僕のヒーローアカデミアー麗日お茶子の兄ー   作:トガ押し

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第4話 入学準備

 試験が終わり家へ向かう新幹線乗ったところで、お茶子がふと口を開いた。

 

「兄ちゃん、さ。合格できたと思う?」

 

 その言葉が重々しく茶虎の耳に刺さった。

 

「どうして、そんなことを聞くんや……」

 

「また、方言。直してっていっとるやん」

 

「そういうお茶子も、方言やないか」

 

「私はちゃんと切り替えできるからええの。兄ちゃん、そういうとこ私より不器用なんやから注意せなあかんよ」

 

「わかったよ。気をつける……合格できてると思う、か」

 

 お茶子に言われた言葉を口の中で反芻する。そして、新幹線の車窓から見える景色を見ながら自分の獲得したポイントを思い出していた。

 

「たぶん、不合格だろうな……獲得ポイント19だったから。筆記は大丈夫だろうが、いかんせん実技はダメダメだったし」

 

「でも、兄ちゃん凄く満足そうな顔しとるよ」

 

「別にヒーロー科じゃなくても、雄英に入ることはできる。雄英じゃなくてもヒーローを目指す事はできる。けど、父ちゃんや母ちゃんの迷惑になりたくないからせめて国公立のヒーロー科が良かったんだけどな」

 

 そう言って、一旦言葉を区切ってこちらを見つめるお茶子の方を見る。

 

「人助けして、お礼をもらえたんだ。試験に合格するために、見捨てることなんてできないからな。蛙吹さんにお礼をもらえただけで満足したんだよ……いや、満足しちまったって言った方が正しいのかもな」

 

「満足しちまった?」

 

「合格できなくて悔しいなんて考えよりも、助けられて良かったって感情の方が大きかった。だから、満足しちまった後悔はなくもないが、これでよかったんだよ俺は」

 

「なんとも兄ちゃんらしいね」

 

「不器用な生き方しとるなーって俺も思うんやけどな」

 

 そう言って苦い笑いを浮かべる。新幹線から夜景を見ながら、自分が目指すヒーローという職業に対してもの思いにふける。

 

 誰かを助け、笑顔にする。そのために、対価が必要ならばせめて自分くらいかけられるそんなヒーローになりたい。

 

「私も、28ポイントくらいしか取れとらへん……合格したいな」

 

「どこも激戦やったからな。でも、今回一般入試の定員が40人ってなんでやろな?」

 

「ヒーロー科の人数増やしたんやないの?」

 

「そうかもしれんな」

 

 そこからはずっと無言で家まで辿りついた。

 

 それから一週間後。

 

 学校も休みなので、家でくつろいでいると友達と外へ遊びに行っていたお茶子が慌てたようにドアを開いて部屋へと入って来た。

 

「お茶子、兄ちゃんの部屋に入るときはノックせえっていっとるやろ」

 

「兄ちゃん!そんなことより、これ!」

 

「そんなに慌てて、その手紙がどうかしたんか?」

 

「兄ちゃん、雄英高校からの手紙やて!手紙!」

 

「受験の結果か!」

 

 その言葉に、慌てて寝転がっていたベットから飛び降りて、お茶子の元へと駆け寄った。お茶子の手に握られているのはどうやら同じような封筒だ。

 

「ほら、こっちが兄ちゃんのやよ。じゃあ、私も自分の結果見てくる!」

 

 お茶子は片方の封筒をこちらへと手渡すとそそくさと部屋へと帰って行ってしまった。

 

「結果……か」

 

 自分の中でできることは全てやったし、もちろん後悔はあるが正しいことをした。けれども、不合格であろう結果を見るのには少し、いや、かなり抵抗が大きかった。

 

「まあ、でも。これが俺のした結果やし、見なあかんよな」

 

 一息呼吸を落ちつけてからその封筒を開封した。

 

 その瞬間、プロジェクターによって投影されたオールマイトによって、言葉が出なかった。

 

 そこからはただただ目の前の映像を見ることで手いっぱいで口を開くこともできずに、その映像に見入ってしまった。

 

 曰く、雄英の教師にオールマイトが就任したこと。曰く、ヴィランポイントとは別にレスキューポイントと言うのが振り分けられていたこと。曰く、担当していたプレゼントマイクによって推薦入学者の数を除外しないまま定員を40名に設定してしまっていたこと。そして、何よりも雄英高校に合格したこと。

 

「っ~……」

 

 あまりの喜びに言葉が出なかった。正しいことをした結果、それが認められたことはやはり嬉しかった。そして、もう一つ。

 

 巨大仮想ヴィランを倒した受験生がもう一人いたこと。それも、どうやらお茶子を助けてくれた少年のようだった。

 

「兄ちゃん!!」

 

「だから、ノックくらいせえ!」

 

 再び、ノックもなしに部屋へ侵入してくるお茶子を叱る。が、その嬉しそうな顔を見れば結果はうかがい知ることができる。

 

「やったよ!兄ちゃん、私合格した!兄ちゃんは!?」

 

「俺も合格した!やったな、お茶子!」

 

 ハイタッチをして喜びあい、両親へ報告した。それからヒミコへと電話をかけた。しばらく電話のコールが鳴った後、電話がつながる。

 

「はい。トガです」

 

「ヒミコ、試験の結果はどうやった?」

 

「……でした……」

 

「なんて?」

 

 電話越しの声が小さくて、何を言っているか聞き取れなかったので聞き返す。すると大泣きしたのかぐずぐずになりながら鼻水をすする音が聞こえてきた。

 

「茶虎!私……合格したです!茶虎とお茶子ちゃんと頑張ったこと、無駄じゃなかったです!茶虎は……お茶子ちゃんは、ちゃんと合格しましたか?」

 

「ああ、合格だったよ」

 

 静かに、落ち着かせるように優しく発した言葉に思わず再び喜びが込み上げてきた。これで、三人そろって雄英高校に通うことができる。

 

「それで、ですね。お茶子ちゃんに代わってもらってもいいですか?」

 

「いいけど、かけ直した方が早いと思うんやけど……まあ、ええわ。変わるな」

 

 そう言ってお茶子の部屋に行き、電話を替わった。

 

 そうして、一時間以上電話が帰ってこないことを不思議に思い、リビングへと行ってみると自分の電話を何故か母親が持っており、そして誰かと通話してるのか畏まった話し方をしていた。

 

「なあ、兄ちゃん。向こう行ったら、三人暮らしになるんやってやったな!」

 

「三人?」

 

 その言葉にしばらく思案するとまさかと思い、目をハッと開く。

 

「まさか、それって……ヒミコかっ!」

 

「そうやって、三人でのルームシェア楽しみやなー」

 

 段々と気が気じゃなくなってきたが、それでも雄英高校という舞台に立つことができた事実に。三人そろって通えるという事実に。嬉しくなって、ルームシェアのことがちっぽけなことに思えてきた。

 

 帰ってこない携帯に後ろ髪を引かれる思いを残しながら部屋へと戻った。

 

 春から始まる雄英高校での生活に胸を躍らせながら。


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