忍びの王   作:焼肉定食

17 / 30
帝国の使者

 それから三日、遂に帝国の使者が訪れた。

 

 現在、俺達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

 

 陛下と使者の定型的な挨拶のあと、早速、光輝達のお披露目となった。陛下に促され前にでる光輝。召喚された頃と違い、まだ二ヶ月程度しか経っていないのに随分と精悍な顔つきになっている。

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 

 使者は、光輝を観察するように見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干、疑わしそうな眼差しを向けた。使者の護衛の一人は、値踏みするように上から下までジロジロと眺めている。

 

「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

 

 光輝は信じてもらおうと色々提案するが使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

「えっと、俺は構いませんが……」

 

光輝は若干戸惑ったようにエリヒド陛下を振り返る。エリヒド陛下は光輝の視線を受けてイシュタルに確認を取る。イシュタルは頷いた。神威をもって帝国に光輝を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断したのだ。

でもその選択は間違っているとも知らずに

 

「構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ」

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

 

 

 光輝の対戦相手は、なんとも平凡そうな男だった。高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。

 

 刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており。構えらしい構えもとっていなかった。だけど

 

「うわぁ。相手かなり強いなぁ。これ光輝限界突破使わなければ負けるだろ。」

 

俺はあっさり相手の力量をみぬいていた

 

「どういうこと?」

「あれは誘いだよ。多分光輝の奴そのまま突っ込んでいくだろうよ。舐められているって思って馬鹿正直にな。」

 

恵里に聞かれたので答える。

 

「相手を動かす。それが殺し合いの基本だ。自分の思い通りにならなければ攻撃は単調になる。それも寸止めにしようとして他のことに目線を逸らしているからな。」

 

バキィ!!

 

「ガフッ!?」

 

「ほらな。」

 

吹き飛んだ光輝を見ながら俺は解説する。

 

「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか? まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」

 

平凡な顔に似合わない乱暴な口調で呆れた視線を送る護衛。その表情には失望が浮かんでいた。

確かに、光輝は護衛を見た目で判断して無造作に正面から突っ込んでいき、あっさり返り討ちにあったというのが現在の構図だ。光輝は相手を舐めていたのは自分の方であったと自覚し、怒りを抱いた。今度は自分に向けて。

 

「すみませんでした。もう一度、お願いします」

 

 今度こそ、本気の目になり、自分の無礼を謝罪する光輝。護衛は、そんな光輝を見て、「戦場じゃあ〝次〟なんてないんだがな」と不機嫌そうに目元を歪めるが相手はするようだ。先程と同様に自然体で立つ。

 光輝は気合を入れ直すと再び踏み込んだ。

 唐竹、袈裟斬り、切り上げ、突き、と〝縮地〟を使いこなしながら超高速の剣撃を振るう。その速度は既に、光輝の体をブレさせて残像を生み出しているほどだ。

 しかし、そんな嵐のような剣撃を護衛は最小限の動きでかわし捌き、隙あらば反撃に転じている。時々、光輝の動きを見失っているにもかかわらず、死角からの攻撃にしっかり反応している。恐らく先読を持っているのだろう。

すると光輝と何か話ている護衛の姿がいる

チラッとイシュタル達聖教教会関係者を見ると護衛は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「辞めだ。それとそこのお前。俺と手合わせしろ。」

 

と俺の方を指差す。俺は急な指定に少し驚く

 

「……俺ですか?」

「あぁ。お前の方がこいつよりかは手応えがあるだろうしな。」

「……まぁいっか。」

 

俺は観覧席から飛び降り、着地する。

 

「ちょ、快斗。」

「光輝どいてろ。こいつは俺の獲物だ。」

 

俺は軽く睨みを利かせ剣を自然体で持つ。これが今の俺のスタイルになっていた。

 

「……」

「……」

 

数秒睨み込みそして視線や重心だけでやり取りをする。そして

 

護衛の男は死角から剣を放ってくる。俺はバックステップで避けそのまま剣を振るうフェイントにかけ、

護衛の前で手を叩く

音が最大限にならせて意識の波長に合わせ相手を怯ませる技、クラップスタナー

実際護衛の人間はぎょっとして俺を見ようとしたが

 

「一本だよな。」

 

懐にしまってあった小太刀を確実に後ろから首元へ押し付ける

誰もが動きやしない。動けない

それほどに圧倒的だったのだ。

 

「……あ、あぁ。」

「言っとくけどさっきの奴と一緒にしないで。俺はあいつみたいに理想を押し付けないし自分なりの正義がある。……ただ、俺は友達に会いにいくことと、元の世界に帰ること、そして大事な人を守ることが目標だ。この世界のことなんて知っちゃことじゃない。戦争やるなら勝手にやってろって話だ。」

 

護衛らしき人。いや、皇帝陛下に剣を突きつけ俺たちしか聞こえないように話す

 

「でも、その特別に手を出したのならば俺は容赦なく殺す。それがクラスメートや、教会であってもな。」

 

いわゆる恐喝するために俺は殺気を込める。元よりこの世界はどうでもいいのだ。

 

「……いい殺気を持っているんじゃねーか。お前は戦争に協力する気は?」

「今のところは参加する気だけど従う気はないぞ。俺は俺なりのやり方があるしな。従わせたかったら俺よりも強い奴を探してこい。皇帝陛下。それはあんたらのやり方だろ?そこの侵入しているネズミと一緒にな。」

「……なるほど。そりゃそうだな。はっはっは、止めだ止め。ばっちりバレてやがる。こいつは正真正銘の化け物だ。」

 

すると俺は剣を収める

 

「楽しそうだな。」

「おいおい、俺は〝帝国〟の頭だぞ? 強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?」

「……否定したいけど、ちょっと分かるのが腹たつな。」

 

強い相手がいると戦いたくなるのは俺も同じだしな。

 

「……なるほどお前も武人ってことか。」

「一応次期八重樫流のトップに立つからな。生憎、剣道はやったことがあるけど剣術には触れたことがないようなそこの勇者とは違う。それに俺はこっちの世界で既に殺しをしたことがあるからな。」

「ほう。……こりゃ頼もしい。」

 

実際そういう依頼をハジメが落ちてからは中心的に受けている。まぁつまり俺だけは準備はできているってことだ

 

「そりゃ最後だ。お前帝国にこないか?」

 

皇帝陛下が俺にそういうと全員が驚いたように俺を見る

でも答えは決まっている

 

「大事な人達を守る為にここに居るからな。戦う理由なんてそんなもんだろ?」

「……なるほどな。こりゃ勧誘も無理そうだ。」

 

すると高笑いする皇帝陛下に俺も呆れてしまう。

 

「んで変装はずせよ。」

「そうだな。」

 

肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。

すると、まるで霧がかかったように護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には、全くの別人が現れた。

四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

 

 そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。まさかの事態にエリヒド陛下が眉間を揉みほぐしながら尋ねた。

 

「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

 

謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。それに溜息を吐きながら「もう良い」とかぶりを振るエリヒド陛下。

俺はその様子を見て少し笑ってしまう

やばい。このおっさんこっち側の人間だ。

 

その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたらしい

 

ちなみに、早朝訓練をしている雫を見て気に入った皇帝が愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあった。雫は丁寧に断り、皇帝陛下も「まぁ、焦らんさ」と不敵に笑いながら引き下がったので特に大事になったわけではなかったが、その時、光輝を見て鼻で笑ったことで光輝はこの男とは絶対に馬が合わないと感じ、しばらく不機嫌だった。

俺と雫のため息と苦労が増え、頭皮と胃の心配をし始めるのだった




貯蓄がきれたのできあがりしだい投稿します

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。