秘封道楽 ACT2 〜少女探訪〜   作:ユウマ@

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お ま た せ


夢想の瞳

蓮子が午後の講義に行ってから。

帰る時間になっても、私の前に現れることは無かった。私は部屋でベッドにもたれながら、蓮子が置いていった書物…幻想郷縁起をまじまじと眺める。

 

手がかり一つないと思われた私の夢についての、唯一の手がかり。だが蓮子は、これを何も書いていないと言った。そんな事はなかったというのに。(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

ぱらぱらとページを流し見していく。そこには、確かに内容が記載されている。人物とおぼしき絵が描かれたページや、何やら新聞のスクラップを挟んだようなページまで、様々に。見る限り、白紙のページなど存在しない。

 

 

「見落とした…わけでもないし。勝手に取ってきた罪悪感で…なんて感じも、蓮子に似つかないわよねぇ」

 

蓮子は好奇心が先行してその他の感情など飛んでいってしまう様な性格だから、興奮状態にくらいはなっても本を白紙に見間違える程の狂いぶりは見せるまい。

 

「うーん…」

 

まるで分からない。分からない事をいつまでも考えるのはあまり良くない行為だ。ベッドに横たわり、蓮子から連絡が来ていないかを確認する。

 

連絡、なし。結局、今日は昼に話して以来一度も蓮子とは話をしていない。そんな日は、まるで新鮮に思える程に久しぶりでーーどこか、不安だった。

 

 

大切なものは失って気づくとは飽きるほどに見聞きしたフレーズだが、なるほど確かに何度も繰り返したくもなる言葉だ。その言葉さえも流して来た私が、少し蓮子と話していないだけで不安を感じているのだから。

 

もしかしたら。もしかしたら私が今見ていた幻想郷縁起も、そんな不安感が見せた幻覚なのだろうか?白紙だと言って肩を落とす蓮子を励ます為に、わざわざ中身があったのだとーー

 

 

 

 

そこまで考えて、止めた。今日の講義は面倒だとは蓮子も言っていたし、大方大きな課題でも出されたのだろう。明日になればきっと目の下にクマでも作りながら徹夜で書いたレポートを見せてくるだろう。時間にルーズなのは蓮子の特徴ではないか。

 

納得させるように頭の中の考え事を打ち切り、目を伏せる。暗闇に、視界が支配される。短時間高速での考え事の疲労感が、暗闇に沈ませる様にのしかかってくる。それに逆らわずに、私は眠りに落ちていく。

 

拭いきれない、小さな不安を抱えながら。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

鳥がさえずる声が聞こえる。暗闇の中に、細々と刺すような明るさが混じる。もう朝かと重い瞼を開けると、そこにぼんやりと映ったのは木目の天井だった。

 

「んー…?」

 

寝ている間に私が攫われたりしていない限りは、夢だろう。だが今までは森の中など外に突っ立っているのがほとんどで、建物らしき場所に横たわっているのは初めてだ。とりあえず現状を把握する為、上体を起こしてぼやけた眼をこすり、完全に起こそうとして。

 

「あれ…」

 

ぼやけた視界が一向に晴れない。著しく視力が落ちてしまったかのように、かなりぼやけた風にしか見ることが出来ない。咄嗟に周囲を手で探るが、眼鏡のような感触には当たらない。晴れない視界にうろたえる私の背後で物音。振り向くと、嫌でも視界に入るのは輝くような金色。金の髪を伸ばしているとおぼしき人型があった。背中から金色が飛び出すように見えているが、そういう独創的なヘアスタイルだろうか。

 

 

「おや、お目覚めでしたか。珍しい日もあるものですね」

 

凛とした、よく通る声だった。そこまで離れていない筈なのに全く細部が伺えないが、どうやら女性のようだ。

 

「あ…」

「…どうされました?随分ひどいお顔をされていますが。夢見でも悪かったのですか?」

「えっと…」

「とりあえず、身嗜みを整えて出て来てくださいね。朝食の支度は出来てますので」

 

そう言って、彼女は踵を返して歩いていってしまった。背を向けると更に視界を金色が覆い、思わず目を逸らしてしまう。何をするにも視界を確保しなければ行けないだろう。

眼鏡やコンタクトレンズでも置いていないかと周囲を見回す。すると、視界の端に天井と同じ木目の色と、鈍い銀色が見えた。私の背丈ほどあるそれは鏡だろうか。ならばあれはドレッサーだろう。これ幸いと駆け寄ると私の姿もじわりと鏡に浮かび上がって来た。着た覚えのない寝間着こそ着ているようだが、それ以外に私に変化は無いようだ。不完全な視界の限りは、だが。

物色のために引き出しを開けると、求めている物の代わりに見覚えのある帽子が入っていた。私の帽子だ。もしかしたら私が目覚める前に先ほどの女性が私を見つけ、ここまで運んでくれたのか。手に取った感触も、私の帽子だーー

 

 

 

「…?」

 

手に布の当たる感触。見ると、赤いリボンか何かが帽子につけられていた。いや、後からつけられたものではなく元からそういった作りのようだ。ならば私の帽子では無かったか。

とにかく、目的の物ではない。帽子を戻そうとして、まだ何か入っているのが見えた。帽子を戻す代わりにそちらも手に取ってみる。真っ黒な、円形のそれは。

 

 

「これって、蓮子の……?」

 

シルクハットのような形状に、外周に沿うようにして巻かれ結ばれた白いリボン。見間違える筈もない、蓮子の帽子だ。だが、手触りが埃っぽい。長期間しまいっぱなしだった様な、そんなーー

 

 

 

ずきりと、頭の隅に鈍い痛みが走る。脳の奥から、ちかちかと映像がフラッシュバックする。

 

 

蓮子が私に笑っている。

蓮子が、私に怒っている。

暗い空だけが広がっている。

私の手には、蓮子の帽子があって。

ここの奥に帽子を深く、しまいこんでーー

 

 

 

 

こんな映像、私は知らない。こんな記憶は、存在しない。

なら、フラッシュバックしているのは?

限りなく近い距離で蓮子を見ていた、この記憶は、誰ーー?

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

「…ッ!!」

けたたましいアラーム音で、飛び起きる。見慣れた天井、見慣れた部屋。

 

 

「夢…」

 

脱力し、ベッドに倒れ込む。夢の内容を、珍しく少しだけ鮮明に覚えている。

普段見る夢ではなく、けれど愉快な内容ともいえない夢。嫌な汗をかいてしまった身体を洗うべく、重い足でベッドから立ち上がる。片隅にあった頭痛が、まだ残っているような気がして頭を押さえる。夢には考えていたことが出てくるというが、やはり昨夜は過度に心配をしすぎていただろうか。

 

 

「…馬鹿みたい、よね」

 

連絡がなくて不安だったなどと言ったら、蓮子がどんな反応をするか。意外にも真面目に聞いてくれるような、気もするけれど…それでも、正直に話すのは躊躇われた。

 

「元はといえば蓮子が帰りに来なかったせいなんだから、そこだけ聞けばいい話よね」

 

そうと決まれば、さっさと支度をしてしまおう。私を振り回すにっくき相棒を問い詰めてやるのだ。そう思えば、足取りは自然と軽くなっていった。

 

 

 

 

「どしたの、メリー?ひどい顔してるけど」

 

何故か私の家の前で待っていた蓮子は、開口一番そう言い放った。だが蓮子も、目元に薄いクマが出来ている。

 

「ひどい顔なのは蓮子だけよ。昨日は帰る時に来ないし連絡も寄越さないし、何してたのよ?」

「ええー、ホラー映画でも見た顔してたわよ、それもメリーには馴染みのない日本系のホラー…まぁ良いわ。昨日はその、ね。面倒な教授から面倒な課題出されちゃって」

「どうりでクマがあるわけね。でも連絡くらいくれても良かったでしょ?」

「ごめんってば。今度カニカマ鍋おごるから」

「いらないわよ…。それより早く行きましょう、遅刻するわよ」

 

 

ほとんど予想通りの回答に、知らずのうちにため息が出る。やはり、心配しすぎだったか。無茶ではあるが、そこまで無理はしない性格なのは、私もよく知るところだと言うのに。

 

 

2人並んで見慣れた道を歩く。足音に混じって、隣から固い音がした。見れば、蓮子が小さな石を思い切り蹴り上げていて。

低く真っ直ぐ飛ぶ小石は、しかしすぐに地面の起伏に当たって大きく曲がってしまう。

なんの気なしに蹴り上げられたその石が遠ざかる音が、どこか耳に響いていた。

 

 

 

 

 

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