遅くなってしまい申し訳ありません。ひとまず終りたいともしかしたら雑に感じるかも。
感想、評価、ありがとうございます。
感想、いただけましたら嬉しいです。
「ゲラート!!」
その日、ゲラート・グリンデルバルドは己の寮であるレイブンクローにて優雅に本を読んでいた。
年の離れた生徒に紛れるのは、グリンデルバルドにとってたやすいことであった。もとより、賢しい彼には人心掌握はそこまで難しいことではない。
グリンデルバルドは、概ねホグワーツでの生活に満足していた。
(蔵書の数もなかなかのものだ。)
組み分け帽子は当初、グリンデルバルドをスリザリンに入れたがった。その他にグリフィンドールも候補に挙がっていた。けれど、グリンデルバルドは何よりもレイブンクローに入ることを望んだ。
以前ならば自分に同調しそうな、わかりやすい人脈作りに勤しんだことだろう。が、今の彼の興味は別の部分にあった。
グリンデルバルドは現在、人気の少ないレイブンクローの談話室のソファに座り、黙々と本を読んでいた。
それは、レイブンクローの人間に聞いた、呪いについて書かれた書物と、そうしてそれに混ざるように科学や物理学と言った学問に関する書物であり、それらが周りに積み重なっている。
レイブンクローや他の寮のマグルたちに頼み込んでなんとか借り受けたものだった。
正直に言えば、宇宙に関する書物というものはあまりない。天体というものが空の果てにあり、望遠鏡で確認は出来ていたものの、実際のそこに行き着いたものはいない。
そんな中、宇宙に行くという視点での砲弾を打ち上げるという思想の小説などは確認できた。
(・・・・少なくとも、人という知的生物が生まれて数千年は経っているんだぞ?だというのに、誰も、たどり着いたことがない?)
それはなんて腹立たしく、されども、わくわくするのだろうか。
未だ、誰も読んだことのない書物のページをめくるような、そんな心躍るような感覚。
誰も行き着いたことのないというどこかへの夢。未知というものへの焦がれ。
グリンデルバルドは、自分がひどく狭い世界を見ていたことを理解した。自分の読んでいる、それこそマグルの本。
それを全て理解することは出来ない。数学面への理解が足りないと言うこともあるが、グリンデルバルドにとってあまりにもマグルの知識が足りない。
(・・・・今度、もう少し幼い子ども用の本を借りるか。)
それに少々プライドというものが傷つく気がしたが、それ以上に今までに無い知恵というものに触れられることが楽しかった。
そうしていると、グリンデルバルドは、ある友人の言っていたことを思い出した。
マグルは、魔法使いに劣るのか。彼らを支配して、世界の覇権を取れるのか。
そう思っているのなら、お前はだいぶ、お人好しのロマンチストが過ぎるだろう。
グリンデルバルドはソファの肘置きをとんとんと叩いた。
考える。己の考え、思想、それは正しかったのか。
けれど、苦しんでいる人間がいるのも事実ではないだろうか。
事実、魔法使いたちはこの世の裏側に押し込められ、その価値の真価を発揮できていない。
幼い子供が魔法の力を使えず、苦しんでいることもまた事実だった。
グリンデルバルドの中で、また、いつかの野望がむくむくと膨れ上がってくるのを感じた。けれど、ふと、手元の本を見た。
例えばの話、自分の想像通り、野望が果たせたとして。
これらの知識はどうなるのだろうか?
魔法族がこれらの知識の価値を、ソラの果てに至るという夢の意味を、どれだけ理解するだろうか。
グリンデルバルドの脳裏にはそう言った知識などを迫害する魔法使い達の姿が浮かんだ。もちろん、魔法使いとは基本的に知性というものを是とする。魔法とは善くも悪くも学問であるからだ。
が、マグルのことになれば違う。マグルを忌み嫌うグリンデルバルドであるからこそ、理解する。
自分の野望が叶えば、その知識は失われてしまうという事実を。
ならば、どうするのか。
(マグルの、魔法がない故の多方面にわたる世界の見方は賞賛すべき、なのだろうな。)
事実、グリンデルバルドは目の前の本にわくわくしていた。自分のなしえない、見ることの出来ない世界が広がっていた。
彼が改めて本に視線を向けようとしたとき、レイブンクローの談話室の扉が開いた。そこから、グリフィンドールの制服を纏った少女が飛び入ってくる。
「ゲラート!!」
飛び込んできたのは、愛らしいブロンドの少女だ。騒がしく飛び込んできた少女の姿に他の寮生達は何も言わなかった。
グリンデルバルドによく会いに来るのは寮生達も知ってのことだ。
アリアナ・ダンブルドア。レイブンクローに入っていても可笑しくない程度の才女は鬼気迫る表情でグリンデルバルドに詰め寄った。
「どうかしたのかい、お姫様?」
にっこりと笑ってキザなことを言ってのけた。普通の人間がすれば距離を置かれそうな挙動であるが、グリンデルバルドにはよく似合っていた。変わり者の多いレイブンクローでさえも、その微笑みにうっとりとした表情をする者も少なくなかった。
「そんなことはどうでもいいの!これ、見て!」
そう言ってアリアナはグリンデルバルドに何かを渡してきた。それにグリンデルバルドは素直に受け取り、手紙を読んだ。
中身は、なるほど、アリアナの慌てぶりも納得の内容だ。それは、ニゲルとの結婚をほのめかす手紙だった。
一瞬の沈黙。
「・・・・彼、時々とんでもないぶっ飛んだ思考にならない?」
「違うわ、ニゲル姉様のことに関してだけはちょっと頭のネジが飛んでいくの!」
それは十分ぶっとんでいないだろうか?
グリンデルバルドはそれについて口に出さずにおいた。ダンブルドア一家の思考というのは今では十分に察せられる。グリンデルバルド自身も、それに馴染んできている自覚はあった。
「また、アル兄様がとんでもないことをしようとしてるの。姉様、ただでさえ記憶が無くって大変なのに。」
「まあ、彼のニゲルへの執着は恐ろしいものもあるけれど。彼女のことだ、上手くやるさ。」
「ゲラートは兄様の変なところでのポンコツさを知らないのよ。」
それにグリンデルバルドは黙った。彼自身、ダンブルドアの、そう言った詰めの甘さを知っていた。
「にしても、これについて次男君は知ってるのかい?」
「アブ兄様に見せたら、アル兄様に吠えメール送ってるわ。」
グリンデルバルドはその様子が目に浮かぶような気がした。おそらく、あの家で一番人情があり、常識を重視する彼は己の兄に怒髪天をついているだろう。
グリンデルバルドとアバーフォースはあまり仲が良いとは言えない。ただ、暴走気味なアバーフォースの反応を考えてか、アリアナはグリンデルバルドによくダンブルドアやニゲルの相談をしてきた。
有名人の兄のことを相談するのは他人には少々気が引けるのだろう。そういったことに気を遣わなくていいグリンデルバルドはアリアナにとってはありがたい存在だった。
アバーフォースはもちろん、ダンブルドアも面白くなかったが。
「それなら、僕からも釘を刺しておこうか。」
「ありがとう、そうしてくれると嬉しいわ。」
そう言っていたアリアナはにっこりと微笑んだ。グリンデルバルドはそれに気にしなくて良いと首を振った。グリンデルバルド自身、アリアナの事は気に入っていた。
賢しく、愛らしい。何よりも、グリンデルバルドの宇宙の話を素直に聞いてくれるのだから。
その日、グリンデルバルドはダンブルドアに手紙でも書いて、それで終わろうと思っていた。
脳裏に、誰かに連れて行かれるニゲルのビジョンが浮かぶまでは。
(と、いうわけで。大おば様に頼んで急遽学校を休んで浮かんだ光景のここに来たら。見事、君が引きずられているのが見えたんだよ。)
(え、ホグワーツから帰れたの?)
(著名な方だからね。体調が悪い、親類も近くにいないからと頼み込んで、一日だけ。)
グリンデルバルドはそんなことをひそひそと話ながら、外をうかがった。来る直前にふくろうに手紙を頼んだが急を要したため場所を伝えるのは難しかった。
(というか、ここってどこなんだい?)
(ここは村の奥の廃屋だ。そうして、そこに置かれた鞄の中。)
それにニゲルは目を丸くした。
(拡張魔法か!?)
(ああ、相当腕のいい魔法使いのようだね。屋敷のようになっているがね。)
グリンデルバルドはこそこそと話をしながらニゲルを廊下に促した。
「ともかく、彼らが来る前に早く出よう。」
「あ、待って。」
ニゲルはそう言って部屋の中を見回した。何はともあれ、己の杖を探さなくては。
「さっきの二人が持っていったはずの君の杖だね?」
「ああ、ここにあるのかな?」
「……出る前に少しだけ、彼らのいた部屋を見てみよう。」
それにニゲルはうなずき、さっそく隣の部屋に飛び込んだ。部屋は殺風景なもので、二人用のテーブルに、それぞれの椅子。そうして、扉の付いた棚。
ニゲルは早速、扉の付いた棚をあさった。
「・・・・なーい。いや、なんだ、リストみたいなのは。」
「ニゲル、すぐに見つからないのなら早く出た方が。」
その時、ニゲルが来た方からどたどたと足早に何かが近づいてくる。
「あんたそっち見て!私、こっち!」
「わ、わかった!」
男の声が扉の前からした。それに、グリンデルバルドは杖を構えて魔法の準備をする。それにニゲルは無言で棚から扉をむしり取った。
べきりと、ニゲルが全体重をかければなんとか立て付けが悪かったらしい扉が壊れた。グリンデルバルドは唖然とそれを見た。行動の意味がわからなかったのだ。
ニゲルは扉に向かって走った。
「魔法は温存しといて!」
扉が開いた瞬間、ニゲルは足を踏みしめ、腰を落とし、そうして何のためらいもなく手に持ったそれを投げつけた。
板状のものを上手く投げつけるのは難しかったが、それは上手く男の顔面にたたき付けられた。
「うっしゃ!」
「え、あ、マジか。」
グリンデルバルドはそれに思わず驚きの声を上げた。何と言っても、グリンデルバルドの知る上で、そんな挙動をするものはいなかった。基本的に、魔法使いの争いは魔法を重点に置く。
殴り合いの喧嘩などそうそうない。それ故に、女性であるニゲルが何のためらいもなしに、暴力という手段を取ったことに驚いたのだ。
が、その一瞬の思考の停止が隙になった。
男が倒れ込んだせいか、それに反応した女が、アルマは開け放たれた扉に躍り出た。
「ステューピファイ!」
それにグリンデルバルドは反射のように魔法を放つ。
「プロテゴ!」
そのまま魔法の打ち合いになるが、決め手に欠ける。アルマは壁から魔法を撃ってくる。
「グリンデルバルド!」
「君は隠れていてくれ!」
グリンデルバルドは近くにあった机をひっくり返して、その影に隠れた。ニゲルはそれに素直に従い、棚の影に隠れた。
(どうする?)
この状態ではさすがに何もできない。さすがに廊下に躍り出るようなこともできない。何か、きっかけを。
グリンデルバルドはそのままアルマのことを待っていると、ふと、魔法が止まった。タイミングを見計らっているのかと思うと、いきなり、壁が壊れた。
(しまった!!)
グリンデルバルドは何かが壊れるような音がした壁の方を見た。そこには、隣の部屋から壁を壊したらしいアルマがいた。彼女は、ぎらぎらとした眼で棚の影に隠れていたニゲルに向かった。
その手には、グリンデルバルドの見覚えのある、黄金色のペンダント。
グリンデルバルドは杖をアルマに向けた。けれど、それでは遅い。そこにいたニゲルに向けて、アルマはペンダントを投げた。
ばちん!!
赤い閃光が、辺りに広がった。
「あ、あああああああああああああああああ!?」
ニゲルの絶叫が辺りに響いた。彼女の首に、巻き付くようにペンダントが張り付いている。グリンデルバルドはそれに近づこうとしたが、それをアルマが阻んだ。
「ダメよ!邪魔させない!」
アルマはグリンデルバルドに向けて杖を突きつける。二人は杖を付き合わせてにらみ合った。
「ニゲルに何をしているんだ!?」
「ああ、ニゲル、ニゲル!本当に邪魔!せっかく消せると思ったのに!でも、これでいいわ。こいつも廃人になる、今度こそ!」
「そのペンダントはなんだ?」
グリンデルバルドは吐き捨てるように言った。なんとかアルマから気を引かなければと焦っていたのだ。アルマはようやく本命が叶ったと高揚していたせいか素直に口を開いた。
「このペンダントはね、以前、とある魔法使いから押収されたの。分霊箱に興味があったその魔法使いが作った、擬似的な延命装置。」
「擬似的な?」
「人間の本質は記憶よ。それは人を人たらしめる。なら、例えば無垢な赤ん坊に記憶を全て与えたら?それは確かに当人であると言える。これはね、人の記憶を全て吸い出して、他に移し替える変換器なのよ。でも、失敗だった。このペンダントは記憶を吸い出すだけ吸い出してため込む記録媒体でしかなかった。おまけに、吸い取った存在の心を壊すっていうおまけ付きで。」
アルマはそれに嬉しそうに、心の底から嬉しそうに笑った。
「ずっと、ずっと、邪魔だった。アルバス・ダンブルドアは完璧だった! 分け隔て無く、賢しく、強く、そうして正しい! 私は確信したわ。彼は世界を変えると思った。彼はきっと偉大な、英雄になると思った。」
なのに!
アルマは熱っぽい口調を一転させて、金切り声で叫んだ。
「この女はいつだって、アルバス・ダンブルドアを人にする!こいつの前では彼は怒ったり、悲しんだり、まるで人間みたいになる!それじゃあ、ダメなの。彼は完璧に、誰かを助ける、英雄じゃなくちゃダメなのに!!」
「・・・・彼の信者だったわけか。」
グリンデルバルドは苦々しく吐き捨てた。それならば、ある意味で彼女の挙動は納得だ。何故って、彼女は自分の行動を正しいと信じている。
例えば、浅ましくアルバス・ダンブルドアを独占したいとかではなくて、ただ、ただ、彼が正しさをなすという信仰心を持っているのだ。
「なら、何故、殺さない?」
「あら、それじゃあダメよ。死ぬよりも、なお、生ける屍のようになればずっと事実を突きつけられるでしょう?そうして、もしも、それをしたのが例えば、純血の一派だとしたら?」
グリンデルバルドは目を見開いた。
「まさか、アルバス・ダンブルドアと純血たちをぶつけるために、そんなことを?」
「・・・・半端な半純血の女が、そうして、マグル達が魔法界でどんな扱いを受けてるかわかる?たとえ、マグルとして生きたいと思っても、マグルとして生きたいと、夢を見てもあっちで生き直すのがどれだけ大変かなんて、わからないでしょうね。でも、きっと、彼なら全部変えてくれる!」
アルバス・ダンブルドアは、英雄なんだもの!
アルマの軽やかな声の瞬間、叫んでいたニゲルの声がさらに大きくなる。
「ほら、もうすぐ!」
「ニゲル!」
グリンデルバルドは全てを覚悟して、アルマの隙を狙い魔法を放とうと口を開いた。
何かが、確実に自分から抜けていく。頭に直接チューブか何かで吸い取られているような不快感。
ああ、気持ち悪い。気持ち悪い。
取って欲しい。これを、取って。誰、誰かいないの?気持ち悪い、いつも近くにいたのに。どうしていないんだ?
あれ、誰のことを考えてるんだ?
えっと、自分は、自分は。
本来ならば、そのまま、蓄積された知識、感情、意識、誰かへの思い。それは悉く吸い取られていくはずだった。
けれど、そのペンダントが認識していたのは、魔法使いのニゲルの物だけ。
その奥で、ニゲルをニゲルたらしめる記憶である、遠いいつかに生きた女の記憶をペンダントは感知できない。魂の奥にあるはずの、けして認識できないはずの記憶。それをペンダントは認知できない。
自分は、そうだ、日本で生きてて。それで、あ、そうだ。ハリポタに何でか生まれて、その後は、確か。
その呪いのアイテムは、自分に刻まれた魔法の通りに動こうとする。
記憶を吸い、記録を刻み、それをそれたらしめる情報というものを奪うはず。けれど、その人間の意識は揺るがない。
彼女は彼女を認識している。
バグだ、それは、そのペンダントに刻まれた魔法において、決定的なバグだ。
あ、なんだっけ。
気持ち悪い。でも、私、確か、ニゲルって呼ばれてて。
ばたばたとまるで溺れる寸前の人間のように体をばたつかせた。そこで、誰かが自分の名前を呼んだ気がした。
揺れる意識の中で、何か、縋るようにその言葉に耳を傾けた。
アルバス、ダンブルドア?
聞こえてくるのは、その人間を称える声。その人間が世界を変えてくれるのだと信じて疑わない声。
それは、アルバス・ダンブルドアを英雄として生きることしか赦さない言葉。
混濁していた意識の中に、生まれたのは、純粋な怒りだった。
人の弟分のこと、何だと思ってんだ、こいつ?
アルマは嬉々として、一際大きな声でわめいた後に声を発しなくなったニゲルに意識を向けた。グリンデルバルドはアルマを気絶させようと口を開こうとしたとき。
ニゲルはカッと目を見開き、そうして、勢いよく立ち上がった。
アルマは予定であれば赤ん坊のように無力になっているニゲルに期待していたのであろう。そうして、そんなニゲルを人質にグリンデルバルドをやり過ごそうと考えていた彼女には突然の出来事だった。
ニゲルは立ち上がり、アルマの頬に拳を叩き込んだ。
がこんと、何かの殴打音がした。
アルマはそれに力なく倒れ込んだ。
「ニゲル!?」
グリンデルバルドは驚きの声を上げた。それを彼女は気にしない。ニゲルはそのままアルマに馬乗りになり、その杖を取り上げ、何のためらいもなしに折った。
「なに、を!」
「何を、じゃねえよ!てめえ、アルのことなんだと思ってんだ!?」
ニゲルはがくんがくんとアルマの胸ぐらを掴み揺すぶった。
「あいつはな、優秀だよ!昔っからそうだったよ!でもな、とっきどきは人間付き合い放棄して本読んでぼんやりもしたし、飯食うの怠いって菓子ばっかり食ったり!完璧なんてほど遠いわ!それでもな、理想のために、やることやって、やりたくないこともそつなくこなしてやってんだよ!あいつはな!ただ、才能があるだけの人間だ!」
英雄がいるなんて、ヒーローがいるなんて夢物語にあいつを巻き込むな!
たたき付けるような声にアルマは眼をかっぴらいた。
「五月蠅い!あんたに何がわかる!お前さえいなければあの人は完璧だった!多くの人を救うはずだ!世界だって変えてくれる!でも、あんたがいたら、あの人は英雄になれない!邪魔なのよ!」
「ああん!?ざけたこと言うな!救われたいならてめえでてめえのことを救え!他人からの救済なんてな、後になれば思ったものと違うんだ!勝利が欲しけりゃ自分で戦え!闘争なきものに、最初から勝利が訪れるなんて思ってんじゃねえよ!」
アルマは殴られたせいか口からだらだらと血を流している。ニゲルはそんなことを気にせずに彼女の胸ぐらをゆすぶった。
「アルバス・ダンブルドアはな!甘ったれで、飯を食うのめんどくさがって、とんちんかんなこと言って、野心家で、家族に優しい、ただの人間だ!人の弟分の未来、勝手に決めて、縋ってんじゃねえよ!」
英雄なんて都合の良い物に、してたまるか、くそったれ!!
ニゲルはそう言って、アルマの頬を思いっきり殴りつけた。
「・・・その。」
「ゲラート、こいつ運ぶの手伝って。」
グリンデルバルドは一方的に見せられたキャットファイトに茫然としながらニゲルに話かけた。そうして、帰ってきたその呼び名に目を見開いた。
それは、彼女と親しくしていたときにしていた呼び名だった。
「君、もしかして、記憶が!?」
「戻ったけど、積もる話は後にしよう?今はこいつを運びださないと。」
殴りつけたせいか気絶したアルマを見下ろしてニゲルは行った。グリンデルバルドは嬉しさをかみ殺し、なんとかこの場を離れようとアルマと、そうして扉付近で倒れていた男に振り向いた。
男の姿はなかった。
「いない・・・」
それにニゲルが慌てて廊下に飛び出すと、そこには隣の部屋の前で何かをしている。
「なあ、何してるんだ?」
かちりと、音がした。それに男はニゲルを振り返った。
「あの、ばれたら、証拠を消さないと。だから、えっと、ここはこれから、爆発します。」
男の手には、なにか、魔法道具らしい時計が一つ。
「・・・爆発?」
それに男は頷いた。ニゲルは男の手を引きずるようにして立ち上がらせた。
「ゲラート、たいひ!!!」
アルバス・ダンブルドアはその日、慌てて己の住んでいた村に駆けつけた。ゲラート・グリンデルバルドからの知らせがあったせいだ。
予知の能力を周りに知らせていなかったため、彼が先に動いたために初動が遅れた。
「ニゲル・リンデムが攫われた可能性があるのはこの辺りか?」
「はい。」
先輩にあたる魔法使いの言葉にアルバス・ダンブルドアが頷いた瞬間、村の奥の廃屋からけたたましい爆発音がした。
それに魔法使いたちは一斉に動いた。
廃屋は燃えており、何かがあったのは明白だった。アルバスの脳裏には最悪の結末が浮かんでいた。
自分は、また、何も出来なかったのか?
力なくその場に蹲ろうとしたとき、自分に近づいてくる人影がいた。周りの闇祓いたちもざわついた。
「ああ、アル、来てくれたのか?」
平然と、そんなことを言った声。そうして、その呼び方。顔を上げた、その先には、正直言ってズタボロと言っていいニゲルと、グリンデルバルド。そうして、アルバスの知るアルマとエーミールが立っていた。
「まさか、最後には爆発オチが来るとは。アル、大丈夫か。驚いたのか?」
「・・・私、一生分走った気分だよ。」
「魔法使いって走らないもんな。」
アル。
その呼びかた。ずっと、待っていた、その呼び方。アルバスは理解する。にっと笑った、その表情。堅くて、まるで他人染みた空気は無くなった。どこまでも気安くて、アルバスを雑に扱うその仕草。
ああ、わかる。わかる、理解する。彼女が、目の前の彼女が、なんなのか。
アルバスにはわかったのだ。
その時、ニゲルはアルバスに手を差し出した。
「ほら、立ちなよ。辛いなら、杖代わりにはなるからさ。」
アルバスはそのままその手をつかみ、そのまま、ニゲルを抱きしめた。
「・・・おかえり。」
「ああ、ただいま、アル。」
アルバス・ダンブルドアは今までこれ以上無いほどに穏やかな顔で微笑んだ。
今回、正直、爆発寸前の家から逃げ出すニゲルとグリンデルバルドを書きたかった。
そうして、アルバスの活躍がなかったのは、書き手が、ニゲルという存在には、アルバスの助けを借りる前に平然と帰ってくる、英雄を必要としない図太さを求めて言うためです。