僕のヒーローアカデミアー麗日お茶子の兄ー 作:トガ押し
電車にしばらくゆられ、ようやくバイト先につくことができた。バイトが始まる時間まで残り15分だが、これくらい早くても大丈夫だろう。
一息呼吸をついて事務所の扉を開いた。
「麗日茶虎くんだね。待ってたよ」
そう優しく出迎えてくれたのは、茶虎の雇い主になるバトルヒーローガンヘッドだった。
「今日からよろしくお願いします」
面接の時に一度あっているが、その見た目とは裏腹にやはりしゃべり方は可愛らしい。
「うん、良い挨拶だね。じゃあ、早速だけどこっちきてね」
ガンヘッドに連れられて向かった先はパソコンが何台も並ぶ部屋だった。どうやら事務所的な場所のようだ。
「茶虎くん、パソコンは触れる?」
「一応、一通りは使えます」
中学の必修科目でもあるパソコンによる授業はそこそこ成績が良かった。そういった物への興味もあったので、ちょうど良いと思ったのだ。
「茶虎くんは仮免許も持ってないから雑務をお願いするね。細かいことは僕かあそこにいるお姉さんに聞いてくれれば教えるからね」
「わかりました」
ガンヘッドに案内されて椅子に腰を下ろす。背もたれにもたれかかって目の前に置かれている資料に目を通した。
「今日のところは何処までできるかわからないから、こっちの書類からかたずけてもらうね」
「はい」
ガンヘッドに返事をして早速仕事に取り掛かった。
困ったことがあればその都度、ガンヘッドや事務所の先輩、サイドキックのヒーローなどが色々と教えてくれた。
そのおかげで一つ目の書類は自分が思っていたよりも速いペースで片づけることができた。
「ガンヘッドさん、この資料終わりました。さっき言われた共有ファイルにいれてあります」
「ありがとうね。中々早かったね」
そう言いながらガンヘッドは共有ファイルを確認しているのだろう。その外見に反して操作は軽やかだった。
「うん、完璧だよ。じゃあ、また資料渡すね」
「ありがとうございます!」
ほめられたことが嬉しくてついつい仕事に熱が入る。一度資料を作成し終えたら、もう一度自分で抜けがないことを確認してから共有ファイルに追加していく。
段々と渡される資料も難しいものへと変わっていき、バイトが終わりの時刻に近づくにつれて仕事の効率も上がっていった。
ただ、やはり周りの先輩のようには早くはならなかった。一日目なのだから当然なのだが。
「お疲れ様。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「あ、じゃあコーヒーでお願いします」
「わかったよ」
そう言ってガンヘッド自ら事務所の人間全員に飲み物が渡されると、ガンヘッドが口を開いた。
「みんなお疲れ様。いったん休憩にしよ」
その一言を皮きりに仕事中だと張りつめていた空気が一瞬でゆるんでいく。
あらかじめ用意していたのだろう切り分けられたケーキも後からみんなの元へと持ってきてくれた。
「そういえば茶虎くん、雄英高校だったよね」
「はい。今年入学できて一年生です」
「そうなんだ。でも、なんでバイトしようと思ったの?学業との両立は大変だよ」
ガンヘッドの言葉に、言葉が詰まったが数受けた面接の中で唯一自分を採用してくれたガンヘッドには伝えても良いだろうと判断して茶虎は口を開いた。
「実はうちの実家建設業をやってるんですけど、正直業績が良くないというか……悪いんですよね……両親は好きなようにやっていいと言ってたんですけど、俺と俺と同じ年の妹が雄英に通うことになって、実家を離れて暮らすって時にお金がかかるって頭を悩ませてる両親を見てしまって、少しでも負担を減らせたらと思って」
一息にしゃべりすぎて少し息が苦しくなった。それでも、一旦呼吸を整えてから再び話しはじめる。
「だから、バイトをしたかったんです」
まっすぐガンヘッドの目を見て話した。
「すごいね!高校生でそこまで頑張ろうとするこ久々に見たよ。茶虎くんはヒーロー科だよね?」
「はい、そうです」
「じゃあ、バイトが終わったらちょっと付き合ってね」
「付き合う?」
その言葉の意味がわからぬままコーヒーを飲み、ケーキを食べて談笑しているうちに修業時間が来てしまった。
タイムカードを切って、退勤処理をしようとしたところでカードを切ろうとしたその手をガンヘッドによって阻まれた。
「茶虎くん、まだ切らなくていいよ。ほら、こっちこっち」
そう言って腕を引っ張りながらどんどんと進んでいくガンヘッドに何とか体勢を整えながらついていく。
そうして辿りついたのは事務所の中にある武道場だった。落ちても痛みが軽減されるように畳が一面敷いてある。
「ヒーロー科でヒーロー目指すなら、やっぱり格闘技は多少かじってた方が良いと思うんだよね。だけど、その前に一旦茶虎くんの個性と身体能力を見せてもらうね」
ガンヘッドの問いかけに、素直に応えていく。どういう個性なのかどういったことができるのか、などなど多岐にわたる質問からまだできそうだけど挑戦してないものというのが沢山あることに気づかされた。
「そっか、重力。引力と遠心力を操る力ね。それならガンヘッドマーシャルアーツとの相性もよさそうだね」
一通り話し終えたガンヘッドが構えてから再び話しはじめた。
「個性って言うのは基本、相性があるんだよね。火は水に弱いみたいに。それをいかに自分のフィールドに持っていくかっていうのがヒーローの戦い方なんだよね」
「そうですよね」
どんな状況でも駆けつけるヒーローなんてオールマイトぐらいしか知らない。いや、世界中どこを探してもオールマイトしかいないだろう。
「僕だって、個性ガトリングなんだけど得意なのは肉弾戦なんだよね。だから、ヒーローはヴィランとの相性によって戦うかどうかも選択できるんだよ」
「でも、それは……」
一般市民を見捨てることになるのではと危惧した言葉をガンヘッドは察知したのか優しく口を開いた。
「だからって現場に駆け付けないわけじゃないよ。現場に行けば、戦闘以外にも避難誘導とかやらなければいけないからね。それに、もし不利な個性相手に前に出ていって負ければ、それこそ一般人を多く死なせることになってしまうよ。だから、災害救助を主に担当しているヒーローも戦闘ができるように訓練するのが必要なんだよね」
ガンヘッドの言葉の重み、その重要性に思わず感服してしまった。
「だから、茶虎くん。今日からバイト終わりに少しずつ鍛えてあげるね。あんまり遅かったり、ヴィランが現れた時にはできないかもしれないけど」
「ありがとうございます!」
願ってもないプロヒーローから教わる機会に、全力でお礼を言った。
「じゃあ、基礎トレからやろうか」
そうして、ガンヘッドによる特訓が始まったのだった。