忍びの王   作:焼肉定食

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親友の応援

「……ふぁ〜あ。」

「……お前よく寝てたな。」

 

永山がそんなことをいう

俺が起きるとまだオルクスの大迷宮にいたらしく上層に向かっている途中だった

 

「あっ。悪い。ちょっと恥ずかしさと黒歴史を作ったせいで現実から逃げてた。」

「……お前な。」

「だってどう考えても恥ずかしいだろ。あんなの。てかなんであんなこといったんだろ。」

 

おそらく結構な時間上に向かっていたのだろう。おそらく10層くらいだろうか。

一度寝て羞恥心が消えることもなく

 

「確かに結構恥ずかしいこと言っていたからなお前。」

「うっ。」

「そうだね。味方である人たちの味方でありたいとか家に帰りたいとかってね。」

「……もうやめて。マジではずかしいから。」

 

野村と辻のからかいに俺は顔をユデダコみたいに真っ赤にする

 

「……でも、ありがとな。俺たちのことをそんなに考えてくれて。」

 

すると永山がそんなことを言い出す

 

「あぁ。俺も目が冴えたよ。確かに俺たちは最初は帰ることが目的だったんだよな。」

「私も。少し罪悪感はあるけどお母さんとお父さんに会いたいから。」

 

遠藤と辻も少し照れてながら俺に賛同する

 

「なんかお前って不思議だよなぁ。天之河みたいになんでもできるわけじゃないけどなんか付いていきたくなるんだよなぁ。」

「あっ。うん。わかるかも。」

「できないことがあれば頼ってくるけど、一番頼りになるからな。」

「あぁ。さすが天職が王だけあるな。」

「やめろ。マジで恥ずかしい。」

 

なんか今日こんなんばっかりなんだけど。

 

「でも、お前この後の比べるとましだと思うぞ。あの中に入らないといけないんだから。」

「……やめろ。想像もしたくない。俺だっていきたくないから。」

 

雫や恵里、鈴がこっちをチラチラと視線を向けている。

さすがに鈍感な俺でも分かる。

これ修羅場になるやつだと

 

「そういや。一つ気になったんだけどお前何で最初限界突破使わなかったんだ?」

「ん?光輝がやられた時の保険とどれだけの戦力か分からなかったからな。魔人族が本当に一人なのかとか色々疑問に思っていたことが結構あったし、切り札もみせてなかったし、まぁヒールされて焦っていたのは分かったけどそれでも俺と雫は倒せていたわけで。まさか落牢を使ってくるとは思ってなかったからそこは俺のミスだよ。てっきり魔物にもっと強い奴がいるのかと思っていたからな。」

「……お前よく考えているな。」

「考えるのが指揮するものの役目ですから。」

 

そういった面では結構反省点がある

ここまでやられたには俺の責任でもあるからだ

 

「んじゃまた一から頑張りますか。」

「そうだな。」

「うん。」

 

とさっきとは違い笑みが溢れる。まだ強くなれると思うと俺も少し嬉しくなるのだった

大迷宮を出た途端にまた面倒ごとに会うことをこの時は予想だにもしてなかった

 

 

「パパぁー!! おかえりなのー!!」

 

【オルクス大迷宮】の入場ゲートがある広場に、そんな幼女の元気な声が響き渡る。

 

ステテテテー!と可愛らしい足音を立てながら、ハジメへと一直線に駆け寄ってきたミュウは、そのままの勢いでハジメへと飛びつく

 

「へ?パパ?」

 

俺はハジメの方を見るとすると笑顔でミュウと呼ばれる。多分海人族の子供を見る

 

「ミュウ、迎えに来たのか? ティオはどうした?」

「うん。ティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。ティオお姉ちゃんは……」

「妾は、ここじゃよ」

 

人混みをかき分けて、妙齢の黒髪金眼の美女が現れる。

……香織のライバルどれ位いるんだよ。

俺は少し頭を抱えていると

 

すでに俺も歩けるくらいには回復しており今は永山の班に居させてもらっている

……さすがに怖いんだよ。あいつら

辻も涙目になっているし

 

 

「おいおい、ティオ。こんな場所でミュウから離れるなよ」

「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」

「なるほど。それならしゃあないか……で? その自殺志願者は何処だ?」

「いや、ご主人様よ。妾がきっちり締めておいたから落ち着くのじゃ」

「……チッ、まぁいいだろう」

「……ホントに子離れ出来るのかの?」

 

ハジメが、この四ヶ月の間に色々な経験を経て自分達では及びもつかないほど強くなったことは理解したが、「まさか父親になっているなんて!」と誰もが唖然とする。特に男子などは、「一体、どんな経験積んできたんだ!」と、視線が自然とユエやシア、そして突然現れた黒髪巨乳美女に向き、明らかに邪推をしていた。ハジメが、迷宮で無双した時より驚きの度合いは強いかもしれない。

 

俺はそんな面倒ごとを持って来たハジメに俺は胃が痛くなりながらとりあえず助けてもらったお礼を言おうとする

 

そんな時ゆらりと一人進みでる。顔には笑みが浮かんでいるのに目が全く笑っていない……香織だ。香織は、ゆらりゆらりと歩みを進めると、突如、クワッと目を見開き、ハジメに掴みかかった。

 

「ハジメくん!どういうことなの!?本当にハジメくんの子なの!?誰に産ませたの!?ユエさん!?シアさん!?それとも、そっちの黒髪の人!?まさか、他にもいるの!?一体、何人孕ませたの!?答えて!ハジメくん!」

 

あのバカさすがにその間違いはひどすぎる

 

「香織、落ち着きなさい! 彼の子なわけないでしょ!」

「香織お前落ち着け。ハジメの娘じゃないに決まっているだろ。ってお前どこからそんな力でているんだよ。」

 

俺と雫がとっさに動き香織を羽交い締めにするけどどこからその力が出ているのか、全くハジメから離れようとしない。

なんか地上に戻ってもこんなんばっかりかぁと俺は苦笑しざるをえなかった

 

 

 香織が、顔を真っ赤にして雫の胸に顔を埋めている姿は、まさに穴があったら入りたいというものだった。冷静さを取り戻して、自分がありえない事を本気で叫んでいた事に気がつき、羞恥心がマッハだった

 

「大丈夫だからね〜。よしよし。」

「……大丈夫だから。俺だってかなり恥ずかしい思いをしたんだし。」

 

と俺たちは必死に香織を慰める

今ハジメは俺の伝言も一緒に依頼の達成を報告している最中である。その間俺たちは必死に自分たちのことを棚において香織を正気に戻そうとしていた

 

「……ねぇ。二人のあの姿まるでお父さんとおかあ」

「鈴。死にたくなければそれ以上は言わない方がいいよ。」

 

うん。俺は別にいいけど雫がマジギレするんで本当にそれやめてね

そして香織が落ち着いた後俺はハジメに近づき話始める

 

「悪いな。色々迷惑かけちまって。」

「いや。お前と白崎が俺をずっと探しているって先生に聞いてたからな。」

「……なるほどやっぱりウルの町もか。魔人族関係か?」

「あぁ。……清水を魔人族側に引き込んで先生を殺そうとしていたんだよ。」

「……なるほどな。やっぱお前クラスメイト殺していたのか。」

 

俺は少し予感があった。おそらくハジメのスタイルは俺と同じである

身内にはとことん甘いが敵には容赦はしない

だから、俺が魔人族を殺しても驚かなかったのは唯一こいつだけである。なのでどこか人殺しを経験していることは感じていた

 

「……悪いか?」

「全然。何で裏切った奴のことを心配する必要があるんだ。さすがにボーダーくらいはちゃんとつけるさ。それに俺でもそうしているだろうしな。」

「……お前結構さっぱりしてんなぁ。」

 

と俺は苦笑する

すると

 

「おいおい、どこ行こうってんだ?俺らの仲間、ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないってのか?ア゛ァ゛!?」

 

 薄汚い格好の武装した男が、いやらしく頬を歪めながらティオ呼ばれていた女性を見て、そんな事をいう。

……うわぁ典型的な賊だな。リリィに行ってこの街の傭兵をチェックしてもらうべきだろうな。

俺は少しリリィに早速頼み事ができたかと思うと少し苦笑してしまう。まぁあの仕事大好き人間のリリィのことだ。王国のためならちゃんと仕事をするだろう

 

 その視線がユエやシアにも向く。舐めるような視線に晒され、心底気持ち悪そうにハジメの影に体を隠すユエとシアに、やはり怯えていると勘違いして、ユエ達に囲まれているハジメを恫喝し始めた。

 

「ガキィ!わかってんだろ?死にたくなかったら、女置いてさっさと消えろ!なぁ〜に、きっちりわび入れてもらったら返してやるよ!」

「まぁ、そん時には、既に壊れてるだろうけどな〜」

「……」

 

何が面白いのか、ギャハハーと笑い出す男達。そのうちの一人がミュウまで性欲の対象と見て怯えさせ、また他の一人が兎人族を人間の性欲処理道具扱いした時点で、彼等の運命は決まった

 

「快斗。」

「大丈夫。一応王宮では結構強い発言権をもっているからな。隠蔽は任せろ。」

 

空間すら軋んでいると錯覚しそうな大瀑布の如きプレッシャーが傭兵紛いの男達に襲いかかる。彼等の聞くに耐えない発言に憤り、進み出た光輝がプレッシャーに巻き込まれフラついているのが視界の片隅に映っていたが、ハジメは気にすることもなく男達に向かって歩み寄った。

 今更になって、自分達が絶対に手を出してはいけない相手に喧嘩を売ってしまったことに気がつき慌てて謝罪しようとするが、プレッシャーのせいで四つん這い状態にされ、口を開くこともできないので、それも叶わない。

俺はどうするのか結構興味深くしていると

ハジメは、少しプレッシャーを緩めて全員を膝立ちさせ一列に整列させると、端から順番に男の象徴を撃ち抜いていくという悪魔的な所業を躊躇いなく実行した。さらに、悲鳴を上げながら、股間を押さえてのたうち回る男達を一人ずつ蹴り飛ばし、絶妙な加減で骨盤も粉砕して広場の隅っこに積み重ねていった。これで、彼等は子供を作れなくなり、おそらく歩くことも出来なくなっただろう

 

「容赦ねぇな。」

「また、容赦なくやったのぉ〜。流石、ご主人様じゃ。女の敵とはいえ、少々同情の念が湧いたぞ?」

「いつになく怒ってましたね〜。やっぱり、ミュウちゃんが原因ですか? 過保護に磨きがかかっているような」

「……ん、それもあるけど……シアのことでも怒ってた」

「えっ!? 私のために怒ってくれたんですか? えへへ、ハジメさんったら……有難うございますぅ〜」

「……ユエには直ぐに見透かされるな」

「んっ……当然。ハジメのこといつも見てるから」

「ユエ……」

「ハジメ……」

「……何これ。くそ甘ったるいんだけど。」

 

俺は苦いものが欲しくなり少しどうしようかと思い後ろを見ると

何かを決意したのか、ピースが当てはまったのか決心をつけたのであろう。勝負をする目をしている香織の姿がいた

 

「……オセェよ。さっさと決めろバカおり。」

 

ハジメの時間稼ぎは終わりだ。俺は気づかれないうちに香織の元に向かう

 

「頑張れよ。」

「うん。ありがとう。」

 

そしてすれ違いぎわに軽く手を叩く俺と香織。

歩み寄ってくる香織に気がつくハジメ達。ハジメは、見送りかと思ったのだろうが、隣のユエは、「むっ?」と警戒心をあらわにして眉をピクリと動かした。シアも「あらら?」と興味深げに香織を見やり、ティオも「ほほぅ、修羅場じゃのぉ〜」とほざいている。どうやら、ただの見送りではないらしいと、ハジメは、嫌な予感に眉をしかめながら香織を迎えた。

 

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな? ……ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」

「………………は?」

 

第一声から、前振りなく挨拶でも願望でもなく、ただ決定事項を伝えるという展開にハジメの目が点になる。思わず、間抜けな声で問い返してしまった。直ぐに理解が及ばずポカンとするハジメに代わって、ユエが進み出た。

 

「……お前にそんな資格はない」

「資格って何かな? ハジメくんをどれだけ想っているかってこと?だったら、誰にも負けないよ?」

 

 ユエの言葉に、そう平然と返した香織。あぁなっては香織は折れない。ユエが、さらに「むむっ」と口をへの字に曲げる。

 香織は、ユエにしっかり目を合わせたあと、スッと視線を逸らして、その揺るぎない眼差しをハジメに向けた。そして、両手を胸の

前で組み頬を真っ赤に染めて、深呼吸を一回すると、震えそうになる声を必死に抑えながらはっきりと……告げた。

 

「貴方が好きです」

「……白崎」

 

香織の表情には、羞恥とハジメの答えを予想しているからこその不安と想いを告げることが出来た喜びの全てが詰まっていた。そして、その全てをひっくるめた上で、一歩も引かないという不退転の決意が宿っていた。

覚悟と誠意の込められた眼差しに、ハジメもまた真剣さを瞳に宿して答える。

 

「俺には惚れている女がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れては行かない」

 

 はっきり返答したハジメに、香織は、一瞬泣きそうになりながら唇を噛んで俯くものの、しかし、一拍後には、零れ落ちそうだった

涙を引っ込め目に力を宿して顔を上げた。そして、わかっているとでも言うようにコクリと頷いた。香織の背後で、光輝達が唖然、呆然、阿鼻叫喚といった有様になっているが、そんな事はお構いなしに、香織は想いを言葉にして紡いでいく。

 

「……うん、わかってる。ユエさんのことだよね?」

「ああ、だから……」

「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」

「なに?」

「だって、シアさんも、少し微妙だけどティオさんもハジメくんのこと好きだよね? 特に、シアさんはかなり真剣だと思う。違う?」

「……それは……」

「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね? だって、ハジメくんを想う気持ちは……誰にも負けてないから」

 

……なんかいい言葉だと思うのだがなんか嫌な予感がするのは気のせいだろうか

香織の射抜くような視線を真っ向から受け止めたユエは、珍しいことに口元を誰が見てもわかるくらい歪めて不敵な笑みを浮かべた。

 

「……なら付いて来るといい。そこで教えてあげる。私とお前の差を」

「お前じゃなくて、香織だよ」

「……なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」

「ふふ、ユエ。負けても泣かないでね?」

「……ふ、ふふふふふ」

「あは、あははははは」

 

「……ハジメ。どんまい。」

「うっせぇ。」

 

俺は気配遮断で近づくと肩を一度叩く

 

「ハ、ハジメさん! 私の目、おかしくなったのでしょうか? ユエさんの背後に暗雲と雷を背負った龍が見えるのですがっ!」

「……正常だろ? 俺も、白崎の背後には刀構えた般若が見えるしな」

「パパぁ〜! お姉ちゃん達こわいのぉ」

「ハァハァ、二人共、中々……あの目を向けられたら……んっ、たまらん」

「おい。ここに変態が一匹いるんだが。」

「……不治の病気だからきにするな。」

「あっはい。」

 

俺たちはそうやって話していると

 

「ま、待て! 待ってくれ! 意味がわからない。香織が南雲を好き? 付いていく? えっ? どういう事なんだ? なんで、いきなりそんな話しになる? 南雲! お前、いったい香織に何をしたんだ!」

「……何でやねん」

 

俺と雫は頭を押さえ、ご都合主義の光輝に頭を抑える

 どうやら、光輝は、香織がハジメに惚れているという現実を認めないらしい。いきなりではなく、単に光輝が気がついていなかっただけなのだが、光輝の目には、突然、香織が奇行に走り、その原因はハジメにあると思っているそうだ。

 

「あんな。ヘタレで自分からアプローチをかけるどころか少し香織のことを苦手に思っていたハジメが何かするはずないだろ?」

「……事実だけど酷い言い草だな。」

「だって事実だし。」

 

するとシアさんが首をかなり早い早さで頷いている

 

ハジメが香織に何かをしたのだと思い込み、半ば聖剣に手をかけながら憤然と歩み寄ってくる光輝に、雫が頭痛を堪えるような仕草をしながら光輝を諌めにかかった。

 

「光輝。南雲君が何かするわけないでしょ? 冷静に考えなさい。あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織は、もうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本にいるときからね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」

「雫……何を言っているんだ……あれは、香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ? 協調性もやる気もない、オタクな南雲を香織が好きになるわけないじゃないか」

「……一人じゃなくて俺いたんだけど。やっぱり俺遠藤並みに影薄いのかなぁ。」

「ちょっとそっちはそっちで凹まないでよ。ふざけてないで手伝ってよ快斗。」

 

まぁ仕方ないので嘘泣きをやめると、光輝達の騒動に気がついた香織が自らケジメを付けるべく光輝とその後ろのクラスメイト達に語りかけた。

 

「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 

 そう言って深々と頭を下げる香織に、鈴や恵里、辻や真央、及川など女性陣はキャーキャーと騒ぎながらエールを贈った。永山、遠藤、野村の三人も、香織の心情は察していたので、気にするなと苦笑いしながら手を振り、俺と雫は少し胸をなで下ろす。

 

しかし、当然、光輝は香織の言葉に納得出来ない。

 

「嘘だろ? だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし……これからも同じだろ? 香織は、俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」

「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ?多分それなら快斗くんといるほうが長いし。それこそ、当然だと思うのだけど……」

「そうよ、光輝。香織は、別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。いい加減にしなさい」

「てかその御都合主義いい加減やめろよ。よく考えたらそのせいで今回も危険な目にあったんだし。」

 

俺たちの指摘に呆然とする光輝。その視線が、スッとハジメへと向く。ハジメは、我関せずと言った感じで遠くを見ていた。そのハジメの周りには美女、美少女が侍っている。その光景を見て、光輝の目が次第に吊り上がり始めた。

あっこれ結構やばいパターンだ。

 

「香織。行ってはダメだ。これは、香織のために言っているんだ。見てくれ、あの南雲を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき南雲の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。香織、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君のために俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 

……絶句してしまった。俺も雫も、いやクラスメイト全員の時が止まったように感じる

 

「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」

 

「……」

 

雫にどうすると目線で会話する。雫も俺の方を向き首を横に振る

俺はため息を吐き

 

「少し眠ってろ。」

「うぐっ。」

 

俊敏全開で近づき手刀を前に香織にやったように光輝にぶつける

するとガクンと前に倒れ込み光輝は倒れこんだ

 

「……はぁ。本当にごめん。一度雫に説教させるから。」

「えっ?私?」

「今俺の話こいつ聞かないだろ。元々俺と光輝は仲がいいってわけじゃないしな。」

「……そうなのか?」

 

実際同じグループだっただけで光輝と俺は仲がよくない。というよりも多分光輝自体が俺のことを嫌っているのだ。

 

「こいつ昔から俺に対抗心をむき出しにしてくるんだよ。だから今回もこんなことが起こったんだろうし。」

「……そういや、お前と光輝が二人っきりでいるところ見たことねぇな。」

「私もない。」

「……私もよ。時々お父さんに言われてランニングをすることになった時くらいかしら。」

「そういうことだよ。たく。」

 

俺は小さくため息を吐く。

今度は檜山達が騒ぎ出す。曰く、香織の抜ける穴が大きすぎる。今回の事もあるし、香織が抜けたら今度こそ死人が出るかもしれない。だから、どうか残ってくれと説得を繰り返す。特に、檜山の異議訴えが激しい。まるで、長年望んでいたものがもう直ぐ手に入るという段階で手の中かこぼれ落ちることに焦っているような……そんな様子だ。

するとハジメが何か思い出したように檜山に向かって何かを話すと直様青ざめさせていく

 

「……やっぱりか。」

 

俺は小さくため息を吐く。まぁハジメがどうでもいいって思っているんだったら俺も警戒だけしてあとは放っておくか

ハジメたちの出発を妨げる邪魔者がいなくなった。香織が、宿に預けてある自身の荷物を取りに行っている僅かな間に俺がハジメの方に向かう

 

「悪いな。最後までゴタゴタさせてしまって。」

「いやなんというか相変わらずの苦労人だな。八重樫も含めて。」

「……大きなお世話よ。そっちは随分と変わったわね。あんなに女の子侍らせて、おまけに娘まで……日本にいた頃のあなたからは想像出来ないわ……」

「惚れているのは一人だけなんだがなぁ……」

「……私が言える義理じゃないし、勝手な言い分だとは分かっているけど……出来るだけ香織のことも見てあげて。お願いよ」

「……」

 

ハジメは答えない。香織の想いに応える気がない以上、正直、連れて行くべきではないとも思っていたんだろう。

そんな、話を聞いていないかのような態度をとるハジメに、雫の親友魂が唸りを上げる。

 

「……ちゃんと見てくれないと……大変な事になるわよ」

「? 大変なこと? なんだそ……」

「〝白髪眼帯の処刑人〟なんてどうかしら?」

「……なに?」

「それとも、〝破壊巡回〟と書いて〝アウトブレイク〟と読む、なんてどう?」

「ちょっと待て、お前、一体何を……」

「他にも〝漆黒の暴虐〟とか〝紅き雷の錬成師〟なんてのもあるわよ?」

「お、おま、お前、まさか……」

「うわっえげつねぇ。」

 

 突然、わけのわからない名称を列挙し始めた雫に、最初は訝しそうな表情をしていたハジメだったが、雫がハジメの頭から足先まで面白そうに眺めていることに気がつくと、その意図を悟りサッと顔を青ざめさせた。

 

「ふふふ、今の私は〝神の使徒〟で勇者パーティーの一員。私の発言は、それはもうよく広がるのよ。ご近所の主婦ネットワーク並みにね。さぁ、南雲君、あなたはどんな二つ名がお望みかしら……随分と、名を付けやすそうな見た目になったことだし、盛大に広めてあげるわよ?」

「ちょ、ちょっと待て。快斗。八重樫のことなんとかしろ!!」

「あ〜。まぁ俺にとっても香織は大事な親友だからな。俺も本かリリィに言って広めてもらおう。破滅挽歌、復活災厄とかはどうだ……」

「ちょ。」

「いいわね。お姫様の言葉だったらそれは存分に広がるだろうし。それをこの世界でも日本でも、あなたを題材にした小説とか出してもいいわね。」

「おまえら、ホントはラスボスだろ? そうなんだろ?」

「ふふ、じゃあ、香織のことお願いね?」

「……んまぁ少し押し付けた感はあるけどな。まぁ地球にいたころと同じ態度でいいから。……一度もハジメのことを諦めなかったんだ。」

「まぁ善処する。」

 

 羞恥心に大打撃をくらい発狂寸前となって頭を抱えるハジメ。そんなハジメを少し離れたところから見ていたユエ達や他のクラスメイト達は、圧倒的強者であるハジメを言葉だけで跪かせた俺たちに戦慄の表情を浮かべた。

 

「そういえばお前に頼まれていた物できたぞ。」

「ん?」

 

俺はそうやって一つの鞘を受け取る

そしてその鞘から刀を抜き出すと黒色の刀がそこにはあった。

 

「おっ。サンキュー。普通の剣よりもやっぱ刀の方が振りやすかったんだよ。」

 

俺は軽く二、三回振るとやっぱりこっちの方が合うんだよなぁ。小さな小太刀ならこっちの世界でも作ってもらったんだがやっぱりメインは刀がいい。と思っていたんだけどよく見たら雫の刀がないのに気づく

 

「って雫お前剣は?」

「魔人族との戦いで、折れたのよ。」

「あぁ。……んじゃしゃーない。ほれ。」

 

俺はハジメから貰った刀を鞘に戻し雫に渡す

 

「えっ?これ快斗に作ってもらった刀でしょ?」

「いや。いいよ。俺まだ王宮から貰った剣使えるし。予備の小太刀もあるからな。武器ないのはちょっとな。」

「刀はないが、小太刀なら数点あるぞ。」

「あ〜いいや。王都の職人も結構良いもの作ってくれたし。しばらくはそっちを使うかな。さすがにメイン以外の武器を変えるのはな。それなら今度会った時に刀作ってくれないか?軽さと硬さ重視の。」

「……まぁお前がそう言うんならいいけど。」

「サンクス。」

 

そして俺たちは簡単に香織にお別れを告げハジメと別れた


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