僕のヒーローアカデミアー麗日お茶子の兄ー 作:トガ押し
試験会場E
「広いですね!」
「本当に一つの街って感じやなー」
ぼーっと街を眺めていた瞬間、アナウンスが流れた。
『はいスタート!どうした?本番にカウントダウンなんてねえんだよっ!』
プレゼントマイクのその言葉と同時に多くの受験者が試験会場の中に向けて走っていく。その背中を見ながら唖然と口を開けるしかなかった。
「はぁ?」
「茶虎行かないんです?」
「出遅れたっ! って、ヒミコは行かんのか?」
「だって、茶虎と一緒に行きたいですから」
「これ試験やってわかってるんか?」
「いいんです。私は茶虎と一緒に行動します」
その言葉に受検者たちの後を追うため地面を蹴って走る。
「ヒミコ、行くぞっ!」
「わかりましたっ!」
受験者による大乱戦の中、仮想ヴィランを見つけ出すために全速力で駆け抜ける。仮想ヴィランを見つけ次第、手当たり次第に攻撃し、破壊する。
「ヒミコ、そっちはどうや?」
「大丈夫です。茶虎より多くのポイント取っていますから」
「言うやないか!」
背中を突き合わせながら、飛び出してきた仮想ヴィランを見つけ磁石が反発しあうように互いの敵の方へ向けて弾き飛ぶ。
「倒れろやっ!」
仮想ヴィランの周りの重力だけを20倍にして叩き潰す。最初、10倍程度で攻撃していたが、それでは流石に動けなくなる程度だった。破壊するために、より強い力を引き出さなければならず、自ずと体が重くなって行く。
「くっそ、これからやって時に……」
仕方なく、攻撃に裂いていたリソースの何割かを自らの体を軽くするために重力を反対方向へ向ける。そうすることで、今までよりも軽快な動きができるようになった。
適当に見つけたマンションの壁を蹴りあがった瞬間、目の前で壁に張り付いている者を見つけてしまい、慌てて急制動をかけ重力操作で張り付いてる者の隣、ビルの壁面へ立った。
「危ないやんか……」
「ごめんなさいね」
まるで人型カエルのような少女が変わらぬ表情で話しかけてきた。少しビックリしたが、それでも精一杯の笑顔を貼り付けてその言葉に答える。
「こっちこそ、注意をしてなくてすまんかった。次からは気いつけるから」
その瞬間だった。巨大な爆発音と共に目の前に何か巨大なものが蠢く。ここから見えるその全長は優に、この街のビルを超えていた。
やばい。そう確信した。あの巨大な仮想ヴィランは確かにお邪魔虫だ。間違いない。
「しゃ―ない、逃げ……」
次の言葉が出るよりも早く、巨大仮想ヴィランが動いた衝撃により自分たちがいたマンションが倒壊を始める。
重力を反転させて壁から飛び退いた先、先ほどの少女が飛びのき貼りついた瓦礫の上から更に瓦礫が降り注ぐ。
「くっそ!」
その時、体が考えるよりも先に動いていた。
重力によって超高密度に圧縮した空気を手と足に溜めて、足に溜めた空気を弾くことで超加速で少女へと接近する。そのまま、蛙少女を左手に抱え込んで降り注いできた瓦礫を右手に圧縮していた空気によって上空へと弾き飛ばした。
「ケロっ!?」
「舌噛むぞっ!」
左手で抱えた少女を脇に抱えて瓦礫が降り注ぐ場所から退避する。
なんとか辿りつけた場所はギリギリ瓦礫の降り注ぐ場所の範囲外だった。
「助かったわありがとう」
「礼を言われることやないって。にしても、あれはやばいなー」
「大丈夫ですか!茶虎!」
そこへ、事態を見ていたのかヒミコが駆けつけてきた。どうやら、相当急いで来たのだろう普段ひょうひょうとしている態度からは想像もできないほど、体に汗をかいていた。
「大丈夫やって、それよりアレなんとかせんと」
「できるのですか?」
「一応でんことはないけど……高さが足りん」
「高さですか」
「自分の体に超重力を纏って、自重を何千倍にも膨れ上がらせる。その威力で上空から体当たりを仕掛ければ、多分行動停止くらいにはできるはずやけど」
思案しながら茶虎は地面に簡易的な図を描いて見せる。
「ヒミコ、悪い俺を打ち上げられるか?」
「うーん、ムズかしいです。もうちょっと血をもらえば頑張るけど」
「私も協力するわ」
そんなやり取りをしていると、ふと蛙少女が口を開いた。その眼には覚悟が宿っているようにも思える。
「私の個性は蛙。蛙っぽい事はだいたいできるの。舌を使って貴方を投げ飛ばすくらいなら、私にもできるわ」
「わかった。じゃあ、ヒミコが俺とこの娘を上空へと打ち出し、君が俺を巨大仮想ヴィランに投げつける。そして、俺がアレを貫通すれば作戦は成功や。準備の時間はないしやるで」
茶虎の言葉に二人が同時にコクリと頷いた。
「ああ、そうや。ヒミコ、血がいるやろ?」
そう言って安全ピンで指を刺そうとしたところで、その手をヒミコに止められた。そして、腕にねっとりとした感触が伝わって来た。
「大丈夫です。もうもらいました」
「あー、瓦礫で腕切ってたのか」
迫りくる巨大仮想ヴィランを見ながら蛙少女を脇に抱えた。
「では行きます。準備はいいですか?」
「あ、そうだ。君、上空から地上へ戻る時は……」
「大丈夫よ。瓦礫に舌で捕まれば無事に着地できるわ」
「そうか、ならええな」
「行くです」
そう言いながら、ヒミコは自分の腕だけを茶虎の腕に変身させて二人を上空へと打ち出した。
天高くへと放り出される二人。その勢いは予想以上に早く、そして予想以上に更に高くへと飛ばされた。
「高すぎやっ!ヒミコの阿呆!」
その距離、仮想ヴィランの更に約300メートル上空。
「だけど、これなら狙いやすくなったわ」
「狙いは直上からの一撃必殺!脳天に叩きつけてくれ!」
「任せて!」
勢いよく舌に巻き取られ、そして――。
驚くほど素早く、仮想ヴィランに叩きつけるほどの勢いで投げつけられた。
「軌道修正の必要なし。流石、雄英受けるだけはあるな」
息を整え、両手両足の全てに力をいきわたらせて、高密度に圧縮した空気を背中に纏う。
「超重力発動。俺は弾丸や、何よりも速く、何よりも堅く!」
全身に纏う超高重力で体が軋む。だが、それでも纏った内側に体を守るための重力を張って、多少軽減する。
その間に
「くらいやがれ!グラビティキャノン!」
着弾の瞬間、あり得ないほどの轟音が響き一気に仮想ヴィランの足元まで貫通した。
まばゆい閃光と共に爆発を繰り返しながら、仮想ヴィランは四散していく。
かろうじで残った力を使って重力を天へと張って瓦礫を避けながら地上へと復帰する。
「負けるかってんだ、巨大なだけの敵なんて怖くなんてねえ!」
「大丈夫ですか!」
「大丈夫?とんでもない威力ね」
仮想ヴィランの残骸の上で力なく拳を突き上げた茶虎に駆け寄ってくる二つの影。ヒミコは心配そうにしながらも突っ込んでくる。
「大丈夫やっ……て」
笑顔で応えようとした次の瞬間。全身が軋み、体が地面に釘付けにされた。しまった。使いすぎた。そう思った時には既に遅く。体を像にでも踏みつけられているような圧力に指の一本さえも動かせなくなってしまう。
「うぐっ……」
全身の骨が悲鳴を上げる。自分のグラビティのデメリットが自らを襲う。わかっていたが、今まで受けてきた自身のデメリットの中で最大級にまずいと頭が警告音を鳴らしてくる。
「大丈夫です。私がいます」
そう言うと、ヒミコは先ほど怪我していたところから少しだけ血を吸って両腕を茶虎の腕へと変身させると器用に、茶虎の体を蝕む巨大な重力を相殺させる重力を作り出した。
「大丈夫です。茶虎、貴方は私が救うのです!」
遠のいていく意識の中で、優しい声が耳に届いた。その声に安心してしまい、茶虎は意識を手放した。