秘封道楽 ACT2 〜少女探訪〜   作:ユウマ@

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はやいよ、つまりみじかいよ


夢の郷

「あら、無反応?冷たいこと」

 

言葉の全てが、まるで針のように私に突き刺さる感覚がする。口を動かすことも、それどころか身動きすらとることが出来ない。

 

「…まぁ、良いでしょう。それより貴女、覚えているでしょう?さっきの女の子は、此処を何と言っていたか」

 

 

彼女が言っているのは、恐らく菫子ちゃんのことだろう。彼女は、ここをまるで───

 

「天国、みたいだって…」

 

背後で頷く気配がした。同時に、頭上の日傘がゆらゆらと揺れる。

 

 

「そう、此処は天国。此処に招かれるモノは等しく、此処が終着点となるの。さっきの彼女も、私も。あるいは貴女がこれまでに出会った全てにとって。……けれど、貴女だけは違う」

「今の貴女は幻想郷に相応しくないわ。私と()で繋がっているだけで、貴女はまだ現実を歩いているのだから」

「縁って……貴女のことなんて、私」

「知らないでしょうね。けれど私は誰よりも“マエリベリー・ハーン"を知っている。それに、そう……貴女のお友達、宇佐見蓮子のことだって、たくさん」

「!」

 

思いがけない名前に、弾かれたように振り向く。だが、既にそこには誰も居なく、気配も無くなっている。だが、何処からか声だけが響いてきて。

 

『きっと貴女は、この先何度も幻想郷へ来ることになるでしょう。他の妖達は知らないけれど、私は歓迎致しますわ。願わくば、お友達も連れてきて貰えると助かるわ』

「何を…。貴女は、一体なんなの…?」

 

絞り出すような私の言葉に、声はくすくすと笑ってみせた。それは楽しんでいるようで、まるで無知な私を嘲るような、そんな笑い声。

 

『それも、いずれ分かること。では、ご機嫌よう。願わくば、貴女が早く幻想郷に馴染んでくれると良いのだけれど』

 

そう残して、静寂。残された私は、ただ呆然と空を仰ぎ見るのみ。

彼女が何なのかは、まるで分からない。それどころか、あちらは一方的に知っているかの様な物言いですらあった。以前菫子ちゃんに名乗ったのを聞いてきたならともかく、蓮子の名前を出したことなど無いはずなのに。

……考えるうちに頭が煮詰まってきた。とりあえず移動しようかという所で、横から強風が吹いた。突然で抑える暇もなく、私の帽子がふわりと宙に舞った。

 

「あっ、待って…」

 

飛んだ帽子を掴もうと一歩踏み込み、どうにか指先に帽子を引っかける。やれ安心だと置いてきた足を並べて───

 

 

 

 

すかっ、と地面を踏み外す感覚がした。

恐る恐る足下を見る。やはり私が予想した通り、地面など無くなっていて。そのまま、私の身体は2度目の落下を始めた。

 

「〜ッ」

 

叫び声を上げるようなことはしないが、怖いものは怖い。足元に向けていた視線をせめてと上に向ける。

 

 

その先には、こちらに向かって手でも振るように動く見覚えのある日傘と、その隙間からなびく長い金髪があった。一瞬、その中に見えた瞳と私の瞳がぶつかって───

 

 

 

その瞬間、私の意識は沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

「…リー!メリーったら!!」

 

聞き馴染んだ声が耳元で聞こえる。目を開けると、困り顔の蓮子が私を覗き込んでいて。

 

「れんこ…?」

「何でウチの玄関にもたれて寝てるのよ…この前鍵は渡しておいたでしょ?」

 

振り返ると、確かに蓮子の家だ。私は社のような場所に居た筈なのだが……どうも、大学を出てからの記憶が上手く思い出せない。ただ鮮明にあるのは、

 

「夢…不思議な、夢を見たの」

「不思議な夢、ねぇ…とりあえず、家で話しましょ。コーヒーでも淹れるわ」

 

蓮子に促されて、ひとまず蓮子の家にお邪魔する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

そして、夢の出来事を全て蓮子に話をした。当の蓮子は、コーヒーを飲みながら眉を寄せていた。

 

「幻想郷…その人は本当にそう言ったの?」

「ええ。それに私や蓮子のことも知ってるって…」

「夢なら現実で知ってる私の名前が出てきてもおかしくは無いけど…菫子さんの言ってたことって本当だったのね」

「菫子さんが、何か言ってたの?」

「ええ、とびっきり重要なことをね」

 

ぐいとコーヒーを飲み干して、蓮子が言う。どうでもいいがコーヒーを一気飲み出来る人間は舌が軽く麻痺してるんじゃないかと思う。蓮子だし。

 

「あの人も、幻想郷に行ったことがあるって。それに、あの人もメリーと同じように持ち帰ってきた物があるのよ。幻想郷にまつわるね」

 

菫子さんに夢の話をした時、彼女は忘れろと言った筈だ。ただの夢なんだと。だが同じ経験があるなら、何故あの時ああ言ったのだ?蓮子曰く、彼女は幻想郷を地獄のようだと言ったと言う。そう言わせる何かがあそこにはあると言うのか。

 

「…これは、秘封倶楽部始まった以来の大事になりそうね」

「そうは言っても、何だか楽しそうに聞こえるんだけど?」

「勿論よ!こんな興味を惹かれる物、暴かずにいられるもんですか!いいメリー、これから当面の活動は“幻想郷とは何なのかを突き止める”こと!その為に片っ端から調べていくわよ!」

 

 

いつにも増して饒舌だ。それだけ面白いのか、或いはここ最近これといった活動をしていなかった反動かも知れない。どうあれ、私も寝るならすっきり目覚めたいのだ。なるべく早く、幻想郷について突き止める必要があるだろう。

 

気持ちを引き締める為に蓮子の真似をして手付かずだったコーヒーを一気飲みしてみる。

 

 

 

 

 

 

黒烏龍茶だった。

 




<NEXT>
夢の中でメリーの前に現れた謎の女性。彼女から語られた言葉は何を意味するのか。同時にメリーの話を聞いた蓮子は、どうにかして幻想郷に接触しようとするが───


<case3.背中合わせの視界>
お楽しみに〜
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