元は盗聴機ハンターから復讐代行までこなす便利屋探偵兼遣り手の強請屋だった指揮官がM4に書類始末のための夜食を買ってきてと頼む話。

注意!この二次創作小説はフィクションです。今のところは実在する人物、場所、団体とは無関係です。また、登場人物が喫煙、殺人、テロ行為を行う描写や間接的に登場人物同士が性行為に及んだとわかる描写ががありますがそれらを助長するものではなく、この小説を書くためのインスピレーションを得る過程で動物や人間を虐待した事実はありません。

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これはフィクション。それも二次創作。しかしこの物語が当たらずも遠からずな現実にならない保証はどこにもない。


M4A1「はじめてのお使い」

1

冷たい夜風に長い髪が揺れる。

どんよりと曇った空とは対照的にその髪の持ち主の少女の表情は明るい。

口元を綻ばせ、爛々と輝く瞳はさながら今日は雲に隠れてる星たちの代わりと言わんばかり。

 

階段を一段飛ばしに駆け下りるその姿はなんだか100点のテストを親に見せに行く小学生みたいにウキウキをなんとか抑えてる感じだ。

核戦争に崩壊液、超高性能スーパーコンピューター。

そして人類が0人にならない限り無くならないドス黒い欲望。

 

それらが複雑に絡み合った故に訪れた世紀末の世界でなぜ少女は、IOP社により作られた唯一無二の自立型人造人間(アンドロイド)、戦術人形M4A1がこんなに笑顔なのか。それはつい5分ほど前に遡る。

 

 

2

「え、M4ちゃん…。今、何時?てか、何日?」

 

彼女の所属する司令部の若手指揮官は書類仕事が、というか自分が嫌いな物はとことん乗り気になれない人間だ。

その場での素早い判断と捻くれてるとすら言える程の疑り深さを兼ね備え、どこまでも勝利に貪欲な彼だが、あまり周りの評価を気にしないゆえにやらなきゃならないとは理解しているが、報告書に意義を見出せないのだ。

 

「大丈夫です指揮官。まだ日付が変わるまで2時間と37分あります。」

 

「そっか。」

 

青いスクエア型フレームのメガネを外しながらボサボサの髪をかきあげる彼がこの司令部の指揮官だ。

28歳男性。彼女いない歴と年齢は同じ。

一応女性経験はある(らしい)。

元は盗聴器ハンターから復讐代行までこなす便利屋探偵にして遣り手の強請屋だったが、ある時ひょんな事から過激派人類人権団体と対立した時にAR小隊と共闘したのがグリフィン社社長のクルーガーの耳に届き、面白いとスカウトされたわけだ。実際彼は優秀で人よりは早く出世した。しかし前述の性格が災いして現在の地位止まりだ。

 

「いい加減隈を落として髭剃りたい。

膝に軟骨が欲しい。頭が痛い。

なんなら目がチカチカして若干吐き気がする。」

 

「だ、大丈夫ですか指揮官!?」

 

「大丈夫。給料日か休日前にはいつもこんなもんだから。」

 

休日前に副官やってもらうのはじめてだっけ?

そう言って小さく溜息をつくと黒い髪をオールバック気味に撫でつけ、メガネをかけ直す。

 

「M4ちゃん。なんか甘いもの買ってきてよ。俺、糖分不足で頭まわんなくなってきちゃったんだ。」

 

細かいのはお駄賃ね。と言ってダイヤの入った袋を渡した。

 

「分かりました売店まで往復20分もかかりません!すぐに戻ってきます!」

 

 

3

そんな訳ではじめてのお使いを任されたM4はワクワクしていた。

指揮官が、私がこの終わりかけの世界で一番信頼する人間が信頼してダイヤを預けてくれた。

その事実がM4を戦術人形から1人の乙女に変身させていた。

 

(甘いもの甘いもの…そう言えばタピオカミルクティーの店がまだ開いていたはずです!)

 

すぐに足を西に向ける。

書類仕事に夢中で気付かなかったが一雨降った後しい。

パチャパチャと水溜りをはねるのも気にせずM4はお気に入りの歌を口ずさみながら向かった。

 

(よかったまだ空いてる。)

 

売店の方に行こうとしたが誰かがいる。

外灯にてされてシルエットが見えていた。

サイドテールに平均的な身長。そして小柄な体格。

胸元でタピオカの容器を持ってる彼女をM4は知っていた。

 

(UMP45……)

 

AR小隊のライバル(?)404小隊の隊長のUMP45だ。

なぜ彼女と分かったか。

それは簡単ズバリ彼女は404小隊の中で一番貧にゅ………スレンダーなのだ。

 

どれぐらい無いかって今まさに俗に言うタピオカチャレンジをやろうとしているが、ほぼシャツの布だけでタピオカを持ってる状態なぐらい。

 

しかも本人かなり気にしてるらしくその事を指摘しようものなら彼女は普段つけてる笑顔の仮面をかなぐり捨てて指摘した相手の顔面を粉砕しに行くらしい。

 

(今彼女の視界に入ったらお使いどころの騒ぎじゃ無くなる気がする…。)

 

己が虫の知らせを信じてM4は足音を立て無いように注意しながら東に急いだ。

東は公園のようになっていて高い木が幾つも立っていた。

 

(ここは空気が幾らか綺麗な気がします。)

 

軽く深呼吸をし、再び歌を口ずさみながら歩く。

沈みかけた気持ちは割とすぐに戻って来た。

歌に合わせてくるりと回りそうな気分でM4はふと、この東の並木で始めて指揮官と話した時の記憶を再生した。

 

 

 

お昼休みにどこかで一人で弁当を食べようとしていた時たまたまタバコ(確かお気に入りの銘柄でキャメルと言う)と睨めっこしていた指揮官にあったのだ。

 

「やあM4ちゃん。今お昼?」

 

先に見つけたのはこちらだったが先に話しかけて来たのは指揮官だった。

 

「はい。…あの、お邪魔でしたか?」

 

「吸うのにって事?全く。吸わないって決めたとこ。」

 

「私が、来たからですか?」

 

「いや、ここの空気を副流煙で穢すのが忍びなくてね。」

 

「はぁ……。」

 

「自然愛的思考って奴さ。何しろ残り少ない緑だからね。」

 

「……指揮官が人間を殺さないのも残り少ないからですか?」

 

彼は指揮官になってから一度も人を殺した事も部下に殺せと命じた事もなかった。

 

「!?…ハハハ!M4ちゃんは俺が人類愛を持ってるように見えると?まあ、残り少ない人類ではあるけど、ちょっと違うかな?」

 

「違う?」

 

「あぁ、一瞬でも殺そうと思う人間って嫌いかどうでもいいかの二択だと思うんだ。だから結局生きてたって仕方ない人間って死んでたって仕方ない人間って事なんじゃ無いかな?ってね。

もしかしたら今更ながら単純に生理的に人を殺したく無いって思ってるだけかもだけど。」

 

「つまり、指揮官は人間に絶望してるんですか?」

 

「絶望、絶望ねぇ。強いて言えば絶望より失望かな?

初めから期待して無いものには絶望しようがないからね。」

 

「? 絶望と失望は違うんですか?」

 

「こればっかりは理解より実感の方があてになるから説明するのは難しいね。ま、ゆっくりラーニングしていけばいいさ。」

 

そう言って指揮官は優しくM4の肩を叩いた。

 

 

 

今ならわかる気がする。

きっと今の私は指揮官に希望を抱いている。

だからもし指揮官が私達を裏切る事があれば絶望するんだろう。

絶望は希望から突き落とされた時に、失望は希望が無になった時に感じる。

M4はそう考えていた。

 

ならそれは素晴らしい事だと思った。

なぜなら自分は指揮官に失望だけはしないからだ。

希望にせよ絶望にせよ指揮官に熱い思いを抱いていられる。

常に指揮官は側にいる。それがどうしようもなく嬉しかった。

 

(こうやって胸が高鳴る限りは、いつか指揮官に想いを告げられるのかな?)

 

そう言ってしばらく歩みを進めていると向こうから誰かが歩いて来た。ダイナゲートでも連れているのか?動く影が二つある。

 

(あれはUMP9と…………G、41?)

 

「あはははは!」

 

「ワンワンワンワン!」

 

それはさっきタピオカ屋の前にいたUMP45の妹にして404小隊のムードメーカーのUMP9と…G41、恐らくだが元は愛玩用人形だった狐耳のアサルトライフル人形だ。

何故かUMP9に革製の首輪をつけられてリードで引かれている。

あと四つん這いだ。M4は見た瞬間に硬直した。

ギギギ、と油が切れたような音を出しながらなんとか首を動かしながら2人(1人と1匹?)をすれ違いざまに見送る。

 

「あはははは!あはははははははははは!」

 

「ワンワンワンワンワンワン!」

 

聴覚を調整して2人の声の周波数をシャットアウトする。

あれ以上あの有様を見聞きしてたら指揮官との思い出が汚される気がした。

 

(変なもの見ないように寄り道なしでいきましょう)

 

今度こそM4は余計な感傷に浸ったりせず真っすぐに売店を目指した。

寄り道さえしなければ余計なトラブルに巻き込まれる心配もないはずだ。

 

(そうです!

寄り道ばっかしてお店が閉まってしまっては元も子もありません!

ただ甘いもの買いに行く程度のお使いに寄り道とかする方がおかしいんです!

ほら、寄り道せず行けばトラブル一つ合わずにたどり着き…不良だ。)

 

無心で歩いていけばトラブル無くたどり着く事は出来た。

しかしたどり着いた先にトラブルがあるなど誰が想像するだろうか?

売店の出入り口に誰かがたむろしている。

 

(HK416にG11…)

 

2人ともさっき遠目に見たUMP45率いる404小隊のメンバーで416はなぜかAR小隊を目の敵にしているのだ。

 

(こ、ここは戦術的撤退を)

 

「あ?誰よそこでこそこそしてるのは!」

 

(気付かれた!)

 

「んん〜?これはこれはAR小隊隊長のM4A1さんじゃあないの?こんな遅くに何の用?」

 

「えっ、えっと…。」

 

誰でもいいから援軍を呼ばなくては。

右手でめちゃくちゃ顔を近づけてくる416を押さえながら空いてる左手で携帯端末を操作する。

 

(この際SOPMOD以外なら誰でもいいです。来てください!救世主!)

 

メッセージを入力して適当な宛先に送信する。

 

「あ?あんた左手で何やってんのよ?」

 

「それは…別に…」

 

「なんかやってんでしょ見せなさい!」

 

「お、M4!416も何やってんだ?」

 

「げっ!その声は…」

 

「M16姉さん!…………にAK-47…。」

 

顔を真っ赤にした二人が肩を組みながら千鳥足で歩いてきた。

手には半分ほど中身のあるジャックダニエルの瓶を持っている。

 

「あ、あんたらまた暴飲してたのね。

一体何軒の店のジャックダニエルを空にしたのよ?」

 

「お?失礼だなテメエ!今夜だけで8件梯子したけど8分の1ぐらいは残して来たさ!」

 

「充分営業不能になるわよ!たく。

これだからあんたのこと嫌いなのよ私は。」

 

「なーにしけた面でしけた事言ってんだよ!

飲み行かないか?折角だしFive seveNやTMPとか誘ってよ!」

 

(地獄絵図になりそう…。)

 

「何よその新手の地獄?てかFive seveNは今ロリスキンだからお酒ダメでしょ?」

 

(あれってお酒ダメなんだ。)

 

「へーきだよ!ナインの奴がロリスキンの時私ら普通に飲ましてたから」

 

「何てことしてくれてるのよ!

てかあの時ナインが行方不明だったのあんたらの仕業だった訳!?」

 

「ああ腹一杯飲んで泡吹きながら白目剥いて喜んでたぜ?」

 

「それただ気絶してるだけじゃないの!」

 

「硬いなお前?M16お前こんなんと長い付き合いなのかよ?」

 

「まぁなぁ〜。肩の力抜けねえ以外はいい奴なんだけどなあ?」

 

「なら肩の力抜ける様にさてやろうぜ?」

 

「AKお前天才!」

 

 

「いやそれ程でもあるけど〜?」

 

そう言ってAK-47は素早く416の背後に回り込み、羽交い締めにする。

 

「しまった!離しなさいこの!」

 

とんでもなく嫌な予感がして素早く物陰に隠れるM4

 

「さあさあさあ!416の、ちょっといいとこ見てみたい!」

 

「あそーれいっきいっきいっき!」

 

持っていた酒瓶を無理矢理口に押し込みジャックダニエルを注いでいくM16。

最初は抵抗していた416だったが次第に顔が蕩けていき最後には二人と肩を組んで譫言を繰り返しながら夜の闇に消えていった。

 

(…私は、何もみませんでした。何も。)

 

端末のログを消し、G11が完全に寝てることを確認するとM4は3匹のモンスターマシンの誕生を見て見ぬふりをして売店に入った。

 

 

 

4

「遅いな。」

 

M4をお使いに送り出してから30分。

流石に遅いなと感じながら指揮官はキャメルにマッチで火をつけた。

窓を開けて外に紫煙を吐く。

円形の煙は風にさらわれ消えていった。

 

(消えていったと言えば、あのお嬢ちゃんは今頃生きてるのかな?)

 

何年か前、自分がまだアウトローだった頃、

一夜だけ抱いた少女を思い出す。純潔だった。

綺麗な肌に整ったボディライン、

そして傷だらけの心と炎を宿した瞳をしていた。

彼女が自分のねぐらに来た時のことは今でも覚えている。

 

「銃を下さい。お礼に抱かれてあげます。」

 

真っ直ぐに、淀みなく彼女はどこまでも真剣な目で彼に言った。

当然彼は彼女を問いただした。

 

「君みたいなお嬢ちゃんが何のために銃なんているの?」

 

「復讐です。」

 

「成る程、で?抱かれようなんて思ったのは何で?身体以外に売るもんないから?」

 

「はい。」

 

即答かよ。昨日大して夜更かししてないのに寝不足の時とよく似た頭痛がする気がする。

 

「いやじゃ無いの?知らない男に抱かれるなんて。」

 

「嫌じゃありません。家族の仇を討てるなら。」

 

自分に言い聞かせる感じがまるで無い。

心底そう思ってる感じだ。

いよいよ頭痛が本物になる。

 

「最後に一つ聞いていいかい?」

 

「何でしょう?」

 

「何で俺なんだ?」

 

「あなたはアウトローのくせに義理堅いせいで儲けと同じぐらい損をしてると評判たがらです。」

 

「ほっとけ。」

 

窓を開けてキャメルをいつもよりほんの少し長く吸った。

 

「そっか………気が変わらなかったら今日の夜またここに来な。

それまでに望むもの用意しとくから。」

 

そして彼女の為に一丁銃を調達した。隠しやすさを重視してそんなに重く無いのを選んだ。

 

(ま、何選んだところで銃なんて近距離ほど使いづらい武器(おもちゃ)だけどね?)

 

わざわざ自分のところに銃を調達しに来るような娘だ。多分武術の心得なんてないし、百科事典より重い物も持ったこと無いような子なんだろう。

 

「そんなお嬢ちゃんが復讐か。」

 

人形に撃ち殺された母とまだお腹の中にいて生まれてもいなかった妹の復讐に燃えていた父を見て育ったせいか、彼は復讐みたいに何かに執着するのを避け、良くも悪くも諦めが良かった。

だからこそ時々絶対に諦められないものが出来た時、果たして自分は幸か不幸か。なんて考えたりする。

 

(ま、間違いなく今の俺は幸福では無いわな。)

 

そんな気分ではどんなにいい女を抱いたところで快楽を感じれるはずもなかった。

 

「………そんなに気持ちよくなかったですか?私の身体。」

 

終わった後急に彼女は聞いて来た。答えにくい事を聞く。

 

「君幾つ?」

 

質問を質問で返したくは無かったがはぐらかす為に尋ねた。

彼女は素直に答えた。自分より4歳年下だった。

 

「君は物心つく前の事覚えてる?」

 

「……全く。」

 

「そう、俺は覚えてる。血溜まりの中に倒れる髪の長い、お腹の大きい女性の姿を。」

 

「まさか…。」

 

「後から聞いた親父の話と合わせて考えると、

多分人形に殺された俺の母さんとまだ生まれてなかった妹だ。

で、俺が物心ついたのが4歳だか5歳だったから、もし妹が生きてたら君と同じぐらいだ。そう考えると、乗り気しなくてね。」

 

嘘をついた。なんとなく母の死体を覚えているのも彼女が妹と歳が近いのも事実だが、乗り気じゃなかったのはただ自分の心は空っぽだからだなんて口が裂けても言えなったからだ。

もしかしたら中途半端にある良心がこんな少女の純潔を奪うなんて。

とか考えていたのかもしれない。

 

「じゃあ、銃ありがとうございました。」

 

手早く衣服を着ると彼女は出て行こうとした。

 

「まちなお嬢ちゃん。」

 

「なんですか?先を急ぐんで手短にお願いします。」

 

「これから仇のところに向かうのか?」

 

「はい。」

 

「そこまでの費用は?」

 

「身体で稼ぎます。」

 

「そんなに復讐が大事か?」

 

「はい。」

 

「復讐しなきゃ死んでも死に切れないか?」

 

「はい。」

 

「じゃあもうお前の中で復讐と生きる事はもうイコールなのか!?」

 

だんだんと声は大きくなり最後にはほぼ叫びだすように言っていた。

流石に気圧された彼女はしばらく固まっていたが元の表情に戻ると

 

「はい。」

 

と淀みなく答えた。

 

「そっか…。」

 

この時彼は葛藤した。

彼女に自分の考えを言うべきか否か。

彼は復讐代行も生業としている。

今からでもそれを引き受けると言いたかった。

だが自分が殺ろうが、彼女が殺ろうが変わらないとも思っていた。

 

彼に殺しを依頼し、仇の亡骸を前にした依頼者たちはだいたい程度の差はあれなんだか覇気がなくなったような気の抜けた感じになるのだ。

中には目の前で自殺した者もいた。

 

理由は簡単。

復讐により心が晴れたという事は今まで心の大部分を占めていた物がなくなる。つまり心が空っぽになるって事だ。

この少女はその虚無感に立ち向かえるのか?そんな我儘な心配が湧き上がる。

しかしそれとは逆にそのまま行かせてしまえと考える自分もいた。

 

「今まで何人そうやって金を払わせて心を壊して来たお前が今更善人ぶるな。

だいたいお前が復讐に否定的なのはあの父親を、復讐心に取り憑かれて人類人権団体なんてもんを作っちまった哀れな復讐の道化を見て来たからだろう?」

 

ああそうだよ。あんな風になりたく無かったから俺は親父のところを飛び出して便利屋を始めた。そのうち復讐代行なんかも副業で始めた。

 

「復讐は人の心に憎悪がある限り無くならないし金になるからな。」

 

全くその通りだ。もう1人の自分にそう返す。

それ以上会話はなかった。

その後結局彼はシャワーぐらい浴びてからいきなとしか言う事しか出来なかった。

 

彼女はあの後どうなったんだろう?

まあろくな結末にはならないだろう。

悪人とか善人とかじゃなくて周りを見てるか見てないかで生きるか死ぬかが別れるこのご時世だ。

生きてたとしても酷い目にあってるに違いない。

再び紫煙を空に吐く。

 

今の自分なら彼女になんて声をかけるだろう?

もし彼女が復讐を成し遂げているなら彼女は幸せだろうか?

答えは出ないし、出したくも無い。

だがもし対峙するなら、今の生活を脅かすなら手加減するつもりは一切なかった。

それの理由を説明するには今のところ最後に人殺しをしたあの日について語らねばならない。

 

 

5

あの日父が所属する人類人権団体を襲撃したのは自分の意思じゃない。

ある金持ちからセクサロイドをスクラップにされた報復がしたいという依頼があったからだ。

報酬が良かったから引き受けた。

 

情報収集の過程でその人権団体が拉致したグリフィンの上級管理官をAR小隊が救出しに行くという情報を手に入れる事が出来た為、彼女らと同タイミングで奴らの事務所を襲撃する事とした。

リークされた情報を一応疑って目立たない場所からしばらく様子を見ていた。

 

(お、来た来た。

あれがグリフィン自慢のAR小隊のお嬢さん達か。

噂通りの別嬪揃い………んん!)

 

このとき見つけたAR小隊の1人に目が釘付けになった。

M4を持った人形、多分名前はM4A1だろう。

 

一瞬、ほんの一瞬だったが彼女が自分に純潔を捧げた少女と瓜二つに見えたからだ。

 

(いや、AR小隊は全員戦術人形のはずだ。人間の彼女が入隊出来るはずがない。)

 

そう思って雑念を払い、荷物をまとめてホルスターに入れたレーザー光線付きのAMTハードボーラーの弾を確認してベルトに脇差を差し込む。

 

目立たないように移動しながら建物の中に入る。モニター室を目指した。

ドアを開け監視をしていた人間が振り向いた瞬間に顔面に正拳をめり込ませ蹲ったところを心臓に脇差を刺した。

ドアの鍵をかけてモニターを見る。

 

「予想を遥かに下回って最悪じゃないか。」

 

所詮は演説ぶってるだけの人類至上主義者。

一応銃は持っていたが連携もろくに出来ずリロードの隙に蜂の巣にされてる奴がほとんどだ。

 

「爆弾20個も要らなかったかな?」

 

タバコを咥えながらバックから取り出した爆弾のリモコンのスイッチを押していく。事前に仕掛けておいた爆弾をAR小隊とグリフィンの管理官に被害が及ばないように爆発させた。勿論自分が逃げるのに支障が出ないようにも。

 

「ふぅ〜………。逃げるか」

 

同じフロアに生きてる人間が居ない事をチェックしてから扉を開く。

後は走るだけだ。非常階段の扉を開く。

 

「あ!」

 

「挟み撃ちだと!?」

 

「え?」

 

見ると上の階からM4と管理官が降りてくるところだった。

こちらに気づいて銃を構える。

 

「待て待て俺は「待てこの機械人形が!」

 

ショットガンを構えた小太りの男が駆け下りて来た。

こちらに銃口を向けている。素早くホルスターからハードボーラーを引き抜いた。

ビームを出して男に向ける。

額にビームがあたったのを確認して引き金を引いた。

脳漿をぶち撒けながら男は仰向けに倒れた。

 

「…は!銃を捨てなさい!」

 

一瞬固まっていたがすぐに自身の分身を構え直すM4。

 

「おいおいおい命の恩人にそれはなくない?M4A1ちゃん?」

 

素直にハードボーラーを床に置き両手をあげる。

 

「あなたは…人類人権団体じゃないんですか?」

 

「ただのアウトローだよ。

ここに金になるもんがあるって聞いて来ただけのね。

多分あんたの事だろうよグリフィンの旦那。」

 

「………。」

 

「なあ、見たところ俺とあんたらの目的はここからトンズラするってことで一致してると思うんだ。

どうだい?見逃してくれるならエスコートするよ?」

 

「信じるとでも?」

 

M4がそう言い切った瞬間、彼の背後のドアが開き、

人類人権団体と思われる黒人の男が飛び込んで来た。

 

彼を味方だと勘違いしたらしくM4に持ってたイサカを向ける。

引き金を引くより先に彼の脇差が男の心臓に刺さった。

引き抜き落としたイサカで脳を撃ち抜いておく。

割とすぐくたばった。

 

「信用、してもらえたかな?」

 

「味方を殺しただけじゃ「よせM4」

 

まだ疑うM4を制したのは管理官だ。

 

「僕らは彼に2度も命を救われた。これは大恩だ。

これ以上彼を疑う事は彼を侮辱する行いだよ。

信じてあげなさい。」

 

「はぁ…管理官がそう言うのなら。」

 

3人は一階に急いだ。途中残りのAR小隊と合流して出口に向かう。

そこではまだいきの良い奴が銃を持って待ち構えていたが、

適当に近くで死んでた奴の顔面を脇差でズタズタに裂いてやったら顔を青くして尻込みした。

 

後はトンズラするだけ。

敵はみんな戦意を喪失したと思ったが最後に1人、彼の父だけは別だった。

 

「偽物の命風情が!機械ごときが本物の命を奪うか!」

 

完全に油断していたM4の頭部に鉛玉が飛ぶ。

ほぼ脊髄反射で左手が伸びていた。

M4とその後ろにいた管理官を突き飛ばした一の腕に弾丸が入り込む。

運良く弾は貫通した。

 

まさか人間が人形を庇うなんてあの父は考えもしなかったらしい。

遠慮なくその隙をついて持っていた脇差をあえて目を引くように放り捨てホルスターからAMTハードボーラーを取り出し父の右手、左肩、右足の甲、左太腿を撃ち抜く。

 

父は痛みに悶えながら血溜まりに蹲った。

特に何も感じないまま父の元まで歩く。

 

「なぜだ?少し考えれば分かるはずだ。

君は誇り高い本当の命だ。

機械風情に奪われていいはずの無い高尚な生命だ。

人形を、機械を庇うなんて、同族を殺すなんて間違ってる!」

 

喚き散らす父は彼が自分の唯一の肉親だと気づかないようだ。

 

「ただ命令を遂行するためなら命を奪う人形とただ己の復讐心を満たす為なら幾らでも仮想生命を弄ぶお前。俺にはお前の方が醜悪に見えるよ。」

 

あばよお父さん。

 

父にだけ聞こえる声量でなんの罪悪感もなく脳天を撃った。

父は最後まで理解できないって顔をしていた。

その面を見ているとどうしようもなくむかっ腹がたって近くにあった椅子で顔面を砕き潰した。

 

「…………乱世が産んだバケモンが、地獄で苦しめ。」

 

吐きすて、銃を収めて投げ捨てたままだった脇差を回収して出口に向かう。

 

「ま、まちたまえ君!」

 

管理官に呼び止められた。

 

「う、腕は平気なのか?」

 

 

「運良く弾は貫通したみたいなんで。多分平気ですよ。」

 

「た、多分って!ついてきたまえ!すぐに治療を!」

 

「平気ですよ。今ぐらいの怪我よくしますし。」

 

「そうゆう問題じゃない!

僕らは君に2度ならず3度も命を助けられた。

何か恩返しをさせてくれ!」

 

「じゃあ何もしないでください。

俺はただあんたらとすれ違っただけのアウトロー。

すれ違う者を気にする必要はありませんよ。」

 

今度こそ出て行こうとすると今度は物理的に止められた。M4だ。

 

「なんだい?用があるなら手短に頼むよ?」

 

「分かりました。では上着脱いでください。」

 

「え?」

 

「は?」

 

AR小隊と管理官と彼とが一斉に言葉を失った。

 

「え、M4?一応聞くがまさかここでか?」

 

「? ええ。応急処置ですから。」

 

自身の分身を管理官に預けるとM4は腰に巻いていた上着の袖を切り、彼の腕に巻く。

背後で彼女の姉妹たちがそっちかって感じで顔を赤らめている。

 

「これ使いな。」

 

彼はもともと着ていたデニムジャケットをM4の肩にかけた。

 

 

「洗って返しますね。」

 

「出来ない約束はしない方がいい。」

 

冷たく返すとその日はねぐらに帰った。

次の日すぐに依頼主のところに行って証拠と引き換えに報酬を貰った。

久しぶりのまとまった金のおかげで珍しく外食で腹八分目まで食べてすぐに帰った。

 

(…いったたた。あのクソ親父やってくれたなチキショー。利き手じゃなくて良かった。)

 

タバコを咥えてライターで火をつける。

煙を吸って虚空に円を吐いた。

 

(金あるししばらく遊んで暮らすかな?)

 

呑気な事を考えながら二口めの煙を吸おうとした時ドアが叩かれた。

舌打ちしながらタバコを灰皿に捨てる。

 

「はいはいお待ちを〜。どちらさんで…」

 

「はじめまして。グリフィン&クルガーのヘリアントス上級管理官だ。」

 

モノクルをかけた三十路いくかいかないかぐらいの女性が立っていた。

背後には戦術人形のネゲヴとスパス12にアストラを侍らせている。

 

「おうおうこりゃどうも。

御足労いただいて悪いが生憎今休業中でね。

依頼なら後日に」

 

「今日は依頼ではなくスカウトに来た。

君にはグリフィンの指揮官になって貰いたい。」

 

「俺みたいなアウトローに?」

 

「ベリル上級管理官とM4A1の命の恩人である君にだ。」

 

どうやら自分はあの2人に気に入られてしまったらしい。

 

「なんの話だい?俺にはなんのことかさっぱりだ。」

 

「いい逃れはよせ。

正規軍のパトリック・ロバート指揮官により裏付けが取れてる。」

 

「あいつぅうう!」

 

パトリック・ロバート。

彼の得意先の1人にして悪友の1人でこの前の仕事も彼から情報を仕入れたりしていたのだ。

あの2枚目半の軽薄そうな笑みが目に浮かぶ。

 

「…………あんのどんな女とヤる時もランドセル背負わせて向かい合わないとエレクトしねえ真性のド変態が…。」

 

「か、彼にそんな趣味が?」

 

「狙ってるんならやめていた方がいいっすよ。」

 

グッバイ少なくとも仕事を選り好み出来た生活。

俺は近々最前線(フロントライン)で戦術指揮だ。死んだ目で見上げた空は皮肉な程に良く晴れていた。

 

 

6

しかしスカウトされたからにはやる事やらないと食べていけない。

そんな中で好き放題やるにはどうするべきか。

 

ヘリアントスとベリルからの熱い推薦で任されたAR小隊達と良好な関係を築くにはどうするべきか。

 

始めて心臓が破裂するほど感じた怒りを忘れないためにはどうするか。

考えに考え彼は結論を出した。

 

(俺が殺すのはこの乱世が産んだ化け物だけと決めた。)

 

再び煙を吸って紫煙を吐く。

 

「こらー!指揮官!タバコは1日5本って言ってるでしょう!」

 

 

「M4ちゃん!待ちくたびれたよ!」

 

「話を逸らさないでください!」

 

バタバタと袋を携えたM4が戻って来た。

急いで階段を駆け上がる様が目に浮かぶ。

 

(もし、こんなご時世じゃなきゃ、あのお嬢ちゃんもM4ちゃんみたいな女の子だったのかな?)

 

もし2人があってたらお互い「あの…」のタイミングがまるで鏡に向かって喋ってるみたいに同じになって気まずくなりそうだな。

なんて考えてちょっとおかしくなる。

 

「ま、精々運悪く拾われた事に感謝するかな。」

灰皿にキャメルを投げ入れ、書類机に向かった。ペンを持ち、書類を引き寄せる。いつもなら睡魔とサボり魔な自分の誘惑が襲ってくる書類仕事が不思議と楽しく感じた。




辛い現実に、どうしようもない事実に打ちのめされた時に死んでしまえる方が幸せなのか?生き残る事が幸せなのか?それは誰にも分からない。

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