僕のヒーローアカデミアー麗日お茶子の兄ー 作:トガ押し
「広いなー」
「広いな」
「広いです!」
ようやく辿りついた学校の前で三人ほぼ同時に口を開いた。入学試験の時から広いとは思っていたが流石雄英高校、校舎の広さも桁違いだ。
「1-Aどこやろ?」
「三人とも同じクラスでよかったです!」
談笑しながらクラスの前までやってくると何やら騒がしい声が教室の方から聞こえてきた。既に扉は開かれており、緑の癖っ毛の髪の男の子が扉の前で突っ立っている。
その奥から除く、真面目そうなメガネの男子生徒を視界にいれたところで、気がつけばお茶子が先に緑の髪の男子生徒に声をかけていた。
「そのモサモサ頭は」
「なんだ、知り合いかお茶子?」
「うん、入学試験で助けてくれた人!」
「ああ、そうだったのか。君」
「は、はいっ!」
緊張してるのか、急に姿勢が良くなった少年の目を見ながら姿勢を正して真っすぐに一礼した。
「ありがとう。お茶子を助けてくれて」
そう茶虎が言うと、続けて隣にいたヒミコが満面の笑みで少年の手を握る。
「本当にありがとうです!おかげでお茶子ちゃん大した怪我しなくてすみました!」
感謝からなのか少年の手を取ってぶんぶんと振り回すヒミコをそろそろ止めなければと思った時、後ろに蠢く影を見つけて思わず反射的に飛びのいてしまった。
「お友達ごっこしたいなら余所へ行け」
まるで芋虫のように黄色い寝袋に入り無精ひげを生やした男が、文字通り寝っ転がっていた。転がっていたのか、寝ていたのかは定かではないが。その眼に生気はなく、どことなく不気味な印象を受ける。
「それ楽しいです?」
寝袋のチャックを少しだけ開けてゼリー飲料を飲んでる男に向かってヒミコは笑顔でそんなことを問いかけた。
流石の雄英にヴィランが入り込むことは考えづらいから、先生かとも思ったが先生にしては身なりが明らかに今まで見てきた先生のそれとはまったく違う。
まずいと思い、そのままヒミコの首根っこを掴んで教室の中へ入っていく。少し乱暴かもしれないが、相手が教師だった場合ここで機嫌を損ねるのはこれからの学校生活に支障をきたす事になる可能性が否めない。
今は他の予想を肯定できるだけの要素がないため黒板に書いてある座席表を見ながらヒミコを椅子に押しこんで、自分も同じように席についた。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
寝袋を脱いで自己紹介を始める相澤先生。やはり、先ほどヒミコを引き離したのは間違いではなかったと内心で茶虎は安堵のため息をついた。
「早速だが、これ着てグラウンドに出ろ」
そう言って相澤先生が手に持っていた物は体操服だ。その有無を言わせない態度にクラスの生徒が自分の体操服を持って更衣室へと向かって歩き始める中、ふと相澤先生が口を開いた。
「渡我被身子。そう言えば、お前は去年は雄英受けてないんだったな。どうして、今年は受験した?」
「私は茶虎とお茶子ちゃんと学校に通いたかったです。だから、去年は受けてません」
さらっと先生の質問に答えを返す。まずいことになりそうだという思いがわいてくるが、我慢してこの場の流れに身を任せるしかない。
「やっぱり合理性に欠ける答えだ。ここはそんな考えでやっていけるほどヒーロー科は甘くないよ」
それだけズバッとヒミコに告げると、相澤先生は教室を後にしてどこかへ歩いて行ってしまった。すぐ隣で、悔しそうな顔をするヒミコは茶虎にだけ聞こえる声で呟く。
「それだけの考えでここにいるわけじゃないです……」
「だったら、見返してやればいい。それをするのが生徒である俺たちの仕事や」
「そうです!絶対見返してやるです!」
その返答を聞いて自分の唇の端が自然と持ちあがるのを感じた。
更衣室へと入りささっと着替えを済ませ、みんなに続いてグラウンドへと向かう。全員がそろったところで再び相澤先生が口を開いた。
「個性把握テストを行う」
「個性把握テスト?」
相澤先生の言葉にクラス全員の同時に叫びを上げる。
お茶子が入学式やガイダンスはどうするのかという質問をするが、相澤先生は悠長なことしていられないと言った。
概要は中学でもやっていた個性使用禁止の体力テストの個性を使用版。爆豪と呼ばれた生徒が相澤先生に呼ばれてソフトボール投げを行う。
どうやら爆豪の個性は爆発させる個性のようでソフトボールが手から離れる瞬間に爆発を発生させて、その爆風でより遠くまで飛ばしているようだった。投げる瞬間不穏な言葉を言っていたが、その結果は705.2mという結果だった。
「面白そう!」
ピンク色の体の少女がその言葉を放った瞬間、相澤先生の雰囲気が変わった。これはまた不味いことがおこりそうな予感がして、茶虎は固唾をのんだ。
「面白そう……か」
そこから少し説教じみた言葉を放った後、よしと言って相澤先生は言葉を紡いだ。
「八種目トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
その言葉に、ぞわりと背筋に悪寒が走る。
「生徒の如何は俺たちの自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
その言葉にお茶子が反論したが、それが意味のないことだと言うことは今までの相澤先生の言葉から十分過ぎるほどわかる。
恐らく、最下位除籍という言葉も真実なのだろう。相澤先生の話しに耳を傾けつつも、自分やお茶子はともかくとして、そもそもの身体能力が低いヒミコの心配が先に来てしまう。
そもそも個性の特性上、ヒミコの個性は通常の茶虎やお茶子の個性とは違い。単体ではあまり意味をなさない。誰かの血液があって初めてその真価を発揮するものだ。
今までヒミコが摂取したことがある血は茶虎かヒミコ、それとヒミコの両親の血のどれかだ。また、ヒミコは個性の特性上めったに個性を使用することができないでいる。
今まで摂取した血液から力を得られるわけではなく、今ここで誰かの血液を飲まなければいけない。それこそ、この個性把握テストでは至難の技だろう。
「どうしたもんか……」
手持ちに針や今すぐ血を出せる道具がない以上、ヒミコに自分の力を分け与えることは絶望的だ。だが、それでも除籍処分にさせるわけにはいかないと諦めるわけにもいかず始まった50m走を見る。
自分の番を走り終えて、50m走が終わる最後の走者が準備をしているタイミングで目にしたもので思いついた。
これならば何とかなるかもしれないと。彼女の個性を借りれさえすれば。