忍びの王   作:焼肉定食

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王宮にて

「は?リリィを侍女に?」

 

あれから2週間後

俺は王宮から呼び出されたと思うとその場所で待女の交代を言われた

 

「うむ。それだけ快斗殿に期待をかけておるのだ。ギルド登録も最近はしてもう街の外にも出ているようじゃのう。」

「まぁ、確かにしていますが。」

「正直お主の成長の早さはさすがに国としても見過ごせないのじゃ。正直のう。光輝殿よりもすでに王宮じゃお主を勇者とするべきじゃないかという声が出てきてのう。」

 

……さすがにやりすぎたか。

俺は乾いた笑いを見せる

正直俺は初日に剣の振り方や魔法の使い方について学んでいたのだが

 

……まぁ八重樫流習っていたら殺す殺されかけるのはいつもの通りだしな

自然と実践向けの剣術と騎士団を圧倒できるステータス。そして元々のセンスによりあんまり意味がないと思い訓練を早々に辞退して恵里と冒険者ギルドに登録しパーティーを組んでいる。恵里は及川という女子と一緒の降霊術師という天職だ。普通なら覚えるのも一苦労なんだけど俺と二人っきりになれるという理由だけでたった四日で10体の死んだ魔物を使役出来るほどに成長した。

こいつ狂っているのに何でそこまで有能なんだよ。まぁ頼れる面としたら今は雫よりも頼れるし、裏の姿を発散させるいい機会だったので連れていっている。

教会としても王宮としても勇者の仲間をアピールするいい機会だったと思うので許可はあっさり出たのだが

……少々目立ちすぎたらしい

 

すなわち国家の王族との繋がりを持たないことを危険視し始めたんだろう。もしよければ手籠めにできればと思っていると考えてもおかしくはない。

 

……まぁ断ることはできなさそうだけどなぁ

 

「分かりましたけど、それでも俺こっちにいること滅多にないんで。」

「うむ。それでも別に構わない。それじゃあリリアーナを今日付けで快斗殿の付き人としよう。」

 

あっさりと答えると十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていてその姿は付き人らしくないドレスで着飾られている

俺も結構話すことが多いリリィは個人的に助かる

 

「失礼します。」

 

と俺は連絡事項があるため今日は訓練場に行かないといけないらしい。

だから俺は一度席を立ち頭を下げるとそして歩き出そうとしたときだった。

 

「何の話だったの?」

 

するとメガネを外した恵里がどうやら応接室の前で待っていたらしい。少しため息を吐き

 

「どうやら目立ちすぎたっぽい。完全に目をつけられた。」

 

その一言で察したのだろう

 

「……なるほどねぇ〜で?どうするの?」

「どうするも何も今まで通りでいいぞ。というよりも上のことを調べられる奴が付き人にいるだけラッキー程度に思っておけばいい。」

「……なるほど。もしかしてリリアーナ姫?」

「正解。さすがに頭の回転は早いな。」

 

俺は素直に感心してしまう。この情報だけでそこにたどり着いた頭脳だけは本当に化け物レベルだろう

 

「ふ〜ん。多分だけど政治的なことだろうね。政略結婚や色仕掛けってことだろうね。……一番相性が悪い相手に仕掛けたもんだ。ぼくの色仕掛けにも全く興味なさそうだしね。」

「……お前それ絶対リリィの前でいうなよ。……はぁ。全く面倒なことになりそうだ。」

「案外余裕そうだけど?」

「余裕だろ。これくらいだったら光輝の後始末や八重樫流の裏の門下生を相手にする方がよっぽど疲れるしな。」

「……ねぇ。ぼくがいうのもなんだけど僕や政略結婚よりもよっぽど疲れる八重樫流って何なの?」

「現代日本でマジで殺し合いを訓練に取り入れている頭のおかしい集団だ。」

「……聞かなきゃよかったよ。」

 

うん。俺も戻った時ちゃんと仕切れるのか正直分からないしな。

そういえば最近思っていたんだが

 

「お前最近楽しそうだな。」

「えっ?」

「いやなんか冒険者している時がお前一番なんか人間らしいよなって思ってな。」

「……そうなのかな?」

「俺はそう見えるだけだから。ただお前ってそんな笑い方できたんだって思って。」

「それはどういうことかな?」

 

こういう軽口を言い合っていると少し自然と笑っている恵里が最近見られる。なんというか笑顔が今まで硬かったから気付く人は気付くと思うんだけど

 

「でも、こういうことさらっと言えるから快斗くんはずるいよね。」

「……とりあえずちゃんと擬態しとけよバレたら面倒だろうし。」

「は〜い。」

 

……ったく。

依存先が俺に移っただけで本質は変わってないと思うけどな

確かに恵里は壊れているし時々本当なら犯罪行為であることも躊躇なくやるときだってある

多分恵里の気持ちには応えられないし、喧嘩も怒らせることも、もしかしたら恵里が裏切る可能性だってある

でも二度と見捨てるような真似だけしないから

心の中で一言入れるとすると軽く恵里の頭を撫でる

 

「……どうしたの?」

「なんでもねぇよ。」

 

俺はヒーローじゃなくていい。

汚くて汚れているのかもしれない

でも。

俺は大切な人たちを守れたらそれでいいんだ。

そうやってみんなが訓練している訓練所に向かうのだった

 

 

「何やってるの!?」

 

俺たちが訓練場に踏み込むと慌てたような声が聞こえてくる

恵里と俺は目を見合わせ急いで声のした方向へ向かうと

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「南雲くん!」

 

檜山の弁明を無視して、香織は、ゲホッゲホッと咳き込み蹲るハジメに駆け寄る。

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

「いや、それは……」

「言い訳はいいからさっさと失せろ。これ以上やるなら俺が相手になるけど?」

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

 三者三様に言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。

 

「……何があったの?」

「えっ?あっ恵里。快斗。」

「おう。ってお前いつもこんなことされていたのか?」

「そうだよ。いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

 何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

「でも……」

 

 それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せるハジメ。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

「女子が言い辛かったら俺でもいいぞ。」

 

 渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫と俺が言う。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

何をどう解釈すればそうなるのかと思ったが光輝は基本的に性善説で人の行動を解釈する奴だったと苦笑いする。

 

「……」

 

恵里は無表情で光輝を見る。呆れているのか。それとも、またべつの感情か。分からないがかなり暗い笑顔だった。

俺は少し頭を抱えながら

 

「悪い。余計に迷惑かけてしまったかもな。」

「ごめんなさいね? 光輝も悪気があるわけじゃないのよ」

「アハハ、うん、分かってるから大丈夫」

 

 やはり笑顔で大丈夫と返事をするハジメ。汚れた服を叩きながら起き上がる。

 

「ほら、もう訓練が始まるよ。行こう?」

 

ハジメに促され一行は訓練施設に戻る。香織はずっと心配そうだったがハジメは気がつかない振りをしていた。俺は少し訓練場に向かいながらなんか嫌な気分に覆われるのだった

 

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ!まぁ、要するに気合入れろってことだ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

 そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾で俺は頭を悩ます

 

本当に大丈夫なのかと


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