5 ハーマイオニーについて
さて、次は僕がかつて愛した女性ハーマイオニー・グレンジャーについての話だ。
あの戦争が終わって身の回りの大事な人たちの葬儀も終わり、遺品整理もひと段落ついたころ。僕たちは闇払いになることにした。
あの戦争であまりにも、そうあまりにも多くの人々が死んだ。男も女も。老いも若きも。それは闇払いだって例外ではない。いや、少なからずの人間が騎士団に参加し闇の陣営との戦いの最前線に立ってきた闇払いだからこそ、その死亡率は散々なものだった。ベテランはほぼ壊滅、ベテランにかばわれかろうじて生き残った若手の隊員も腕や足が一本足りないのは当たり前、そんな状態だった。
そんな折闇払いに五体満足で入った僕らは大いに歓迎された。それなりに知名度もあり、それなりの腕もあり、なんてったって闇の陣営の残党と戦うのに過不足ない体をしているのだから。
初日から僕たちは酷使された。3件の突入、5件の銃撃戦、12件の聞き込みなどなどなど!でも僕たちはくじけなかった。ハリーや多くの人たちが守ろうとした未来のためだ、どんな過酷な現場でもひるまず、だれよりも真っ先に突入したし、だれよりも最後に撤退した。
そんな頑張りが認められたのだろう。やがて僕とハーマイオニーは、それぞれ第一小隊長、第二小隊長になった。
その後のハーマイオニー率いる第二小隊の活躍は凄まじかった。的確に念入りに隠蔽された闇の陣営の残党のアジトを見つけ、誰にも気づかれぬうちに包囲、殲滅。友軍の死傷者ごく少数、敵方の死者逮捕者多数。そんなことを繰り返した。最初のうちは逮捕者に比べ敵方の死者数が多すぎることも問題視されたけれど、アズカバンの独房がほぼ第二小隊によって埋められるにつれそんな声も小さくなっていった。そしてハーマイオニーはやがて闇払い局長になりその後は魔法省大臣になるんだろうと誰もが噂していたし、この僕もそう思っていた。そう、この僕もそう思っていたのだ。彼女が虐殺を指揮する現場を目にするまでは。
あの日のことはよく覚えている。ロンドンにはよくある、今にも泣きだしそうなどんよりとした雲が低く垂れこめる、12月のある日のことだった。かつて闇払い健在なるころは花の第一、泥の第二と謳われていたのも今は昔、すっかりハーマイオニー率いる第二小隊に水を挙げられてしまった僕たち第一小隊は、なんとしても彼らに一矢報いるため第二小隊の高い検挙率の秘密を探ろうと非番の日になると決まって第二小隊を尾行していた。
だが第二小隊の面々もさるもの、そんな僕らの思惑なぞすっかりお見通しで軽々と尾行をまかれた挙句第一小隊はよっぽどひまと見えると皮肉を言われるのが関の山だった。
だがあの日は違った。あの日も尾行をまかれ尻尾をまいてすごすごと引き下がってきた僕たちの前に突如第二小隊員の一人が突然姿現しをすると、「残党のアジトを発見した。制圧はしたが抵抗激しくこちらにも負傷者が多い。貴様ら暇なら尋問を手伝え」と丁寧に頼み込んできたのだ。その丁寧なお願いの仕方に、若干思うところはありながらも、せめて彼らの尋問の手腕でも学ばせてもらおうと指示されて向かった先で見たのは-地獄だった。
体の原型も残さずほどぐちゃぐちゃに吹き飛ばされた死喰い人だった者たち。泣き叫ぶ死喰い人の妻や娘。そしてその前でゆっくりと指先をナイフで切り刻まれていく死喰い人の子弟たち。
第二小隊員たちは見せつけるようにいたぶりながら質問を繰り返す。お前らのほかのアジトはどこだ、構成員は誰だ、だれが金を出している。知らない、私たちはないも知らないと叫ぶ死喰い人の妻。息子と私は何も知らないの、お願い許してとの声が響く。
うるさい黙れとの声とともにひらめく緑の閃光。指を切り刻まれている少年が絶叫しながらさらに暴れるも再びひらめいた緑の閃光とともに永遠に沈黙する。
また別の場所ではかろうじて生き残った死喰い人の前で娘がレイプされていた。お父さん、お父さんと泣き叫ぶ娘の声。やめろ、知っていることはすべて話したと絶叫する死喰い人の男。直後白けた顔をした女の第二小隊員が男の胸に銀のナイフを突き立てる。一層泣き叫ぶ娘。その直後見開いた目に男の杖が突き立てられ、少女は絶望した表情のままこと切れる。そんな光景がいたるところで繰り広げられていた。
そしてそんな地獄を作り出した彼女はその光景をただつまらなそうに眺めていた。どうしてこんなことを。そんな思いも口に出ず。そんな時、あたりを眺めていた彼女と僕の目が会った。
「どうしてこんなことを!やめさせろ!今!すぐに!」
思わずまろび出る悲鳴のような絶叫。
そんな僕の声に対して彼女はコテンと首を倒して
「どうして?私たちは必要な尋問をしているだけよ?」と返した。
なぜ僕がそんなに激怒しているのか理解できないといったような表情で。
「これが、これが尋問だって?!こんなの虐殺じゃないか!しかも子供たちだって!彼らに何の罪があるんだ!」
「違うわ、ロン。彼らは重大な容疑者よ。ひょっとしたら、何か重大なことを知っているかもしれない。ひょっとしたら今度のテロに参加するかもしれない。彼らはね、闇の陣営の人間の妻であること、子であることを選んだの。それは私たちの社会にとって許されない選択なの。彼らは自分たちの間違った選択の報いを受けているだけなのよ」
彼女はそんなことをのたまう。
心底自分が正しいと信じているといわんかばかりの目で。道理を説けばきっと僕も理解してくれるはずという口調で。思わず僕の体の奥からすっぱいものがこみあげてくる。
おぇぇ、と。びちゃびちゃと僕の吐しゃ物が下半身を失った死喰い人の死体に降り注ぐ。
「あら、ロン!体調が悪いの?駄目よ隊長が無理をしちゃ!小隊のみんなの命を預かっているんだから!ほら、そこのあなた、体調を連れて本部に帰還しなさい。他の第一小隊のみんなは悪いけど私たちを手つだってくれる?」
彼女は心底心配そうな顔でそんなことをいう。
まるで僕たちがホグワーツの学生だった頃のように。
だがそれは異常だ。悲鳴と血の匂いの入り混じるこの場においては明らかな異常だ。
そんな異常な姿に第一小隊の面々がだれもが絶句する中僕は確信した。ああ、ハーマイオニー、君は壊れてしまったんだね。ハリーの死が原因か、それともジニーの死が原因か。それともマクゴナガル先生やネビル他親しい人たちの死が原因か。
僕にはわからない。わかるはずもない。でもいえることはハリーが生きていたらこんなことにはならなかっただろうということだけ。つくづくあの英雄様はろくなことをしない。
僕は胃液交じりのつばを吐き捨てながら第一小隊の面々に命令を出す。
「第一小隊、第二小隊の全構成員を逮捕せよ。そしてこの場にいる生存者の保護。本部に応援を求めろ。監察部を呼び出せ!」
パっと弾かれたように動き出す第一小隊の面々。そんな僕たちに彼女はふっと微笑むと無言で拘束された。
そこからは物事が流れるように進んだ。
第二小隊の逮捕の現場で同様の残虐行為が繰り広げられていたことが関係者の聞き取りによって判明した。
また、第二小隊の高い検挙率の秘密も明らかになった。なんてことはない、怪しそうな人間を片端から拷問にかけていただけなのだ。この死喰い人さながらの暴挙に闇払い局上層部は大いにあれた。一つはすべてを明らかにし、彼女に適正な法の裁きを受けさせる。もう一つはすべてを闇に葬り何もなかったことにする。
僕は後者を選んだ。この時期に闇払いのスキャンダルは今後の治安維持に差しさわりが出ると上層部には主張して。でも本当は、彼女を死罪にしたくなかっただけなのかもしれない。
これだけのことが明るみになれば、きっと死罪は免れないから。
そして死罪を免れた彼女は闇払いをやめねばならなくなった。その後の彼女はリータ・スキーターのつてを頼ってフリーのジャーナリストになった。闇の陣営に対して非常に強硬な立場をとる彼女の原稿はこのご時世かなりウケるらしい。最近でも「またも魔法省の失態!」と題する記事を書いて大きくヒットしたようだ。
こういう記事を見るたびに僕は思う。かつて屋敷しもべのありさまに心痛めた心優しき少女はもういないのだと。
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