忍びの王 作:焼肉定食
「えっリリィが待女に?」
「一応結界魔法を使えるらしいから冒険者登録もさせようと思っているな。本物のお姫様に冒険者やらせるのも気が引けたけどなんか楽しそうだしまぁいっかって思ってな。」
俺と雫は夜の恒例行事になった会談を行う。一応明日からはオルクス大迷宮の攻略なのでそんなに時間は取りたくないんだけど、雫に限っては別である
こいつだけはストレスの発散は人目を避けないといけないのだ。
「……そうね。でも恵里と冒険者ねぇ。恵里は大人しいタイプだと思っていたけど。」
「大人しいのは分かっているけど、俺に告白した唯一の女子だぞ。諦めそうにもないししばらくはこのままだろうな。」
「そう。まぁ良かったわ。恵里も元気そうで。」
「まぁな。」
少し苦笑いをすると本題に入るため少し間を開け
「とりあえずやるか。」
とりあえず木刀を俺はもつ。
「えぇ。」
一対一の試合。最近ずっと日課になっていることだった。
俺のステータスは
原口 快斗 17歳 男 レベル:11
天職 王
筋力 180
体力 180
耐性 180
敏捷 600
魔力 180
魔耐 180
技能 剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇] 忍術[+毒物生成][+身代わりの術][+無音歩行] 体術 回復速度上昇 気配遮断 気配感知 壁歩 投擲術 統率 人心掌握 幻影魔法適正 限界突破 毒耐性 女難 苦労人 言語理解
という何とも俊敏が目立つステータスだ。
ついでに俊敏の数値は同値なので俺とほぼ同じ速さなのだが縮地を使った緩急の差で雫の方が有利なように見えるが
「……甘いな。」
一瞬の隙を見逃さず俺は木刀を突き飛ばす
「剣筋が素直過ぎだ。もう少しフェイントや目線の誘導をしないと対人戦じゃ剣筋が読まれるぞ。」
「……相変わらず強いわね。もう一本頼めるかしら。」
「何度でも付き合うけど、ほどほどにしろよ。明日も早いんだし睡眠はしっかり取っとけ。」
「えぇ。」
とやけに焦っているように感じる雫に俺は少し違和感を覚える
もちろん剣筋もその分乱れているので対応するのは簡単で俺はその後も対応をしていき
「……さすがにこれ以上は酷くなるだけだぞ。」
俺は区切りを付けた。
「はぁ、はぁ。」
息を吐く雫に軽くため息を吐く
「不安なのか?」
俺はそういうとすると雫はビクッと反応する
「…図星かよ。」
「えぇ。できればまたやってくれないかしら。」
「……はぁ。たく。汗臭くても知らんぞ。」
俺は雫を抱きしめる。どうやらこうすると安心するらしい
周囲の奴に見られたら言い訳ができないくらいにまずいんだけど
するとしばらくすると泣き始める雫
やっぱり怖いし不安なんだろう
八重樫雫は昔から臆病なのだろう
でも外には出せずに弱音は一人で背負いこむ
……本当に不器用な奴だと思う
そして数十分後雫はようやく落ち着いたのかポニーテールで顔を囲っている
「……ごめんなさい。もう本当に迷惑ばっかり。」
「いいって。元々甘やかすつもりだったしな。お前は普段甘えなさすぎ。もっと俺以外にも甘えろよ。香織や愛ちゃんだっているだろ。」
「……」
「……あの時とは状況が違うんだよ。もうお前は一人じゃないんだ。」
「えぇ。でも。」
「ほら。お前の悪い癖だよ。助けを素直に受け取らず、手放そうってしているところ。」
俺は呆れたようにいうとうっと声を詰まらせる
「自分だけで背負いこむな。怖かったら怖いんだよ。声に出さないと分からないだろうが。こんな時期だからこそ弱音を吐き出せよ。」
「……快斗にはないの悩みとか。」
「悩みはないなぁ。……まぁお前の母さんや親父さんや師範に自重って言葉を知ってほしいっていうくらいか。」
「……ちょっと待って。わたしの家族が快斗に何したの?」
主に忍者で俺の命を狙ったり会合でヒャッハーしているんだよなぁ。
「まぁ、とりあえず明日だな……」
「えぇ。さすがに疲れちゃったから今日はもう休むわ。」
「おう。それじゃあな。」
「えぇまた明日。」
と俺たちは別れる
そうして俺は部屋に戻ろうとしていると檜山とすれ違う
「……」
そうして俺は一瞬だけ寒気がしたので一度檜山の方を向いた
なんか嫌な予感がするな
俺は少し危機感を覚え小さくため息を吐くのだった
現在、俺達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた
ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。
しばらく経つとメルド団長が受付を終えたらしく行くぞといい中に入る
迷宮の中は薄暗くある程度の視認が可能であることが分かる
一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。
その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。
「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」
その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。
灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。
「まぁいいや。」
一応俺は簡単にピンを投げる。これは何度投げても手元に戻ってくる優れ物らしい。
するとポンポンとすぐに突き刺さり絶命していくラットマン。
そして間合いに入ると剣を抜き俺と雫、光輝と龍太郎に別れ迎撃する。この組み合わせは連携の有無であり、雫と俺が連携が相性が良かったせいだろう。まぁ目と目で会話できるしな。
その間に、香織と恵里と鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。
俺はモンスターを切り捨てる。最早慣れた手つきで殺していくと
「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」
三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。 気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。
「オーバーキルだろ。」
魔石が正直欲しかったが俺は少し手加減して欲しかったなぁと思っていると
「……」
雫だけは初勝利に喜ぶ様子がなくただ手を見ていたのを、俺は偶然見てしまう
「……雫。」
「えっ?」
俺は無理やり手を掴み軽く手を強く握る
すると周辺の声からヒューと聞こえるし恵里から視線を感じるが無視し少しの間手を揉む
「ちょ、ちょっと快斗。」
「……感触は抜けたか?」
俺はそういうと雫はハッとしたようにする
「大丈夫だから。」
優しく手を包みこむ。何がとも言わないけど体温を伝えるように。
「……えぇ。もう大丈夫よ。」
それだけで通じる。それならと俺は手を離す。そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。
そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。
「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」
メルド団長のかけ声がよく響く。
俺は指揮をとったり、前線で剣を振るったり結構大変な役回りをしていた
しばらくすると小休止に入る
香織と雫と一緒に話していると香織とハジメの目があう。すると恥ずかしそうに目を逸らすはじめに若干香織が拗ねたようにしている。それを横目で見ていた雫が苦笑いし、小声で話しかけた。
「香織、なに南雲君と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」
からかうような口調に思わず顔を赤らめる香織。怒ったように雫に反論する。
「もう、雫ちゃん! 変なこと言わないで! 私はただ、南雲くん大丈夫かなって、それだけだよ!」
「いや。それ普通にラブコメじゃん。」
俺が突っ込むとすると雫が笑い、それを見た香織が「もうっ」と呟いてやはり拗ねてしまった。
そして出発ししばらく経つと気配感知に何か引っかかったので立ち止まる。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。
「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」
メルド団長の忠告が飛ぶ。
その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。
「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」
「よっと。」
俺は壁走があるせいか平気だが。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができないでいる。龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。やばいと多いとっさに耳を塞ぐ
直後、
「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」
部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。
「ぐっ!?」
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
「……何しているのだか。」
俺は事前準備をしていたので硬直状態にはならなかったがまんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。
ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。
香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。
投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。。香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。
「何してんだお前ら。」
フォローに走っていた俺がロックマウントを切り捨てる。香織や谷口はもちろんのこと恵里までもが、謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。
そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者天之河光輝である。
「貴様……よくも香織達を……許さない!」
どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。
「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」
「お、おい。」
「あっ、こら、馬鹿者!」
俺とメルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。
その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。
パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝。その頭を俺は思いっきりぶん殴った
「へぶぅ!?」
「おいバカ。こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだよ。生き埋もれなんてシャレにならんぞ。」
「快斗のいうとおりだ馬鹿者。」
「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰めていると。
その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。
「……あれ、何かな? キラキラしてる……」
その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。
そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。
「グランツ鉱石だっけ?こっちの世界でいう宝石みたいなものだったはずだ。たしか加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るらしい。確か恵里が見てたよな?」
「よ、よく覚えてるね。」
「そりゃ買ったものくらいはさすがに覚えているだろ。パーティーの結成時に欲しそうにしてたからな。」
恵里の耳元にはそのイヤリングがつけられており、一番安いが数十万する1日の稼ぎが全部消えるアクセサリーをつけている
「……なんというかお前そういうの本当にマメだよな。」
「素敵……」
龍太郎のツッコミに俺は少しいたたまれなくなると
香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫と俺は気がついていたが……
「だったら俺らで回収しようぜ!」
そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。
「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」
しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。
メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。
「団長! トラップです!」
「ッ!?」
しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。
檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。
「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」
メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わないだろう
部屋の中に光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。
空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。
尻の痛みに呻き声を上げながら、周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどはハジメと同じように尻餅をついている。メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしているので俺も同じように立ち上がる
転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。
その巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。
それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。
「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」
雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。
迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……
その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。
――まさか……ベヒモス……なのか……