説明回的なものに、薄味です。
説明するのを忘れてましたがニーズルのラピスさん、アルバスさんが防犯のために買ったものです。ニゲルさんのピンチに役立てなかったことを後悔してるのかこの頃毛の艶がないです。ちなみにオス。
「・・・・・こんな所か。」
ニゲルは作り終えた料理を前に一息ついた。簡易のキッチンのせいでさほど凝ったものは出来ていないが二人分としては十分だろう。
キッチンから離れ、時計を見れば同居人が帰って来るまでそこそこ時間がある。
そうしていると、にゃーと鳴き声がして足もとに温かい何かが擦り寄った。
「ああ、ラピスさんか。」
そこには青みがかった毛並みのニーズルがいた。ニゲルはそれに餌の催促だと察して台所の棚から彼専用の皿と、魔法生物用の餌を出す。
「ほい、召し上がれ。」
ラピスはそれの前に座り、静かにむぐむぐと食べ始める。それにニゲルは満足し、立ち上がる。そうして、彼女は周りを見回した。リビングには二人分の椅子とテーブル。そうして、二人ほどゆったりと座れそうなソファ。寝室へつながる部屋。
(・・・・・掃除も終わったしなあ。)
ニゲルはソファへ歩き、ぽすりと座り込んだ。
「暇だあ。」
アルバス・ダンブルドアと二人きりで同居を始めて時間が経ったある日。ニゲルは悲しいことにニートをしていた。
ともかく、ニゲル・リンデムというらしい自分の最初の記憶は聖マンゴ病院というところの天井だった。
周りを見回せば、小さな、ベッドぐらいしか置かれていない白い部屋だ。
ここはどこだと考え、そうして出てきたのは日本で過ごした記憶、のはずが不思議と自分の名前などは出てこない。
体に触れても特別傷があるようには見えない。不思議に思っていると、何故か扉から、古いデザインの白い衣装を着た人が入って来る。
その人の第一声はこうだ。
「ニゲル・リンデムさん!目を覚まされたんですね!?」
いや、誰って話だ。自分の記憶が正しいのなら、もっと由緒正しい和名のはずだ。
だからこそ、自分は誰ですかそれと素直に答えた。
そこからは怒涛の様に過ぎていく。
まず、白い衣装の人が部屋から飛び出し、少しすれば目を覆うほどの美形が入って来た。
「ニゲル!」
まず初めにどなたですかという話だ。そうして、叫んだのはさきほど呼ばれた名前。
うん、だから誰なのそれ。というか、ここどこなの。
なんで誰も教えてくれないの?
というか、勢いよく来るなこええだろう。
そんな風に思いつつ、体をのけぞらせると美形の動きが止まった。
「すいません、おにいさん、誰ですか?」
そうだ、名を名乗ってくれ。君誰よ、というか、ここがどこか教えてほしい。
正直な話、それを聞いたことに関してひどく後悔している。それ以外に言葉がなかったとしても、それでもあんなこと言わなければよかったと。
(・・・・あんな顔、されたらなあ。)
その時、美形、アルバス・ダンブルドアが浮かべた、全てに裏切られたような絶望に満ちた顔を、ニゲルは忘れることはないだろう。
その後は、もうされるがままだ。癒者たちに連れていかれ、検査だと言われたよくわからない呪文やら薬を飲まされた。果ては血まで取られたわけだが。
結論を言おう、ニゲルにかけられた呪いの正体は『断ち切る』『奪う』『保存』というものらしい。
意味が分からなかったが、言葉通りの呪いであるらしく、単純な効力故に解くことが難しい。
さて、ここで疑問だ。ニゲルは、何を『断ち切られ』『奪われ』『保存された』のか。
それがどうも、自分の中にないらしい記憶なのだそうだ。
記憶というのはざっくりしており、自分は知識は奪われておらず、どうも思い出だけをなくしているらしい。確かに、呪文を言われると自然に杖の振り方が頭に浮かぶ。
幸運だったというのは癒者の一人の言葉だ。
どうも、ニゲルにかけられた呪いは中途半端であるらしい。アルバスがかけていた守護の呪文は確かにニゲルを守り、グリンデルバルドのとっさの行動は呪いの進行を食い止めたそうだ。
呪い自体は一応半端な形で完成しており、これ以上の危険はないとのこと。ただ、ぼそりと呟かれた言葉は聞き逃せなかった。
「・・・下手をすれば、もっと違う何かを取られていたでしょう。」
ぶるりと震えたのは、けして寒さではなかった。
さて、奪われたのが幸運なことに記憶だけだったが、解呪は出来るのか。
ニゲルとしては、それが何より重要な事だ。
ニゲルは現状を理解するにつれ、自分がハリポタの世界にいることに気づいた。
ここで、彼女には一つの考えが浮かぶ。
自分は、いなくなったかもしれないニゲルさんの体に乗り移ってしまったのではないかと。
でなければ、前世?の記憶だけ失っていないのはおかしいだろう。
自分の状態の複雑さに吐き気を催しながら話を聞く。
どうも、解呪自体は簡単にできるかもしれないとのこと。呪いの媒体であるらしい金のネックレスに書かれた式を弄ればいいのだが。
何故か、その金のネックレスが見つからない。
家が爆発してすぐに住人たちが通報し、魔法警察部隊が到着しており、奪う暇はなかったそうだ。
ニゲルが持っていたらしい、なくなったそれ。それについて、ニゲルは非常に気になる。何故なら、どうも体を奪ってしまっているらしいニゲルさんに非常に申し訳なかったからだ。返せるなら、すぐに返したかった。
が、どうもそうではないと気づくのは、検査が終わり、呪いについて説明を終えた後のこと。
「・・・・・お疲れさま。」
「ああ、ありがとうございます。」
返されたのは同じ病室だ。ベッドに上がった自分にそんな言葉をかけるのは、見たことないほどの美形だ。
整えた茶色の髪に、きらきらとした青い瞳。誰もが魅了されるような、甘い顔立ちと。それに似合わぬ理知的な表情をしていた。
ただ、今は迷子の子どものように頼りない顔をしている。
(・・・・これが、みんな大好き、かは分かれるけれど有名なアルバス・ダンブルドア。)
原作では、というのは止めよう。前もやった気がする。
アルバスは疲れ切った顔で、そっと杖を渡してきた。ニゲルはそれが自分のだと気づき、どきどきとしながら受け取る。
「・・・・桜だったりして。」
なんてことを言う。日本人と言えば桜だろう。けれど、よくよく考えれば杖の素材に桜があるのかなんて知らない。
そこで、アルバスがなんだか驚いたような顔をする。
ニゲルの不安そうな顔に気づいたのか、アルバスは慌てた様子で首を振った。
「ああ、いや、すまない。ただ、ニゲルも杖を欲しがる時に桜が、いいと言っていたから。」
「・・・・私、もしかして米って食べ物食べたがってなかった?」
「・・・・ああ、君が時々、そんなことを。もしかして。」
「いや、覚えてないけど。何となくね。」
はははははと笑いながら、ニゲルは頭を抱える。
アルバスからの質問攻めは勘弁願いたかった。さすがに、答えていくたびに濁っていく青い瞳はもう見たくなかった。
(・・・・・めっちゃめんどくさいな、私の状況!)
おそらく、こんな時代のこの国で桜や米に食いついていたというならば記憶を失う前のニゲルは日本の記憶があったということだ。
つまり、自分は前世の記憶を持ったままニゲルと言う少女になり、何故か魔法使いとして過ごした思い出だけがすっぽ抜けているという状態なのだ。
頭を抱えたニゲルは視線を感じて、顔を上げるとそこには途方に暮れた様なアルバスがいた。
そんな顔をしたいのはこちらだと言いたかった。
ニゲルは何となくアルバスの顔を見つめる。この、情けなさそうな青年がアルバス・ダンブルドアだというのだ。
(・・・いとこなあ。)
ニゲルは自分がアルバスのいとこであることなど、もろもろの事情については知っている。何となしに、アルバスの話からして自分はそこそこ慕われていたようだ。
けれど、何となく、自分の知るアルバス・ダンブルドアとはだいぶかい離があるように思う。
ニゲルの知るアルバス・ダンブルドアは、もっと頼りがいと言うか、肝が据わっていそうというか。
けれど、目の前にいる青年は今にも崩れて落ちてしまいそうだ。きらきらとした青い目に、目を見開くような美形であること以外特筆すべき点はないだろう。
じっと自分を見つめるニゲルに気づいたのか、アルバスは立ち上がり、すまなさそうに部屋から出て行こうとする。
「・・・すまない、今日は疲れただろう。もう、休んだ方がいい。僕も、帰って。」
ニゲルは思わずふら付くアルバスの体を支えた。
「いやいや、君の方が休んだ方がいいだろ。」
よくよく見れば、アルバスの顔は真っ青でそれこそ吸血鬼とも張り合えるだろう。
そうして、ニゲルは目の前の存在が今日、実家が倒壊し、母親が死に、親しくしていたらしいいとこの記憶がぶっ飛ぶという普通ならば心労で倒れていそうなことのオンパレードであったものを思い出す。
「・・・・これから、アルバスがしなくちゃいけないこと、教えてほしいんですが。」
「やること?」
「私の病院の手続きとか、ほら、あるじゃん。」
「・・・・そうだね。病院の手続きと、家の処理と、警察へ状況を聞きに行って、母の葬儀の支度と、墓の準備に。ああ、そうだアバーフォースたちにも知らせて、学校のことも。」
「・・・・退院するわ。」
「え?」
「今日で退院する!!」
(・・・・あれ以上あいつ一人に負担かけたらシンプルに死にそうだったもんなあ。)
ニゲルの退院宣言にアルバスは度肝を抜かれた様に目を見開いた。そうして、当たり前のように止められたが意外なことに病院の方からは許可は下りた。
答えは簡単で、ニゲルの呪いはすでに成立していて、これ以上のことがないことはお墨付きは出来るそう。ただ、中途半端に呪いが完遂されたせいで解呪することは難しく、病院にいても出来ることはないためだった。
適当過ぎじゃねと言いたいが、それが今はありがたい。
専門家からのお墨付きがもらえればアルバスに出来ることはない。
ニゲルはさっさと病院への定期通院は言い渡されても、退院の手続きを済ませた。
そうして、病院を出ると魔法省まで共に生き、ニゲルはさっそうとケンドラについての事務処理を済ませていく。
そうして、次にアルバスを引きずって買い物に行き、食料を買い込んだ。
アルバスはその間、オロオロとしていたが、記憶がないという大前提のせいか何も言わずについてくるだけだった。
その時、ニゲルは殆ど本能で動いていた。
今、自分が連れまわしている、よくわからないが将来タヌキ爺になるだろう青年を労わらねばと。
そのために彼女はすぐにしなくてはいけない手続きだけを終えて、その日はアルバスに食事をさせ、ベッドに叩き込んだ。
聞いた話、叔父やら両親のおかげかそう言った手続きへの知識があったのは幸運だった。
そうして、ニゲルは出来る限りの雑務を切り抜け、アルバスを休ませたのだ。
何も分からなかった。思い出も、目の前の存在が自分にとって何であったのかもわからなかった。
それでも、ニゲルと言う人間の価値観が自分のすべきことだと感じたことだけはやろうと思った。
その、ズタボロで、どうやら誰も守ってはくれない子どもをせめて庇ってやるのだと。
次に大変だったのは、ケンドラ・ダンブルドアの葬儀のことだ。
ニゲルはその時まで、アバーフォース・ダンブルドアとアリアナ・ダンブルドアに会っていなかった。
仕方がない話、物理的に家がないのだから帰って来ようがない。
墓の場所は、パーシバル・ダンブルドアの隣に決まり、なんとか葬儀にこぎつけることが出来た。ちなみに、参列者はダンブルドア家と、ニゲル。そうして、ゲラート・グリンデルバルドだけだった。
バチルダ・バグショットが部屋の一部を貸してくれることになり、そこで弟妹達は一夜を過ごすことになった。
幸いなことに、ニゲルが丁寧なご近所づきあいをしていたおかげで葬儀の段取りはスムーズに進んだ。
ニゲルはこの時、よくわからないが過去の自分にハグをしたくなった。
バチルダもひどく同情的で、涙ぐみながら抱き付かれたときは固まった。古い紙のにおいがする老女のことは嫌いではなかった。
そうして、ニゲルにとってケンドラの葬式と言うのは非常に気まずいものだった。
何と言っても、自分のやらかしたことが原因で亡くなったというのだろうから非常に気まずい。
自分が彼女にどんなふうに接していたか分からないからこそ、その感覚はひとしおだ。
皆はことあるごとにニゲルは献身的であったと語っても実際どうであったかなんてことは忘れる前の自分にしかわからないことであるのだし。
(・・・・なんで、私の身内らしい人は、記憶がないって知ると死にそうな顔をするんだろう。)
葬儀の前日、ニゲルはバチルダ邸の一室でアリアナとアバーフォースの帰って来るのを待っていた。
ちょこんと、部屋に置かれたソファに座っていれば、扉が慌ただしく開かれた。
扉の向こうには、淡い金にも見える茶の髪に青い瞳の少女と、くせっけの茶髪に青い瞳の青年だ。
アリアナが生きているという事実に記憶を失う前のニゲルの足掻きが見える気がする。
入って来た美しい少女と青年はまるで親に捨てられる寸前のような顔でニゲルを見る。
そんな顔をされても、ニゲルに言えるのは一つだけだ。
「あー、こんにちは。アリアナ、アバーフォース。」
愛称で呼ばれなかったこと、そうしてニゲルの逃げ腰の様子に全てを覚ったのかアリアナは飼い主に縋りつく犬の様にニゲルに駆け寄った。
「嘘よね!?ニゲル、ねえ、そうでしょう。忘れたなんて、そんな。」
いきなり、言っては何だが見知らぬ少女にすがられてニゲルとしては怯えてしまった。彼女は体を固くして、唯一、ようやく知り始めたアルバスに縋る様な目を向ける。
それに、アリアナは顔を真っ青にして、ニゲルから離れた。そうして、嘘だと幾度もぶつぶつと言い続けている。
それに一種の何か、狂気的なものを感じてニゲルは若干アリアナから距離を取る。
アリアナはアルバスに引かれてニゲルの座っていたソファに座った。
その傷心しきった表情に罪悪感がする。そうして、ぞわりと何か、嫌な視線を感じた。その方向に視線を向けると、そこには憎悪と言っても差し支えのないものを向けて来るアバーフォースがいた。
ニゲルは、そっとそれから視線を逸らした。アバーフォースは無言でそのままアルバスに慰められているアリアナの元に向かう。
ニゲルは、なんとなく家族団らんの場に一人取り残された他人のような心境でそっと部屋の隅に向かう。
おざなりに置かれた木製の椅子に座り、場の終息を待った。
自分に貸し出された部屋に寝に帰ってもよかったが、どうせアリアナと同室になるのだ。さすがに寝るまであのままではきついので様子だけは窺っておく。
アリアナのすすり泣きが聞こえる、アバーフォースの苦み走った声が聞こえる、アルバスは唯黙ってそれを聞き続けている。
(・・・・家族仲、けっこう悪いんだな。)
グリンデルバルドに聞いた話では、仲はいいはずだったのだが。
(というか、呪いを受けた本人の方が退院が早いってどういうことかって。まあ、あっちは崩れた家屋から私を庇って物理的に被害があったらしいし。)
さすがに何もしないというのはひどいだろうとニゲル一人で見舞いに行ったのだ。ただ、その後のアルバスの怒り様は目を覆うほどであったが。
悲しみに匂いがするとすれば、こんな匂いなのだろうか。ニゲルはぼんやりと、どこか蚊帳の外に進む家族の世界を眺める。
さすがにニゲルに聞かせるのは遠慮しているらしくアルバスとアバーフォースのぼそぼそとした声とアリアナが泣いている。
ニゲルは見ていることも気まずくなり、床に視線を向けた。
そんな時、がたりと大きな物音と、アリアナの細い悲鳴がした。
音に反応してそちらを見れば、アルバスの胸座を掴んだアバーフォースの姿があった。アリアナは怯え切り、ソファの上で縮こまっている。
「おい、家族がこんなになってまで、てめえどういうつもりだ?」
「・・・・すまない。」
ドスのきいた、アバーフォースの台詞にアルバスは目を逸らした。
ニゲルは、だらだらと冷や汗を垂らす。
もちろん、諍いに動揺しているのあるが、何かヤバいと感じる。
「こんな時まで仕事続ける気かよ!?姉貴のこと放っておく気か!?」
「やめて、ねえ。二人とも、やめて・・・・・」
憤怒の表情をアバーフォースが浮かべている。アルバスの表情には諦観が。アリアナはガタガタと震えながら焦点の合わない目をしている。
何かが壊れる気がする。本能と言える部分で、そんなことを覚る。
それでも、ニゲルは躊躇する。
その場に、自分は踏み込んでいいのかと。
確かに、ニゲルは何となしに、記憶を失う以前の自分が確かに愛されているのだと理解している。
ニゲルと言う存在の喪失を知った人間は、本当に、悉く、死んでしまいそうな顔をする。
それを見てなお、理解しないというのは少々どうかと思うのだ。
けれど、自分は、ここで彼らの中に飛び込んでいいのだろうか。記憶を失う前の自分ならば、どうしていただろうか。
踏みこむには、早すぎる。結局の話、自分にとって彼らはどうしようもなく他人でしかない。そんな簡単には彼らは家族と受け入れられない。
それでも、ニゲルは憎悪に塗れたアバーフォースが拳を握ったその瞬間、足を動かしていた。
「さすがに暴力沙汰は止めといた方が。」
思わず手を掴んだニゲルを見たアバーフォースに彼女はそう言った。
「っ関係ないだろ!?」
「さすがに目の前で暴力沙汰は無視できないからね!?」
ニゲルの手を振り払ってアバーフォースがばつの悪そうな顔で床に視線を向ける。
ニゲルは丁度ソファの前で喧嘩をしていたアルバスとアバーフォースの間に入った。そうして、彼女は怯えていたアリアナの顔を自らの腰に押し付ける様な形で抱きしめる。
落ち着ける様にアリアナの背や肩を撫でる。心境としてはセクハラまがいをしている気分であるが背に腹は代えられないだろう。
アルバスを庇った形のニゲルはちらりと彼を見るが、俯いた青年の顔が己の肩越しに見えた。
「どうしたんだ、殴ろうとするなんて。」
アバーフォースはがりがりと自分の頭を掻き捨てて、怒鳴るように言った。
「そこにいるくそったれが、葬儀が終わったらすぐに仕事に戻るなんて言ったからだ!」
ニゲルはそれに思わずアルバスを見る。彼は、やっぱり床に視線を向けたまま、無表情にたたずんでいる。
(・・・・昨日の今日で仕事!?いやいや、さすがに数日は休まないと駄目だろう!?)
ニゲルの驚いた顔に自分と同じ意見だと思ったらしいアバーフォースは畳みかける様にアルバスに言った。
「あんたのせいでニゲルが襲われたんだ!闇祓いなんてものになって、敵を作ってこのざまじゃないか!母さんだってそのせいで死んだんだぞ!なのに、仕事、仕事って、そんなに大事なのか!?なんだよ、あんた、家族の事なんてどうだっていいのか?守れもせず、何も思わないのかよ!?」
悲しんでもいないじゃないか!
「おい、止めろ。」
ニゲルはアバーフォースの言葉を遮った。先ほどまでの遠慮しがちな声音ではなく、それは紛れも無く自分たちを叱る時の声だと理解して三きょうだいは動きを止めた。
ニゲルはそんなこと気にした風も無く、アバーフォースの目を真っ直ぐと見て言い放った。
「悲しんでるのが、後悔しているのが自分だけなんていうのはあんまりにも傲慢が過ぎるぞ。」
ニゲルは、今、ここにいるニゲルと呼ばれる人間は、アルバス・ダンブルドアのことなんて知らない。
知っているのは、策略家な、多くのために少数を切り捨てる様なそんな舞台装置のようなキャラクター像。もしも、そんなキャラクター像と、今のような静まり返った表情だけを見ていればアバーフォースと同じようなことを言っただろう。
けれど、ニゲルは知っている。
自分の記憶がないとしって、怯えてしまったあの瞬間の、心細そうな青年の顔を覚えている。
そうだ、今、後ろにいる青年は未だに二十にもならない子どもなのだ。
そんな青年に、テロ組織への守護を任せるのは、その責任を問うのはあんまりな気がする。
「・・・表面に出てないからって悲しんでないっていうのは暴論過ぎるだろう?」
正直気まずい。なんといってもニゲルの体感として、彼らは所詮他人で、それでも目の前の三人は彼女にとって気遣うべき子どもでもある。
自分でこんなふうに飛び込むこと自体が正解だったのかもわからない。ただ、せめてヘイトが自分に飛んで来れば御の字であった。
何よりも、後ろにいる青年が自分やら母親のことですでにズタボロであることも分かっていた。せめて、庇ってやりたかったのだ。あの、途方に暮れたような顔をみればなおさらに。
「・・・・なんでだよ。」
掠れた声に、アバーフォースの方を見ると、彼はぐずぐずと泣いていた。ニゲルは、それに固まる。どうして、アバーフォースが泣いているのか分からない。
「なんで、忘れてるくせにそんなこと、言うんだよ。」
その涙にニゲルは、そう言えばと思い出す。
この、目の前で暴力的な言動が目立つ存在はアルバスよりもずっと年下で、そうして子どもであるのだと。
それを思い出すと、また罪悪感がぶり返してくる。
思えば、目の前の存在だってアルバスと同じで母親と、そうして姉貴分を失ったのだ。
ニゲルはものすごく気まずくて、且つ、躊躇はあったがそっとアバーフォースを抱きしめた。
少なくとも日本人である記憶の残る彼女にはひどく勇気がいることだった。
それでも、ニゲルはアバーフォースのことを抱きしめて、その背を叩いた。
八つ当たりのようなそれでしか悲しみも苦しみも吐露できない、不器用な青年を慰めたかった。
「・・・・・あんまり兄貴に甘えてやるなよ。」
アバーフォースは何も言わない。それでも、ニゲルに縋る様に手を回した。
(・・・・・そんなこんなで、私はアルバスの家で居候しながら途中経過をみてるわけだが。)
わざわざ広い部屋に引っ越しまでしたのだ。
ニゲルがとつとつと今までのことを思い出しているのは、仕方がない話であった。
理由は簡単だった。
(・・・・私はなんでアルバスと同じベッドで眠ってるんだろうね。)
同じ布団に入っているせいか、普通よりもぬくぬくしており少々狭い。がっちりつかまれている左手。
すーすーと、隣から聞こえて来る寝息にニゲルは少しほっとした。
ちらりと見た顔は安らかでしっかりと眠れているらしい。そうして、ニゲルはまた現実逃避をし始めた。
前回、わになのかという感想がありましたが、書き手はあの作品を概ねハッピーエンドだと感じているので趣味はあってるかと思います。
ただ、ああいった作品は書けないなあとも思っていますが。
ちなみにニゲルさんは記憶を失わなかった場合、腕やら脚やら片目を無くす予定もありました。眼帯とか義足ってカッコよくないですか?
出来れば、感想お願いします。