秘封道楽 ACT2 〜少女探訪〜   作:ユウマ@

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ハッピーニューイヤー!!!(おそい)


サカイメマイリ

「…メリー」

「何?」

「お湯入れてきて」

「…無理」

 

うー、と唸る声が隣から聞こえる。このままでは事態は進展しないが、あいにく私もここから身動きが取れそうにない。

 

 

 

月日は大晦日。

年越しそばを食べる時間帯だ。

 

 

もちろん私達もそのつもりでいた。カップ麺を準備し事前に湯を沸かし、今も変わらず大晦日に流れる歌番組をだらだらと見ながらさぁ食べようかという時だった。

 

 

長くこたつに籠もっていたのが良くなかったか、足を引き抜くと途端に外気にさらされ、抜くことが出来ない。蓮子も同じなようで、互いに首から上を出したまま固まっているのだ。

しかしそろそろ限界だ。寒さはあるがそれよりもお腹が空いた。夕飯を年越しそばに決めた為、それ以外は殆ど食料がない。あったとしてもここから動かねば入手はできないわけで。

 

 

「ええい…ままよっ!」

 

 

自分でもよく分からない掛け声と共に、思い切って足を引き抜く。温度差に少し痛みじみた寒さを感じるけれど、どうにかこたつから逃れる事はできた。

そのまま台所まで移動し、カップ麺にお湯を注ぐ。時代と共に進化しているわけでもない昔ながらのカップ麺だが、今の食材とは少し違うジャンクな感じが蓮子のお気に入りなんだそうだ。

 

 

「ほら、蓮子も起き上がりなさいな。そのままだと食べられないわよ」

「うー…分かったわよ。やっぱり魔法の道具ねコレは…」

 

のそのそと蓮子も起き上がり、まだ卓上に残っていたお茶を一息にあおる。私は熱いのが得意ではない為、ちびちびとすすることにする。

 

「ところで、この後どうするの?初詣とか行く?」

「うーん、そうねぇ…でも今とか初日の出の時とかは混んでそうだし…本格的に行くのはまた今度かしら」

「本格的に?」

 

 

カップ麺の蓋を剥がしながらぼやく。昔よりお湯を注いでから食べるまでの時間が短くなったのは利点だ。蓮子は既に七味まで振りかけてうどんを食べ始めていた。

 

 

「私達は秘封倶楽部よ?神社なんてそれこそオカルトサークルとして行かなきゃいけない場所じゃない。幾つか調べて来たわよ」

「…用意がいいわね」

 

 

天ぷらののったうどんをすする。絶賛される程ではなく、けれど美味しくないわけはない、中間くらいの味だ。蓮子が好きそうといえば好きそうな味だ。ハンバーガーとか好きなタイプだろうか。

時計は進み、新年を迎えるまではあとわずか。本来もっと早くに予定は決めるべきだろうが、私はともかく相棒にそんな癖はないからして。

 

 

「でしょう?そうと決まれば、食べたら出発するわよ。夜が明けるまでなんて待ってもいられないし」

「そうね。どうせ初日の出を見たいなんてロマンチックな事は言わないものね」

「さすがメリー、分かってるじゃない」

 

 

本当は寝ていたいが、この年末はつい家にいてばかりだったので運動がてらに行くのも悪くないだろう。

 

「まあね。…それで何処に行くの?あんまり遠くじゃないんでしょうけど」

「えーっとね…」

 

鞄から紙を数枚出して見比べている。オカルト関係になると急に行動的になるのは悪い癖だと思うのだが。言って治るものなのだろうか。治らなくても私は問題ないのだけど。

 

 

「あ、あったあった。そんなに遠くないわよ。

 

 

 

 

 

 

 

───博麗神社、だってさ」

 

 

年が明けた、丁度の事だった。

 

 

▼▼▼

 

年が変わっても、気温はそうすぐには変わらない。

私達は寒さと戦いながら、木々の茂る山道を歩いていた。

周りは暗い。木々に光が遮られる訳ではなく、単純に夜明け前だからだ。端末のライト機能を駆使して足元と前を最低限照らしながら、私達は歩いていた。

 

 

「こっちで合ってるの?」

「多分その筈だけど…。お、アレじゃない?」

 

 

光が照らす先には、さほど長くもなさそうな石段があった。相当前からあるのか、所々苔が生えている。先にあるだろう神社本体は、まだ見えない。

 

 

「いかにも、って感じね。蓮子、お賽銭持って来た?」

「こんな所に神様なんて居るのかってのはあるけど。ま、やらずに祟られても嫌だしね」

 

軽く話しながら石段を登っていく。運動不足が祟っているのか、蓮子よりいくらか歩みが遅い。白い息が口から結構な頻度で出ている。それでも石段の短さが幸いしたか、直ぐに色あせた鳥居が見えてきた。

 

「もうちょっとね!折角なら神様でも出て来てくれないかしら?」

「さ、さぁ…。というか蓮子、ちょっと待って…」

「メリーったら。今後は運動しとくのよ?」

 

訂正、思ったより短くはなかった。変に勢いづいて息も絶え絶えな私は、蓮子に手を引かれてどうにか鳥居を跨ぐことが出来た。

 

 

 

 

 

ふと、身体に違和感。気づいた時にはもう感じなかったけれど、鳥居を抜ける時に言いようのない“何か”を感じた…ような気がする。それとも単に気分と場所から来る思い込みだろうか?

 

 

「うわぁ…予想以上にボロボロね…」

 

蓮子のぼやきに見回してみれば、確かに境内は荒れ果てていていた。本殿も朽ちかけていて、この様子では御神体なども恐らくあるまい。

 

「こんなんじゃ、神様だって居なさそうだけど。お参りくらいはしとく?」

「んー…そうね。もしかしたら祈ったら現れるかも知れないし」

「あはは…」

 

 

どこの時代の話だ、それは。祈りで神が降りてくるなら今ごろ日本は神様だらけの国に違いない。ただでさえ八百万の神などといって母体が多いのだ、変に降りて来れられても逆に迷惑だろう。

本殿の前に置かれた賽銭箱の前に立つ。お参りの時に鳴らす鐘は錆び付いていて鳴りそうな様子はない。下手したら鳴らそうとして落ちてくるかもしれない、そんな危うさだった。

 

 

「お賽銭やってお祈りだけになっちゃうわね…メリー5円玉ある?」

「ご縁がありますようにって?信仰心があれば金額はいくらでも良いらしいわよ」

「逆よ、逆。信仰心が無いから語呂合わせの金額で場を繋ぐのよ」

「…言っていいの?それ」

 

 

やれやれと首を振って蓮子に小銭を手渡す。かくいう私も信仰深い訳では無いので、蓮子に倣って5円玉を供える事にする。

ひょいと5円玉を投げこむ。それから手を合わせようと目を伏せて。小銭が賽銭箱の底を叩く音が1度、響いて───

 

 

 

 

身体に、強烈な違和感が走った。地に足をつけている筈なのに、踏みしめる地面の感覚を感じない。身体が浮遊している様な感覚に思わず、目を開けて。

 

 

 

 

そこに、赤を見た。

 

 

 

 

朽ちてなどいない本殿の前で、紅白の巫女服を纏う誰か。背を向けている為、顔は見えない。けれどその人からは、何とも言えない不思議な感じがした。

はっとして隣を見る。蓮子の姿は、ない。

 

 

「あ、あの!」

 

 

咄嗟に、私は彼女に声をかけた。

 

帰らなければいけない、と思った。

 

 

ただの直感。けれど私は、その直感に何よりも、恐怖を感じた。

 

 

「───」

 

 

ゆっくりと、彼女が振り向く。その奥には、もう1人人影。途中で見えた口が、何かを呟く。その言葉に、私は耳を傾けて───

 

 

 

 

「メリーったら!!」

 

 

 

そこで、ぶつりと視界は色を失った。目の前には朽ちかけた神社。声の方向に顔を向ければ、少し怒ったような顔をしていて。

 

 

「あれ…私…?」

「いつまでお願い事してるのよ。夜更かししてるからって祈りながら寝ちゃったら意味ないわよ?」

「……」

 

 

寝ていたわけは、ない。夢と言うにはあまりにもリアルで、私は確かにそこに居た…居た筈だ。

 

 

「メリー、聞いてる?」

「え…ええ。ごめん蓮子、もう少し待って」

 

 

もう1度目を伏せる。けれど今度は、違和感など微塵も感じなかった。

 

…本当に寝ていたわけはないのだが。もう起こらない事をあれこれ考えるのも困りものだ。考えるにしても、帰ってからにしよう。ずっと居るには、少しばかり肌寒いのだ。

 

 

そうとなれば、さっさと願い事でも唱えるとしよう。手を合わせて、祈るように。

 

 

「………?」

 

 

願い事など、決まっている。口には出さずとも、隣にいる彼女との事。

 

 

 

 

けれど、それが。

 

 

ほんの一瞬だけ、妙に希薄に思えてしまったのは───これも、私の気のせいなのだろうか?


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