秘封道楽 ACT2 〜少女探訪〜   作:ユウマ@

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ごめーん!!まったーー!?


case4.侵食する幻想
得たもの、失ったもの


「……」

 

不意に、目が覚めた。おぼつかない手つきで端末を操作すると、普段の目覚めよりはだいぶ早い時間だ。かと言って、二度寝をする様な性分では無い。

そんな訳で、私はすっかり大学に行く身支度を整え、けれど家から出ずに時間を持て余していた。

 

やる事が無い、という訳では無い。しかし、後回しにして何ら問題のない事しか無いのが事実だ。特に大した考えも無く端末でニュースを見て、それを右から左に流していく。完全に、今の私は暇人のそれだった。

 

「とは言っても、ね…」

 

ぴたりと端末を動かす手を止める。ぼーっとしていると、いつの間にか蓮子に電話かメッセージでも送ろうか…などと考えたのかアプリを開いていた。暫し悩んだ後、端末の電源を落とした。

蓮子のことだ、時間ギリギリまで寝ている可能性は高い。それに、起きていたとしてもマメに確認をするタイプでないのは充分すぎる程に知っている。

 

何よりこういう時に、いちいち頼ってしまうべきでもない、と…思う。以前、蓮子に同じ様な事を話すと不思議そうな顔をされたものだが、だからと言ってそう簡単に治るものでもなし。

 

どの道、私は蓮子と同じ講義がある訳でも、一緒に大学に行く義務がある訳でもないのだ。先に大学に行って図書館にでも行こう、と私は玄関に向かった。

 

 

 

 

まだ薄暗い道を、1人で歩いていく。いつもと違う時間、人通りも殆どない。大学に近づけば私と同じ様な人種も増えるだろうが、まだ先の話だ。私はただ、ぼうっと辺りを見回しながら歩いていく。と、

 

 

「……?」

 

不意に、視界の端に緑が映った。目を向ければ、なんて事のない人工林が広がっているだけだ。

その緑が、辺りと同じ緑であれば見逃す所だっただろう。その色は、この薄暗い時間にとっては明るすぎた。そして、何より。

その緑は、林の間がくり抜かれた様な穴の中で、ぽっかりと口を開けていた。

 

「穴…?」

 

丸い穴の中に、場違いな色が浮かんでいる。ぱっと見る限りはそれだけだが、それほど可笑しな事もそうはあるまい。少し近づいて、穴の中を凝視する。

 

見た目は森の様だ。ここで見ている人工林よりも鮮やかな緑ではあるが…それ以外はさしたる違いは見られない。違いを見つけたいなら…この穴に、もっと近づく他はないだろう。

 

逡巡して、私は穴から距離を取った。蓮子がいれば当然の如く中に入ろうとするに違いないだろうが、私1人でそんな事をする度胸はないのだ。

もし蓮子に連絡していたら一緒に見る事になっていたかも、などとぼやきながら踵を返す。今から蓮子に連絡したところで待ちぼうけは確実だろうし、秘封倶楽部の活動でそれはもうお腹いっぱいだ。

 

 

 

 

 

ぴしり。

 

 

 

 

背後から、音がした。

 

踏み出そうとした足を引っ込め、恐る恐る後ろを振り向く。

 

亀裂が入っていた。穴の周りに、不規則な線が走っている。その隙間からは、穴と同じ景色が浮かんでいる。

 

 

ぴしりと、音は増えていく。亀裂も、同時に走っていく。穴の向こうに、そんな事をする何かがいる訳でも無いというのに。

ぴしりと、また音がする。ぽっかりと空いた小さな穴は、今や視界の半分近くを覆う亀裂をその身から走らせていた。

 

もし。もしこの亀裂が増えたらどうなる?亀裂が入ったものは、いずれ割れてしまうだろう。

なら、これは。この亀裂が割れてしまったら、どうなるのだろう──?

 

思わず、そっと後ずさる。頭の隅で、警鐘が鳴っている。もう一歩、足を後ろにやったところで。

どすんと、何かに背中がぶつかった。

 

 

「何…⁉︎」

 

ばっと体全体で振り向いた。そこには、

 

 

「いったぁ…急にどうしたの、メリー?」

 

 

よろけながら肩で息をする蓮子の姿があった。

 

 

「…蓮子。もう、驚かさないでよ…」

「驚いたのはこっちよ。メリーったら、声をかけても反応しないと思ったら、急にバックしてくるんだもの。何か嫌いなものでも見たの?」

 

半目で睨む私に、蓮子もじとりと目を向けてくる。蓮子がここまで早く起きているのは驚きだが、見つかってしまったものは仕方あるまい。

 

「ええ、驚いたものならあったわ。そこの林に、穴が空いてたの。おまけにヒビまで───」

 

 

振り向いた先は、何ら変わらないいつもの風景。亀裂は元より、穴まで綺麗に無くなった、ただの人工林が広がっていた。

 

「あれ…?」

「何もないわね。少なくとも、私がメリーを見つけた時にも何も無かった筈」

 

息を整えながら、蓮子はそう言う。ならば、私にしか見えていないのか。あの音も、景色も。

 

「それよりメリー、探してたの!端末も繋がらないし家にも居ないし、探してたのよ?」

「端末?それなら…あっ」

 

 

電源を切ったままにしていた。考えてみれば、私が蓮子に連絡をする時に返事が遅い時はあっても逆はそう無かったかもしれない。蓮子からすれば殆ど考えていなかったのであろう事は、その息の乱れから容易に想像出来る。

 

「それで、どうしたの?貴女がそんなに慌てるなんて珍しいわね…」

「あのね、メリー。私も起きてから気づいたんだけど…」

 

 

完全に息を整える様に、ひとつ息を吸って。

 

 

 

 

「あの本……幻想郷縁起が、何処にも無くなってるの!」

 

 

新たな事態へと、強引に引きずり込まれる事となった。

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