忍びの王 作:焼肉定食
瞳の色は髪と同じ燃えるような赤色で、服装は艶のない黒一色のライダースーツのようなものを纏っている。体にピッタリと吸い付くようなデザインなので彼女の見事なボディラインが薄暗い迷宮の中でも丸分かりだった。しかも、胸元は大きく開いており、見事な双丘がこぼれ落ちそうになっている。また、前に垂れていた髪を、その特徴的な僅かに尖った耳にかける仕草が実に艶かしく、そんな場合ではないと分かっていながら幾人かの男子生徒の頬が赤く染まる。
「勇者はあんたでいいんだよね? そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」
「あ、アホ……う、煩い! 魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ! それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」
あまりと言えばあまりな物言いに軽くキレた光輝が、その勢いで驚愕から立ち直って魔人族の女に目的を問いただした。
しかし、魔人族の女は、煩そうに光輝の質問を無視すると心底面倒そうに言葉を続ける。
「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに……まぁ、命令だし仕方ないか……あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」
「な、なに? 来ないかって……どう言う意味だ!」
「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?」
「まぁ敵を誘うってことは当たり前だろうからな。人間族の士気を落とすには丁度いいしな。」
俺も納得したようにすると
「断る! 人間族を……仲間達を……王国の人達を……裏切れなんて、よくもそんなことが言えたな! やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ! わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、1人でやって来るなんて愚かだったな! 多勢に無勢だ。投降しろ!」
光輝の言葉に、安心した表情をするクラスメイト達。光輝なら即行で断るだろうとは思っていたが、ほんの僅かに不安があったのは否定できない。もっとも、龍太郎や雫など幼馴染達は、欠片も心配していなかったようだが。
一方の、魔人族の女は、即行で断られたにもかかわらず「あっそ」と呟くのみで大して気にしていないようだ。むしろ、怒鳴り返す光輝の声を煩わしそうにしている。
「一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど? それでも?」
「答えは同じだ! 何度言われても、裏切るつもりなんて一切ない!」
内心舌打ちしてしまう
普通に考えて、いくら魔法に優れた魔人族とはいえ、こんな場所に一人で来るなんて考えられない。この階層の魔物を無傷で殲滅し、あまつさえその痕跡すら残さないなどもっと有り得ない。そんなことが出来るくらい魔人族が強いなら、はなから人間族は為すすべなく魔人族に蹂躙されていたはずだ。
それに、この階層に到達できるほどの人間族十五人を前にしても魔人族の女は全く焦っていない。戦闘の痕跡を隠蔽したことも考えれば最初に危惧した通り、ここで待ち伏せしていたのだと推測すべきで、だとしたら地の利は彼女の側にあると考えるのが妥当だ。何が起きても不思議ではない。
そんな危機感は、直ぐに正しかったと証明された。
「そう。なら、もう用はないよ。あと、一応、言っておくけど……あんたの勧誘は最優先事項ってわけじゃないから、殺されないなんて甘いことは考えないことだね。ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」
魔人族の女が三つの名を呼ぶのと、バリンッ! という破砕音と共に、永山と雫が苦悶の声を上げて吹き飛ぶのは、そして俺が魔物を切り裂いたのは同時だった
「ぐっ!?」
「がっ!?」
「あぶねっ。」
俺は急に現れた、ライオンの頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の尻尾と、鷲の翼を背中から生やす奇怪な魔物を切り落とした。
「キメラか。隠蔽。いや迷彩か。気配感知に反応はなかったし。まぁ、行動中は完全には力を発揮出来ないようで、空間が揺らめいてしまうという欠点だな。」
「……ほう。あんたは反応できるんだ。」
「バカか透明な敵ならまだしも動いたら出てくる敵なんて俺はなんともないからな。」
実際八重樫流で気配を全く感じないのに殺しにくる連中にな
でも威力はやばそうだな
クラスメイトの中でもトップクラスの近接戦闘能力を持つ永山と雫を一撃で行動不能に陥れた
つまりは当たらなければいいだけのこと
「光の恩寵と加護をここに! 〝回天〟〝周天〟〝天絶〟!」
香織がほとんど無詠唱かと思うほどの詠唱省略で同時に三つの光系魔法を発動した。
一つは、切り裂かれて吹き飛び、地面に叩きつけられた雫と永山を即座に癒す光系中級回復魔法〝回天〟。複数の離れた場所にいる対象を同時に治癒する魔法だ。痛みに呻きながら何とか起き上がろうともがく二人に淡い白光が降り注ぎ、尋常でない速度で傷が塞がっていく。
次いで、少しでも気を逸らせば直ぐに見失いそうな姿なき揺らめく三つの存在に、雫達に降り注いだのと同じ淡い白光が降り注ぎ纏わりつく。すると、その光はふわりと広がって空間に光の輪郭が出現した。
光系の中級回復魔法〝周天〟。これは、いわゆるオートリジェネだ。回復量は小さいが一定時間ごとに回復魔法が自動で掛かる。この魔法は掛かっている間、魔力光が纏わりつくという特徴がある。香織は、その特性を利用し、回復効果を最小限にして敵に使用することで間接的に姿を顕にしたのだ。
「サンキュー香織。」
俺はそのうちの一体を切り捨てる。その一瞬があれば回復効果がある敵でも一撃で倒せばいいだけだった
2体のキメラは、やや苛立ったように再度攻撃に移ろうとした。稼げた時間は一瞬。問題などないと。しかし、一瞬とはいえ、貴重な時間を稼げた事に変わりはない。その時間を光輝達が逃すはずはないだろう。
「雫から離れろぉおお!!」
永山はいいのか? とツッコミを入れてはいけない。光輝は、怒りを多分に含ませた雄叫び上げながら〝縮地〟で一気に雫の近くにいたキメラに踏み込んだ。光輝の移動速度が焦点速度を超えて背後に残像を生み出す。振りかぶった聖剣が一刀のもとにキメラの首を跳ねんと輝きを増す。
同時に、龍太郎も永山を襲おうとしていたキメラへと空手の正拳突きの構えを取った。直接踏み込んで攻撃するより、篭手型アーティファクトの能力である衝撃波を飛ばしたほうが早いと判断したからだ。龍太郎から裂帛の気合が迸り、篭手に魔力が収束していく。
さらに、檜山パーティーの及川は片手を突き出し、危機感から続けていた詠唱を完成させ、強力な炎系魔法を発動させた。〝海炎〟という名の炎系中級魔法は、文字通り、炎の津波を操る魔法で分類するなら範囲魔法だ。素早い敵でも、そう簡単には避けられはしない。
光輝の聖剣が壮絶な威力と早さをもって大上段から振り下ろされる。龍太郎の正拳突きが、これ以上ないほど美しいフォームから繰り出され、それにより凄絶な衝撃波が砲弾のごとく突き進む。及川の死を運ぶ紅蓮の津波が目標を呑み込み灰塵にせんと迸った。
だが……
「「ルゥガァアアア!!」」
「グゥルゥオオオ!!」
そこか。
隠れている敵を切り捨てる為俺はあえて攻撃をせずにどこにいるかの確認だけするのだったが。体長二メートル半程の見た目はブルタールに近い魔物だった。しかし、いわゆるオークやオーガと言われるRPGの魔物と同様に、ブルタールが豚のような体型であるのに対して、その魔物は随分とスマートな体型だ。まさに、ブルタールの体を極限まで鍛え直し引き絞ったような体型である。実際、先程の不意打ちからしても、膂力・移動速度共に、ブルタールの比ではなかった。
それでも俺の速さと攻撃力に沈黙すると恵里がすぐさま詠唱する
しかし次の瞬間、多足亀が炎を吸収しきって一度は閉じていた口を再びガパッと大きく開いた。同時に背中の甲羅が激しく輝き、開いた口の奥に赤い輝きが生まれる。まるで、エネルギーを集めて発射寸前のレーザー砲のようだ。
その様子を見た恵里が、表情に焦りを浮かべた。魔法を放ったばかりで対応する余裕がないからだ。だが、その焦りは、腕の中の親友がいつも通りの元気な声で吹き飛ばした。
「にゃめんな! 守護の光は重なりて 意志ある限り蘇る〝天絶〟!」
刹那、鈴達の前に十枚の光のシールドが重なるように出現した。そのシールドは全て、斜め四十五度に設置されており、シールドの出現と同時に、多足亀から放たれた超高熱の砲撃はシールドを粉砕しながらも上方へと逸らされていった。
「鈴ナイス。」
「こっちの方もできたよ。」
恵里の降霊術により動き始める死んだ魔物に舌打ちをする魔人族の女。
「ちくしょう! 何だってんだ!」
「なんなんだよ、この魔物は!」
「くそ、とにかくやるぞ!」
そこまでの事態になってようやく檜山達や永山のパーティーが悪態を付きながらも混乱から抜け出し完全な戦闘態勢を整える。傷を負っていた雫や永山も完全に治癒されて、それぞれ眼前の見えるようになったキメラに攻撃を仕掛け始めた。
「雫合わせろ。」
「えぇ。」
俺と雫の高速連携が始まる。残像すら見えない超高速の中、〝無拍子〟による予備動作のない移動と斬撃。姿すら見えないのは単純な移動速度というより、急激な緩急のついた動きに認識が追いつかないからだ。さらに、剣術の派生技能により斬撃速度と抜刀速度が重ねて上昇する。鞘走りを利用した素の剣速と合わせれば、普通の生物には認識すら叶わない神速の一閃となる。それを連携できるのも俺たちの強みだろう
雫が先程受けた一撃のお返しとばかりに放たれたそれは八重樫流奥義が一〝断空〟。空間すら断つという名に相応しく、銀色の剣線のみが虚空に走ったかと思えば、次の瞬間には、キメラの蛇尾が半ばから断ち切られた。
「グゥルァアア!!」
「丸空きだ。」
俺はその瞬間一撃で敵を真っ二つにする
「流石の剣筋ね。」
「生憎こっちにきてからも鍛えているしな。まだ余裕だよな?」
「えぇ。次に行きましょう。」
とあっさりした対応。一体くらいなら正直余裕で倒せる
「……まぁこうくるよな。」
すると次は3体の魔物を押し寄せてくる。多分分裂が目的なんだろうけど
「まぁ同じことよね。」
「そうだなっと。」
するとさっきよりも早い速度で回っていく。俺の統率スキルは万能で未だに見せていない奥の手だった。
元々迷宮攻略で俺と恵里は基本指揮とサポートしかとっていなかった。
というのも戦闘経験なら迷宮に潜るよりギルドの依頼を受ける方が戦闘経験はつくのだ
その有利を働いて俺中心になって攻めている。
嫌な予感がしたのを感じ俺が秘密裏に永山と雫に話した秘策が見事に的中したわけだ
でも優勢なのは俺と雫、恵里と鈴のそのラインだけだった
どうやら回復役がいるらしく傷つけても傷つけても敵が減らないから焦りがでるのだろう
「だいぶ厳しいみたいだね。どうする? やっぱり、あたしらの側についとく? 今なら未だ考えてもいいけど?」
光輝達の苦戦を、腕を組んで余裕の態度で見物していた魔人族の女が再び勧誘の言葉を光輝達にかけた。もっとも、答えなど分かっているとでも言うように、その表情は冷めたままだったが。そして、その予想は実に正しかった。
「ふざけるな!俺達は脅しには屈しない!俺達は絶対に負けはしない!それを証明してやる!行くぞ〝限界突破〟!」
魔人族の女の言葉と態度に憤怒の表情を浮かべた光輝は、再びメイスを振り下ろしてきたブルタールモドキの一撃を聖剣で弾き返すと、一瞬の隙をついて〝限界突破〟を使用した。
「ちょ。」
俺は呆れたようにしてしまうが、それを魔物が防ぎ混んでしまう
〝限界突破〞は、一時的に魔力を消費しながら基礎ステータスの三倍の力を得る技能である。ただし、文字通り限界を突破している
ので、長時間の使用も常時使用もできないし、使用したあとは、使用時間に比例して弱体化してしまう。酷い倦怠感と本来の力の半分程度しか発揮できなくなるのだ。なので、ここぞという時の切り札として使用する時と場合を考えなければならない。
「あのバカ。優勢なところから倒していくのが基本だろうが。恵里。鈴。光輝のフォローに入れ。」
「りょ、了解。」
「う、うん。」
と指示を出したその時だった
「「「「「グゥルァアアア!!!」」」」」
「なっ!?」
空間の揺らめきが五つ。咆哮を上げながら光輝に襲いかかった。四方を囲むように同時攻撃を仕掛けてきたキメラに、光輝は思わず驚愕の声を上げ眼を大きく見開いた。
咄嗟に、急ブレーキをかけつつ身をかがめ正面からの一撃を避けつつ右から襲い来るキメラを聖剣の一撃で切り伏せる。そして、身
にまとった聖なる鎧の性能を信じて、背後からの攻撃を胴体部分で受けて死の凶撃を耐え凌ぐ。
だが、出来たのはそこまでだった。左から迫っていたキメラの爪に肩口を抉られ、その衝撃に吹き飛ばされているところへ包囲の外にいた最後の一体が飛びかかり両足の爪を光輝の肩に食い込ませて押し倒した。
「ぐぅう!!」
「快斗くん。」
「分かっている。光輝のサポートをしろ香織。」
判断は迅速に。やっぱり一つだけ解禁するか
俺は服の中から小さな小瓶を瞬時に取り出し不自然に空いたところに投げ入れた
そして瓶が割れた瞬間
バゴォーン
と大きな音とともに火が舞い上がる
「何?」
魔人族の動揺した顔が初めて見られる。燃焼の大きさからその中に大量の魔物もいたのだろう
「やっと焦った声がきけたぜ。」
「……あんた何作ったのよ。」
俺が投げたのはこの世界では見られない空気に触れた瞬間に爆発する小型爆弾だ。忍者では爆薬を使った破壊工作をやったこともあったので自然と覚えたスキルのひとつだ。
するともはや光輝よりも俺たちの方にくる魔物に俺は少しため息を吐く
「いい加減学習しろよ。こっちばかり気をとられていると」
「紅蓮の焔に巻き起こりし全ての大地を焔を包め。炎帝。」
恵里の詠唱が進み青色の炎がすべての敵を包み込んでいく
「恵里。ナイスタイミング。」
「……ちっ。降霊術師なのに上級の火属性魔法まで使えるのか。」
そういえば光輝は?と思い一瞬光輝の方を見ると黒猫の魔物5体に苦戦している光輝がいた
……まぁなんとかなるだろう。
「地の底に眠りし金眼の蜥蜴 大地が産みし魔眼の主 宿るは暗闇見通し射抜く呪い もたらすは永久不変の闇牢獄 恐怖も絶望も悲嘆もなく その眼を以て己が敵の全てを閉じる 残るは終焉 物言わぬ冷たき彫像 ならば ものみな砕いて大地に還せ! 〝落牢〞!」
「ッ!? ヤバイッ! 谷口ィ!! あれを止めろぉ! バリア系を使え!」
「ふぇ!? りょ、了解! ここは聖域なりて 神敵を通さず! 〝聖絶〞!」
野村が叫び声をあげる。確か落牢って
「やば。雫。谷口のフォローに行くぞ。石化魔法だ。」
「っ!!!えぇ。」
鈴が〝聖絶〞を展開した直後、灰色の渦巻く球体が障壁に衝突した。灰色の球体は、障壁を突破しようと見かけによらない凄まじい威力で圧力をかける。鈴は、突破させてなるものかと、自身の魔力がガリガリと削られていく感覚に歯を食いしばりながら必死に耐えた。
と、魔人族の女から命令でも受けたのか、魔物の動きが変化する。複数体が一斉に鈴を狙い始めた。
だが
「よっと。」
「ここは守りきるわよ。」
俺と雫がカバーに入ることによって数体を切り捨てることには成功するのだが〝聖絶〞の維持で動けない鈴に、隙間を縫うようにして黒猫が一気に接近した。野村が、咄嗟に地面から石の槍を発動させて串刺しにしようとするが、黒猫は空中でジグザグに跳躍すると、身をひねりながら石の槍を躱し、触手を全本射出した。
「谷口ぃ!」
「あぐぅ!?」
野村が鈴の名を呼んで警告するが、時すでに遅し。触手は、咄嗟に身をひねった鈴の腹と太もも、右腕を貫通した。更に捉えたまま横薙ぎに振るって鈴の小柄な体を猛烈な勢いで投げ捨てた。
「やばい。みんな離れろ!!」
俺は鈴は、血飛沫を撒き散らしながら、背中から地面に叩きつけられる前に抱きかかえる。
だけどダメージを全て回収することはできず呼吸を取り戻すと同時に激痛に耐え兼ねて悲鳴を上げた。
「あぁああああ!!」
「鈴ちゃん!」
「「鈴!」」
その苦悶の声を聞いて香織と恵里と雫が、思わず悲鳴じみた声で鈴の名を呼ぶ。直ぐさま、香織が回復魔法を行使しようと精神を集中するが、それより鈴の施した光り輝く結界が消滅する方が早かった。
「全員、あの球体から離れろぉ!」
野村が焦燥感に満ちた声で警告を発する。だが、鈴の鉄壁を誇った〝聖絶〟と今の今まで拮抗していた魔法だ。今更、その警告は遅すぎるだろう
「……近藤。鈴を頼む。」
俺はそして鈴を近くにいた近藤に投げる。
「快斗!!」
「快斗くん!!」
雫と香織の声が聞こえる。微かに声が震えているのが分かる
おそらく俺のしようとすることが分かったのだろう
だから俺は笑ってこういった
「後は任せた。」
灰色の煙は、一瞬で俺を包み込む。魔物の影はない。着弾と同時に、一斉に距離をとったからだ。
体が重く石化していくのが分かる。石化し始めているのでなるべく鼻を塞ぎ口も閉じ体内に落牢の魔法を吸い込まないようにする
大丈夫お前らうまくやれるはずだ
仲間を信頼しながら俺は暗闇の中に意識を失った