鬼の真由子は夕方に神浜についた。
神浜はいつも通りに平和だったが、その様子に真由子は反吐が出る思いを抱いた。
所々で魔法少女の反応があるが、そのほとんどが笑顔で楽しそうだった。
街が夕闇に包まれて行く中、真由子は何気なく歩いて神浜の様子を見回った。
そして、人気のない場所で仕掛けることにした。
「私の血を持ってルールを決める。『私が魔法少女を殺したら1人につきグリーフシードを1つ捨てる。私が殺し損なったら私の天使に救いを求める』実行開始」
真由子は自分の腕を切って血を流して魔法を発動した。
その瞬間、結界のようにルールという概念が神浜の全体に広がった。
それから真由子は鬼の姿のまま、新しいマギウスの翼の1人を殺した。
真由子の真っ黒な刀身は、その血で真っ赤に染まりながらソウルジェムを砕く。
「まずは1人、ルールに従ってグリーフシードを捧げる」
そう言って真由子はグリーフシードを細切れにした。
「残り7個。私の死の可能性を上げながら、織莉子達に殺させて、魔女化もさせたみんなのために、この恨み後7人にぶつけてやるわ!」
さっき決めたルールはこのためのもの。
人を殺す勇気より、自分を殺す方が何倍も難しい。
だから、魔法少女を殺すために、自分が魔女になる可能性と引き換えに、殺しをキリカのように簡単にできるようにした。
魔女化するという自殺より、殺しの方が何の躊躇いもないようにした結果が最初の殺しだ。
次に真由子は一気にハードルを上げて、東のトップである十七夜に喧嘩を売った。
「私はドッペルシステムに入らないように、ルールで適応外にする代わりにグリーフシードを獲得した。覚悟を持って切る私にあなたは勝てるの?」
人気の無い工事跡地で真由子は本気で戦っている。
「そんなことに何の意味がある?ただ無駄に血が流れるだけじゃ無いか」
至極ごもっともな意見だ。
真由子にも恨みの感情がなければ、こんな無意味な狩りはしなかっただろう。
「その無駄な血が見滝原では流れた。今はこよみのおかげで平和になったけど、私はこの自分の血に誓って恨みを晴らすと決めた。神浜に魔女を取られたせいで私の親友は死んでいったんだ!」
真由子は十七夜に本気で気持ちをぶつけた。
神浜の歴史を恨んだ十七夜には、恨みを抱くということがどういうことなのかを分かっている。
だから、その気持ちに応える気で相手することにした。
「そうか。自分達が気にしていなかった間に、知らぬ間にこちらの人間が傷つけてしまっていたのか。すまなかった」
「そんな軽い謝罪ごときで私が許すわけないでしょうが!」
「本当にすまなかった。自分も神浜の歴史を恨んでいる。だから、恨みたいという気持ちはよくわかるぞ。だから、落ち着いて話し合おう」
ちょっとだけ話して真由子は、十七夜の『神浜の歴史を恨んでいる』という言葉で気持ちが揺らいだ。
そのせいで自分が殺し損なったことになって、ルールで戦場の天使を呼ぶことになった。
だから、もう戦えないと思った真由子は、十七夜との話に集中する方向に切り替えた。
「ねぇ…もう戦いは終わりでいいから聞かせてよ。歴史を恨んでるってのを」
一瞬で戦意を失ったことに気付いて十七夜は武器をしまった。
それは相手が攻撃してこないと信じての行動だ。
そして、心を落ち着かせて今の言葉に返した。
「自分達が住んでいる神浜の東側は、東というだけで忌み嫌われていた。それは大人だけでなく子供にも根付いている。今では変わりつつあるが、ただ東出身というだけで嫌ってくる神浜の歴史を自分は恨んだ」
この話を戦意をなくした真由子は静かに聞いている。
その間に日は完全に沈んだ。
「だから自分は神浜の歴史の破壊を願ったんだが、あの頃はまだ青かったんだ。今ではその願いに後悔も感じている」
そこに戦場の天使が降り立った。
和泉十七夜のその背後に。
十七夜が恨みと後悔を語った瞬間に現れた。
「あらら、なんで呼ばれたのかと思ったら、デート中に教えてくれた魔法のルールだったみたいだね」
そう言いながら素早く十七夜に触れた。
それからゆっくりと真由子に近づいた。
「恨みがあるから鬼になったんでしょ。でも、私がいる限りは恨みなんて晴らせない。永遠に恨みを背負いながら私を愛し続けなさい」
今私が真由子に言ったのは、お互いの血の誓いでつけられた認識操作とルールを発動させるための言葉だ。
今ので真由子は復讐できなくなった。認識も変えられたのだから。
「分かったよ。私のかわいい天使さん」
「誓いを守ってくれてありがとう。私の素敵な鬼さん」
ゆがんだ愛で幸せを感じる2人は、あのほむらでも引くような恋愛観を持っている。
そんな2人は戦っても強すぎる。
十七夜は黙って2人を見守った。
そして、真由子は私にお姫様抱っこをされながら空を飛んだ。
「和泉十七夜、私達はあなたの願いは間違ってないと思う。だから、神浜を滅ぼしたくなったら真由子を頼るといいよ。うちに来ればすぐに会わせるからさ」
少し高いところからそう言ってあげた。
その声を聞く十七夜は、悪人のような笑みを浮かべていた。
次回、魔法少女ストーリー こよみ
ここまでに何度か出ててきた『血の誓い』これについてこよみの話で明らかになります。
2人が縛るのに使った最上級のルールが運命に影響する。