忍びの王   作:焼肉定食

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ステータス

「雫。入るぞ。」

「えぇ。」

 

俺が入るとすぐに扉が開く

声を掛けるとするとやはりと言うべきかパジャマ八重樫がいた。

俺は有無を言わずに部屋に入ると雫は申し訳なさそうに俺を見る

 

「……まず何かいうことは?」

「……ごめんなさい。今回ばかりは私たちが本当に悪いわ。」

 

すると目線を伏せる雫に俺は少し睨む

多分少し時間を空けておいたから雫も気づいたのだろう

 

「どうするんだよ。全員が戦争に参加することになっているぞ。」

「……本当にどうしよう。」

「たく。……まぁ、最悪ではないからな。まぁいいけどさ。」

 

俺は小さくため息を吐く

 

「でも常識とかさっぱりの俺らは今は従うしかないかな。全員じゃなくてせめて前線に出る人を少し減らすことから考えるか。」

「……人を減らすね。」

「さっき少し通り耳に入ると恐らく魔物は自然発生するものもいるらしく戦争前はそういう訓練ばっかりだと思う。人殺しなんてしたこともない子供がさすがに前線に出ることなんて無謀だしな。」

「……」

 

俺はそういうと雫は黙ってしまう

 

「……快斗は大丈夫なの?」

「生憎俺も両親の仕事で死体の写真や人を殺すってことには結構触れて来たからな。そこまで焦ることではないな。人を殺すって時にならないとな。」

「そう。」

「……怖いか。」

 

俺の一言で雫は少しビクッと反応しそして頷く。

 

「お前明らかに食事が通っていなかったからな。様子見にきて本当によかったよ。なんかお前って普段はしっかりとしている雰囲気なのにやっぱり普通の女子だよなぁ。」

「どういう意味よ。」

「そういうことだよ。」

 

俺は苦笑し少し苦笑いする

 

「……悪い雫。」

「えっ?」

 

俺は雫を軽く抱きしめる。すると顔を真っ赤にして睨みつけて何かいう前に

 

「怖いんなら、泣けよ。」

 

俺は軽く一声をかけた雫は驚いたようにしていたが

 

「気づいていたの?」

「気付かないはずないだろ?もう何年一緒にいると思っているんだよ。それに。」

 

俺は少し苦虫を噛んだように呟く

 

「初めて会った時と同じ顔してんぞ。」

 

あの時と同じように硬い笑顔は多分俺しか気付いていないだろう

 

「もうお前の弱さは知っているしお前の泣き顔はすでに何回も見ているんだよ。だから頼れよ。辛いってことは吐き出してしまえ。」

「……ホント敵わないわね。」

 

諦めたように胸に顔を埋め

 

「ありがと。」

 

と小さな声が聞こえた後やがて泣き始めた。暖かくて弱い雫を抱きしめながら俺は反対の手で雫の頭を撫でるのだった。

 

 

翌日から早速訓練と座学が始まった。

 

 まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る俺達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

騎士団長が訓練に付きっきりにしたのは、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。

 メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが……

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだ。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

ほへ〜。まぁ自分の数値が分かるっていう点では面白いかもな

とりあえず針に刺し血を擦り付けてみると

 

原口 快斗 17歳 男 レベル:1

天職 王

筋力 90

体力 90

耐性 90

敏捷 300

魔力 90

魔耐 90

 

技能 剣術 忍術 体術 気配遮断 気配感知 壁歩 投擲術 回復速度上昇 統率 人心掌握 幻影魔法適正 限界突破 毒耐性 女難 苦労人 言語理解

 

統率 自らが兵、国民を率いる場合自分の味方のステータス1.2倍

人心掌握 相手のトラブルを解決しやすく信用されやすい

女難 女性関係のトラブルに巻き込まれやすい。

苦労人 フォローの達人、胃薬と頭痛薬の準備はお早めに

 

「……ん?」

 

目をゴシゴシと擦ってみる。しかし変わったところはない

冷や汗が垂れる。いや突っ込みどころしかないんだけど。

……いや。これマジでやばいやつだろ。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

 メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

いやこれどう考えても10人に一人どころかこの天職が王っているのか?

 

てかこれ戦闘職なの?

面倒事の匂いがプンプンするんだけど

てか毒耐性ってあいつのせいだろ。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

この世界のレベル1の平均は10らしい。

メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

……うぼぁ

冷や汗が垂れる

 

「……どうしたの?もしかしてステータスが悪いの?」

「いや。そうじゃない。そうでもないしむしろ勇者よりチートなんだけどさすがにこのステータスは見せたくない。」

「……どういうこと?」

「マジで。勘弁してくれよ。何で面倒ごとが俺ばっかり。」

 

その一言でクラスの全員から同情の視線が向けられる

 

「えっと、とりあえずステータス見せてもらえないか?」

「……うす。」

 

俺は諦めたようにステータスを見せる。するとメルド団長の明らかに顔色が変わる

 

「……天職、王だと。」

 

するとざわざわしたようにクラスメイトどころか王宮側がざわめき始める

 

「……とりあえず返してくれませんか?」

「お、おう。でも凄いな。天職が王なんて始めてみたぞ。」

「……」

 

俺は少しため息を吐いてしまう。そして次はハジメの順番が回ってきたのでメルド団長にプレートを見せた。

 

 団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

あぁハジメは非戦闘職か

 

 歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。

 

 その様子にハジメを目の敵にしている男子達が食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。

檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

 檜山が、実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、周りの生徒達――特に男子はニヤニヤと嗤っている。

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

……くっだらねぇ。」

 

俺は呆れたようにすると全員が俺の方を見る。どうやら口に出ていたらしい

 

「…あぁ?」

「くっだらないって言っているんだよ。いい加減やめれば?自分より弱い奴を見下すの。うざいし醜いから。」

「……てめぇ。」

「…こらー!喧嘩は止めなさい!」

 

すると愛子先生が止めに入る。まぁこれを予測しての挑発なんだよなぁ

 

「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」

 

そう言って「ほらっ」と愛子先生はハジメに自分のステータスを見せた。

 

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:250

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

 

「食物チートじゃねーか。」

 

俺はつい突っ込んでしまう。いや突っ込んでしまった俺は悪くはないだろう。

ハジメは死んだ魚のような目をして遠くを見だした。

 

「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」

 

とハジメをガクガク揺さぶる愛子先生。

確かに全体のステータスは低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが……魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。糧食問題は戦争には付きものだ。ハジメのようにいくらでも優秀な代わりのいる職業ではないのだ。つまり、愛子先生も十二分にチートだった。

 

「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」

「な、南雲くん! 大丈夫!?」

「……愛ちゃんに助けを求めたの失敗だったか。」

 

 反応がなくなったハジメを見て雫が苦笑いし、香織が心配そうに駆け寄り、俺は頭を抱える。愛子先生は「あれぇ~?」と首を傾げている。相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。

……面倒ごとの匂いがする

そう思わざるをえなかった


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