僕のヒーローアカデミアー麗日お茶子の兄ー 作:トガ押し
「ちょっと良い?」
そう言って声をかけたのは先ほどの50m走を個性で作りだしたスクーターで走り切った少女だった。ふと、運転免許証は持っているのだろうかなどというどうでもいいことを考えていた。
お茶子に言われたように、なるべく方言を出さないように気さくに話しかける。
「どうかいたしました?」
その返答を聞いた瞬間、一瞬頭の中がフリーズした。今時、こんなザ・お嬢様な口調でしゃべる人がいたのだという事実に。
だが、背に腹は代えらないので、気を取り直して再び口を開いた。
「君の個性で、ちょっと作ってもらいたいものがあるんだ」
「何を……ですの?」
一瞬いぶかしんだ表情を浮かべる少女。どうやら体力テストの不正を疑われているような、そんな視線だ。
「針とか安全ピンとか画鋲とか……」
言っていて段々と自分が口にしているものが、妨害工作に使えそうなものだと気がついて慌てて修正するために言葉を続ける。
「一つでいいんだ。ちょっと、俺の友達の個性が特殊でさ。血液が必要なんだよ。少しの量でいいから、分けたくて」
いぶかしんだ目を今度は呆れ顔に変えて、少女はため息をついて話しはじめた。
「そういう事ならわかりましたわ。妨害工作や不正行為と言うわけではなさそうですし」
そう言って、少女は一瞬で作ってくれた注射針を渡してくれた。
「なるべく貴方が痛い思いをしないように細いものにいたしました。お友達のためと言われては断れません」
「ありがとう」
少女の名前を呼ぼうとして、まだお互いに自己紹介すらしていないことを思い出した。ヒミコのことで頭がいっぱいになっていたようだ。
戸惑っているのを悟られないように言葉を紡ぐ。
「俺は麗日茶虎。よろしく」
言いながら握手を求めるように手を差し出すと、そっと少女もその手を取ってくれた。
「八百万百ですわ。これからよろしくお願いいたします」
「おい、次握力測定。麗日茶虎」
握手を終えてお互い手を離したタイミングで相澤先生が自分を呼んでいた。
「握力か……」
握力計を右手で持って上下からできるだけ強い引力をかける。そうすることで手を傷めることなく、段々と握力計が締まっていく、ギリギリという感触と共に力を咥え続けると急に手に感触が無くなった。
それと同時に何かが壊れる音が聞こえる。
「握力計の破壊により計測不能だ。1t以上だな」
「あっ、不味かったですか?」
壊してしまった事に罪悪感を覚えながら、相澤先生の目を見ると別に怒っているわけでもなくただ記録用紙に結果を書き記していた。
「別に悪かない。それが個性を使った結果だ。まあ、予想外ではあったがな」
抑揚のない声でそう言われ、怒られると思っていたため内心で安堵のため息を漏らす。
「それより早く、ヒミコのところへ行かねえと」
行動すると同時にそんな言葉が口から漏れ出ていた。
順番待ちで並んでいるヒミコの元へ駆けつけると、そこには笑顔で順番待ちをしているヒミコと自分の番が終わってヒミコに話しかけに来ているお茶子がいた。
「どうしたんだ、お茶子」
「兄ちゃん、ヒミコちゃんの個性、人の血飲まないと効果ないから、飲ませに……兄ちゃんは?」
「俺も同じく、ヒミコに血を飲ませに来た」
「血を飲ませてくれるんですか!優しいなー二人とも」
嬉しそうに眼を細めるヒミコに、先ほど八百万からもらった注射針で自分の人差し指に穴を開けて、ヒミコの口の前まで持っていく。
その指を舌でなめて、血を吸うヒミコ。だったが、そのまま茶虎の指を口の中へと持っていき、そして文字通り吸いついた。
「……チゥ」
思いっきり吸っているが、そもそも細い針で穴を開けているため血の出が悪い。そこに意地になって思い切り吸いつくヒミコは何と言うかこう欲望を刺激するなにかがあった。
これ以上はいけないと、慌ててヒミコに掴まれている手を振りほどいてヒミコの口から自分の指を取りあげた。
「吸いすぎだ。ちょっとの量でも、この時間中なら大丈夫だろ?」
「だって美味しいんだもん!もっと吸わせてほしいです!」
「だってもくそもあるか!もう、お茶子からは吸うなよ俺のをこんなに吸ったんだ。もういらんだろ!」
「えー嫌です」
茶虎の言葉に不貞腐れた表情をするヒミコ。これ以上されたら、なにかとても不味いことがおこりそうな気がして慌てて両手をポケットの中に突っ込んだ。
「嫌じゃない。好きなだけ飲んでも良いのは俺との勝負に勝ってからって約束だろ?」
「そうでした。そういえばそんな約束随分前にしたんでした」
「おい、次渡我被身子」
「じゃあ、行ってくるのです!」
そう言って握力測定に向かうヒミコの背中を目で追った。これで、どうやら問題はなさそうだ。多少、劣化するとは言っても、さすがに自分と同じ程度の力が使えれば立ち幅跳び、反復横とび、ボール
投げ程度は何とかなるだろう。
これで最下位になる心配はなさそうだ。
その後、何も特質するような出来事もなくボール投げになった時、事件は起こった。
緑の髪の少年がボールを投げようとした瞬間、相澤先生の首に巻いてあった包帯のようなものが取れ、先生の髪の毛が逆立つ。
「末梢ヒーローイレイザーヘッド」
その少年の言葉に自分はピンとこなかった。自分と同じく、他の生徒もピンと来ていないようだ。
「お茶子、知ってるか?」
「ううん、わからん」
「ヒミコは?」
「私もわからないです」
相澤先生の正体がヒーローだということが雄英高校の特性上わかってはいたが、どうやら個性を抹消する個性と言うものらしい。
その後、少年は指の力を解放してボール投げをクリアした。
だが、その指はボロボロになり力の代償として大きすぎる負傷を起こしていた。
「凄い個性だが……」
自分も似たような状況に陥ったことがあるからわかる。限界を超えて個性を引き出そうとするとき、その代償として体が重くなる。通常なら重くなる程度で済むが、限界を超えたその先は先の入学試験の時の結果として現れた自らの体の骨も砕くような重力に当てられることだ。
爆豪とひと悶着あったが、痛みで涙目になりながらボール投げを終えて戻ってきた少年に声をかけた。
「大丈夫か?俺は麗日茶虎よろしくな」
「僕は緑谷出久です。大丈夫ですと言いたいんですけど」
そう言って緑谷は苦笑いを浮かべる。どうやら、見た感じ骨が折れているのは明白だろう。それも恐らくは複雑骨折だ。
「いや、なんだか緑谷の個性ってさ、限界を超えてるって感じだよな」
「そう……だね」
その気不味そうな表情にそれ以上、込み入った話はできなかった。超強力な個性の代償としてはあまりに、理不尽なデメリットに内心何とかしてあげたいと感じる。
「調整ってできないのか?」
「やろうとしてるんだけど、それが難しくて」
「そりゃそうか。俺たちの学生生活だって始まったばかりだ、これから一緒に頑張ろうぜ」
「でも、最下位は除籍処分だって……」
もし、そうなったら学校側に直談判するしかないだろう。相澤先生相手にそれが通じるかはともかくとして、それでももしそうなった時、必ず力になろうと思い励ますように緑谷に告げた。
「大丈夫だ。何とかならなくても何とかしてやる」