僕のヒーローアカデミアー麗日お茶子の兄ー 作:トガ押し
「じゃあ、今日はこのあたりにしようね」
ガンヘッドのその言葉を聞いた瞬間、茶虎はぐったりと地面に倒れこんでしまった。全身の毛孔という毛穴から汗が吹き出し、呼吸が完全に乱れ切っている。
「き……きつかった……」
呼吸を整えながらなんとか絞り出した声で、ついつい本音が漏れてしまう。
基礎トレから、体術訓練、捕縛訓練、模擬戦闘訓練と立て続けに行い何度吐いてしまったかわからないくらいに追いつめられた。
正直、息も切らさずそれに付き合っていたガンヘッドを何度も化け物だと思ってしまった。そして、プロヒーローがいかにしてすごいのか。自分が目指すものがどれほどのものなのかを身をもって体験することができた。
ものすごく辛かったが、やはり実感として体感してしまうとプロと学生では雲よりも高い壁があるのだと改めて実感させられる。
「お疲れ様。初日から良く頑張ったね」
そう言って冷えていない水を差し出してくれるガンヘッド。ものすごく喉が渇いていたので、上体を起こして水を受け取ると一気に流し込んだ。
冷たくないのが惜しいくらいに、いつも飲んでる水が美味しかった。
「冷たくないのはごめんね。でも、運動した後に冷たいものを飲むのは本当はあんまりいいことじゃないんだよね」
ガンヘッドが続けて言った言葉に、昔確かにテレビでそんなことを言っていたことを思い出す。
「大丈夫です。凄く美味しかったです」
空になったペットボトルを手にしたまま立ち上がった。
「そう、よかった。じゃあ、今日はお疲れ様。また、明日からもよろしくね」
「はい、ありがとうございました」
ガンヘッドの事務所でのバイトと特訓が終わり、茶虎は事務所を後にした。
「ガンヘッド。どうして特訓なんかしたんです」
事務所のデスクに座って残りの仕事を片付けているガンヘッドに一人の女性が話しかけてきた。パソコンで事務処理をしている手を止めてガンヘッドは女性の方へと向く。
「なんか、ほっとけなかったんだよね。正直な話をするなら、バイトの面接に来た時点で断るつもりだったんだよ」
「そうなんですか?」
初めて聞いたその言葉に女性は驚いた顔をする。
「うん。だけど、生活費のために働きたいっていったその眼があまりにも真剣だったから、思わず採用しちゃった」
言いながら笑ってしまったガンヘッドがマスクに手を当てながら必死に笑いをこらえる。
「それに、若い芽を育てるのも先達の務め……と言うのもあるけど、プロになったらぜひサイドキックに欲しい人材だと思ったんだよ。妹さんとの生活費のために必死にバイトと学生の二足の草鞋をしようって子が、悪い子のはずがないからね」
そう言って、再びガンヘッドは再びパソコンに向かい直し、そして。
「それに、彼なら……」
そこからの言葉は聞き取れないくらいの小さな声だった。しかし、そのマスクの下でガンヘッドは不敵に微笑んでいた。
家に辿りついた時には既に夜の9を超えていた。一応、帰る前には連絡を入れていたので大丈夫だろう。
「ただいま」
「おかえり茶虎」
鍵を開けて玄関の中に入るとちょうどお風呂に入っていたであろうパジャマ姿のヒミコが脱衣所から出てきたところだった。
いつもは団子にしている金髪が降りている。いつもは先にお風呂に入って部屋にいるので、あまり見ることはなかったが改めて見ると昔よりも随分と髪が伸びたなと、そんなことを思った。
「どこ行ってたんですか?私にもお茶子ちゃんにも伝えないで」
「いや、ちょっとバイトにな」
「バイトって、学校あるのに大丈夫ですか?」
「大丈夫だって、別に学校に支障がでるようなことはしないから」
近くに寄ってくるヒミコに笑って伝えるが、ガンヘッドとの特訓は学業に結構な支障がでるような気がする。
「それならいいです!ごはんできてるよ、食べるよね」
「食べるよ」
「準備するので、着替えるのです」
ヒミコの言葉に相槌を打って、リビングに向かっていくヒミコを目で追いながら部屋へと戻る。部屋に入ってすぐ、緊張の糸がほどけてしまいフローリングに倒れ込んだ。
体のあちらこちらが痛い。特に、ガンヘッドマーシャルアーツを喰らった関節などが。それでも大部分で手加減されているのがわかってしまう。
これほどまでの実力差があるとは思っていなかった。悔しいと思ってしまった。それが涙となって顔の横を伝ってフローリングにこぼれ落ちる。
もっと実力をつけねばと気合いを入れて立ち上がり、ヒミコのまつリビングへと着替えて向かった。