ダンブルドアは自由に生きられるか   作:藤猫

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魔法とは、まるで最初の友人のようなものだ。なくれなば、きっと悲しい。それでも、なくなったとしても私は私として生きるだろう。


今後の展開に悩み中。
ちなみに、番外編のニゲルさんは基本的に記憶を取り戻してます。
ニゲルさんがハリーと幼なじみになってしまったルートについて。
最初のアルバスさんのよしよし感、もう少し気持ち悪くしたかった。


番外編:裁判の前夜

「・・・・・怖くないの?」

 

掠れたその声に、ニゲル・ダンブルドアはきょとんと眼を瞬かせた。

それに、ハリー・ポッターはそわそわと落ち着かないというように体を動かした。

 

その少女と出会ったのは、ハリーがマグルの学校へ通っていたころのこと。

ニゲルはハリーのよく預けられていたフィッグばあさんの家の子だった。

家の子だった、というけれどニゲルは別にフィッグばあさんの孫と言うわけではなく、昔世話になったひとの子どもであったそうだ。だが、両親も死に、フィッグばあさんが引き取られたそうだ。

フィッグばあさんに預けられることの多かったハリーとニゲルは嫌でも顔を合わせたし、関わることが多かった。

ハリーは、ニゲルという少女が好きだった。

彼女は、数少ない、ハリーに優しくしてくれる人だった。

ハリーがいとこやその取り巻きに虐められている時、率先して助けてくれたのは彼女だ。笑えることに、ダドリーはニゲルのことが好きであったらしく、彼女が出て来ると逃げ腰になってしまう。

といっても、ダドリーがニゲルのことを好きになるのは、ハリーにも少しわかってしまう。

ニゲルは、それはそれは綺麗な少女だった。

さらさらとした黒い髪に、白い肌。いつだって微笑んでいる朗らかな人柄に、勉強だって出来る。何よりも、ハリーが好きなのは、その眼だった。自分と同じようで、少し違うキラキラとした緑の瞳。

何よりも、自分と同じように彼女は人とどこか違った。

歳が一つの上の彼女とは学校ではあまり会うことはなかったけれど、それでもハリーはニゲルと自分は同じであると察していた。

ニゲルだけは、ハリーの悲しみや苦しみに寄り添ってくれた。ダドリーから守ってくれた。バースデーにお小遣いを溜めてプレゼントをくれた。クリスマスのカードをくれた。

大丈夫だよと、そういって寄り添ってくれた。

それは、恋というにはあんまりにも、甘ったれで、細やかで、一方的な心だった。それは、愛と言うのはあんまりにも求めてばかりの心だった。

時折、ニゲルに感じた感情は、姉や母がいればこんなふうだったのだろうか。

たった一言言えるのは、幼いハリーにとって彼女はまさしく世界そのものだった。

だからこそ、ニゲルが自分と同じように魔法使いであると知った時、どれだけ嬉しかっただろうか。

一つ年が違うために入学式は一緒ではなかったけれど、それでも自分の入学を心から嬉しがってくれていることだけは分かっていた。

ニゲルの寮はハリーと同じグリフィンドールで変わることなくハリーを構ってくれた。

学校全体が敵のように感じた時だって、彼女はハリーの側にいてくれた。

大好きだった、本当だ。

だからこそ、あの夜、吸魂鬼に襲われたとき、庇われたとき心の底が冷える気がした。

やめて、そう叫んだ気がする。

自分を守ってくれた人、自分を愛してくれた人、自分を大切にしようとしてくれた人。

吸魂鬼の恐ろしさを、ハリーは知っている。

自分を背に庇う彼女の姿と、覚えていない母の人影が重なった気がした。

守護霊の呪文か聞こえる。彼女の杖から、銀色の何かが飛び出た。

 

(・・・・あれは、何だったんだろう?)

 

一瞬だけ見えた、銀色の何か。それは、鳥のように見えた。

そうして、魔法省から通知が来て、あれよあれよという間に二人が今いる、グリモールド・プレイス 十二番地、シリウス・ブラックの生家だ。ハリーは自分のせいでこんなことになったのかもしれないという自負のために、夜遅く彼女の部屋に訪ねてきてしまった。ニゲルはすでに寝る支度をしていたらしく、緩い服装であった。

さすがに歳の近い男女と言う倫理観もあったが、それよりも不安感が惜しかったということと、ニゲルの赦しにより部屋に入り込んだ。

明日が裁判だというのに、ニゲルは、なんというか普通だ。下手をすれば、周りの方がずっと焦っているというのに。

それでも、ニゲルはゆるゆると笑っている。

 

「何か知ってるの?ダンブルドアが何かしてくれてるの?」

「ああ、アルバスは、まあ。色々してくれてるんだよ。過労でぶっ倒れなきゃいいけど。」

 

のんびりとした言葉に、ハリーはもう一ついつも気にかかっていることを思い出した。

ニゲルは何故か、アルバス・ダンブルドアとやけに親しい。もちろん、養子にまでなっているのだから、親しいなどという言葉では収まり切らないのだけれど。

ニゲルの父母とダンブルドアが親しかったらしいのだが、彼らが無くなった後ニゲルの行方も分からなくなり、学校への入学時にようやく発覚したらしい。

フィッグばあさんへの恩があると最初はそれも断っていたが、色々あって養子に落ち着いたらしい。といっても、ニゲルがダンブルドアの養子になったこと自体は伏せられていて、特定の人しか知らない。ハリーはその一人だった。

 

「ハリー?」

 

柔らかな声がする。それに視線を向ける、緩やかに笑みをたたえたニゲルがそこにいた。ベッドに隣り合わせに座った彼女は、そっとハリーの頬に触れた。

 

「そんな顔をするなよ。お前さんは何にも悪くないんだから。」

 

それは、自分を甘やかして、自分を赦して、自分をねぎらうための声だと理解できた。

違うのだと、自分は守られた。一欠けらだって悪くないはずがない。

けれど、ハリーはこくりと頷いた。

 

「大丈夫だ。私は、大丈夫だ。だから、お前さんは自分のことだけ考えてればいい。」

 

とんとんと、背中を叩かれる。あやされて、宥められて。

情けないことに、その甘やかしがどうしようもなく心地がいい。

こんこんと、ドアが叩かれる。返事をする前に、それは不躾に開かれた。

 

「ニゲ・・・・・」

 

ドアを開いて慌てて入って来るダンブルドアと目が合い、やましいことなどないというのにハリーは慌てて立ち上がる。

 

「・・・ハリーよ、なぜ、ニゲルの部屋に?」

「ええっと。」

 

学校ではきいたことも無いとげとげしい声にハリーは固まる。それに、ニゲルが変わることなくのんびりと答えた。

 

「ああ、私が不安がってたから少し話をしてくれてたんだよ。」

 

それにダンブルドアの目から険は一応とれたものの、視線は逸らされない。ハリーは慌てて出入り口に駆け寄る。

そうして、ダンブルドアの横をすり抜けていく。廊下に飛び出たハリーは、ばくばくとなる心臓を抑えた。

 

(・・・・びっくりした。)

 

ハリーはちらりとすでに閉じている扉に視線を向けた。姉弟同然に育ったという前提があるとしても、夜遅くに二人でいたところを見られたのは気まずさと言うものはある。

 

(・・・でも。)

 

ニゲルを前にしたダンブルドアは、時折、ハリーにはよくわからない顔をするときがある。それを見ると、奇妙な寂しさと怖さを感じてしまうのだ。

 

 

「お前さ、ハリーのことあそこまで睨まなくたっていいだろ?」

 

ニゲルはそう言って自分の薄い腹に顔を埋めるアルバス・ダンブルドアの頭を撫でてやった。

 

「・・・姉妹同然と言っても、よいことではない。」

 

アルバスはニゲルの腹に顔をうずめたままそう言った。ニゲルは自分の腹に感じる温かさに少しだけ落ち着かなくなりながら苦笑した。

アルバスはハリーがいなくなると同時にニゲルに駆け寄り、ベッドに座る彼女へ跪いてその腰に縋りついた。そうして、まるで嵐の夜に母親のベッドに飛び込む子供のような仕草でその腹に擦り寄った。

ニゲルは別段嫌がることも無く、慣れた調子で彼の頭を撫でた。

 

「・・・ニゲル、頼む、心配をさせないでくれ。」

「いや、だってどう見ても今回の件は魔法省のごたごただろう?あの子が巻き込まれるのはさすがになあ。」

「肝が冷えた。」

 

アルバスはそう言った後に、彼女の腰に回した手を更に強く巻き付けた。

 

「もしも、もしも!君が、守護霊の呪文を覚えていなかったらと思うと!わしがどれほど恐ろしかったか分かるか?」

 

アルバスはそう言っていきなり起き上がり、ニゲルの頬に両手を添えた。そうして、懇願をするように彼女に顔を近づけた。そうして、まるで小さな獣が親愛を施すかのように額を擦り付けた。

 

「ぼくの、ニゲル。僕たちのニゲル、頼む。今度は、僕を置いて逝かないで。」

 

昔に比べればずっと老いたしわしわの手にニゲルは自分と目の前の弟分との分かたれた時間を思ってしまう。

ニゲルはアルバスがしたようにその顔に自分の手を添えた。

 

「逝きゃしないさ。今度は、最後まで一緒だよ。」

 

ニゲルはそっとアルバスの頬に添えた手をするりと動かして、彼を抱きしめた。自分の胸にかき抱く様に、アルバスを抱きしめる。

 

「大丈夫だよ、大丈夫。安心しろ、アル。」

 

柔らかな声にアルバスはまるで夢を見るような顔で、そうして、甘ったれた子どものように目をとろんとゆらゆらさせた。

ニゲルは、それにとんとんと背中を叩いてやった。あやすように、甘やかすように、幼子を寝かしつける様に。

いつの間にか聞こえて来た寝息にニゲルはほっと息を吐く。

そうして、アルバスをベッドに引きずりあげ、帽子や靴を取り、服を緩めて布団をかけてやる。

しわくちゃの顔は、何故か幼いころに見た寝顔とよく似ていた。

 

(・・・・苦労が顔に刻まれてるや。)

 

ニゲルは、人には見えないその老人の心の傷を考えた。

 

何があったのかは覚えていない。

ただ、覚えているのはまばゆいまでの閃光と、そうしてその前に誰かに魔法をかけられたことだけだ。

気づけば、何でかもう一回転生していた。厳密に言うと違う様なのだが、何はともあれ彼女はハリー・ポッターの近所の、おまけにもしかしたら有名かもしれないニーズルの繁殖を仕事としているフィッグばあさんの養子になっていた。

意味が分からなかったが、そうなったのも二回目で正直もう無の境地にあったりする。

 

(・・・・まあ、悪い事ばっかじゃないか。)

 

少なくとも、寂しいままであるはずの少年の側にいられたのだ。まあ、そうはいっても置いて来てしまった弟と妹たちが気かがりで仕方がない。

それ故に、魔法使いの学校からの手紙が来た時、どれほど嬉しかっただろうか。どれほど、歓喜しただろうか。

正直、自分がいた世界なのかもわからない。この世界に、孤児のハリー・ポッターが存在している時点で辿った道筋はあまりよろしくないものだろう。

もしかしたら、自分の存在しなかった世界なのかもしれない。

それでも、会いたかった。

愛しい、幸福であった欲しいと願った、可愛い子どもたち。

だから、組み分け帽子に選ばれるその瞬間、老人の前に進み出るその瞬間、涙が出るほど嬉しかった。

サンタクロースにそっくりの顔に、大好きだったきらきらとした青い瞳。老いたせいで無垢さなど削ぎ落とされた、老獪な表情。

それでも、変わることなく、どこか一人であった。どこか、一人でいる。

駆け寄りたかった、抱きしめてやりたかった。

アリアナやアバーフォースがどうなったか聞きたかった。

けれど、それをぐっと我慢して組み分け帽子をかぶせられた。

幸いなことに、一度目にホグワーツに入った折に言われていたがニゲルにはグリフィンドールの素質があるらしく頼みこめば入ることが出来た。

正直、ハリーのことを考えれば同じ寮であることがいいだろうと。

そうして、組み分けの次の日の夜、彼女はアルバスに呼び出された。

ドキドキしながら行った先、アルバスはひどく幼い表情で、言ったのだ。

 

「ニゲル?」

 

ああ、それに、また会えたのだと。そう思えば、泣きたくなるほど嬉しくて。

 

「アル!ただいま!」

 

 

弾むようにそう叫んだ。

アルバスは豪奢な校長室の中を、老いた足取りで走り寄る。ニゲルはそれに慌てて、彼を迎えに行った。

アルバスは、まるで絞め殺さんばかりに、まるで逃がさないというように、まるで縋りつく様に、ニゲルを抱きしめた。

その重さによってニゲルは崩れ落ちる様に座り込んだ。アルバスは、彼女の小さな体をまるで覆い隠すように抱きしめる。

 

「ニゲル!ああ、ニゲル、ニゲル、ニゲル!!」

 

歓喜に叫ぶように、アルバスは叫んだ。泣き叫ぶような声がした。

首筋に感じる、暖かなそれに、その老人が泣いていることを理解した。

彼女は、ただ、抱きしめた。

老いてしまって、大きくなって、立派になった弟分の幼さに、彼女はほっと安堵した。

それから、アルバスは定期的にニゲルを呼びだしては、べったりと張り付いた。

ひっきりなしに抱き付いて、ニゲルの名を呼んだ。ニゲルの作るものを強請る時もあったし、子守唄を歌って寝かしつけてやる時もあった。

それを、情けないというか、大人としてどうなのだろうという気持ちがないわけではなかったけれど、それ以上に感じたのは寂しさだった。

アルバスが、ニゲルに縋るたびに、誰も彼を甘やかしてはくれないのか、誰も縋らせてはくれないのかと、そんなことを考えて。

 

「・・・・大人でも、甘えたいよなあ。」

 

ニゲルは、自分が寝るはずのベッドで眠るアルバスにそんなことを囁いた。

 

 

皆が皆、じっと目の前の彼女を見る。大法廷の中、その真ん中には鎖の付いた大きな椅子がある。そこには、落ち着き払った顔で座る少女は一人。

美しいさらさらとしたブルネットは腰までありそれは緩くまとめられている。ほっそりとした体つきに、真っ白な肌はどこ繊細そうにさえ見える。

けれど、彼女のその瞳が全てをぶち壊す。

きらきらとした、翡翠のような、エメラルドのような、夏の新緑のような、生命に満ち溢れたその瞳と、弾む様な陽気そうな雰囲気は見目とどこかかい離しているように見える。けれど、そのアンバランスさがどこか人を引き付けた。

法廷に集まった裁判官たちの多くは彼女に好奇の視線を向けている。そうして、数人のものは何故、彼女は時間通りに法廷に現れたのかを気にしていた。

好奇の理由というのも、彼女の伏せられていた名前、ダンブルドアという苗字に反応してのことだった。

ハリーは、法廷の隅、証言人として呼ばれた立場としてどきどきとしながら順番を待っていた。

 

(ああ!ニゲルの奴、どうしてあんなにも落ち着いてるんだ!?)

 

彼女の代わりに叫びだしたくなるほど、その仕草は落ち着いている。

それは、証言に来たフィッグばあさんに笑いかけることで察せられる。裁判官たちもまたニゲルのその態度に不思議そうな顔をした。

アルバスの冷ややかな、コーネリウス・ファッジへの非難の言葉があたりに響く。

そうして、判決の時だ。

その時、ニゲルがそっと手を挙げた。

皆が皆、判決の時だと気を張っているその瞬間、それに水を差す形だ。誰もが、なんだとそれに視線を向ける。

 

「被告人、何か?」

 

困惑気味のマダム・ボーンズが彼女に聞いた。それにニゲルは、今まであまりしゃべることのなかった彼女は恐る恐る問いかけた。

 

「あー・・・申し訳ありません。判決の前に聞きたいことが。」

「何か?」

「もしも、私が杖を折られた場合、魔法界との縁って切れたりしますか?あれです、マグルみたいに記憶を消されたりとかって?」

「・・・いいえ。魔法が使えずとも魔法族は魔法族です。」

「あ、それならいいです。」

 

心の底から安堵して、後はどうでもいいと椅子に体を預ける彼女の姿は異端だ。ひどく、ひどく、異端だ。

それ故に、彼女は、マダム・ボーンズは、いや彼女以外の殆どの魔法使いが思っていた彼女への疑問を吐露した。

 

「被告人、あなたは魔法が使えなくなることが恐ろしくはないのですか?」

 

その質問を遮るものはいない。誰もが、ニゲルの自然体の姿を疑問に思っていたためだ。

ニゲルはそれに背筋を正し、一周の沈黙を挟んだ後、まっすぐとマダム・ボーンズを見た。

 

緑の、キラキラとした瞳が真っ直ぐと彼女に注がれる。

「・・・・それは、侮辱でしょうか?」

「いえ、そのような意図はありませんが。何故、そう思ったのですか?」

「ああ、すいません。ただ、あなたの言葉を聞いていると、魔法が使えなくなった時点で私の人生が全部終わってしまうと思っているように聞こえたので。」

「そうではないと?」

「当たり前ですよ。私の人生は、魔法使いであることにしか縋れないほどの軽い人生では決してない。」

 

それは、下手をすれば若い人間の生意気な言葉にだって聞こえただろう。けれど、誰もが、そのキラキラとした緑の瞳に生き抜いた人間の老獪さと魅入られる様な深淵を見出した。

 

「私は、両親は魔法使いでしたけど死に別れてマグルとして育ちました。世界は別段、ここだけではなくて、思った以上に広いことを私は知っている。」

 

ニゲルはとんとんと、その場で足を鳴らして地面を叩く。

 

「海の底にいる生き物たちを知っている。地面の最果てで燃え盛る炎を知っている。そうして。」

 

ニゲルは上を仰ぎ見た。底に広がる暗闇の果てにある、彼女の知る宙を見つめる。

 

「空の果てに、宙が在ることを知っている。」

 

ニゲルは笑う、心の底からの楽しそうに、彼女は魔法使いたちに微笑んだ。

 

「魔法使いでなくなったとして、私が、ニゲルとして生まれたその時から側にあった力と、友人のように側にあった存在と別れるかもしれないのはそりゃあ悲しいですよ。でも、それがなくなったとしても、私は不幸に至るだけでなんてありえない。そんなつまらないものだとは思いたくない。」

 

その時、その場にいた魔法使いたちは、裁判官たちを含めて、アルバスやハリーも又ニゲルの言葉を聞いていた。魅入られた様に、その言葉を聞いていた。

 

「裁判官殿、あなたには大事な誰かがいますか?愛されているという自負の持てる人はいますか?私は、います。私は、愛されているし、愛している存在がいる。彼らは私が魔法使いでなくたって、愛してくれる、愛している。魔法が使えなくなった、それは、確かに私の世界の一部の崩壊だ、消え去る瞬間だ、断絶だ。けれど、魔法という力でしか私の全てが消えさるほど、つまらない人生なんて送っちゃいない。」

 

ああ、弾むような声がする。ああ、まるで高らかに、世界が美しいと信じてやまない声がする。

それは、若いゆえの軽々しい声のように聞こえた。けれど、何故だろうか、それと同時にまるで老いた賢者の語る金言のようにだって聞こえた。

 

「私は例え魔法が使えなくなったって、誰かを愛して、誰かを憎んで、何かに焦がれて、何かを妬んで、苦しみを抱えて、幸福と共に生きるだろうさ。何かを失ったのなら、それを埋めるものだって見つけるさ。ここで幸福になれないなら、幸福になれる場所にまで走っていきます。」

 

私は、魔法族である前に、マグルとして生きる前に、私は人間なんだから。

ニゲルはそう言ってにやりと笑った。

 

「それだけの話ですよ。繋がりが在るのなら、寂しく何てないでしょう。一人でないのなら、生きる糧が在るのなら、生きていけるものなんですから。生きた先で、私は私なりの幸福も不幸も抱えて生きていきます。世界が広いなら、世界の外にだって駆けてだっていけますよ。それが、人間ってものなんですから。」

 

誰もが、言葉を失った。

ニゲルの発言に、明確な感想を持てるものなんていなかった。あまりにも、ニゲルの言葉は未知に満ちていた。知らなくて、それでもなお、輝かしいどこかへ至るための言葉だ。

それを、忌々しく、魔法と言うものを軽視していると感じるものもいた。けれど、それ以上に、どこか、自分たちの知らないどこかへの夢を見たくなる言葉だった。

 

「・・・・無意味な質問、失礼しました。被告人を無罪放免とすることに賛成の者?」

 

その声に、半数以上のものが手を挙げた。

きらきらとした緑の瞳は、嬉しそうに細まっていた。

 




ニゲルさんが本筋で呪いを浴びてそのまんま死んだ後にハリーの姉貴分として生きてるルート

ニゲル
本人はあんまり自覚がないのでものすごく元気に生きてる。ダンブルドアの人間が心配だったけど確かめるすべもないためハリーをせっせと甘やかしていた。このルートだとハリーの被るはずの不幸をせっせと肩代わりしてる。
フレッドとジョージとはどの過ぎる悪戯を諫めたいしていたせいか一等に仲がいい。
アルバス・ダンブルドアが静かに息を引き取り、その後墓守でもしながらのんびり過ごすことが目標。

ハリー
原作よりも子どもの頃に愛されてた記憶があるのでちょっと余裕がある。ただ、ニゲルが危険になるとちょっと情緒が落ち着かなくなる。
ニゲルに関しては自分を守ってくれる母親と姉を求めている。無意識にニゲルはどんなことがあっても自分の味方と言う傲慢さがある模様。


アルバス
ニゲルが自分のせいで死んだため、原作以上に心が折れていた。そのため、茶目っ気はあんまりない。ただ、ニゲルが帰って来たことに狂喜乱舞している。本音を言えばヴォルデモートの関係で学校内が危険になることを予想して記憶を消して他の国に匿うことも考えていたが彼女の様子を見守るためにホグワーツに在籍させている。
子どもだろうと焼きもちが激しくなっている。

アリアナとアバーフォース
ニゲルの死によってアルバスと仲たがいしていたが、彼女の帰還によって気まずい関係はともかく解消されている。現在、アバーフォースは学校の管理人を、アリアナは臨時で保健室に所属している。


ニゲルとアンブリッジの相性は最悪だろうな。


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