1.エピローグ、もといプロローグ
ギイギイと、音が鳴っている。
薄暗いリビングの中に、ギイギイ、ギイギイと、重たく縄の音が鳴っている。
そこは、内装だけを見れば、ごく一般的な魔法使い向けのマンションのリビングだった。壁には薬剤棚があり、そこには幾本かからのフラスコが置かれている。そしてその隣には手書きで魔法薬の名前を書いたラベルが貼ってある、お手製の魔法薬が何本か置いてある。さらにその隣には魔法使い向けの壁時計がかかっており、更にはその下に煙突飛行にも使える巨大な暖炉がある。どこまでも普通の、ありふれた魔法使いの一室だ。
だが、床に散らばった一面の羊皮紙や折れた羽ペン、空のインクの瓶がその空間を異様なものに変えている。そしてその中には白紙の羊皮紙もあるものの、大半がこまごまとした文字で埋め尽くされている。そしてそれらにはそれぞれ「またも魔法省の失態!」「英雄を見殺しにしたロナルド・ウィーズリー」などといったタイトルがでかでかと付されている。
だが、部屋が異様な雰囲気なのはそれだけではない。
ギイギイと、縄の音が鳴っている。
天井から一人の女性をぶら下げて、ギイギイ、ギイギイと重たく縄の音が鳴っている。
縄はそのしなやかな女性の首に巻きつき、かつて生前は美しかったのだろう顔を赤黒く変色させている。そしてそのふくよかな胸には一本の豪奢なダガーが深々と突き刺さり、その先端は背中へと突き抜けている。またその先端からは、まだ温かい血がポタリ、ポタリと垂れている。
足元には横倒しになった椅子。その横には一冊の手記が落ちている。ほつれた皮で装丁された、一冊の古ぼけた手記だ。
そのタイトルは「ハリーポッター始末記」
パチパチと、火の粉がはぜる音がする。
床に置かれた羊皮紙が、次々と炎に飲み込まれていく。
2.まえがかない
この本を誰かが読んでいるということは、私はすでに死んでいるのだろう。そのことに悔いや後悔はない。ただあるとすればやっと彼に、ハリーに会えるというその安堵だけだ。
3.まえがき
英雄ハリー・ポッターは死んだ。
あの日、僕たちに何も言わずに一人で死んだ。自分の中に眠る「あの人」のかけらを道ずれに。
「あの人」は倒された。友を、生徒を、大切な人を殺された怒りを一身に浴びて死んだ。最後の最後までふてぶてしく笑って死んだ。
偉大な英雄の命と引き換えに悪の首魁は滅びましたとさ、めでたしめでたし。物語ならここでおしまい。だけどこれはそんなティーンが喜ぶような物語じゃない
ハリー亡き後ジニーは自殺した。「ハリーのいないこの世に意味はないわ」と言い残して。ハーマイオニーは魔法大臣になるという夢をあきらめた。今ではリータ・スキーターと組んで魔法省バッシングの急先鋒だ。そしてこの僕、ロナルド・ウィーズリーはずっとあこがれていた英雄になった。ハリー・ポッターの最期をみとったものとしてとして。そしてあの人にとどめを刺したものとして。
これは回顧録だなんてそんな気取ったことはいわない。言う資格がない。これはいうなればただの懺悔だ。いや、そんな立派なものではない。愚痴、そう、これは愚痴なのだ。
ああ、我が愛しき最愛の友よ、君はどうして一人で死んでしまったのだ。おかげで残されたものはぐちゃぐちゃだってね。
本当はこんなものを後世に残すつもりなんてなかった。ただ世間には最後の最後に例のあの人を打ち破り、生き残った男の子の最期を知る唯一の生き証人としての僕の証言を求める声があまりに多い。
確かに、僕は長年、英雄ハリー・ポッターがどうして死んだのか、否、死ななくてはならなかったのか。そしてどのように死んだのかを語ってこなかった。だって怖かったからだ。この秘密を明かすことで万が一にも彼の名誉を汚すことにはならないかと。
だが僕は決心した。この秘密は全魔法界が知るべきだと。
しかし、最初に警告しておこう。
これは失意の物語だ。
これは絶望の物語だ。
これは悲哀の物語だ。
ハッピーエンドなんてどこにもない。頑張る人は報われず、真相はいつだって闇の中だ。読む価値があるだなんて口が裂けても言えない。言えるわけがない。
それでいいという者のみ先に進みたまえ。
最後になったが、この本は自動速記羽ペンQQQによって口述筆記されている。だから途中でやや砕けた表現が出てきたりするかもしれない。だがそれもご愛嬌ということでどうか許してほしい。
さて、本題のハリー・ポッターの死の真相を語る前に、まずは我が最愛なる妹ジニー・ウィーズリーと我が最良の友ハーマイオニー・グレンジャーについて語らしてほしい。これは僕の気持ちの整理のためであるとともに、皆のためでもあるのだから