僕のヒーローアカデミアー麗日お茶子の兄ー   作:トガ押し

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第5話 ルームシェア1

 合格発表があってからは速いもので、卒業前に雄英高校の近くで賃貸アパートを探した。3LDKの少し狭い安アパートだったが、渡我家と麗日家の話しあいの末、家賃は渡我家が3分の1を麗日家が3分の2を負担することで落ち着いた。

 

 それから卒業前のちょこちょこと荷物をまとめアパートに送ると、ヒミコやヒミコの両親が荷物を受け取ってくれる手はずになっている。

 

 そんなこんなであっという間に時は過ぎ、卒業をした翌日には友達や家族に見送られながら、再び新幹線に乗って雄英高校がある都心までの道のりを走っていた。

 

 三月だけあってまだ外は肌寒いが新幹線の中は少し暖かすぎるほどに暖房が利いている。

 

「今日から三人暮らし、楽しみやなー兄ちゃん」

 

「それも楽しみやけど、荷ほどきせなあかんから遊ぶのはしばらく後やな」

 

「荷ほどきなんて後でもできるやん!今日くらい遊ぼうや」

 

「ダメや。先に荷ほどきしとかんと後で困るからな」

 

「兄ちゃん、ケチやなー」

 

「やることやってから遊べばええやん。受験も終わったんや、学校始まるまでは多少は遊べるしな」

 

 そんな他愛のない会話をしながら新幹線を降りて在来線に乗り換える。そうこうしているうちに気がつけば降りなければならない駅へとついていた。慌てて電車を降りて、駅の改札を出たところで待っていた私服のヒミコが駆け寄ってきた。

 

「お茶子ちゃん!茶虎っ!久しぶりです!」

 

「ヒミコちゃん!久しぶり!」

 

「久しぶりやなヒミコ」

 

 駆け寄ってきたヒミコはお茶子に抱きついて頬ずりを始めた。一カ月と少し会わなかっただけだが、それでも寂しかったのだろう。

 

 その間もお茶子とは電話でやり取りしているのを何度か聞いていたが、それでも実際に会うのと電話越しでは違うのだろう。

 

「私たちこのままアパート向かうんやから、アパートでまってても良かったのに」

 

「これから二人と一緒に生活できるのを考えたらいてもたっても居られなかったです!」

 

 嬉しそうにする二人を見ながら、その横を通り過ぎ振りかえって、ヒミコに向けて手を差し伸べる。

 

「ほら、アパートへ急ごうぜ」

 

「はい!行きます!」

 

 ヒミコがその手を握り、反対の手をお茶子へと差し出した。

 

「お茶子ちゃんも!」

 

「うん!」

 

 そうして三人で手を繋ぎながらアパートへと向かう道を歩き始めた。雄英高校から2駅離れたこの場所が三人で生活する新しい拠点だ。

 

 駅から10分ほど歩いたところで、目的のアパートが見えてきた。見た目は改装して、そこそこ綺麗な見た目になっているが、それでも築35年と言う事で少しぼろい様な印象を受ける。

 

 このアパートの3階の角部屋が三人で生活するために借りた部屋だ。いや、正確には借りてもらったが正しいが。

 

 ヒミコとヒミコの両親が茶虎やお茶子が調べた情報を実際に行って不動産屋で内見し、契約をしてくれた。本当に、ヒミコの両親には頭が上がらない。

 

「でねでね!まだ誰がどの部屋か決めてないじゃないですか!二人はどの部屋がいいです?」

 

 ヒミコが玄関を開けてくるりと半回転して可愛らしくこちらに向きなおすなりそんなことを言った。

 

 玄関から廊下を通ってリビングに抜ける通り道に一部屋。リビングから直接つながっている部屋が二部屋の計3部屋どの部屋にもベランダがついていて洗濯物に関してもそれぞれで管理ができるためなにかと便利そうだとそんなことを思った。

 

「俺は廊下と繋がってる部屋がええわ。それに、ヒミコとお茶子が隣同士の方が何かと便利やろ」

 

「じゃあ、茶虎がここの部屋希望ってことでいいのです?」

 

「私はヒミコちゃんの隣でええよ」

 

「私もです!お茶子ちゃんの隣がいいです!」

 

 あっという間に部屋割が決まったことで、荷ほどきの作業に入る。思ったよりも作業が難航し、誰も荷ほどきを終えられない状況の中、そろそろ夜の7時を時計の針が刺そうとしていた。

 

「飯ーって、この状況じゃ何か作るわけにもいかんか……」

 

 リビングは荷ほどきされた後の空段ボールで埋まっており、キッチン用品などもまだ段ボールから出されてすらいない状況だった。

 

 そもそも、共用スペースよりも自分たちの部屋を優先させて片付けてしまったのは間違いだったのではないかという疑問を覚えながらも仕方なく、段ボールの中から鍋を引っ張り出して水を張って火にかける。

 

 その間も二人は作業を続けているようで部屋の中から物音が聞こえ続けている。

 

「体に悪いなんて、そんなこと言われてもこれの美味しさには……かなわんやろ」

 

 お湯が沸いたのを確認して、両親に持たせてもらったカップ麺を三つ取り出し、手順に沿ってお湯を注いでいく。白い湯気がなんとも美味しそうな匂いを鼻にまで運んで来てくれる。

 

「めっちゃ腹減った」

 

 お湯を注いで待っている間に、先にセットだけしておいた電子レンジの中にレンジで温めるだけのご飯を2つ入れて温め始める。

 

 そうこうしているうちに、匂いに連れられて野生の獣のような目を二人が部屋から現れた。相当お腹がすいていたのだろう。何故か、手にはマイ箸が握られている。

 

「机の上も荷物だらけやから、てきとーに地面座って食うしかないな」

 

「行儀悪いけど、今日くらいいいよね」

 

「やったのです!ようやく、ご飯が食べられます!」

 

 三人そろったところでいただきますをしてご飯を食べ始める。自分だけはマイ箸を部屋のどこかの段ボールの中に埋もれてしまっているため割り箸だが。

 

 それでも三人で暮らしはじめて初めての夕食がカップ麺になるとは思わなかった。こっそり、父親が出かける前に三人で夕食を食べるためにと渡してくれたお金は明日の夕食にでも使おうとそっと思う。

 

 あれは会社の経営がままならない両親が子供たちのためにと思って渡してくれた大切なお金だから、しっかりと大切に使わなければならない。

 

「美味しいです」

 

 麺を勢いよく啜りながら恥ずかしげもなく大きく吐息を漏らすヒミコを見て思わず笑顔になる。それはお茶子も一緒だったみたいで、三人でそっと微笑みあった。

 

 これから、学校生活も私生活も三人でいることが多くなりそうだなんてそんなことを思いながらふと、試験会場で出会った蛙吹さんが合格できているのかなんて疑問を胸の中に抱いて、みんなと仲良くできたらいいなんてことを思った。


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