前回から思うんですが、皆さんわにという単語を何だと思っているんでしょうか。
というか、そこまでわにかと疑問に思って何故か鬼滅を再履修してたんですが。なぜ、ハリポタの二次を書くために違う作品を再履修してんだろうか自分。
思い余って、考えてたルートの一つを番外編として書きあげました。
ハリーとニゲルさんの話、あんまりアルバスは出てこない。
「夜更かししてまでそんなに楽しいものがあるのか?」
ハリー・ポッターは突然自分にかけられた言葉に動揺して立ち上がった。振り返った先には、どこか陽気そうな笑みを浮かべた女がいた。
「あ、あの、えっと・・・」
夜に抜け出していることを見つかってハリーは動揺のために震えた。けれど、その女は、苦笑しながら手を振った。
「別に叱ろうとかは考えてねえよ。まあ、確かに夜更かしは褒められたことじゃあないけどな。」
そう言って自分の隣りに立ち、鏡を覗き込んだ彼女にハリーは困惑しつつも同じように並んで立った。
そうして、ちらりと横目でその人を窺った。
隣りに立った女、もうだいぶ歳を取っているだろう彼女の名はニゲル、ホグワーツ魔法魔術学校の管理人をしている人だ。
ホグワーツで生活するなら、ニゲルと仲良くしておいた方がいいというのは上級生の皆が言うことだ。
ハリーがニゲルと言う女と最初に会ったのはそんなことをウィーズリーの双子たちに吹きこまれている時のことだ。
丁度、庭に面した廊下を一人で歩いていた彼に、学校慣れしていないハリーに助言をしてやると双子たちが纏わりついて来たのだ。
廊下に置かれたベンチで両方から固められて、そんなことを言われた。
「ニゲル?」
「そ、ほら、夕食の時にダンブルドアの隣りに座ってた・・・・・」
「よーお、クソガキども、何してんのかな?」
後ろから聞こえて来たそれに三人は驚いて振り返る。そこには中庭からにっこりとベンチを覗き込んだ女がいた。
「やあ、ニゲル!別になーんにも?」
「そうだね、ニゲル!俺たちは良い子な事に可愛い後輩に助言をしてやってるだけだぜ?」
「はっはっは!良い子は禁じられた森に忍び込もうとする前科なんてないもんだがなあ?」
ニゲルと呼ばれたその人は、双子の頭を掴みぎりぎりと握りしめた。
「いだだだだだだだ!」
「止めろよ!ニゲル!」
「やめねえよ!てめえらだろうが、トイレ爆破して、便座ぶんどっていったの!」
「俺たちじゃないよ!」
「そうだぜ、信じてくれよ!何もせずに疑うなんて大人のすることじゃないだろ!?」
「ラピスがしっかり見てたんだよ!ミネルバんとこに連行だ!」
ぎゃああああああと、双子の悲鳴が響き渡る。ハリーはオロオロとどうしようか迷っているが、周りを歩く生徒たちはまたやってるよという目でそれを無視していく。そうして、ニゲルはその細い体から信じられないことに双子を両脇に抱えた。
ハリーはそれをじっと見る。
目の前にいる女性、老いてはいるらしいその人は今までで見たことのない人種であった。
髪はまるで雪の様に真っ白で、それを三つ編みで一つにまとめている。着ている服装も、こういっては何だがマグル視点からすれば比較的真面だ。
白いシャツに黒いズボン、ローブは膝程度の長さでまるでマントのように羽織っている。服装の中で一番に目につくのは、なにやら工具らしいものが飛び出た革製の鞄に丈夫そうなエンジニアブーツをはいている。
皺の寄った顔からは確かに老人と言ってもいいのだが、ハリーの知る同い年ほどのマクゴナガルとは全く違う人種だった。
双子たちとのやり取りも、どこかじゃれ合いの匂いがしている。陽気そうでおおらかな、土や草のにおいがする人だった。
そこでニゲルは取り押さえていた双子たちから目を離し、ようやく困り果てていたハリーに視線を向ける。
「・・・・お前さん、もしかしてハリー・ポッター?」
「えっと、はい・・・・」
ハリーは慣れてしまった対応としようとニゲルに視線を向ける。傷のことを聞かれるかと額に触れようとした。
けれど、それよりも先にニゲルの笑いをこらえる様な声が響いた。
「ほんっとにジェームズに似ちゃったな。」
「え?」
見知らぬ名前が出てきたことにハリーが反応した。けれど、ニゲルは気にした風も無く言葉を続ける。
「あれ、知らないの?君のお父さんだよ。君みたいに、くるくるした黒髪でさ。ああ、好奇心旺盛で、この双子とため張るぐらいのクソガキだったよ。」
怒涛の様に出て来る知りもしない父らしい存在の情報にハリーは目を白黒させる。クソガキと言う単語に罵倒されているのかと考えたが、その楽しそうな、懐かしそうな声音に親しみの部類であることを覚る。
そうして、ハリーはようやく彼女の瞳を真正面から見た。
緑の瞳だ。
自分と同じような、アーモンド型の、けれど何だかきらきらとした緑の瞳だ。
彼女はその目を、柔らかに細め、弾む様な声で言った。
「少年よ、君がここに望んできたのか、望んでいなかったのかは分からないが。それでも、私は君を歓迎しよう。ここには、君にとって楽しい人も良き人もいる。それと同時に、君にとって嫌な奴も酷い奴もいる。楽しいことも、苦しいことも、下らないことも、悲しいこともある。」
それでも、嫌な事があれば私の所に来るといい、気晴らしぐらいにはなるだろう。
その人は、そう言ってさっそうとフレッドとジョージを引きずって歩いて行ってしまった。
(・・・・・よくわからない人だな。)
ハリーはそれからニゲルと言う存在について色々な話を聞いた。
まず、ニゲルは先生というわけではない。学校の雑用をする管理人という立場らしい。権力と言うか、権限と言うものはないらしいのだが彼女は不思議と学校内に影響力はあるようだった。
一番に目に見えてハリーがそれを理解したのは、セブルス・スネイプのことだった。
彼は不思議と、ニゲルを前にすると理不尽な減点をせず、長い説教で終わらせる。マクゴガナルもまた、彼女が絡むと少しだけ対応が甘くなる。
ニゲル自身、昔学校で教員をしていたらしくその関係で付き合いが長いらしい。
先生だけでなく、生徒たちへもニゲルは影響力があった。
例えば、分かりやすい所でいうとウィーズリーの双子や、そうしてスリザリンの純血主義の存在だろう。
ニゲルがなんだなんだと寄っていくと喧嘩やいじめをしていた上級生たちが去っていく。
不思議に思ったハリーが何故かとフレッドとジョージに聞いたことがあった。
それを彼らはけらけらと笑いながら教えてくれた。
簡単な話、ニゲルは数匹のニーズルたちを飼っているらしく学校のことは庭の様に知り尽くしているらしい。そうして、古参である彼女は上級生たちや、果てはその親たちの失敗談をたらふく抱えているそうだ。
「何よりも、あの人、お世辞にも上品とは言えないからなあ。」
というのは、フレッドの言葉だ。
聞くと、ニゲルはマグルを穢れた血と呼んだ生徒には、血筋しか自慢できるものがないのかと言い、スリザリンを袋叩きにしていたグリフィンドールの生徒に、騎士道らしく一対一も出来ないのか卑怯者と言い捨てるような人らしい。
そのせいか、一定数の魔法使いから苦手な存在と認識されている。
嫌がらせをしようにも彼女を守るニーズルや、本人の無駄にいい運動神経によって悉く阻止されているそうだ。
「・・・・マルフォイみたいな奴は親を引っ張り出してきそうだけど。」
「あー、そう言う奴もいたらしいけどなあ。」
「その引っ張り出してきた親も親でニゲルに恥ずかしい秘密暴露されたらしくてな。それ以来、パンドラの箱扱いらしいぜ?」
それにけらけらと笑うフレッドとジョージも一度、ニゲルに幾つか言われたことがあるらしい。
フレッドとジョージは、一時期、スリザリン生に向けて執拗に悪戯を仕掛けていたらしい。そんな時、ニゲルは二人を執拗に追いかけまわしたらしい。
もちろん、二人は抗議したそうだ。自分たちだけをそんなにも追いかけまわすのはおかしいと。
ニゲルはそれににっこり笑った。
理由も無くスリザリン生を追いかけまわすお前たちも同じようなもんだろう。
その時、ニゲルは怒り狂っており、理由と言うのもフレッドとジョージが悪戯を仕掛けた存在の中には純血主義ではなくスリザリンの中でも立場の弱い混血やマグル出の存在も含まれていたらしい。
悪戯って呼ぶぐらいならせめてどんな人間も笑えるようなものにしろ、お前たちのやってることはただの嫌がらせだ。
そこからフレッドとジョージとしても、悪戯仕掛け人を名乗っている手前、一応やり方や方法を考えるようにはなったらしい。
「今んとこ一番受けてるのは、ダンブルドアの髭を七色に染めた奴だなあ。」
「ニゲル、あれめちゃくちゃ笑ってたもんなあ。」
そんな台詞を聞いたことがある。
ハーマイオニーもニゲルのことを知っていた。訳を聞くと、彼女は虐められている生徒たちの駆け込み寺の様になっているそうだ。
ハーマイオニー曰く、彼女の管理室というのは雑多な人間が溢れているそうだ。
ハッフルパフやレイブンクロー、そうしてグリフィンドールにスリザリン。
歳も違えば、所属している寮も違う。けれど、皆、そこら辺に関して何も言わなかった。
ニゲルのそこは、来るもの拒まず、去る者追わずという状態で、一時期そこに入り浸っていたハーマイオニーも名前を知らない人間もいた。
けれど、不思議と居心地が悪いわけではない。そこは、穏やかな静寂に満ちていて、ハーマイオニーもニコニコとしながら話を聞いてくれるニゲルを慕っているらしかった。
そこは大量のお菓子が置かれていて、好きに食べていい。ただ、一つだけルールがあり、けして諍いをしないことだ。
ハーマイオニーも喧嘩をしていたグリフィンドール生とスリザリン生が放り出されていたのを見ていた。
そんな風に会って以来、ニゲルに話しかけたことはない。用がなかったというのもあるし、彼女はいつも誰かしらと共に居たというのもある。
木陰の中で、鼻歌が聞こえる。真っ白な髪がゆらゆら揺れていて。
その姿を見て、暖かそうな人だと思った。体温の高そうな人だと、何故かそんなことを思った。
それでも、彼女はふといつの間にか自分の側にいて、笑いながらお菓子をくれる人だった。
頑張りすぎるなよ、そんな言葉。クンと香ったお菓子の匂い。
それがハリーにとって、ニゲルに感じるものだった。
彼女はハリーを気遣ってくれていたのだとは思う。それでも、別にそれはハリーにだけ向けられるものではない。
スリザリンだろうと、ハッフルパフだろうとレイブンクローだと、グリフィンドールだろうと、彼女はすべからく、庇っていたし、お菓子だって貰っていた。
最初に貰ったお菓子が決して自分だけの物でないこと知って、少しだけ味気なく思ったのはどうしてだろう。
何となく、の話だが。
ニゲルと言う人間は、彼女なりの何かを芯にして動いているらしい。
彼女は基本的にどんな人間の味方であって、敵ではないのだ。それは八方美人であるとも言えるかもしれないが、弱い立場の人間にとってはありがたい存在なのだろう。
そんな彼女で一番に有名なのは、アルバス・ダンブルドアのいとこであるという話だろう。
言われてみれば、ニゲルの、色が違うとはいえどきらきら光る眼はよく似ているように思えた。
ニゲルとダンブルドアの関係というのは、謎だ。
アルやニゲルと呼びあっていることから親しいのは分かるのだが、何と言うのだろうか。ニゲルからのダンブルドアの扱いと言うのは雑だ。
二人は、時折、中庭なんかを二人でのんびり散歩している。その様は、落ち着いた老夫婦の様で、気心の知れた男兄弟のようなやり取りをしている。
ハリーも数度しか見たことがないのだが、何と言うか、雰囲気が雑なのだ。
それでも、その雑な扱いをダンブルドアは嬉しそうに受け止める。
ダンブルドアとニゲルの関係というのは、噂はたくさんあって、ただ仲がいいだけのいとこ同士という話も、実はめちゃくちゃ仲が悪いとか、結婚していて子どもまでいるという話もある。
(・・・・噂はよく聞くけど。)
ハリーは今まで聞いた話を反芻しながら、ちらりと鏡を眺める老いた人を見る。結局の話、実際のことはちっともわからないという話だ。
そんな風に思っていたハリーと、ニゲルの視線が合った。
「まだ、寝ないのか?」
「・・・・もう少しだけ。」
突然のそれが、鏡を見るのを止めないかという言外の言葉であることを察して、ハリーは首を振った。
ニゲルはそれに苦笑交じりにため息を吐いて、鏡の前で俗に言うヤンキー座りをした。
「この鏡がどんなものか分かってるんだろ?」
「見たいものを、見せてくれる。」
「みぞの鏡な、これなあ、すげえ始末が悪くてな。見たいものを映して、ずっと見続けたあげく餓死したやつがいたんだと。」
その言葉にハリーもさすがに怯えたらしく、鏡から少し距離を置いた。ニゲルはそれにまたけらけらと笑う。よく笑う人だ。
そうして、立ち上がった。
「まあ、こんなとこに隔離されてるのはそれ相応に理由があるってこったな。まあ、これはこれで、どういう経緯で作られたのか分からねえし。悪意ならまだしも、善意で作られたんなら救いようがないなあ。」
「どうして?」
ハリーは思わずそう聞いた。ニゲルはそれに肩を竦めた。
「悪意ならまあ、そういうことを好むネジくれた奴だっているだろうが。でも、善意でこんなことをやったのなら、夢に縋らなくちゃいけないほどに地獄を見たって事だぞ?」
その言葉にハリーの体が知らずに震えた。それにニゲルはやっぱり苦笑して、そうしてハリーをじっと見た。
「さて、ここまで言っても帰らねえの?」
ハリーはちらりと鏡を見る。そこには、ずっと会いたかった家族の姿があった。離れがたかった。
ダーズリーの家を思い出す。あの場所の、疎外感を思い出す。今、両親に抱きしめられているこの場所の安心感は何だろうか。
「まあ、過去は優しいもんなあ。」
のんびりとした声がした。ニゲルはじっと鏡を眺めている。そんな様子に、ハリーは思わず問いかけた。
「どんなものが見えてるんですか?」
「んー?」
ニゲルは少しだけ首を傾げた後に、ふふふふと笑った。
「そうだなあ。まずな、アルバスがいるんだ。そんで、アバーフォースとアリアナに、それからグリンデルバルドもいる。あと、父さんとか母さんとか、叔母さんに叔父さんもいる。みんな楽しそうだよ。あ、お前さんは知らないか、アバーフォースとアリアナはアルバスの弟妹で、グリンデルバルドは、あれだな。面白宇宙くそジジイだ。」
「面白宇宙くそジジイ?」
「そうそう、引くほど美形なんだけど。めちゃくちゃ宇宙好きでなあ。今も変装したりしてマグルの大学に通ってるよ。話してると面白いんだけど、いつの間にか学校卒業したら宇宙工学の大学に行くことになってるから気を付けろな?」
「それ、もう洗脳じゃあ。」
「・・・・魔法、一切使ってないんだけどなあ。個人的なカリスマだけでやってるから。でも、マグル出身者とかが実際進学してるんだよなあ。」
魔法使いとしてではなくそう言った生き方をしているらしい先達がいることにハリーが驚いていると、ニゲルはゆるりと微笑みを浮かべて改めて口にした。
「ハリー、過去は優しいし、夢は居心地がいいけどな。それでも、ずっと浸り続けるのはお勧めしないぞ。」
「・・・・でも。」
本来なら素直に聞いた方がいいのだと分かっている。それでも、そんなふうに抵抗してしまうのはニゲルという存在が自分を咎める存在でないのだと察していたせいだろうか。
「・・・・寂しい。」
零れた言葉と共にハリーは顔を下に向ける。
ずっと寂しかったのだ。あの家で、自分がひどく独りであったことを自覚する。少なくとも、ハリーの周りの子どもたちはすべからく家族に愛されている者ばかりだ。
両親の名前も知らず、顔も知らない。この鏡でようやくハリーは父母のことをはっきりと知覚出来たのだ。
「・・・・よし、ハリー。握手をしよう」
「え?」
「いいから。」
ハリーは促されるままにニゲルの手を取った。
その手は、がさがさしていて、自分よりも少し大きく、そうしてひどく温かった。
彼女はハリーの小さな、そうして少し荒れた手を握りしめた。
「・・・・あのな、ハリー。傷を負わない人間はいないのさ。悲しいことに。」
「傷・・・・」
「過去は優しいさ。傷を負う前なんだから。夢は居心地がいい。そこには傷なんて存在しないから。私も、鏡の中に焦がれた時が少しあった。大好きな人が、生きている世界。自分のせいでいなくなった人が笑っている世界。それには焦がれる。でも、ハリー。お前さんには友達がいるだろう?」
「うん。」
「鏡の中の存在は確かに微笑みかけてくれるけれど、彼らはけして抱きしめても、愛しているとも言ってはくれない。」
繋がれた手の力が強くなった。その手は、鏡に触れた冷たさに反して、ひどく熱かった。
「鏡は温かくはない。彼らは私たちの幻影だ。私たちは彼らを置いて先に来てしまった。さよならだけが人生なんてことを言った詩人がいるがな。それでも、はじめましてもまたねだって人生だ。だからな、ハリー、父ちゃんと母ちゃんはお前さんの側にいないけど。それでも私はここにいるよ。」
君が私のことをどう思っているかは知らないけれど、それでもなお、君の幸福を願っているよ。
ニゲルは、ハリーを見た。きらきらとした、緑の瞳。自分と同じ、母と同じ、緑の瞳。
何故だろうか、ああ、何故だろうか。
殆ど、話したことはない。どこにいるかもわからない、ただ、時折ふっと見かけるぐらいで。それでも、その人は自分のことを見ていてくれるのだと奇妙な信頼感はあった。
幾人もいる生徒の中で、自分のことを見ていてくれると、そんな感覚を覚える人だった。
何故だろうか、その言葉はひどく優しくて。
その、握られた熱が温かくて。
ニゲルはまるで鏡の中の母の様に微笑んで、ハリーを抱きしめた。
苦しくなるような、それ。けれど、ハリーはその抱擁が彼の叔母がいとこにするときのものに似ていると感じた。
その熱が、鏡の中の両親の冷たさを余計に感じさせる。
(・・・・これは、僕のだ。)
微笑みも、お菓子も、自分の物ではないけれど。それでも、この熱は、この抱擁だけは自分のものだ。それに、なんだか心を満たされた。
「・・・・ニゲル?」
「ありゃ、アルか?」
ハリーを見送った後、少しの間みぞの鏡を眺めていた彼女に背後からアルバスは声をかける。
アルバスは急ぎ足に彼女に駆け寄り、そうして縋る様に抱き付いた。
その様は、親を見つけた迷子の様にも、不安そうな恋人たちの様にも、離れ離れになった姉妹のようにも見えた。
アルバスはニゲルに抱き付くと、甘える様にその肩に額を押し付けた。
「心配したよ。部屋に来んし、ラピスもいない。」
「あのな、こちとら管理人として見回りをせにゃいかんのだが。」
「・・・・わしには、一言も行くといわなかった。」
子どもか、そう言いたくなる。もう、図体的にはサンタクロースもびっくりな真っ白な髭まで蓄えているというのに。
「はいはい、悪かったよ。ほら、もう寝るぞ。」
「・・・・・うん。」
子どものような声を出した後に、アルバスはニゲルから体を離した。そうして、アルバスは置かれていた鏡に視線を向けた。
「ハリーが来ておったのか?」
急にIQが上がったなあとニゲルは思いつつ頷いた。
「ああ、説得して追い返したよ。」
「鏡の場所を移さんとなあ。」
「つーか、一年生に見つかるとこにこんなやばいもんを置くなよ。」
ニゲルはそうぼやきつつ、ふと、疑問を口にした。
「なあ、アル。お前さん、鏡に何が映ってる?」
「そうじゃの、皆でニゲルのアップルパイを食べとるな。」
ニゲルはそれに無言の圧力を感じた。チラリと見ると、アルバスは普段よりも目をキラキラとさせている。ニゲルは、それにため息を吐いた。
「・・・・明日、アップルパイ、焼くか。」
「ほっほっほ、楽しみじゃなあ。」
アルバスはそれにるんるんと明らかに喜び始める。ニゲルはその様に、ピンと立った犬耳と、スクリューする尻尾を幻視する。といっても、そんな様子はどうもニゲルにしか見えないらしく、ミネルバやセブルスはその言葉に何とも言えない顔をする。
理解されないことは悲しいが、確かに言われてみればアルバスはどちらかと言えばネコ科なのかもしれない。
「さて、明日の楽しみも知れたことだし、さっさと寝るか。」
「そうじゃの。」
部屋から出ていくアルバスを追いながら、ニゲルは少しだけ後ろを振り返った。
鏡には、彼女がハリーに語った通りの光景が映し出されている。たった一つ、隅に黒髪の見目の整った青年がいること以外は。
(・・・・トム。)
鏡の中は、優しい。傷など、一つだって存在しないのだから。
ニゲルさん生存のまま原作に突っ込んだルート。
ニゲルさん
このルートではどうしても助けたかった幼い子どもと分かり合えずにそのまんま闇落ちを赦してしまった人。そのためか、生徒とはあんまり積極的には関わりを持ってない。ただ、逃げ場だけは提供してる。家族のことは何とか助けられたけど、家族にはなれなかった赤い瞳の幼子について傷を抱えて生きている。
アルバスさん
どうしても必要な人は自分の側にいるしけっこう幸せ。学校だと姉を独り占めできて役得。たぶん、どんな原作のアルバスさんたちの中で一番にふくふくしてるし、心なしか肌艶がいいし、毛並みもいい。赤い瞳の幼子については後悔を抱えている模様。
赤い目をした幼子だった人
愛したかったけど、愛し方はわからなかった。
セブルスさん
学生時代に庇ってくれたし、優しい人だと分かってるけど苦手。ニゲルさんがシリウスとジェームズに対して関節技かけてたのに爆笑した。
彼女の作るお菓子は好き。自分を見る、生温くて優しい目が苦手。
ハリー
母さんと、同じ緑の目が気に入っている。
ニゲルさんとアルバスさんは、ルートによってはマジで結婚してるし子どもがいることもあります。
ちなみに、ニゲルさんがトムの矯正に失敗すると、原作はいった時点でニゲルさんは殆ど死ぬルートに入ります。