ダンブルドアは自由に生きられるか   作:藤猫

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私は君たちを恥とする。

現在、家に籠る時期でハリー・ポッターを見直していますが。
書き手の一番、寮の特徴に恥じないのはスリザリンだと思ってます。

アルバスさんは出ません。
ムーディーのネタもあるからそっちも書きたい。


番外編:善良さを装った悪徳

「ニゲル!」

 

後ろから聞こえた、はしゃいだ声にニゲルは振り返った。

彼女は丁度、廊下に面した庭にて誰かと話し込んでいた。彼女の陰に隠れ、それが誰かは分からない。それを見つけた、ニゲルを慕っていたハッフルパフ生が声を掛けたのだ。

彼女は今までセドリック・ディゴリーを中心とした集団から抜け、庭の方に向かう。

大声を上げてその場から去った彼女に、その集団から視線が向かった。

 

「ん?」

 

くるりとニゲルが声の方に振り向いたために彼女や物陰に隠れていた存在が姿を現した。

それにハッフルパフ生の彼女は顔をしかめた。

それは、ハリー・ポッターとそうして珍しく一人のドラコ・マルフォイだった。

 

「どうかしたか?」

「・・・・ううん、なんでもないわ。目に入ったから声を掛けただけなの。」

 

少女は何かしら言いたそうな顔をしたが首を振ってニゲルに微笑みかけた。そうして、慌ただしく、その場から離れていく。それに、マルフォイは少女の向かう先にセドリックの姿を見つけ、何か面白いことを思いついたかのような顔をした。

 

「・・・・ニゲル、少しいいかな?」

「おい、ニゲルはこれから僕と図書館に行くんだ。」

「分かってるさ。さすがにここで割り込むほど子どもじゃない。すぐに終わる。」

 

ハリーは、近くにいるセドリックの姿とドラコの意地の悪そうな顔に嫌な予感を覚える。

 

「・・・・いや、私の意見をまず聞けよ。」

 

ニゲルは呆れたようにため息を吐いた。

何よりも、ハリーとマルフォイに挟まれるという奇妙なこの状況も不本意なのだ。

炎のゴブレットに何故か選ばれたハリーは、お世辞にも心地のいい生活を送れていなかった。

そのため、ハリーはよくニゲルの管理室に入り浸っていた。

幸いなことにニゲルの管理室に入り浸る人間はよくよく他人に干渉しないことを旨としていたため、居心地は比較的に良かった。

今回、ハリーがそんな管理室から出ていたのは偏に試験に向けて調べものをしたがったためだ。ニゲルがそれに同行しているのは彼女がいれば比較的に嫌がらせもない。

と、そこにニゲルがいようと気にしない少数派のマルフォイがやってきたのだ。

そうして、その応酬をしている最中にハッフルパフの彼女がやってきたわけだ。

 

「まあ、すぐにすませるならかまわないが。」

「それじゃあ、着いて来てくれ。」

 

比較的さほどマルフォイだろうと気にしないニゲルはすぐに済むならとそれを了承する。

 

「ハリーはここで待っててくれ。」

 

すたすたと歩いて行くニゲルの背を、ハリーは重い足を引きずって追いかける。

一人でいるよりもずっとましなようにその時は感じたのだ。

 

「やあ、セドリック。」

「ああ、マルフォイ。」

 

ディゴリーは話しかけてきたマルフォイに驚きつつも返事をする。マルフォイはにやにやと笑いながら、連れて来たニゲルと少し離れた場所にいるハリーを見た。

 

「なあ、ドラコよ。なんでもって私は連れてこられたんだ?」

「いや、同じハッフルパフ生が代表選手に選ばれたんだ。激励の一つもあると思ってね。」

 

それにハリーが顔を伏せた。

ニゲルのことは信用できるが、それによって目の前のセドリックは置いておいても他の生徒から何を言われるのか分かったものではない。

 

「いや、私はセドリックのことに関して別に応援する気はないが。」

「は?」

 

ニゲルの言葉に、それを聞いていたディゴリーたち、そうして遠巻きに見ていた誰もが驚いた顔をする。

 

「・・・・これはこれは、さすがはお優しいニゲルだな!同情でそこまでいうのか!」

「・・・・・お前さんは。いや、いいか。」

 

彼女は何故か、ひどく何かを言いたそうな顔をしたが、すぐにそれを引っ込めた。ニゲルはちらりとディゴリーを見た後にどこからか取り出したバッジを彼に見せた。

 

「そういや、一つ聞きたかったんだが。これ知ってるか、お前さん。」

 

バッジに書かれた文面を見て、ディゴリーは顔をしかめた。

 

「ああ、良くないと思っています。」

「知ってる、って当たり前か。」

「僕も止める様に言っているんですが。どんな理由があるにせよ、決まってしまったことに関して一人を貶めるのはハッフルパフの人間として恥ずべきことだと。けれど、なかなか収まらなくて。」

「・・・・そうか。」

 

ニゲルは手の中にあるバッジを弄る。

セドリックを称え、ハリーを侮蔑するそれ。

彼女はくるりと振り向き、ハリーを促す。

 

「邪魔したな。ほれ、図書館いくぞ。調べものがあるんだろう?」

「え、あ、うん。」

 

ハリーは気まずそうに周りの人間を見回した。

セドリックと、その取り巻き。そうして、ニゲルをここに連れて来たマルフォイ。

ドラコは、それが不服だったのか苛々としたように腕を組み、ニゲルを睨んだ。

 

「おい、言いたいことがあるなら言えよ!」

「いや、別段、お前さんには。まあ、言いたいことがあるけど。さっきのはセドリックのことだから気にしなくていいんだよ。」

「へえ、我が校の代表にかの古株殿が言いたいことがあるなんてな!」

 

マルフォイはわざと大きな声でそう言った。そうすれば、庭に面した廊下だ。

人目が向けられることは必然だ。

ニゲルは何とも言えない顔で当たりを見回して、めんどくさそうな目でマルフォイを見た。彼は、ニゲルからいつもの飄々とした雰囲気が鳴りを潜めていることを察し、得意満面な顔をする。

 

「なんでもニゲルはわが校の代表のセドリックではなく、卑怯者のハリー・ポッターを応援しているっていうじゃないか?是非ともその理由を教えてほしいな?」

 

ニゲルはそれに気だるそうにため息を吐き、マルフォイには目もくれずにじっとセドリックを眺めた。

セドリックはそれに無言でじっと見返した。

 

「・・・・いや、まあ、言ってもいいけどさあ。」

 

ニゲルはどこか気まずそうな顔をした後に、はあとため息を吐いた。

 

「そうだなあ、さっきも言ったが私は今回、ハリーだけを応援している。最初はそりゃあディゴリーのことを応援しようとは思っていたさ。まあ、さほどの帰属意識があるかと言われれば悩むが、ハッフルパフに愛着がないわけじゃない。」

「なら、セドリックを応援するべきだわ!」

「もしかして、ポッターに何か言われたのか?」

「あほか、私は純粋にディゴリーのこと、つうか。ハッフルパフに愛想つかしただけの話だ。」

 

それに、一瞬だけ、聞いていた生徒たちにはざわざわとさざ波のように動揺が広がった。

どの寮に属しているかというのは、生徒たちにとっては強烈なアイデンティティなのだ。

彼女は、今、何のためらいも無く、己の在り方の一部を堂々と否定したのだ。

それに驚きを隠せないものは多い。

ニゲルは頭をガリガリと掻きながら、手の中のバッジを弄る。

 

「そりゃあさ、まあ、自分でもそこまで誰かしらの味方をしてるって自覚はないがなあ。それでもよお、ハッフルパフの在り方っていうのは好きだ。」

 

ハッフルパフの公平さは好きだ。

悪評があるからつって最初から話すことを放棄しない在り方が好きだったさ。

私も、まあ、ふらふらとしてたけどそれが赦される寛容さも好きだ。

 

「・・・・なあ、ドラコ。言っとくけど、これから私の言うことは別に侮蔑とか、そういった類じゃないことを分かってくれ。」

「え、あ、ああ。」

「ん、礼を言う。だがな、今はどうだ?」

 

マルフォイからの返事の後、ニゲルの吐き出した声はまるで吹雪のように冷たく、そうして侮蔑に満ちたものだった。

 

ニゲルという人間を慕っている者はそこそこいる。

爪はじきものとはいえ、あらゆる寮の者を受け入れ、且つ、勉強や人付き合いなどなにくれと世話を焼いている。

何よりも、彼女は平等だ。

例え、どんなことをなしても、どんな立場にいても助けてくれる存在はなにかとありがたかったのだ。

それ故に、彼女の侮蔑に満ちた声は、ひどく動揺を誘う。

独特の価値観を持つとはいえ、確かに誠実なそれからの侮蔑は後ろめたさを誘った。

 

「・・・・てめえの寮を庇うのは当たり前だ。他人よりも身内を優先するのは私だってしはするさ。だがな、これは少し、醜さが過ぎる。いや、いいね。他人のふんどし使って、自分の寮が有利に動くようにするなんざ、スリザリンよりも狡猾じゃねえか、え?自分たちがやったんじゃない、それでもいいものがあったと喜んでるな?」

 

ニゲルはそう言って、マルフォイが作ったバッジを掲げて振った。

その言い方に、ハッフルパフだけでなく、ニゲルに助けられた覚えのある生徒が恥じ入る様に顔を伏せた。

 

「・・・・別に狡猾であることを罵倒する気じゃねえさ。スリザリンの狡猾さっていうのは、本当に大事なものや自分のことを守る上では重要だ。彼らは自分にとって本当に大事なものを分かってる奴が多い。私もこのバッジを見た時は、正直感心したよ、まあ、ドラコらしいっちゃらしいし。でも、これをハッフルパフの人間まで付けてるのは、正直驚いた。」

 

ニゲルは軽くため息を吐いた。ぐるりと、周りの人間を見回した。それに、自分の胸につけたバッジを隠すような仕草をするものが数人いた。

 

「多数派に入って少数派の人間を弄るっていうのは気持ちがいいさ。自分が絶対的に正しいって感覚が味わえるからな。だがな、この行動を、勤勉やら誠実さやらと結びつけられたならなかなかに独特の価値観をしてるな。」

 

皮肉を効かせた物言いは、どこかマルフォイの声音を似ているようだとハリーは他人事のように感じた。

 

「・・・・ハッフルパフは、資格があるならだれでも入れる。だからこそ、その、勤勉やら誠実さから外れた人間もいるかもしれないが。それでも、私はお前たちが後輩であることを恥だと思う。このバッジに、フェアプレーの精神があると思っているお前たちのことがな。」

 

恥だと、失望したと、ニゲルは言った。

それにとうとう我慢できなくなったのか、叫ぶように生徒の一人が言った。

 

「それならポッターはどうなんだよ!」

 

それに勢いを取り戻したらしい誰かの声が上がる。

 

「最初にルールを破ったのはそっちだろう!?」

「そうよ、本当ならホグワーツの代表はセドリックだけのはずだった!」

「ハリーが目立ちたいために・・・・」

「うぬぼれるなよ、若造ども。」

 

低く、威圧的なそれに皆が言葉を失う。

その時、その場に、いつもの温厚で親しみやすい、気さくな老女はいなかった。

老いと、そうして生き疲れたような目に浮かんだ覇気と言えるそれは、確かに闇の時代を生き抜いた賢者としての影があった。

 

「ハリーが炎のゴブレットに何かが出来ると思ってるのか?炎のゴブレットが、この対抗試合の選手の選定に選ばれたのはそれ相応に理由がある。死の危険があるこの試合において、生き残れる程度の生徒、そうして公平さを求められたがゆえにあれは選ばれたのだ。たかだか、十数年程度生きた、小童に破られる程度の魔法が込められていると思うのか?」

 

ニゲルはそう言った後に、ゆっくりと今まで黙り込んでいたセドリック・ディゴリーに視線を向けた。

 

「・・・・ディゴリー。私はな、お前さんのこと、少しだけアルに似てるって思ってたんだよ。」

「それは、光栄ですね。」

「ああ、だが、今は違うな。お前さんとあいつは全く違う。」

「どこがですか?」

「お前さんは良い奴だよ。ああ、そうだな。優秀で、生活態度もいい。人に信じてもらえる奴だ。他人を一方的に辱めないとことかな。そこらへんは、アルと一緒だなあと思ってた。でも、お前さんには、圧倒的に誇りが足りねえ。」

 

誇り、その言葉に誰もが困惑したような顔をする。ニゲルはそれに、苦笑する。

 

「・・・優等生ならたくさん見た。真面目なだけじゃなくて、人との繋がりを結べる奴。でも、そうだな。それと同時にアルは、ちゃんと狡猾な部分もある。正当さだけじゃ守れないものを守るための在り方だ。大事な事だ。私は、それだってお前の中に見てた。でも、やっぱり似てねえな。お前さんには誇りが足りない。」

「僕はあなたに罵倒されているんですか?」

 

一方的な評価に等々、セドリックは少々苛立った声を上げる。それにニゲルはけらけらと陽気そうに笑った。

 

「お前さんこそ、スリザリンのことを罵倒するのか?狡猾さは悪口じゃない。綺麗なままじゃ、喪うばかりだ。清濁併せ呑むことも必要だ。あと、そうだな、誇りが足りないってのは単純におまえさんがこのバッジを持つことを、表立って止めないことだな。」

「・・・・僕もそれについては止める様に言ってはいます。少なくとも、彼は契約に縛られている。そんな彼を貶める様なことは止めるべきだと。」

「いや、お前さん、実際この状況そこまで強く止めてねえだろ?」

 

ばっさりと斬り捨てられた言葉がその場に転がる。それにとうとうセドリックが明らかに苛立った声を上げる。

 

「っあなたがハリーの味方であるために僕を侮辱するなら・・・・・」

「へえ、監督生で最上級生、今を時めく代表選手のお前さんの言葉がそれほど影響力がないとは、お前さんも人望がないな。」

 

ぞわりと、ハリーは背筋に寒気を感じた。

きょろりと、辺りを見回した。何かが、自分に向けられていた、敵意と呼ぶことのできるそれが、変わりかけている気がする。

何かの流れが、変わっていく。

セドリックの表情に、微かな動揺が走った。

 

「・・・・・私だってホグワーツの人間だ。そこまでの、おまけに人気者の存在に言われたことがどれほどの影響力があるか想像できる。」

 

ニゲルは、持っていたバッジをセドリックに放り投げた。彼はそれを無言で受け取った。

 

「お前さんだってシーカーだろうが。アウェーでたった一人で飛ぶプレッシャーが分からないわけないだろう。私が誇りが足りねえなって言ったのは、アルなら相手の全力を出せる状態で戦うことを望むからだ。あいつは、プライドが高すぎるからな。自分が本当の意味で勝ったって証明したがるからさ。そう言った話じゃあ、お前さんには誇りが足りない。自分が勝るのではなく、相手が不利であることを放ってるんならな。」

 

セドリックはじっとバッジを見つめていた。

ニゲルはそれに視線を向けつつ、今度はまわりをぐるりと見まわしながら言った。

 

「もしも、このバッジをつけることでディゴリーの味方をしてるだとか思ってるなら辞めるんだな。お前さんたちは、間接的にハリーが万全の状態でならディゴリーが勝てないって思ってるって証明してるようなもんだ。この試合はな、大多数に守られる程度の奴ならすぐくたばるだけだ。」

 

皮肉がききすぎたそれは、誰もの身のうちにあった何かを抉りだした。ニゲルはそれを確認した後に、そこに佇んだ、多くの取り巻きに囲まれながらなんだか一人でいるような青年を見た。

 

「セドリック。お前さんには、私がお前を侮辱して、貶めてるように思えるだろうが。そうだな、正直後輩のこれにブチギレて、お前らのことを徹底的にこき下ろしたかったていうのは確かにある。私は教師じゃない、お前たちを導くものでも、模範とされるものではない。私は私の正しさに跪く。でもな、それ以上に、一応は先輩として忠告しておきたいことがあっただけだ。」

 

フェアプレイで勝ち取れなかった勝利の栄光なんざ、ほんの一時で終わるもんさ。

 

その言葉は、老いと積み重ねてきた苦みの走った何かによって彩られていた。そのためだろうか、誰もがその言葉を無視できなかった。

そこには、確かに老いた人の積み重ねた現実があった。

 

「そういった後悔ってのは、年を取ればとるほどに苦みが増していくんだよ。別段、お前さんがこの試合をフェアプレイであって、卑怯な事なんてしていないと思うならそれでいい。所詮は、私の一方的な侮蔑であり、批判だ。それを否ということも、是ということもお前の自由だ。」

「・・・・この状況で、それをいうのか。」

 

マルフォイの呆れに満ちたそれに、ニゲルはケラケラと笑う。

 

「あっはっは、だから言ったろ、私はハッフルパフのやってることが気に食わないから非難したんだ。それで変わるなら万々歳だ。でもな、ディゴリー、これだけは言っておくぞ。この状況がお前さんにとってどれほど思惑とか、諸々があったのかは知らない。まあ、それでも、お前さんはもう少し声は上げる必要はあっただろう。監督生という肩書を背負うならばなおさらに。つって、止めろっていって止めない奴もいただろうからな。安心しろ、今回のことはお前さん以上に、全員くそったれの最低だからな!」

 

最後に添えた、皮肉と侮蔑に満ちた言葉にこそこそとバッジを取るものはいた。今、この瞬間、そのバッジをすることを恥だと感じるものはいた。

それを見て、ニゲルは呟いた。

 

「・・・・・傷を持たない人間はいない。」

 

ハリーは、その言葉に聞き覚えがあった。彼は横にいた彼女の顔を見る。彼女は凪いだ、いつもの陽気さの消えた眼をしていた。

ああ、それは、なんだか。ダンブルドアに似ていた。

 

「誰もかれもが傷を持つ。私も、アルも、ミネルバも、セブルスだって傷だらけだ。話も出来ない、傷の多い人生さ。完全無欠なんて存在しない。幾度も言うが、私のさっきの言葉は私なりの正義と善意だ。誰が何といおうとな。叶うなら、私の言葉によって、恥を持ち、後悔を持って、自分の中の間違いから逃げたがっているのなら私は嬉しい。それは傷だ。けれど、傷を受けたことは恥ずべきものではない。」

 

そこでニゲルは何故かマルフォイの方を向いた、にやりと笑った。

 

「あと、マルフォイ。今回の皮肉は少しお粗末だな。」

「急になんだよ。」

「いや、少なくともお前の親父やじいさんは、ハッフルパフ生をホグワーツの代表だとは言及しなかったって話だ。」

 

それに、マルフォイは目を見開いた。自分からニゲルの視線が遠ざかるのと同時に、自分のしていたバッジを憎々しげに引きちぎった。

ニゲルは改めてセドリックを見た。

彼は、感情を感じさせないどこか苦みの走った顔でニゲルを見返した。

 

「この批判によって君が、いや君たちが傷を負ったというならば叶うなら、私は嬉しい。原石のままでなんていてくれるな。それが君たちを損なう傷物の証ではなく、宝石へと至るためのものであることを祈るよ。アルやミネルバ、そうしてセブルスと同じように。」

ニゲルはゆるりと笑って、ひらりとセドリックに手を振った。

 

「ディゴリー、それでもお前さんは選ばれたことを忘れるなよ!」

 

唐突に振られた激励の言葉にセドリックはもちろん、周りの人間も驚いた顔をする。

 

「私はな、ハリーを確かに応援するが。別に誰が勝とうがどうだっていいんだよ。お前さんは選ばれた、なら勝つにいたる資質がある。見せつけてみせろ、ハリーなんて関係なく、自分が優れているんだってな。フェアプレイでやってみろ、それこそ本当にかっこいい勝ち方だろ?例え負けたって気にするな、それでも優れていると選ばれたのがお前なら、自負のうちに胸をはれ。」

 

君たちは無限の可能性を持った、子どもっていう珍しい生き物だ。その恥と後悔を持ってなお、どこにだって至れるのさ。誰もが憎くんだ、孤独の者になることも。誰にも好かれる、当たり前の善人になることも。それを選ぶのは君たちだ。生きるって、楽しいだろう?

 

「あなたは、僕に何を願っているんですか?」

「ハッフルパフに恥じない、フェアプレイと己が優れているという自負に満ちた足掻きをさ。私は、お前が努力し、足掻き、善性を持つと知っている。勝てない戦いじゃないだろ?」

 

ディゴリーは、その青年は、何故かその言葉が祝福に満ちていると思った。

苛立ちに怒りが存在した自分から、何故か透き通る青空を見たかのような柔らかな思いが生まれる。

分かるのだ。確かに、目の前の人は今の現状に苛立って、怒って、軽蔑していても。

確かにセドリックという存在を信じているのだと。

きらきらとした、緑の瞳が自分を見る。

何故だろうか、そこには確かに怒りがあっても、拒絶は感じられなかった。

ああ、なるほど。

ディゴリーは、あまり彼女と話したことはない。彼は彼女に頼るべき弱者ではないから。それでも、話に聞いた優しい人だという言葉の意味を今知った。

彼女は確かに、自分に今、苛立っていても、けして敵になることはないのだと。

 

ニゲルはハリーを促す様にたんと背を叩いた。

 

「私がハリーだけを応援する理由はそれだけだ。今の君たちのことが嫌いだ。腹が立つ。それでも、私は君たちの敵にはならない。批判も、呆れも、君たちの味方であることを願うからだ。そんじゃ、私たちは図書館にいくからな。」

 

促されるままに、ハリーは歩き出す。誰もがハリーを見る。けれど、不思議と居心地は悪くなかった。ハリーを見ていたその眼には、後悔と、罪悪感と、苛立ちがあった。

前まであった、自分たちが正しいという絶対的な自信が消え失せていたせいだろうか。

ニゲルは、歩き出したハリーを追う形で歩き出した。

 

(・・・・安心する。)

 

ニゲルは確かに自分の味方であるのだと、心底そう思えて。ひどく、安心する。

炎のゴブレットから自分の名前が吐き出されたとき、疑いのまなざしから庇うように自分の前に立った彼女を思い出す。

信じてくれる人がいる、それはどれだけ嬉しいことだろうか。

 

 

その背を、青年はじっと見た。手の内にある、誰かを貶めるバッジ。

先ほどまで昏さを伴った瞳に、光が宿る。

 

「・・・・ああ、そうだ。僕は、確かに選ばれた。」

 

囁きのような声は誰に耳にも入らない。それでも、確かに、その声には後悔と、奮い立たせるような意思があった。

 




書き手は、炎のゴブレットを読んだ当時、ハッフルパフ生も何だかんだでくそじゃねえかと憤慨した記憶があります。
作者さんがハッフルパフの善性を語るたびにどこがだと感じてます。
もう、どこの寮かっていうよりもどんな人間かみないと駄目ですね。

原作読んでるせいで番外編が書きたくなる。いっそ、番外編だけで分けようか。


前回の後編で、お辞儀様が生まれるとニゲルの致死率が上がるのは単純に死んだらアルバスさんへのダメージが多いことと、下手に親子関係を築くルートが多いため愛憎ましましで狙われるためです。



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