忍びの王 作:焼肉定食
「へ?ハジメくん?って南雲くん?えっ?なに?どういうこと?」
俺と香織の歓喜に満ちた叫びに、隣の雫が混乱しながら香織とハジメを交互に見やる。
どうやら、俺たちは一発で目の前の白髪眼帯黒コートの人物がハジメだと看破したようだが、雫にはまだ認識が及ばないらしい。
しかし、それでも肩越しに振り返って自分達を苦笑い気味に見ている少年の顔立ちが、記憶にあるハジメと重なりだすと、雫は大きく目を見開いて驚愕の声を上げた。
「えっ? えっ? ホントに? ホントに南雲くんなの? えっ? なに? ホントどういうこと?」
「いや、落ち着けよ八重樫。お前の売りは冷静沈着さだろ?」
「いや雫ってテンパるとこんなもんだぞ。」
「お前元気そうだな。いや。確か遠藤曰く谷口を庇って石化されていたんだっけか?なんでお前そんなにげんきなんだよ。」
「生憎。全快とは言い切れないほどいや、吐き気はひどいし具合は悪いしコンディション最悪だけどな。」
俺は剣を鞘から抜き
「ただ俺の大切な人に手を出した。それだけで殺す理由は十分だろ。」
「お前かなり物騒になったな。」
「元からこんなんだぞ。まぁ今回ばかりは許す気もないし少し光輝にも説教しないといけないしな。俺もさっきまで爆睡してたから言えないけどさ。てか上に気配感じるんだけど誰かいるのか?」
すると急に落下してきた金髪の女の子をハジメがお姫様抱っこで受け止めると恭しく脇に降ろし、ついで飛び降りてきたウサミミ少女も同じように抱きとめて脇に降ろす。
最後に降り立ったのは全身黒装束の少年、遠藤浩介だ。
「な、南雲ぉ! おまっ! 余波でぶっ飛ばされただろ! ていうか今の何だよ! いきなり迷宮の地面ぶち抜くとか……」
文句を言いながら周囲を見渡した遠藤は、そこに親友達と魔物の群れがいて、硬直しながら自分達を見ていることに気がつき「ぬおっ!」などと奇怪な悲鳴を上げた。そんな遠藤に、再会の喜びとなぜ戻ってきたのかという憤りを半分ずつ含めた声がかかる。
「「浩介!」」
「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」
〝助けを呼んできた〟その言葉に反応して、光輝達も魔人族の女もようやく我を取り戻した。そして、改めてハジメと二人の少女を凝視する。だが、そんな周囲の者達の視線などはお構いなしといった様子で、ハジメは少し面倒臭そうな表情をしながら、近くにいる二人に手早く指示を出した。
「ユエ、悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。シア、向こうで倒れている騎士甲冑の男、容態を見てやってくれ」
「ん……任せて」
「了解ですぅ!」
「お前は。」
「悪いここは俺にもやらせて。……あいつだけは俺が殺る。」
そして俺は笑っているように見えてかなりの殺気を保有する
「ちっ。死に損ないが。お前に何ができるんだい。」
「……それでよそ見してていいのか?」
俺は試験管を一つ取り出し投げつける
「まずい。」
「おせぇよ。」
俺はボゴーンという爆発音に今度は広範囲で小麦粉を撒き散らす
粉塵爆発を使い威力も高め。そして広範囲に白い小麦粉が配布し魔物らしき痕跡が白く浮かび上がる
「……やっぱり迷彩でも外部からつけられた痕跡は隠せないらしいな。恵里。」
「うん。マーキング。」
「ちっ、こっちが目的か!!」
おそらくとどめを刺しにきたのであろう全体の気配を俺は掴み取る
これでアドバンテージは無くした
そして気配を上手く掴み俺は笑う
「おせぇよ。」
すぐ近くの大型のカメみたいな魔物を甲羅ごと切り捨てる。防御もクソもない。
ただ正確に同じところに10連撃を加えただけだ。
「たく。仕方がねぇ。ギルドの依頼だし加勢するぞ。」
ドグシャ!
そんな生々しい音を立てて、地面にクレーターを作りながらキメラの頭部が粉砕される。そして、ついでにとばかりにドンナーを抜いたハジメは、一見、何もない空間に向かって銃を続けざまに撃ち放った。
ドパンッ! ドパンッ!
乾いた破裂音を響かせながら、二条の閃光が空を切り裂き目標を違わず問答無用に貫く。すると、空間が一瞬揺ぎ、そこから頭部を爆散させたキメラと心臓を撃ち抜かれたブルタールモドキが現れ、僅かな停滞のあとぐらりと揺れて地面に崩れ落ちた。
「へぇ〜レールガンか。いい武器だな。」
「てめぇこそ爆弾だろ?あれ。」
「火薬の扱いには慣れているからな。俺の十八番ってわけだっと。」
俺も負けてられないとばかりに剣で敵をバターのように切り裂いていく。
背後には銃を撃っているハジメの姿が目に見える
初めて組むはずなのにやりやすい
背後はハジメが守っているせいか安心できる
もはや殺し合いですらない。一方的な処刑だ。
すると香織と雫を狙ってキメラや黒猫が襲いかかった。どうやら他のところを狙っていたらしいが全て撃退されたらしい。
殺意を撒き散らしながら迫り来る魔物に歯噛みしながら半ばから折れた剣を構えようとする雫だったが、それを制止するように、周囲で浮遊していた謎の十字架に雫が入る。突然、十字架が長い方の先端をキメラに向けて轟音を響かせた。何かがくるくると飛び、カランカランという金属音を響かせて地面に落ちた。香織の側でも同じく轟音が響き、やはり同じように金属音が響く。
「お前いつからニュー○イプになったんだよ。」
俺は呆れたように苦笑しそして苦無をユエと呼ばれた少女の背後から近づいていた黒猫に投げる
「……む。」
「す、すごい……ハジメくんってファ○ネル使いだったんだ」
「彼、いつの間にニュー○イプになったのよ……」
「そういや、快斗の部屋で見てたな。」
そんな軽口を言えるほどの余裕がでる
「ホントに……なんなのさ」
力なく、そんなことを呟いたのは魔人族の女だ。何をしようとも全てを力でねじ伏せられ粉砕される。そんな理不尽に、諦観の念が胸中を侵食していく。もはや、魔物の数もほとんど残っておらず、誰の目から見ても勝敗は明らかだ。
魔人族の女は、最後の望み! と逃走のために温存しておいた魔法を俺たちに向かって放ち、全力で四つある出口の一つに向かって走った。俺たちのいる場所に放たれたのは〝落牢〟だ。それが、直ぐ傍で破裂し、石化の煙が俺たちを包み込んだかのように見えた。香織と雫が悲鳴じみた声で俺たちの名を呼ぶ。
まぁ躱すこと自体は簡単なんだけど。身体強化で脚力を強化させたあと俺は大きく上に飛び天井に張り付く。重力何それおいしいのと言いたいばかりに天井を歩く。これは俺の靴にビッグがはめられておりどこにでも移動できるという、俺が錬成師に作らせた一品だった。そして魔物に向けて手裏剣や苦無を投げる。上に逃げたとは思わずただただ蹂躙される魔物たちにちょっと罪悪感を覚えるが慈悲はない
そして魔人族の方はというと
「はは……既に詰みだったわけだ」
「その通り」
魔人族の女の目の前、通路の奥に十字架が浮遊しておりその暗い銃口を標的へと向けていた。乾いた笑いと共に、ずっと前、きっとハジメに攻撃を仕掛けてしまった時から既にチェックメイトをかけられていたことに今更ながらに気がつき、思わず乾いた笑い声を上げる魔人族の女。そんな彼女に背後から憎たらしいほど平静な声がかかる。
「……この化け物め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんた、本当に人間?」
「実は、自分でも結構疑わしいんだ。だが、化け物というのも存外悪くないもんだぞ?」
俺も天井から飛び降り着地する
んじゃとりあえず最後に殺すか
「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことは? と聞くんだろうが……生憎、お前の遺言なんぞ聞く気はない。それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか……それと、あの魔物を何処で手に入れたのか……吐いてもらおうか?」
「あたしが話すと思うのかい? 人間族の有利になるかもしれないのに? バカにされたもんだね」
嘲笑するように鼻を鳴らした魔人族の女に、ハジメは冷めた眼差しを返した。そして、何の躊躇いもなくドンナーを発砲し魔人族の女の両足を撃ち抜いた。
「あがぁあ!!」
「人間族だの魔人族だの、お前等の世界の事情なんざ知ったことか。俺は人間族として聞いているんじゃない。俺が知りたいから聞いているんだ。さっさと答えろ」
「……」
痛みに歯を食いしばりながらも、ハジメを睨みつける魔人族の女。その瞳を見て、話すことはないだろうと悟ったハジメは、勝手に推測を話し始めた。
「ま、大体の予想はつく。ここに来たのは、〝本当の大迷宮〟を攻略するためだろ?」
魔人族の女が、ハジメの言葉に眉をピクリと動かした。その様子をつぶさに観察しながらハジメが言葉を続ける。
「あの魔物達は、神代魔法の産物……図星みたいだな。なるほど、魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからか……とすると、魔人族側は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いているわけか……」
「どうして……まさか……」
そこまで言われたら俺も理解はする
こいつ神代魔法もっていやがるのか
この世界の歴史なら少し勉強した。この世界の創世神話に出てくる魔法で? 今の属性魔法と異なってもっと根本的な理に作用できるらしい
「……なるほどな。つまり俺も作ろうとしていたアーティファクトを作れるのか。そりゃつえぇわ。」
俺はボソっと呟く。鉱石の関係上作れなかった兵器が数点あるのだがこいつは簡単に作れる。いわゆる科学と魔法を複合させたのであろう
「なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……」
「あの方……ね。魔物は攻略者からの賜り物ってわけか……」
捕虜にされるくらいならば、どんな手を使っても自殺してやると魔人族の女の表情が物語っていた。そして、だからこそ、出来ることなら戦いの果てに死にたいとも。
「……さすがに介錯はしてやる。」
俺は剣を抜き一撃で殺せるように首もとに剣を当てる
魔人族の女は、道半ばで逝くことの腹いせに、負け惜しみと分かりながら俺たちに言葉をぶつけた。
「いつか、あたしの恋人があんたらを殺すよ」
「殺せるもんなら殺してみろ。俺は大切な人のために戦う。それで死ぬようなら願ったり叶ったりだ。」
「敵だと言うなら神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴じゃあ、俺には届かない」
互いにもう話すことはないと口を閉じ俺は剣を振りかぶる
しかし、いざ剣を振るうという瞬間、大声で制止がかかる。
「待て!待つんだ、快斗!彼女はもう戦えないんだぞ!殺す必要はないだろ!」
「……」
はぁ本当に嫌になる
「……ん。手強かったよあんた。でも俺の糧にさせてもらう。」
俺はもはやいうことはなかった
「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。快斗も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」
いやなこった。俺は剣を振り下ろし首を切断する。
真っ赤な血が首を切り取ると返り血が俺を浴びる。
静寂が辺りを包む。クラスメイト達は、今更だと頭では分かっていても同じクラスメイトが目の前で躊躇いなく人を殺した光景に息を呑み戸惑ったようにただ佇む。
「……お疲れさん。」
ハジメの声が聞こえてくる
「あぁ。お疲れ様。」
俺は軽くハジメと健闘を讃え合い軽く手を合わせた