僕のヒーローアカデミアー麗日お茶子の兄ー 作:トガ押し
四月になり、ようやく本日から雄英高校に通えることとなる。
持ち物の準備は前日に終えていたので、洗面所で身だしなみを整えてリビングで朝食の準備を始めようとして一つのプレゼント用に包装された箱が机の上に置いてあったことを思い出した。
慌てて、それを手に持って改めて朝食の準備のためにリビングへと向かった。朝食は簡易的なトーストや目玉焼きなども良かったが、元々の食生活が和食がメインだったためやはり朝食は和食が良かった。
昨夜のうちに準備していた味噌汁を温めて、三人分の魚をグリルで焼きはじめる。白米も既に昨夜のうちにセットしていたので、後十分もすれば炊きあがるだろう。
「おはようございます。茶虎」
「兄ちゃん、おはよう」
魚が焼けはじめ香ばしい匂いが漂い始めた頃、既に準備を整えたリビングへ顔をだした。二人とも、既に制服姿で、すぐにせっせと茶碗を並べたりし始めている。
「そうだ、お茶子」
配膳が完了したところで、先ほどの包みをテーブルの上に出す。そのプレゼント用の箱を不思議そうに見つめる目が二つ。当然、お茶子の目だ。
「兄ちゃんからの入学祝いだ」
そう言ってお茶子に開けるように促す。
「なにこれ?兄ちゃん、入学祝とか買うお金あったん?」
そんなことを言いながらもわくわくするように箱を受け取るお茶子。隣のヒミコは既に中身を知っているため、ニヤニヤとした笑顔でお茶子を見つめている。
「一体なんなん?本当に……」
そうして包装を剥がし終えた後、お茶子の目が急激にキラキラと輝き始めた。
そこにあったのは今時の高校生ならば誰しも持っている物だ。女子高生の必須アイテムと言っても過言ではない。
「スマホやん!兄ちゃん、どうしたんこれ!」
感極まってスマホの箱を抱きしめながらお茶子は嬉しさからか舞い上がって、くるくるとその場で回り始めた。
「茶虎と選んだです。どれがお茶子ちゃんに会うかなって」
「まあ、父ちゃんと母ちゃん、説得して通信料をこっちで負担するってことで納得してもらったんやけどな」
そこまで言った瞬間、お茶子の顔に陰りがさした。
「でも、私そんなん払えるお金もっとらん……」
「そこは素直にありがとうでいいんです。お茶子ちゃん」
心配そうな表情をするお茶子に、ヒミコがそっと言葉をかける。いつもとは逆で、今はヒミコの方がずっと年上の姉のように見えた。
「金の事なら心配すんな。兄ちゃんに任せとけ」
「そうです。茶虎なら上手くやってくれます」
「兄ちゃん……ヒミコちゃん……本当にありがとう!」
感動の涙を流しながら、お茶子は隣のヒミコに抱きつく。それがほほえましくて、どうしようもなく笑顔がこぼれてきた。
「ってことは兄ちゃんもスマホに変えたん?」
「いや、俺は今まで通りガラケー。別にスマホにする意味もないからな」
そう言って制服のポケットから自分の携帯を取り出す。今時珍しい、二つ折りの携帯電話だ。あちらこちら塗装が剥げているが、これはお茶子の今まで使っていた携帯電話も同じだ。
「私だけスマホって……」
「お茶子ちゃんだけじゃないです。私もスマホです」
そう言ってお茶子と同じ機種の色違いのスマホを自分のポケットからヒミコは取りだした。スマホは可愛らしいケースで守られており、一つだけストラップがくっついていた。
「俺は良いから、スマホの使い方はヒミコに教えてもらえ……それと、えーっとなんだっけ開通テスト?とかなんとかしなきゃあかんみたいやで、ようわからんからそれもヒミコに聞いてや」
もうそのあたりの説明は購入するときに聞いたがさっぱりわからなかったので、諦めた。
「兄ちゃん、また方言でとるよ……でも、ありがとう!」
「よしよし、それでいいのです」
素直にお礼を言うお茶子の頭をヒミコは優しく撫でる。
「なんか最近ヒミコちゃんに頭撫でられてばっかやな私。ダメやな、今日からもっと頑張らなあかん」
「それはダメなことじゃないです。自分の感情に素直で入れることはとてもいいことです」
どこか思うところがあるのだろうヒミコは目を伏せる。
「それより、早く飯食わんと冷めてまうぞ」
茶虎の言葉に三人での朝食を始める。今日から名門雄英高校ヒーロー科に通えるのだ。
談笑しながらゆっくりと朝食を食べれば出発の時間が近づいてきていた。朝食を食べ終わり、歯を磨いて忘れ物のチェックを行う。一通り、準備が完了して三人そろって駅への道を歩き始めた。
「はー、緊張するー」
「どんな子が一緒のクラスになるか楽しみです!」
「推薦入学者ってどんな奴らなんだろ……」
三者三様、自分たちの考えを口にしながら歩く。
「推薦入学者の枠って二人だったよね?やっぱり、凄く強いのかな?」
「せめて在学中に一回は勝負して勝ちたいなー」
「兄ちゃん、気合い入りすぎ。そんな勝負だなんて」
「でも、きっと模擬戦闘とか沢山やるんですよ。楽しみだなー」
「良いじゃん。意気込みって大事やし」
「それはそうやけど~!」
「ヒーローになるためのライバルになる可能性だってあるんやし!」
「茶虎、興奮しすぎて方言出てます。お茶子ちゃんにまた言われてしまうのです」
「あー、そうだった。そうだった。よし、頑張るぞ」
謎の気合いを入れながら歩く茶虎の背中をヒミコが思い切りバシバシと叩き始めた。それが絶妙に痛くて、思わずうめき声が漏れた。
「何すんのやヒミコ!」
「何って気合い入れたんですが?」
「物理的に気合い入れてどうすんのや!精神的に頑張ろうとしてるとこに、そんなん喰らって面喰ってまったわ」
「本当に何してるの二人とも」
思わず噴き出したお茶子が笑う。その顔は先ほどまでの緊張した顔ではなく、いつも通りの顔だった。もしかして、これを狙ってヒミコは自分の背中を叩いたのかとも思ったが、楽しそうに背中を叩き続けるヒミコを見て勘違いだと気にすることをやめた。
これから、三年間。この通学路を通ることになるなと思いを馳せていると駅へと辿りついた。
これに乗ればもう雄英高校はすぐそこだ。