僕のヒーローアカデミアー麗日お茶子の兄ー 作:トガ押し
教室に戻る途中。ちょうど、教室の扉の前で良く見る顔と前に見た顔が一つずつ。こちらの顔を見つけて笑顔になるヒミコと、以前入試の時に協力してもらった蛙吹梅雨だ。
同じクラスになったことはわかっていたが、どうにもいきなりの個性把握テストで挨拶ができずにいた。二人に近づいて声をかける。
「あれ、ヒミコと蛙吹さん」
「梅雨ちゃんと呼んで茶虎ちゃん」
「茶虎!梅雨ちゃんと待ってたです」
入学試験の時に会ったことがあるとはいえ、自分が教室まで帰ってくるまでの間に随分と仲良くなったものだ。待っていたと、言われて悪い気はしないが、いきなり「梅雨ちゃんと呼んで」はこう抵抗感が拭えない。それと名前の呼び方もだ。さすがに、この年になってちゃん付けされるとは思っていなかった。
「蛙吹さん、ごめん。いきなり梅雨ちゃんはちょっと呼びづらいよ」
「なんでですか!カアイイじゃん!茶虎も梅雨ちゃんってよんだ方がいいと思うのです」
「自分のペースでいいわよ茶虎ちゃん」
顔を近づけて猛抗議してくるヒミコの頭を掴んで引き剥がすと梅雨がにっこりと笑ってそういった。
「そう言ってくれると助かる」
「ケロ?そういえば言葉遣いが違うわね」
「まあ、色々とあって」
さすがに妹に頼まれたからとは言えずに曖昧に濁した。それを察知してくれたのだろう、梅雨もそうとだけ返事をしてそれ以上は聞いてくることはしなかった。
「茶虎!放課後梅雨ちゃんとカフェに行こうと思うのです!茶虎も行こう!」
「悪い。誘ってくれたのは嬉しいんだけど用事があるんだ」
今日の放課後からしばらくバイトのシフトが入っている。何十社も受けてようやく受かったバイトだ。流石に初日からすっぽかすわけにはいかない。
「えー、用事なんて断ればいいじゃないですか!」
むすっとしたような表情で突っかかって来るヒミコの肩に梅雨がそっと手を置いた。
「ダメよヒミコちゃん。無理強いをするのは良くないわ」
「でも……」
「良いのよ。私たちだけで楽しみましょ」
そう言って梅雨はウインクして見せる。スマートな対応に改めて凄いと感じてしまう。梅雨の大人な対応に、ヒミコも不貞腐れた表情を笑顔に変えて、梅雨の手を取った。
「わかりました!茶虎がいなくても梅雨ちゃんとお茶子ちゃんと楽しむです!」
「そりゃよかった。じゃあ、教室入ろう」
そうして、三人で教室の中へと入っていく。
結局、この日は普通の学校行事と同じように資料に目を通したりガイダンスを聞いたりで終了してしまった。最初に個性把握テストをやらされたため、いきなり授業があるのではないのかとか、他のテストがあるのではないかとも思ったが何事もなく放課後を迎えることとなった。
「終わったか……」
放課後もう一度、渡された資料に目を通していたら気がつけば既に教室には人影が無くなっていた。ヒミコもお茶子もいないようだ。ヒミコは梅雨とカフェに行くと言っていたためいない理由はわかるが、お茶子は帰る時ぐらい声をかけてくれてもいいだろうとも思ったが今日から高校生だ。そこまで一緒というわけにもいかないだろう。
「俺も帰るか」
一人になった教室で、鞄を持って席を後にした。やはり雄英高校の校舎は広かったが流石に一度通ってしまえば道も覚えるものだ。
玄関を出てまっすぐ歩いたところでお茶子と緑谷、それから身長の高いメガネの少年を見つけたので駆け寄った。
「こんなところで三人でなにしてるんだ?」
三人集まって話しこんでいるようで、茶虎が近づいていることに気がつかなかったようだ。緑谷などは明らかにビックリした顔をしてこちらを見ている。
「あ、兄ちゃん」
「お兄さん!?」
お茶子の声に緑谷が更に驚いた顔をした。一体何を考えていたのやら。
「君は確か……」
メガネの少年が顎に手を当てて思案するそぶりをする。何かを思い出そうとしている素振りに、茶虎が先に口を開いた。
「あー、麗日茶虎。こっちの麗日お茶子の兄だ」
「無限女子の!」
一体無限女子とは何なのか、わからないままでも特に問題なさそうなのでスルーした。
「俺は飯田天哉よろしく頼む」
そう言って差し出された手を握り返す。
「こちらこそよろしく頼むよ飯田。緑谷は個性把握テストの時に自己紹介済ませたから自己紹介いらないよな?」
「大丈夫だよ麗日くん。個性把握テストのときは声かけてくれてありがとう。本当に最下位除籍にならなくて良かったよ……」
肩を落として心底安堵した様子の緑谷の背中を軽く。
「まあ、全ては結果次第ってことだ。これから頑張っていくしかないだろ」
そう言って四人そろって歩き始めた。
「そういえば、麗日くん。君の個性も変わっていたね緑谷くんの個性も変わっていたが」
「ん?ああ、俺の個性は”グラビティ”重力操作ができるってだけなんだが結構応用が利くんだよ」
「私の個性の真逆なんよ」
茶虎の言葉にお茶子が補足のように付け足した。確かに、重力。引力と遠心力を操ることができるが、お茶子のように完全に引力と遠心力を0にする事はできない。お茶子が0にできるとしたら茶虎の個性はマイナスかプラスかにしかできない。だから逆と言えば確かに逆ではある。
「50m走の時、一気に加速していたように見えたがあれも重力操作かい?」
「いや、あれは重力を使って空気を圧縮して自分の背中を思い切り押しただけ」
「なんか凄いね。デメリットとかなしで色々使えるのってなんか羨ましいや」
茶虎の言葉に緑谷が人差し指に巻かれた包帯を見つめながら言う。
「いや、デメリットがないわけじゃない。お茶子が自分の個性で酔うように、俺も自分の個性で抱えるデメリットはあるよ」
「そうなの」?
「ああ、体が重くなるんだ。例えるなら自分の体重が二倍や三倍になる感じ」
もちろんソレを補うだけの事ができる個性だと言うことも自分の中では把握している。限界を越えなければの話ではあるが。
それぞれの個性についての話をしながら気がつけば駅に辿りついていた。日はまだ傾いてもいないが、ゆっくりとしていてはバイトに遅れてしまう。
「それじゃ、俺はこっちだから」
三人が乗る電車とは別の路線の方へと歩こうと背中を向けたところで背中にお茶子の声が届いた。
「兄ちゃんどこいくの?家、そっちじゃないよ」
「ちょっと用事。あんまり遅くならないから心配いらないよ」
お茶子に答えて三人に背を向けて後ろ手に手を振った。
今日から始まるバイトへ向けて目的地までの電車に揺られた。