忍びの王   作:焼肉定食

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4〜5巻
最悪の会合


「お疲れさん。」

「えぇそっちこそ。」

 

俺と雫は 戦闘の終了と共に、油断なく周囲を索敵しつつ互いの健闘をたたえ合った。

 

「ふぅ、次で九十層か……この階層の魔物も難なく倒せるようになったし……迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな」

「だからって、気を抜いちゃダメよ。この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから」

「雫は心配しすぎってぇもんだろ? 俺等ぁ、今まで誰も到達したことのない階層で余裕持って戦えてんだぜ? 何が来たって蹴散らしてやんよ! それこそ魔人族が来てもな!」

 

 感慨深そうに呟く光輝に雫が注意をすると、脳筋の龍太郎が豪快に笑いながらそんな事を言う。そして、光輝と拳を付き合わせて不敵な笑みを浮かべ合った。その様子に溜息を吐きながら、雫は眉間の皺を揉みほぐした。

……フラグにしか聞こえないんだけどな

 

俺は少し警戒心を浮かべる

というのも前の休みにギルドによったところウルの北の山脈で異常事態が起こっているらしい。俺も一度調査依頼を頼まれたのだが偶然迷宮の攻略の日と被ってしまったのだ。

ウルの町には今ごろ愛ちゃんが向かっているはずなので偶然とは思えないのだった

それに

 

「……やっぱりここにもねぇな。」

 

あと十層で迷宮の最下層(一般的な見解)にたどり着くというのに、未だ、ハジメの痕跡は僅かにも見つかっていない。

それは希望でもあるが、遥かに強い絶望でもある。自分の目で確認するまでハジメの死を信じないと心に決めても、階層が一つ下がり、何一つ見つからない度に押し寄せてくるネガティブな思考は、そう簡単に割り切れるものではない。まして、ハジメが奈落に落ちた日から既に四ヶ月も経っている。強い決意であっても、暗い思考に侵食され始めるには十分な時間だ。

香織も同じらしく自身のアーティファクトである白杖を、まるで縋り付くようにギュッと抱きしめた。すると

 

「カッオリ~ン!! そんな野郎共じゃなくて、鈴を癒して~! ぬっとりねっとりと癒して~」

「ひゃわ! 鈴ちゃん! どこ触ってるの! っていうか、鈴ちゃんは怪我してないでしょ!」

「してるよぉ! 鈴のガラスのハートが傷ついてるよぉ! だから甘やかして! 具体的には、そのカオリンのおっぱおで!」

「お、おっぱ……ダメだってば! あっ、こら! やんっ! 雫ちゃん、助けてぇ!」

「ハァハァ、ええのんか? ここがええのんか? お嬢ちゃん、中々にびんかッへぶ!?」

「……はぁ、いい加減にしなさい、鈴。男子共が立てなくなってるでしょが……たってるせいで……」

 

だのおっさんと化した鈴が、人様にはお見せできない表情でデヘデヘしながら香織の胸をまさぐり、雫から脳天チョップを食らって撃沈した。

 

「おい。おっさん自重しろ。」

 

俺がさらにチョップを食らわせ頭にタンコブを作ってピクピクと痙攣している鈴を、何時ものように恵里が苦笑いしながら介抱する。

 

「うぅ~、ありがとう、雫ちゃん。恥ずかしかったよぉ……」

「よしよし、もう大丈夫。変態は快斗が退治したからね?」

 

と百合百合しい雰囲気が広がっている中で

 

「大丈夫だよ。後10層だから。」

「うん。私たちも探すから。」

「……たく。本当よく見てるなお前ら。」

 

俺は苦笑し恵里と鈴の頭を軽く叩く

 

「サンキュー。んじゃ行くか。」

 

俺は立ち上がり号令をかける。メルド団長から現場引き継いだ俺はすでにリーダーとして前線の指揮をとっていた。

 

原口 快斗 17歳 男 レベル:91

天職 王

筋力 909

体力 909

耐性 909

敏捷 3030

魔力 909

魔耐 909

 

技能 剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇]][+威力向上][+無拍子][+瞑想][+精神統一][+受け流し][+剣の極] 忍術[+小太刀][+毒物生成][+身代わりの術][+無音歩行][+高速移動][+分身の術] 体術[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+浸透破壊] 気配遮断 気配感知[+特定感知] 壁歩[+効果継続大〕投擲術[+必中][+威力拡大] [+複数展開] 統率[+範囲拡大][+育成][+忠誠心] 人心掌握[+人誑し] 爆発物生成[+火薬合成][+火薬鑑定] 幻影魔法適正[+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]限界突破[+覇潰][+最後の力] 毒耐性 先読 女難 苦労人 成長限界突破 言語理解

 

成長スピードが桁違いに早いのだ。俺も香織と一緒に訓練をしたりギルドで依頼を受けたりしている分があり寝る間も惜しんで、ひたすら自分の出来ることを愚直に繰り返してきた結果だ。

 

既に、八十九層のフロアは九割方探索を終えており、後は現在通っているルートが最後の探索場所だった。今までのフロアの広さから考えて、そろそろ階下への階段が見えてくるはずである。

その予想は当たっており、出発してから十分程で一行は階段を発見した。トラップの有無を確かめながら慎重に薄暗い螺旋階段を降りていく。体感で十メートルほど降りた頃、遂に光輝達は九十層に到着した。

 

 一応、節目ではあるので何か起こるのではと警戒していた光輝達。しかし、見た目、今まで探索してきた八十層台と何ら変わらない作りのようだった。さっそく、マッピングしながら探索を開始する。迷宮の構造自体は変わらなくても、出現する魔物は強力になっているだろうから油断はしない。

警戒しながら、変わらない構造の通路や部屋を探索してく俺達。探索は順調だった。だったのだが、やがて、一人また一人と怪訝そうな表情になっていった。

 

「……どうなってる?」

 

 一行がかなり奥まで探索し大きな広間に出た頃、遂に不可解さが頂点に達し、表情を困惑に歪めて光輝が疑問の声を漏らした。他のメンバーも同じように困惑していたので、光輝の疑問に同調しつつ足を止める。

 

「さすがに一体の魔物に遭遇しないのはおかしいな。」

 

降りてから3時間で既に探索は、細かい分かれ道を除けば半分近く済んでしまっている。今までなら散々強力な魔物に襲われてそう簡単には前に進めなかった。ワンフロアを半分ほど探索するのに平均二日はかかるのが常であったのだ。

 

「………なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

 

 龍太郎と同じように、メンバーが口々に可能性を話し合うが答えが見つかるはずもない。困惑は深まるばかりだ。

 

「……光輝。一度、戻らない? 何だか嫌な予感がするわ。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」

「俺もできれば下がりたいな。なんというかあの時のように嫌な予感がする。」

 

俺と雫も同じ意見だったらしく発言するが

 

「いや、進もう。何らかの障碍があったとしてもいずれにしろ打ち破って進まなければならないだろうし。それにこの階層を乗り越えないと次の階層にいつまでたってもいけないだろう。」

「……」

 

まぁそうなるか。というよりも最近俺を敵対的に見るようになった。何が気に入らないのかは大体わかるのだけどまぁそうなるか。

だけど不意に、辺りを観察していたメンバーの何人かが何かを見つけたようで声を上げた。

 

「これ……血……だよな?」

「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど……あちこち付いているよ」

「おいおい……これ……結構な量なんじゃ……」

 

 表情を青ざめさせるメンバーの中から永山が進み出て、血と思しき液体に指を這わせる。そして、指に付着した血をすり合わせたり、臭いを嗅いだりして詳しく確認した。

 

「天之河……二人の提案に従った方がいい……これは魔物の血だ。それも真新しい」

「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

「いや。そういうことじゃないだろ。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことだ。」

 

俺の言葉に光輝もその言葉にハッとした表情になると、永山と同じように険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。

 

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」

「ここが終着点という事さ」

 

光輝の言葉を引き継ぎ、突如、聞いたことのない女の声が響き渡った。男口調のハスキーな声音だ。光輝達は、ギョッとなって、咄嗟に戦闘態勢に入りながら声のする方に視線を向けた。

 

 コツコツと足音を響かせながら、広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは燃えるような赤い髪をした妙齢の女。耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。

 

俺は軽く舌打ちする。その特徴は、よく知るものだったからだ。実際には見たことはないが、イシュタル達から叩き込まれた座学において、何度も出てきた種族の特徴。聖教教会の掲げる神敵にして、人間族の宿敵。そう……

 

「……魔人族」

 

 誰かの発した呟きに、魔人族の女は薄らと冷たい笑みを浮かべた。

 


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