、知らんな」
「か弱い女のフリをして獲物を探し、鼻の下を伸ばしてきた野郎を捕まえる!」
俺は藤堂に芋焼酎飲ませたのは失敗だったなと思い始めた。
「そして真冬になると!冬将軍へと昇格する!馬のような手下を作り、厳冬の夜を縦横無尽に駆け回る!」
身振り手振りで熱く語る藤堂、イルミネーションに囲まれた明るい街で藤堂の白い息がスクリーンのようになる。
「それじゃあ、雪男はどう解釈する?」
「雪男か…イエティでいいんじゃないか?」
俺の質問は適当な事で流された。
一呼吸置いて、神妙な顔になった藤堂はこう言った
「…雪女は外国では雪の女王だろ?一説にはこの冬将軍の姿がサンタクロースに間違われたらしい。」
俺は噴き出した、神妙な顔で何を語るのかと思ったらサンタが出てきた。藤堂の非難の視線が痛い
「おい、笑うなよ!」
「悪りぃ、悪りぃ。じゃあ、冬が終わったらどうなるんだよ?冬の間だけ存在するなんて都合のいい話だな」
してやったり、藤堂が一瞬言葉に詰まった。
また神妙な顔になる。
「冬以外か…おそらくだが、我輩は雨女、雨男にでもなると思われる」
「へぇ。雨男雨女ってそう言う事じゃねぇだろ」
「まぁ、それを言ったら晴れ女、晴れ男キリがないな」
「字面は合っても意味は違う気がするけどな」
気づけば街から外れ、川沿いの道を歩いていた。ここで雪女(もしくはそれに準ずる者)が出たら俺たちの物語が始まるのだろう、だがそこを曲がれば俺の家に着く
生憎俺たちの物語は始まらない
「じゃあな藤堂、話は面白かった」
「もちろん全て僕の作り話だけどな」
「リアリティがあるし本気にしちゃったよ」
「全く、民俗学なんか専攻するからそうなるんだ、勝手に創作するなよ」
「いや〜これは趣味だな、いつか僕の作り話が伝承になるといいな!じゃあ、またな」
その後、藤堂を見た者はいない。