忍びの王 作:焼肉定食
「……いつぅ。」
俺は目がさめると顔をしかめ、体全体の痛みがじわじわと俺に押し寄せてくる
「「「「快斗(くん)」」」」
すると声が聞こえそっちを見ると涙目の雫や鈴。呆れた様子の恵里や香織、龍太郎すら慌てたようにしている
「ん?おう。ってここは?」
「八十九層の最奥付近の部屋よ。……ほんと心配したんだから。」
すると水筒を差し出してくる雫に俺は悪かったと一言入れそして水をゆっくり飲む。
沈んでいる様子からは多分光輝たちは負けて敗走したのだろう。
遠藤がいないことは多分下層に助けを求める為
天職が暗殺者であることから誰にも気付かれずに下に降りているのだろう
「他に石化された人は?」
「いや。お前のおかげで誰もいないさ。」
「ん。なら良かった。全員無事で。」
近藤が答えると俺は少しながら笑ってしまう。すると女子が視線を横にずらしていたが気にせずに俺は脳をフル回転させる。
「とりあえずまずはどうするかだな。俺もまだ足が重いから話し合いおわったらもう30分ほど一眠りしてもいいか?ちょっと身体強化で石化の進行を抑えていたから魔力を3割くらいは回復させたい。」
「お前よくその判断できたな。」
「生憎魔法の効果は分かっていたからな。鈴が受けたら死ぬ可能性があったし俺も逃げたかったけど正直魔人族は俺を潰しにきていた。だから確実に俺が戦闘不能になれば他の奴らに標的がいることにはならないことが分かっていたんだよ。生憎石化は体内の中に入らなければ死なないことが分かっていたしな。」
だからすぐに対応ができた。知識も剣も磨きをかけたから俺は対応策が全て最善策だ
「とりあえず今の状況は?」
「快斗以外の前衛は全員回復しているけど、香織と辻さん。後鈴もほとんど魔力が残ってないわ。」
「香織と鈴は俺の魔力回復薬使え。俺のポケットに入っているはずだし。」
と二つの試験管みたいな栄養ドリンク色の液体を渡す
「辻は戦力外みたいにして悪いけどな。檜山たち前衛陣は基本はサポート。その隙に俺が限界突破を使って倒すさ。」
「光輝じゃなくか?」
「生憎俺の方が今の実力は上だし。ちゃんと覚悟もしている。今の光輝に俺はあの魔人族を倒せるとは思わないしな。多少無理しても俺が殺すしかないだろ。」
すると体が重く未だに完全調子ではないことに気づく。先の戦いのために身を休めることがいいだろう
「やっぱ悪いちょっと体痛いし魔力尽きかけで眠いわ。ちょっと休んでいいか?もし戦闘が始まったら起こしてくれ。」
「……えぇ。ごめんなさい。快斗に全部任せてしまって。」
「いいって好きでやっているんだし。鈴。」
すると今まで黙っていた鈴に話しかける
「後は任せろ。」
もう一度戦意を振るい立たせる言葉をいいもう一度目を閉じる。
体をじっくり休めて、そして次の戦場に行くために
俺はすぐびくっと反応し目がさめる。感知系がなくても分かる魔力の塊に俺は少し周辺を見渡す。
「……あっ。起きた?」
「辻か?あいつらは?」
「……それが魔人族と戦いにみんな外に出てる。」
「……誰が俺を起こさないことにした。」
「えっ?天之河くんだけど。」
「……はぁ。ちょっくら行ってくる。」
少し寝たせいか頭のなかがすっきりしている。
「待って。気持ちは分かるけど身を隠さないと。体も完全じゃないし。」
「生憎そんなに頭がいい方じゃないんだ。生憎仲間が殺されるっていうのに俺だけ生きるって言っても多分無理だしな。多分自殺するぞ俺。それに。」
俺は少し息を吐き
「好きな女が無茶していると思うのに助けにいかないわけにはいかないだろうが。」
そして俺は戦場へ向かう
俺は多分ずっと剣をとる。
例え死ぬことになったとしても
泣いている顔も
笑っている顔も
困っている顔も
怒っている顔も
恥ずかしく顔を真っ赤にしている顔も
ずっと好きだった雫の元で死ぬのだったらそれでいい
自分でも狂っていることは分かっている
それでも俺は雫のことが大好きなんだ。
「快斗助けて。」
そんな声が聞こえてくる
「そんなの当たり前だろ。」
俺は馬頭を一閃すると背後を見る
すると驚いたように、そして絶望して泣いていたのであろう。少し涙が出ている雫と。涙を流している香織の姿が見える
「わりい。寝坊した。」
「「「「快斗!!」」」」
俺を呼ぶクラスメイトの声。するとわずかながら希望が見えたような顔をする
そして次の瞬間
ドォゴオオン!!
轟音と共に天井が崩落し、同時に紅い雷を纏った巨大な漆黒の杭が凄絶な威力を以て飛び出した。
全長百二十センチのほとんどを地中に埋め紅いスパークを放っている巨杭に眼前にいた俺と香織と雫はもちろんのこと、光輝達や彼等を襲っていた魔物達、そして魔人族の女までもが硬直する。
戦場には似つかわしくない静寂が辺りを支配し、誰もが訳も分からず呆然と立ち尽くしていると、崩落した天井から人影が飛び降りてきた。その人物は、香織達に背を向ける形でスタッと軽やかに降り立つと、周囲を睥睨する。そこに現れた白髮、義手の男性はただ微笑ましそうに見ていた
「……相変わらず仲がいいな、お前等」
苦笑いしながら、そんな事をいう。
「……おいおい。まじかよ。この登場はかっこよすぎるだろ。」
俺はさすがに苦笑してしまう。まさかこんなところで会えるとは思いもしなかった。
髪の色が違う、纏う雰囲気が違う、口調が違う、目つきが違う。だが、わかる。生存を信じて探し続けた友達だ。
「「ハジメ(くん)!」」