ダンブルドアは自由に生きられるか   作:藤猫

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いったん区切りが付いたので、書きかけの番外編を完成させました。
ダンブルドアの闇墜ちルートになります。



番外編:偉大なる闇の魔法使い

 

 

雨が降っていたのは覚えている。

ざあざあと、ざあざあと、酷い雨の日が葬式だった。

それに思ったのだ。

ああ、どうでもいい。

その時、小さな手が自分のそれに触れた。そこにいたのは、生意気そうな、黒い髪に赤い瞳の少年。

 

「なあ、帰ろうよ。」

 

泣きべそをかいた少年。

それに、脳裏に浮かんだのは彼女の顔だった。申し訳なさそうで、そのくせ頑なに決意を持った顔で、それは少年を引き取りたいと懇願した。

 

(そうだ。せめて、そうだ。)

 

この子のために、二度と、こんなことにならないように。

こんなちっぽけな人生の一つ、捧げるぐらいはしてみせよう。

 

(わたしは、ちちおやなのだから。)

 

 

 

 

ふと、アルバス・ダンブルドアは眼を覚ました。どうやら、何かに腰掛けていたのか、立ち上がり辺りを見回した。

ダンブルドアは目を見開いた。そこは、彼にとって懐かしいと言える、キングス・クロス駅だった。

 

「なぜ・・・・」

 

列車の一つも無い、がらんとした駅。おかしいのは、空に当たる部分が真っ白に塗りつぶされていた。それ以外はダンブルドアにとって懐かしい駅の風景だった。

真っ白なひげを蓄えた、老獪な、穏やかな賢者の風貌の老人はふうと息を吐いた。

なぜ、自分がここにいるのかわからない。

 

(確か、わしは・・・・)

「いやあ、ようこそ、アルバス・ダンブルドア様!」

 

唐突に聞こえた声にダンブルドアは思わず立ち上がった。ベンチの後ろ、そこに誰かが立っていた。きっちりと着込んだ車掌服、目深に帽子を被っているせいか目元が隠れており、口元しか見えない。髪も帽子にきっちりと収められており、様相はわからない。ただ、抱えるほどの大きな本を持っているのが目を引いた。

 

「いやはや、お迎えが遅くなり申し訳ございません!いえ、あなたのような偉大なる方をお迎えするのだとはしゃいでしまいまして。」

 

そう言って、車掌は口元に笑みを浮かべた。

 

「何はともあれ、もっとも恐るべき闇の魔法使い、アルバス・ダンブルドア殿。それでは、あなたの行き先を決めましょう。」

 

 

ダンブルドアは目の前のそれに黙り込んだ。そんなことは気にもせずに車掌はその抱えるような本を開いた。

 

「ふむ、いやあ、なかなか悪辣なことをされましたね。まず、魔法省で人脈を作り、純血を先導し、差別を悪化させ。その後、マグルの迫害を行い。そうして、純血たちも契約や暴力で縛り上げて恐怖政治。最終的にはマグルも純血も、全部支配ですか。いやあ、ひっどいですね!」

「・・・おぬしは、天使か、それとも、悪魔か?」

「いえいえ、私はただの案内人ですよ。以前は適当に切符を渡してそのままだったんですが。不親切がすぎると不満が多かったそうで。そのため、車掌だけでも置くことになったそうですよ。ここは、旅を終えた全てのものが訪れる、終点です。」

 

車掌はそう言ってそっと帽子を深く被りなおした。

 

「全ての命は、その生を終えれば、行くべきところにゆくのです。巡るにせよ、たどり着くにせよ、還るにせよ。私は当人が選択できる行き先の切符を渡すだけですので。」

 

そう言って、車掌は切符を片手に差し出した。

 

「といってもごくごく普通ですね。あなたの、父君や母君のように。あるべき場所に行くだけです。」

 

それにダンブルドアは己の額を覆った。

 

「・・・これだけか。」

「納得はいきませんか?」

「わしのなしたことを思えば、あまりにも軽いじゃろう。」

 

掠れた声でダンブルドアはそう吐き出し、そうして、ベンチにもう一度腰掛けた。それに車掌は黙り込み、言った。

 

「あなたは己の行いを後悔した。一心に悔いている。それは、ある意味で、必要不可欠な、最低限のラインです。ですが、この切符は確かに破格です。」

 

けれど、それ以上にあなたの行いは悪意があったわけでも、正しさが破綻していたが故に行ったわけでもない。あなたは、ただ、理想のために狂気を持ってしまっただけだった。

 

「悲劇が二度と、行われないために。」

 

それにダンブルドアはそっと視線を床に這わせた。

思い出すのは、己を倒した、予言の子。黒いくしゃくしゃの髪に、そうして、きらきら光る緑の瞳。

そうして、倒れる瞬間に見た、夜の空だった。

 

 

ダンブルドアの人生が、徹底的に壊れてしまったのは、あの日。

雨の降りしきる日のことだった。

当時、ダンブルドアは幸せだった。

何と言っても、数十年ほど粘りに粘ったプロポーズが叶ったのだから。

ニゲルは幾度もしたプロポーズを断った。

曰く、お前のそれは結婚とかに帰結する感情じゃないだろうと。

けれど、ダンブルドアはめげなかった。彼自身、恋とは何かわからなかったが、なんとなく、ニゲルへの感情が恋でないことぐらいわかっていた。

それでも、ニゲルがよかった。だからこそ、二十年に及ぶ、身内達もそろそろ折れてやれと言われるほどの駄々をこね続けた。

そうして、青天の霹靂として現れたのは、一人の少年だった。

今では何故、そこまでニゲルが少年に執着していたのかわからない。ただ、ニゲルは頑なに少年を引き取りたがった。

が、孤児院から子供を引き取るには夫婦であることが必須であり、そのために唯一の独身であったダンブルドアに頼み込んできたのだ。

ダンブルドアはそれに嬉々として応じた。見事にニゲルの夫、たった一つの特別な椅子を手に入れたのだ。

そうして、息子も出来た。

 

トム、という少年をダンブルドアは正直、面白くなかった。ニゲルが自分に構う時間が減るのだから当然だ。

そのため、それこそ、大人げないほどの喧嘩をしていた自覚はある。けれど、トムとは魔法への探究心と言える部分では馬が合った。

一を教えれば十が返ってくる少年の教師役は正直、非常に楽しかった。宇宙関連に進ませたいゲラートと、読ませる本で喧嘩もよくした。

 

(懐かしい。)

 

それは、あまりにも甘やかで、幸福な日々だろうか。

全てが変わったのは、あの日、雨の日だった。

トムにねだられて新しい本を買いに行った日。あの日、ニゲルが死んだ日のことだった。

 

「飲み込むことは出来なかったのですか?」

「なにを、じゃろうか?」

 

車掌はそれにまた本を開いた。

 

「・・・ニゲル・リンデムが亡くなったのは、あなたの権力争いが発端でしたね。」

あなたの勢力は大きくなりすぎた。ええ、ですが、あなたはその舵をきちんと取っていました。変わったのは、唐突に現れた、養子の件ですね。

あなたの身内たちはほとんど学者の道を行かれており、ダンブルドアの勢力はあなたが死ねばそれで終るはずだった。ですが、後継者と呼ぶことの出来る養子の存在が、純血の皆さんには相当、煩わしく感じたのでしょうね。

そうして、あなたを神聖視していた一部の人間からも、相当疎まれていた。

 

ぱたんと、本の閉じる音がした。

 

「表向きは彼女は闇の魔法使いに殺されたことにはなっています。ですが、実際の所、その後ろに純血の一派の思想があったようで。ふむ、あなたの派閥の人間も協力していたようで。本来なら、トムもターゲットであったはずが、あなたとの買い物で難を逃れた。そうして、死後も彼女の噂はやむことがなかった、と。」

「もう、嫌になったんじゃよ。」

 

ダンブルドアは呟いた。

ニゲルの死後、周りの反応は酷いものだった。もちろん、彼女の死を純粋に悼んでいる者はいた。けれど、その本質は無責任な噂話ばかりで。

 

いわく、トムはニゲルが密かに作った隠し子で。

いわく、醜聞を恐れたダンブルドアが庇い。

いわく、闇の魔法使いと通じていたニゲルをダンブルドアが殺したそうで。

 

誹謗中傷はやまなかった。彼女を延々と責めていた。

何がわかる。こんな、こんな、善良な女などいなかったのに。こんなにも、優しい人はいなかったのに。

その時、きっと、ダンブルドアの中で、何かが壊れてしまった。

本来、という表現も変だが、ダンブルドアは善良な人間だ。ゲラートと争い、アリアナを失った可能性では、彼は全てを捧げて誰かのために、当たり前の平和ないつかのために生きた。

けれど、ニゲルの死はそれとは違った。そこに、ダンブルドアの過ちはなかったのだ。ただ、ただ、彼は一方的に奪われた。

己の立ち位置を危ぶんだ誰か、嫉妬心、部外者の噂。

それに、ダンブルドアは誰かのために、何かを守るという意義を感じられなくなった。

 

「世界は、あの、凡俗なる善性を穢したのに。」

 

ぽつりと零れた声に車掌はまた、帽子を深く被りなおした。

 

「じゃが、全てを放り出すことはできんかった。アリアナも、アバーフォースも、すでに家族を得ておる。ならば、もう、二人を守ることはない。じゃが、トムは、違った。」

その、ニゲルが守りたいと願ったそれ。

野心家で、生意気で、賢しくて、そうして、寂しがりの、少年。

彼のために何かをしなくては、できる限りのことをしなくては。

ああ、だって。

 

(アル、父親役引き受けたんだ。こいつのこと、頼んだからな。)

 

冷たい雨に打たれて、それでも思い出したのは、そんな女の遺言で。

そうだ、残さなくては。この子のために、できる限りのことを。

自分のせいで、愚かな思惑のせいで、誰かが傷つくことのない世界を、作らなくては。

 

「・・・・わしに起こった悲劇は、極端な特権階級への意識じゃ。ならば、その垣根を壊す必要がある。それには永い時間が必要じゃ。偏見や価値観は早々変わらん、じゃが、わしはすぐの結果が欲しかった。」

 

ならば、何が必要か?

簡単だ。

誰もが協力する環境を作ればいい。そうせざるをえない実情を構築すればいい。

必要なのは、そうだ。

誰もが恐れる、圧倒的な、闇なのだ。

 

「わしは、それに必死にやったよ。純血たちを煽って、対立を深めた。そこで純血たちを締め上げて、わしを自分たちに甘い蜜を持ってくる蜂ではない事実をたたき付けた。」

「・・・それなら、最初から敵として振る舞えよかったのでは?」

「それじゃあ、ダメじゃな。彼らはプライドが高いからの。彼らには一度、敗者になって貰わんといけなかった。」

「それで、ハリー・ポッターに負けた振りをして姿を隠したと?」

「おお!なかなかうまくいったじゃろ?予言で敗北すると言っておったが。表立って、そう思わせられればそれでよかった。」

「・・・なぜ、ハリー・ポッターだったのですか?」

 

ダンブルドアはそれに少しだけ黙った。車掌は、予言の候補の内、どうしてハリー・ポッターを選んだのか聞きたかった。

それにダンブルドアは黙った後、ぽつりと言った。

 

「・・・美しい、緑の瞳をしていたから。」

最後に、自分を殺すのは。最後に自分が見るのは、あの、キラキラと光る、緑の瞳であって欲しかった。

 

「それで最後に、私を見て(Look at me)、ですか。趣味が悪いですね。」

「まあ、わし、悪党じゃし。」

 

あっさりとそう言ってのけたダンブルドアに車掌は頭を抱えた。そうして、ため息を吐いた。

 

「トム・ダンブルドアは泣いていましたよ。」

 

それにダンブルドアは少しだけ驚いた。自分の死で、泣かれる程度に懐かれているとは思っていなかった。彼とは、ニゲルを亡くしてからろくな会話も出来ていなかった。

 

「わしには過ぎた子じゃったな。」

 

ダンブルドアは目を細めた。

偽名を使い、裏方に興じ、全てを騙し続けたとはいえ、ダンブルドアの養子であることで苦労はしただろう。けれど、彼は見事、ホグワーツの校長にまで上り詰めた。

きっと、恨まれているだろうと思っていた。脳裏には、最後の、ホグワーツでの戦いでクソ爺と己を罵る声がこだました。

 

(・・・泣いていた。)

 

どうしてだ、どうして、こんなことをしてるんだ!母さんがこんなことを望んでないことぐらい、わかるだろう!?

こんなことを、したがるやつじゃないくせに!あんたは、あの日、確かに、泣いてたのに!

くそ!あんたのそういう所が嫌いだ!秘密主義の、寂しがりの、全部自分でするあんたが、どうして。

 

もう、孫がいても可笑しくないほどに年老いた息子はそう言って、美しい顔立ちを歪めて、子供のように叫んでいた。

 

「ええ、そうですね。あなたは愛されていましたよ。アリアナ・グリンデルバルドも、アバーフォース・ダンブルドアも、そうして、ゲラート・グリンデルバルドも、あなたを愛していましたよ。それを、わかってなお、なぜ、赦せなかったんですか?」

 

静かな声で車掌は言った。それにダンブルドアはぼんやりと、口元しか見えないそれのことを見た。

 

「あなたは、善良であったはずだ。当たり前のような倫理観、人への愛、社会性、傷つく心。あなたはそれを持っていた。確かに、あなたの愛する人は死んだ。殺された。けれど、今までの犠牲を出すほどに、彼女の死には意味があったのですか?」

 

それは、人によっては怒りを抱く言葉だった。けれど、ダンブルドアは変わることなく、穏やかな顔で車掌の顔を眺めた。そうして、ぽつりと言った。

 

「ニゲルの腹に、子がいた。」

 

それに車掌は口を噤んだ。

ダンブルドアには恋というものがとんとわからない。けれど、ニゲルの事を愛していた。もむ、長く抱き続けたせいで、関係性が混在しすぎた感情を抱いていた。

 

「まあ、結婚祝いに飲み過ぎた弾みじゃったけど。」

「今更聞いてもひっどい話ですね!」

 

魔法使いとしての影響か、肉体の年齢が思った以上に若かったこともあるのだろう。あっさりと出来た子供にダンブルドアはそれはそれははしゃいだ。弟妹達も喜んだ。トムも表に出さなかったが、弟か、妹か、それのことを待っていた。

ニゲルだけは、自分の年のことを考えて頭を抱えていたけれど。

けれど、皆が、待っていた。愛しい、子どものことを。

ニゲルと共に、それは、世界に産声を上げることもなくいなくなったけれど。

 

ダンブルドアは思う。ニゲルだけがいなくなったのなら、ダンブルドアは何もかもを放棄して、トムだけをよすがとして隠居でもしただろう。

けれど、だめだった。

いたのだ、確かに、新しい家族。産声を上げて、この世界を見るはずだった子供。自分の子、愛しい人の子。

会いたかった、抱きしめてあげたかった、慈しみたかった。

それの権利すら、奪われた。

だから、きっと、ダンブルドアは赦せなかったのだ。

 

「・・・赦せなかったですか?」

「赦せなかった。」

 

ダンブルドアが、現状を変えようと、生まれだとか、そう言った偏見を一度リセットしたかったのは確かだった。

けれど、それと同時に、ダンブルドアは赦せなかったのだ。

 

「自分たちのためになら、当たり前になんの悪徳も、憎しみも抱いていなかった誰かの排除を是とする者たちも。自分たちに関係が無いのなら、手のひらを返して面白おかしく騒ぎ立てることも。そうして、それが起こったとしても、変わろうとしない世界のことも、ずっと、憎くてたまらなかった。」

 

だから、ためらわなかった。多くの犠牲を孕んだ、自分の計画を遂行することにためらいなんて無かった。

そうだ、それは復讐だ。それは、理想と憎悪を孕んだ、ダンブルドアのエゴでしかない。

狂っている?間違いでしかない?

ああ、そうだろう。ダンブルドアは狂っているし、正しさではもう救われることはなかったのだ。

だから、ダンブルドアは悪であり、そうして、闇なのだ。

ダンブルドアはゆっくりと立ち上がり、そうして、切符を受け取った。

 

「・・・・この切符は、絶対に使わないといけないのか?」

「それは、どういう意味でしょうか?」

「ここに止まることは出来ないじゃろうか?」

「こんな何もない殺風景なところに?」

「ここには、ニゲルがいる。」

 

ダンブルドアの言ったそれに車掌は動きを止めた。けれど、それは一瞬で、すぐにそれは平静を取り戻した。

 

「そのような方はどこにも。」

「いいや、いる。」

 

ダンブルドアはそう言って、車掌の手を握った。手袋に覆われた、それでも、その手をダンブルドアはしっかりと握った。

 

「ここに、いる。」

 

まるで幼い子供のような声で言った。それに車掌は黙り込んだ。ダンブルドアは、必死に、その手を握った。

目の前のそれが、ずっと会いたかった彼女だと思ったのはその声と、そうして、彼の願望だった。

きっと、きっと、自分が死んだその時は、迎えに来てくれると思ったのだ。

叱ってくれるために、どうしてそんなことをしたんだと、きっと。彼女なら、アルバス・ダンブルドアを叱りに来てくれるのだと、ずっと。

ダンブルドアは縋り付くように、その手を握った。

 

わかる、そうだ、わかるに決まっている。長く生きれば生きるほどに、どんどん多くのことを忘れていく。

大好きだったのに、その声も、笑った顔でも、どんどん忘れていく。だから、忘れないようにと必死に己の中に刻み込んだ。忘れぬようにと、必死に抱え込んだ。

 

「ニゲル。」

 

そう呼べば、車掌は諦めたように首を振った。そうして、その帽子をそっと脱いだ。ばさりと、黒い髪が帽子からこぼれ落ちた。

そこにいたのは、懐かしい、年若いままのニゲルだった。

ああ、ああ、覚えている、そのきらきらとした緑の瞳。それが、自分を見ていた。

 

「・・・・アル。この列車に乗って、行くんだ。行かないと、いけない。」

「いやだ、ここにいる。」

「アル、私はしばらくはここにいないといけない。だから、君だけ入ってくれ。私の両親も、おじさんやおばさんも、そうして、あの子も、君の行くところにいるんだ。だから、君だけでも会いに行ってくれ。」

「いやだ!」

 

叫ぶと同時に、その真っ白な髪は美しい鳶色に変わる。

 

「やっと会えたんだ!私は、何も出来なかった!」

 

皺の寄った体は瑞々しい肌に変わる。

 

「変えたかった!誰もが頑張れば報われる世界であれと、必死に足掻いた。でも、その願いが君を殺した!」

 

少しだけ縮んだ体は若木のようにしゃんとする。

 

「私が、私が悪かった!でも、赦せなかった!なにもかも、無辜なる誰かを殺してでも、私は、君を奪った世界を否定したかった!全部、八つ当たりであった。でも、けれど、それでも、罰を受けなくてはいけないとしても。私は、もう、離れたくない!」

 

何もかもを利用した。たくさんの誰かを殺した。

悪であるように、若きも、老いも、出自の差も無く、誰もがダンブルドアを殺せと危機感を持つように。

予想通りになった。ダンブルドアの思想は成功した。

けれど、わかっていた。ダンブルドアはひどいことをした。惨めに、哀れに、苦しんで、そうして、罰を受けて死ななくてはいけない。

理解されたいなどと贅沢を言ってはいけない。けれど、だめだ、彼女を目の前にすると、ダンブルドアはもう、何もかもがどうでもよくなる。

 

はなれないで。

 

子供のように駄々をこねる。ただ、ただ、そう言った。縋り付くように、彼女を抱きしめた。

 

「それを選べば、とても苦しいよ。苦しくて、長い旅をしなくちゃいけない。君は君の罪を見つめ続けなくちゃいけない。それでも?」

「いい。それでいい。君のいない人生の方が、ずっと苦しかった。」

 

泣きそうな声でダンブルドアはニゲルの首に顔を押しつけた。

 

「・・・・わかったよ。」

 

ニゲルはそう言って、アルバス・ダンブルドアを抱きしめた。そうして、瞬きの内に、そこにいたのはまだ、ホグワーツに入学するほどの年頃の子供が二人。

列車のいななく音がした。

 

「ほら、列車が来た。君が決めてしまったのなら、私と君は一緒に行かないと。」

「どこに行くんだい?」

「さあ、私にはわからない。まったく、君が素直に行ってくれれば、私が君の罪を肩代わりで案内人を長く務めればすんだんだけど。」

 

ダンブルドアはぼんやりとした頭で聞いていた。どこか、起き抜けのように頭が働かない。それでも、と思う。

 

「一緒にいる方が、いいよ。」

「そっか。」

 

ニゲルは、それに苦笑した。そうして、そっと、列車に乗った。いつの間にか、二人はコンパートメントにいた。互いに寄り添うように座っていた。

何故か、ダンブルドアはたまらなく眠たい。

 

「寝ていいよ。」

「どこにも、いかないかい?」

「いかないさ。これから、嫌というほどに一緒だ。」

 

そうか、そうだ。それは、よかった。アルバス・ダンブルドアはそのまま目を閉じた。がたんごとんと、列車が揺れる。その顔を、ニゲルは見つめた。

 

「・・・ごめんな。私は、お前の人生を結果的に呪ってしまった。」

 

だから、ダンブルドアの罪を肩代わりしようとした。けれど、それは無駄だったらしい。これから自分たちがどこに行くのかわからない。ただ、長い旅が始まるのだ。

列車が揺れる。

それでも、と、彼女は思う。

今度は、その弟分を一人にしないですむことに安堵していた。

 


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