ダンブルドアは自由に生きられるか   作:藤猫

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君を愛そう。例え、世界を敵に回しても。それは、間違ってるかは知らないけれど、叶うならば愛と言おう。


原作のアルバスさんは博愛主義の気があってけれど。でも、確かに誰かを愛していたけれど、何故か愛したかった人を悉く失ったゆえに行きついた博愛主義な感じはあったなと。

感想、欲しいので待ってます。


彼らのエゴなる愛について

 

 

ニゲルは温いものが自分にぴったりと張り付いており、それが少し熱くさえ感じて目を覚ました。

自分にぴったりとくっつき、尚且つがっちりと手を繋いでいる存在を認識して、ニゲルは軽くため息を吐いた。

柔らかそうな鳶色の髪に、今は閉じられて見えないキラキラとした青の瞳。見とれてしまいそうな麗しい顔立ち。

ニゲル・リンデムとしての記憶をどこかに放り出してから少々の時間が経った。そうして、この隣りで眠っているアルバス・ダンブルドアという厄ネタが豊富な男と添い寝をするようになってから少々の時間が経った。

 

ニゲルになってからまず悩んだのは、ダンブルドアきょうだいとゲラート・グリンデルバルドへの対応についてだ。

グリンデルバルドは何故か宇宙を目指していたし、ダンブルドア家は問題なく生き残っていた。まあ、母親に関しては、なんというか罪悪感というか申し訳なさはあるのだが。

そこは今は置いておこう。一言では語れない程度の申し訳なさがある。

ただ、何となく、記憶を失う前の自分が何かを変えたいと足掻いていることは察せられた。

守りたかったのだと思うし、愛していたのだと、何となく察せられた。

子どもが、泣いていた。

 

(・・・・忘れてしまったのって、泣いてたなあ。)

 

ああ、子どもが、泣いている。自分のせいで、泣いている。

それは、ニゲルという人間にとっては非常に、なんというか、心を抉られる。

彼女が彼女足りえる確固たる価値観としては、非常にそれは心がえぐられた。

といっても、自分の中にある日記と言えるものはまっさらなままそこにあるのだ。

崩れ落ちた家屋が撤去されて、何の問題も無いとされた荷物を引き取ってみると、ニゲルの私物は驚くほど少ない。あるものといえば、仕事の為の本や道具、あとは服が何着か。そうして、おそらく友人が誰かに贈られたのだろう、時計などの小物だ。

そうして、何よりも目を引いたのは日本人の記憶のために相当苦心したらしいレシピ集だ。その書き込み具合から見て、相当この国の料理が苦痛だったらしいことが察せられた。

そうして、所々にある、三きょうだいについての書き込みだ。

これはアルの好物だとか、これはアリアナが嫌いだとか、これは濃い目にした方がアブは好きだとか。

それに、理解してしまったのだ。

愛していたのだと。

どうしようもなく、記憶を失う前の自分と言うのは、ダンブルドアの三きょうだいを愛していたのだと。

それが、どんな経緯があったかは分からない。

ニゲルは、ハリー・ポッターの物語を知っている。そこで、不幸によって死んだ少女を知っている、仲たがいしたままの兄が死んだ弟を知っている。

そうして、世界のためにしか死ねなかった博愛主義の老人の孤独を、知っている。

 

(・・・・幸せを、願いたくもなるよなあ。)

 

バッドエンドよりもハッピーエンドを望むのが人情だろう。その内にほだされたというのも納得できる。

けれど、その日記に等しいレシピを見ていると、分かるのだ。

きっと、きっと、自分と言うのはひどく真摯に、真っ当に、どうしようもなく、何の理由も必要なく、共に育った彼らのことを愛していたのだと。

ニゲルには、そんな自分の置き土産を見たとしてもどうしようもない。

ただ、三人は、ニゲルの困惑した顔を見ると、まるで死んでしまいそうな顔をする。

まるで、置いていかれたかのような顔をする。

そんな顔をされても困るのだ。忘れてしまったものは忘れてしまった。

大体、考えてほしい、案外致死率が高いハリポタの世界で呪われても生き残れた時点でものすごい頑張っていないだろうか、自分は。

そう思って、そんなことを知らない三きょうだいには関係ない話だ。

そうやってアルバス・ダンブルドアと同居をするようになって思うのは、ものすごい気まずさだ。考えてほしい、身内だった、きょうだいのように育ったという記憶がすっこ抜けた状態で異性と暮らすのは非常にハードルが高かった。そうして、意識をし過ぎいているのかもしれないが滅多に見ないような美形との同居はなかなかに気まずい。

どうなることかとそわそわしていた同居生活であるが、はっきり言おう、そんなことを気にしていられる余裕などはなかった。

ある意味では居候のような立ち位置なのだからとせっせと家事をこなしていた。なんといっても今を時めくアルバス・ダンブルドアだ。ものすごい忙しい。それに加えて、知識はあっても馴染んでいない魔法使いの常識をアップデートさせ、かつ病院への通院や毎日のように送られてくる梟便の処理などを済ませれば日々のことなどあっという間に終わる。

尚且つ、アルバスは仕事漬けで滅多に帰ってこなかった。

ニゲル自身、外に出ることを禁じられ、部屋の中で過ごしていたが別段不満はなかった。というよりも、馴染んだ時代とは全く異なる世界に一人で出る胆力はニゲルには存在しなかった。

自分が飼っていたらしい、ニーズルのラピスが相手をしてくれたのでさほどの孤独は感じなかった。

何よりも、仕事馬鹿といっていいアルバスの世話をするために遠慮やときめきなど時空の彼方に早々に放り出してしまった。

 

(・・・・まじで、飯も碌に食わずに徹夜までして。)

 

一回、数日間連絡も寄越さなかったため吠えメールでも送ってやろうかと思ったが、疲労で上司に返されたというアルバスを見ればそんな気もうせてしまう。

というよりも、不思議なのはアルバスはここまで忙しかったのかという話だ。

ニゲルの付けていた端々のメモを見れば、ここまで忙しいことなどなかったようなのだが。

そう思って、アルバスと言う人間への遠慮など、そのズタボロ加減を見れば失せてしまう。

ニゲルは何とかアルバスをシャワーに押し込め、消化に良さそうなスープを作りベッドに放り込んだ。

そうして、聞いてしまったのだ。

微かな、寝言なのか、いっそうわごとなのか、その言葉。

ニゲル、ごめん。

アルバスは、幾度も、ごめんと囁いていた。

君に呪いをかけたやつらを、僕は必ず。

それに覚ってしまう。この青年は、どうも自分の敵を討つためにそこまでズタボロになっているのだと。

それに、心底呆れてしまう。

自由に生きればいいのにと。

少なくとも、この世界のアルバス・ダンブルドアにしがらみがないのなら好きに生きればいいのに。魔法大臣になろうと、教師になろうと、誰かを一方的に排除なんかしない限り自由に生きればいいはずだ。

はっきり言って、ニゲルは自分をこんな目に遭わせたという存在にそこまでの感情を持っていない。なんというか、記憶が無くなったという実感が湧かない分、怨みやら憎しみやらが薄いのだ。

ニゲルとしてはアルバス・ダンブルドアが幸福であればそれでいい。きっと記憶をなくす前のニゲルの願いでもあったのだと思う。

一度、ズタボロになって、誰かを愛していたようで、結局届いてほしかった願いは全てなくなって。

それならば、それならば、ニゲルは気にしないのだから好きに生きてほしいのに。

 

「・・・・・好きに生きればいいんだがなあ。お前さんが、あの子たちが幸福であればそれでいいのに。」

 

そんな呟きをして、そっと眠るアルバスの頭を撫でてやった。

あやすように、子どもの頭を撫でる様に、撫でてやった。少なくともニゲルにとってアルバスはただの子どものようにさえ思っていた。

武器をめちゃくちゃに振り回すような、そんな幼い怒りを感じて。

 

(・・・・だからといって、もう充分大人になった男女の添い寝は駄目かなあ?)

 

ニゲルはそんなことを思う。

ニゲルとアルバスがそんな風に一緒のベッドで添い寝をするようになったのは少し前の事だった。

元々、ニゲルとアルバスは違う部屋で寝ていたのだ。けれど、ある時のこと、アルバスが同じ部屋で眠っていいかと言い出した。

もちろん、アルバスはそれがどれだけ失礼と言うのか、駄目な事で、距離感を見失った提案であるのかは分かっているようだった。

けれど、アルバスはそれでもとニゲルと同じ部屋で眠る許可を求めた。

別段ニゲルとしては構わない。その時には図太い性質のままに、アルバスへの遠慮も宙の彼方に放ってしまっていた。

けれど、その提案自体があまりにもらしくなくてニゲルはどうしたとアルバスに聞いた。それに、彼は顔色を真っ青にしていった。

 

眠っている間に、君が、死んでいないか不安になる。

 

その言葉にニゲルは寝室を共にすることを是とした。

同じ部屋で眠ることでアルバスの安眠が約束されるなら安いものだ。その程度に割り切って。

けれど、アルバスの様子がおかしいと思ったのは同じ部屋で眠るようになってからのことだ。

夜中に、突然起きて来るのだ。ニゲルがそれに気づいたのはただの偶然だった。ただ、何となく寝付けなかったある日。

突然起き上がったアルバスが、自分の寝ていたベッドから起き上がり、自分のベッドへ近寄ってきたのだ

思わずニゲルは身を固くして、それを待つ。

そうして、アルバスはニゲルへ近づくとそっと彼女の口元に手を持っていく。

次に聞こえてきたのは安堵の声だ。

 

「・・・・生きてる。」

大丈夫、ニゲルは、大丈夫。

 

子どもが不安に押しつぶされるその瞬間、必死にこらえる時のような声だ。それからも、時折アルバスはニゲルの生死をそっと確かめる。

息をしているか、温かいのか、脈があるのか。

時折、何度も起きてはということさえあった。けれど、どうやら偽装は完璧であるらしく起きたアルバスは、変わることなくニゲルへ気を遣う紳士だ。

子どものような、不安感を持つなどおくびに出しもしない。

そこにいるのは、完璧で、姉を気遣う弟で、何があっても揺らぐことのない、アルバス・ダンブルドアだ。

 

(・・・・そんな無理しなくても。)

 

けれど、無理させる理由も自分なのだから何とも言えない。

それ故にニゲルは気づいていないふりを続けた。けれど、ある時のこと、ちょうどアルバスが布団の外に放られた腕でニゲルの脈を取っている時のことだ。

その時、ニゲルは機嫌が悪かった。うとうとと心地の良い微睡みに浸っている時にゆすぶり起こされたかのような感覚で、ニゲルはむくりと起き上がった。

そうして、アルバスの手を引いてベッドに引きずり込んだ。字面からすればだいぶ問題があるが、寝起きの機嫌の悪いニゲルには関係がないことだ。

ベッドに横たわったアルバスは、あまりの行動に茫然としている。

ニゲルはおっさんがごろ寝をするときの様に腕を立てて不機嫌そうにアルバスを睨み付ける。

 

「さすがに起きる。」

「その、すま・・・・」

 

アルバスがそう謝罪をしようとしたがニゲルは不機嫌のままにアルバスの履いていた靴を脱がせ、奥に引きずり、そうして一人用のために狭いベッドから落ちない様に抱き寄せる。

 

「ニ、ニゲル?」

 

アルバスの困惑した声がする。が、やっぱり、眠いニゲルにはそんなことは関係ない。

 

「・・・・ほら、こうすれば、死んでるのか生きてるのか分かんだろ?」

「だが。」

「ねむいから、おまえもねて。」

 

アルバスの抗議の声がするけれど、ニゲルには子どもの愚図る声に等しかった。ニゲルはそのまま、アルバスに子ども同士が昼寝でくっつきあって眠るように夢に落ちていく。それに、アルバスの体のこわばりがとけていく。

それに、ニゲルはぼんやりとした思考でほっとする。

よしよし、そのまま眠ってしまえ。怖いことなんてないんだよ。忘れてしまったけれど、でも、いなくなったわけじゃないんだから。だから、そんな死にそうな顔をするな。

幸福で、そうだ、幸福であってくれ。

誰かのためにではなく、自分のために、どうか幸福であってくれ。

 

 

それから、ニゲルとアルバスの添い寝が続いている。添い寝をしていると言っても何かが起こることがないのなら、別にかまわないのだろうが。何となく、ニゲルの中の倫理観と言うか常識が、あかんくないかと言っているもののアルバスが夜中に何度も起きるという睡眠障害的なものは収まっている様で止める気も起きない。

ニゲルとしても自分のせいでそこまでアルバスが追い詰められているという事実を前にすれば、本人が嫌がっていないのならこのままでいいかと思ってしまっている。

ニゲルは、握られたそれとは反対の手で、そっとアルバスへ布団をかけ直してやった。

 

「・・・・・無理はするなよ。」

 

自由に生きればいい、ニゲルだって自由に生きている。なら、どんな道だって歩めばいい。本当に間違えたその時は、違うんじゃないかと声ぐらいはかけられるだろうから。

地位などなくても、愛さえも得られずとも、名誉さえも与えられなくても、それでもニゲルにとって波乱に満ちた人生に比べれば、アルバスというそれが幸福であったと満足出来ればそれだけでいいのだ。

不幸なんて誰だって見たくない。ハッピーエンドこそ、人は愛するものだろう。

そっと、声を掛けてやった。そうして、ニゲルもさっさと目を閉じて眠りについた。

 

 

眠るのが怖くなったのは、ニゲルと同居を始めてからの事だった。

体も心も疲れ切り、そのまま眠りについた。そうして、夢を見たのだ。

いつものように起きて、けれど、ニゲルは起きてこず。不審に思い、部屋を訪れた。

そうして、アルバスを出迎えたのは、冷たくなったニゲルだった。

白い肌、硬化した体、冷たい肌、濁った、緑の瞳。

二度と笑ってくれない、二度と怒ってはくれない、二度と手をつないでくれない。二度と、目覚めてくれない。

声も無く飛び起きたアルバスは、今にもニゲルの部屋に駆け込みたい衝動に駆られる。以前ならば、ニゲルが記憶を失う前ならきっと、飛び込んでいただろう。けれど、今の彼女にそれをするのははばかられた。そのために、アルバスは必死に悪夢だ、そんなことはないと言い聞かせてベッドに潜り込んだ。

それから、幾度もそんな夢を見るようになった。寝不足によってくっきりと浮かんだ隈に、疲労に満ちた体。同じ部屋で眠らせてほしいというのは、アルバスとって本当に最終的な苦肉の策であったのだ。

同じ部屋で眠るようになってようやく悪夢は見なくなった。ニゲルの私室と言う括りの部屋にアルバスはベッドだけを置いて、そっと彼女の寝息に耳を澄ませた。それにようやく救われた。ようやく、悪夢を見なくなった。

けれど、ふと、また夜中に目が覚めるのだ。寝息が小さくなって、よく聞き取れないときがあった。

駄目だと、それはあまりにも境を踏み越えすぎていると理解しても、ざわざわと腹の奥に巣食った不安に押しつぶされそうになりながら、救いを求めて彼女の生を確かめるのだ。

ああ、生きている。大丈夫だ、ああ、大丈夫、彼女はちゃんと生きている。

朝、空っぽになったベッドを見るだけで泣きそうになった。

よかった、今日も、彼女は朝を迎えて目を覚ましたのだと。

それだけで、アルバスは救われるのだ。

家に帰ったその瞬間、ニゲルが家にいるだけでアルバスは胸の内、頭の奥、思考の果てにある不安感から一瞬だけ解放される。

ニゲルは、変わることなく優しい。

記憶がなくてきっと彼女だって不安なのに。そんなことをおくびに出すことなく、アルバスのことを心配してくれる。

そのたびに、死にたくなった。

アルバスにとって、ニゲルは、どんな誰よりも特別であった。弟のことも、妹のことも、母のことも、友人のことも、愛していた。

けれど、ニゲルだけは、どんな誰とも比べることは出来なかった。

彼女だけが、アルバスの献身を望むことはなかったから。

正しくあることも、愛する者への献身も、世界のための奉仕も、彼女に取っては関係なく、そこにあるのはアルバス・ダンブルドアという個人が幸福になることだった。

だから、特別だった、居場所だった。

アルバスにとって、ニゲルだけが甘えても、理不尽を言っても、赦してくれる存在だった。

アルバスは、正しくありたいと思っていた。自分の力を証明し続けるのは好きだった。

けれど、ニゲルだけは、彼女だけは、アルバスの正しさに興味を示さず、彼の家族よりも夢を優先したエゴを肯定してくれた、赦してくれた。

愛してくれた。

それ故に、アルバスは、ただ、絶望した。

自分の夢への歩みは、たった一人、アルバスの夢を肯定してくれた人を徹底的に傷つけたから。

ニゲルがアルバスに願っていたのと同じぐらいに、彼だって彼女の幸福を願っていた。

だからこそ、ゲラート・グリンデルバルドが近づくのだって嫌がって。そのくせ、彼女の言葉など聞いていなくて。

わかっている。結局のところ、アルバスは優しいニゲルに甘えて、彼女が自分の側でずっと手を握り続けていてくれるのだと、そんな愚かなことを考えていたのだと。

守られていたのは、自分の方だと、見知らぬ自分を見るニゲルを見た時覚った。

だからこそ、今度は甘えない様にと誓ったのだ。今度こそ、辛くても、悲しくても、何があってもニゲルを守るのだと誓ったのに。

けれど、アルバスはニゲルにベッドに引きずり込まれて、抱きしめられた時、それを甘受してしまった。

こんなことをしなくてもいいと、大丈夫だと、そう言わなくてはいけなかったのに。

ニゲルの優しい声に、どうしようもなく、甘えてしまった。

その、ここならばどんな悲しいことも、苦しいことも無いという、奇妙な確信に体を委ねてしまった。

声がする。途切れ途切れの、ニゲルの言葉が聞こえる。

眠ってしまえ、そのまま、どうか。大丈夫だから、眠ってしまえ。

ああ、優しい声がする。自分を守ってくれる声がする。

アルバスは、自分の目から涙がこぼれたのを自覚して、それを隠すように目を閉じた。

柔らかな体と、暖かな体温は、彼女は生きているのだと何よりもアルバスを安堵させた。

起きた時、アルバスは思わず彼女に聞いた。

どうして、こんなにもしてくれるのだと。ニゲルはそれに、うーんと困り切った形で首を傾げた。そうして、ベッドの上に向かい合わせになる形でじっとアルバスの瞳を見た。

 

「・・・・君はさ、あれだよね。まあ、私のことを大事にしてくれている、よね?」

「ああ。ニゲルは僕の家族だ。愛しているよ。」

 

アルバスはそれに素直にそう言った。ニゲルはそれに動揺を含ませて、耳を赤くしながら苦笑した。

 

「まあ、自分のこと大事にしてくれてるんなら、同じように大事にしてやりたいもんだろ?」

「それだけ?」

「そりゃあ、そうだろ。そんなもんだろ、大抵は。だから、まあ。あれだな。私はお前の味方だからさ。そんなに自分を罰しようとしないでほしい。」

幸福であってほしいって、これでも思ってるんだ。

 

あっさりと、ニゲルはそう言った。

ああ、それだけだった。ニゲルにとって、アルバスへの感情なんてそんなものだった。

アルバスは、確かに愛されているのだ、守られているのだ。

たった一人の、さほど際立ったものなんてない、どこにでもいそうな彼女にずっと守られている。

記憶が無くなってさえも変わらないそれは、きっと彼女と言う人間性なのだろう。

アルバスは、隣りだって眠る時、その繋がれた手の体温にどれだけ救われるだろうか。

記憶がない、その状態で変わることなく苦しいアルバスに手を差し出してくれた。

苦しくて、間違えて、どうしようもなく自分と言うそれがぶれてしまう時、彼女は変わることなくアルバスのことを守り続けてくれた。

ニゲルは優しい。だからこそ、自分のほかに苦しい誰かがいれば、彼女はその人を助けるだろう。昔、ニゲルが拾って来たスクイブの青年の様に。

昔、こんなふうに身を寄せ合って眠ったことがあった。

そんな軽やかで、柔らかな感情をニゲルはアルバスにずっと与え続けてくれる。

ニゲルはきっと知らないだろう。それを欲しがるものがどれだけいるか。どんなことがあっても、手を引いてくれる誰かの存在が、どれだけ希少なのか。

自分は、彼女を失った。彼女を、自分は傷付けてしまった。それでも、ニゲルは変わることなく、アルバスの手を握ってくれるから。

だから、彼は決めたのだ。

アルバス・ダンブルドアはきっと変わることなく正しいものであろうとするだろう。地位が高くなっても、名誉を得ても、きっとアルバスは自分の本当に大切なものだけは失うことはない。たった一人、自分の手を握り続けてくれる彼女がいるならば、きっとアルバス・ダンブルドアは闇に飲まれることはないだろう。

だからこそ、決めたのだ。

もしも、もしもの話。

ニゲルという存在が、どんな立場に立ったとしても、誰かとニゲルを天秤に置く時があるとしたら。

その時は、アルバス・ダンブルドアはニゲルを選ぶことを決めたのだ。

それはエゴだ。それは、どうしようもないエゴだ。

けれど、アルバス・ダンブルドアはそう決めた。

ニゲルだけが、アルバスの正しさを疑い、平凡を知り、傲慢に呆れ、献身を求めず、愛してくれたから。

それだけで、それだけが、誰にもできなかったことだったから。だからこそ、アルバスはニゲルを愛すると誓ったのだ。

アルバス・ダンブルドアは、世界を敵に回しても、ニゲルの味方で在り続けると誓ったのだ。

 






アルバスさんが自分のために誰かを愛していくと決めた話。


アルバスさんの闇落ちルートもありますが、ニゲルさんの闇落ちルートもあります。ちなみに、ニゲルさんが闇落ちした場合、原作知識をフルに使うのでハリーさんは生まれる前に消されます。

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