秘封道楽 ACT2 〜少女探訪〜   作:ユウマ@

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くーりすますーがことしーもーやーってくるー
投稿日がクリスマス当日だからもう来てるのでは??


黒帽子のトナカイ

クリスマス。今となってはそれはただプレゼントを贈りあって鶏肉を食べるだけの日に思える。キャンパスの内外問わずカップルが溢れかえり、糖分高めの1日を過ごさねばならないのである。

 

と、そんな捻くれた考えを持っていたのが去年の事。

 

いや、別に考え方が変わったという訳ではない。そして鳥を食べるも砂糖をばら撒くのも個人の自由だ。キャンパス内では自重して欲しいとは、思うけど。

 

 

さて、何故こんな話をしたかというのは言うまでもあるまい。今日はクリスマス。いつもは1人で積み本消化に励む日。

そんな私にも、いわゆる“クリスマスの予定”なんてものが出来たからだ。

 

 

「どうしたのメリー、そんな浮かない顔して」

 

 

とても不本意ながら、ではあるが。

 

 

時刻は昼時、場所は食堂。私と蓮子はいつもの席に座って、昼食をとろうとしていた。蓮子はもう食べ始めているが、私はどうにも食べる気が起きなかった。

 

 

私達の目の前には、巨大なバケツ状の容器がでんと置かれている。中には、大量のフライドチキンとポテトが詰まっていた。

 

「注文を蓮子に任せるんじゃなかったわ…」

「何よー、メリーが任せるって言ったから奮発したのに」

「割り勘でね」

 

見れば、注文口にデカデカと“クリスマス限定!”の張り紙。日本人は限定の文字に弱いとは聞くが、流石に昼にこんなものを頼むなどとはさすが蓮子というべきか。

 

「早く食べないと冷めるわよ?」

「頼んだからには食べるけど…これ、食べ切れるの?」

 

よく見なくても先日のおでんより大分量は多い。けれど蓮子は不敵に笑って、

 

「メリー、私だって同じ失敗はしないわ。大丈夫、この容器を空っぽに出来るわよ」

「…本当?」

「ええ。ここは大学、私達はもう講義はない。だから同じく講義のない人物…岡崎教授の所に行くのよ」

「……」

 

つまり丸投げではないか。呆れる私に、蓮子は慌てたように手を振った。

 

「いやほら、クリスマスといったらチキンでしょ?本当は泊まり込みで色々したかったけど、私が無理だし…丁度いいと思って」

「…まあね」

 

今日が終われば冬休みに突入する。ならば今日はどちらかの家に泊まってゆるゆる過ごそうという話だったのだが。蓮子が明日すぐに実家に帰省するとの事で計画はご破算。その分のクリスマスらしさを出そうという事らしい。その割に大分財布に打撃を負ってしまったけれど。

 

ともあれ、最近は鶏肉を食べる機会があまり無かった。クリスマスはチキンというのも事実ではあるし、せっかく買ったのだから食べるとしよう。私も1つチキンを手にとってかじりつく。

思ったより衣が薄い。すぐに鶏肉の柔らかさが伝わり、ほどけて消える。濃いめの醤油味だが、やはりご飯と一緒に食べるにはどこか違う美味しさ。

 

「蓮子は夜にチキンは食べないの?」

「うーん、夜は主食と一緒に食べたいからね。ご飯にのっけて食べるのも出来なくはないけど、骨あるし」

「だからって骨を噛むのはやめなさい」

 

仮にも女子大生なのだからもう少し上品というか、綺麗に食べたりしないのだろうか。無理か。

 

「メリーこそ、夜に食べるつもりだったの?」

「…貴女がコレを買って来なきゃね」

「次は事前に言うわよ。じゃあ夜はケーキだけ?」

「普通に食べるわよ。この後ケーキは食べるでしょう?いつもの喫茶店か何処かで」

「その通りね!」

 

クリスマスといえばやはりケーキは欠かせない。個人的にはホールケーキを丸ごと1人で食べる贅沢をしてみたいのだが、お財布事情と実行した後の代償が怖い年になってしまったので、叶うことはあるまい。普段喫茶店で食べるケーキでもそこそこお腹にはくるし、などとぼやく。そんな私をよそに、蓮子は目を輝かせながら立ち上がった。

 

「それならすぐ行きましょう!駅の近くに出来たばっかのケーキバイキングの店があるのよ!」

「…太るわよ」

「埋め合わせとして活動するんじゃない、来年からはもっとハードに行くわよ」

 

 

…やはり活動目的が段々と変わっていってないか。前はもっとオカルトを追う不良サークル的イメージだったのだが、今ではただ食べ歩いているだけではないか。余計な事に首を突っ込んで何かあるよりは、そっちの方が平和的で良いのかもしれないけれど。

 

「メリー、早く行くわよ!」

「…はいはい。行くなら、いつもの喫茶店が良いわ」

 

 

立ち上がり、蓮子の後ろで食堂を後にする。年末になっても行動力は随分盛んらしい。それについて行く私も、周りから見ればそう見えるのかもしれない。

 

それでも、まぁ。蓮子といる事は、存外楽しい事であるからして。

それを無下にするような事は、私もしたくはないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

「メリーって、サンタはいつまで家に来るものだと思う?」

「…物心つくまで、かしら」

 

 

喫茶店からの帰り道。昼間よりも冷たくなった家路を歩きながら、蓮子とそんな話をしていた。ケーキはいつも通り美味だったが、クリスマス風のものが一切無いのは少しだけ気になる所だ。店側としても年に1日だけの為にあれこれするのは面倒なのかもしれない。

 

 

「私の家はね、今でも来るわよ」

「……本当?」

 

自慢げに蓮子が言う。私はと言えば、何かおかしな事を言い始めたなぁといういつもの事だ。普通大学生の家にサンタクロースが来るわけなかろう。いやサンタクロースが実在する事が日本では普通ではないだろうが。

 

 

「本当よ。イブの夜になったら寝る前に枕元にプレゼントをそうっとね」

 

そう言って蓮子は鞄からオモチャの白い髭を取り出した。それから、良くイメージで持っている大きな袋も。

 

「…自分でやってて虚しくならない?それとももうそんな感情も無くなるほどになってしまったかしら」

「どっちもなってないわよ。ただ自分用に物を買うんじゃ楽しくないじゃない。人間寝る前の事なんてあんまり覚えてないんだし、こうした方が気分は味わえるでしょ?」

「そのうち家にソリでも運び込みそうね」

「むう、メリーったら夢がないわねぇ。サンタクロースの実物だって今頃大忙しかもしれないじゃない」

 

むくれたような声を出す。私は苦笑して、空を見上げた。星は雲に隠れて、あまり見えない。当然、ソリに乗って空を駆ける影も、見当たりはしない。今となってはそれはただ、暴かれるまでもなく無くなってしまった幻想でしかないのだ。夢がないと言われれば、確かにそうかもしれなかった。

 

時間と共に、夢は無くなる。現実に目を向ける事で精一杯で、とても夢を観ている暇などない。

それは勿論、私もそうで。だから純粋に夢を見る事の出来る蓮子が少し、羨ましい。

 

「…昔はもう少し信じてたりもしたんでしょうね…」

「子供心って大事よ?こんな生き辛い世の中じゃ、特にね」

「そうだとしても、貴女は好奇心旺盛過ぎるのよ」

「褒め言葉として受け取っておきますわ」

 

そう言って、蓮子は笑う。私も笑い返そうとして、上手く笑える気がしなくて。そっと、目線を下げた。

 

 

ただの雑談だと分かってはいるけれど。

何気ない話だと理解しているけれど。

 

それでも少しだけ、感じてしまう。思ってしまう。

 

 

蓮子がその好奇心と熱量で、私から離れていくのでは無いかと。

 

 

私が秘封倶楽部にいるのは、蓮子がいるからで。

あるいは蓮子も、そう思ってくれているのだろうか。

どこまで先があるかも分からない路を、私達は歩いている。その路がずっと続くか、いつか分岐に立たされるのかは、今はまだ分からない。

それが唐突に無くなってしまう可能性だって、なくは無いのだ。いつかどちらかが、足を踏み外してしまって。

そのまま記憶の中だけに、幻想として風化していって───

 

 

 

「メリー?」

 

 

はっとして、顔を上げる。不思議そうな顔をした蓮子が、私を覗き込んでいて。

どうも考えが暗くなりがちだ。寒いからだろうか?せっかくのクリスマスだと言うのに、それではあまりに残念だ。

気持ちを切り替えるように頭を振って、鞄を開ける。クリスマスと言えばチキンにケーキ、後はコレだろう、やはり。

 

 

「お?メリー、それってもしかして?」

 

取り出した、丁寧に包装されたそれを私は蓮子に差し出す。

 

 

 

 

「ええ、クリスマスプレゼントよ。これで1人でプレゼントを枕元に置く必要はもう無さそうね」

「なーんかメリーが言うと嫌味っぽく聞こえるんだけど…」

 

流石に知り合いが1人でサンタの真似をしていたら思うところもあるだろう。趣味に口出しすることは無いが、流石に。

 

「ねえねえ、中見ていい?」

「ダメよ。ちゃんと帰ってからね」

「ちぇー。じゃあメリー、ちょっと」

 

 

プレゼントをしまいながら、蓮子は手招きをする。そこまで離れていたわけでもないが、なにかと顔だけを近づける。

 

と、私の肩に蓮子の手が置かれ。もう一方は彼女の鞄の中に───

 

 

 

 

 

「そぉーれっと!」

 

 

鞄から手が抜かれるや、両腕をぐるりと回転。両手が私から離れた時には、私は薄紫色のマフラーを身につけていた。

 

 

「これ…」

「プレゼントよ、プレゼント。私はサンタだもの」

「どちらかと言えばトナカイの方が向いてると思うけど…ちょっと長くないかしら、これ」

 

 

軽く巻かれたマフラーは両端が私の腰まで届くかどうかと言う長さだった。横幅が広いのもあってこれではマフラーというより忍者か何かが身につけるものに思える。

 

「まぁ確かに後ろからついてくるメリーの方がサンタの格好は似合いそうね。で、マフラー長いって?そりゃあメリー1人だと長めでしょうけど。コレはこういう使い方前提、よ」

 

 

言うなり蓮子もマフラーの端を持って首に巻く。2人分を抱えたマフラーは確かに丁度いい長さにはなったが、それはつまり私達も相応の距離になっているという事で。

 

 

「ちょっと蓮子、近、近いわよ」

「そう?これくらいの方がお互いを見失わなくて済むわよ?」

「それはそうだけど…あんまり人前でやるものでも」

「相思相愛ですーってアピールよ。それとも部屋でマフラーする?」

「……」

 

 

ええい、やはり私は口で蓮子に勝つにはまだまだらしい。蓮子の言うことを否定するだけの材料を、私は持ち合わせていないのだ。

それに。互いを見失わなずに済むというのは、まさしく私が考えていたことであるから。

 

 

「……ありがと」

 

 

 

結局、私の口から出てくるのはそんな言葉だけで。けれどそれを聞いた蓮子は、少しだけ目を細めて笑うのだった。

 

 

「どういたしまして、よ。じゃあ早速コレを巻いて出かける計画を立てなきゃ!やっぱり手始めに初詣かしら」

「そうね…御守りも買わなきゃ」

 

 

それはふっと頭に浮かんだ事だった。特段御守りを買ったことはないくらい信仰心の低い私だが、今日の、というより今までの蓮子を思い返して、ふとそんな事を思って。蓮子に最適な御守りは、何だったか───

 

 

 

「お、良いわねそれ。何買うの、学業成就?それとも縁結びとか?もう結ばれていると思うけど」

 

 

なんて早口にまくし立てる蓮子に、小さく微笑んで。

 

 

 

 

 

「交通安全、よ」

「ええっ!?どう言う意味よそれ!」

 

 

憤慨する蓮子の熱を、すぐ身近に感じながら。私達は寄り添って、雪の降り始めた道を歩いていった。

 

 

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