忍びの王 作:焼肉定食
「すいません。俺も乗っていいですか?」
「ん?えっと君も乗車希望でいいのか?」
「は、はい。エリセン行きですよね。」
と俺が告げるとすると商人が耳元で呟く
そしてその商人は、いや、俺たちがいつもお世話になっているユンケル商店の店主が俺にこっそりと告げた
「もしかしてお忍びですかな?快斗殿。」
「悪い。ユンケルさん。ちょっと暴走姫さんの護衛だよ。」
「えぇ。リリアーナ姫でございますな。」
すると苦笑するユンケルさん。元々少しパーティーで交流があるのですぐに信頼できると思っているんだろう
「それと先払い。一応30万入っているから二人分ってことで。」
「いえ、緊急時のことなので代金はいいですよ。さすがに受け取れない相手がいるとなると。それに最近のホルアドまでは物騒で。快斗殿のお手を借りたいんですが。」
「護衛任務か。オッケー。悪いが俺たちは目的の人物がいたら降りさせてくれないか?リリィが俺に報告しないでどこかに行くことは契約違反になると思うし。」
「目的の人物ですか?」
「あぁ。南雲ハジメって言うんだけどな。ちょっと力を借りにいく。恐らく教会が動き始めたからな。俺だけで対応ができなさそうだしちょっと助けを求めに行こうと思っているんだよ。」
と要件を告げると頷くユンケルさんが少し驚きの表情をしたのが特徴的だった。
ハジメを知っているのかと首を傾げるがとりあえず時間がないので俺も乗車する
「あれ?快斗さん?」
「お久しぶりです。快斗さん。依頼ですか?」
「おっ?クリスとクロックじゃん。久しぶりだな。」
「えぇ。快斗さんのおかげでシルバーランクになってから初めての依頼ですよ。……快斗さんは。」
「俺はちょっと私用だよ。無料で乗せてくれる代わりに護衛任務ってわけだ。」
「そうなんですか?それなら一緒に護衛任務引き受けてくれるんですね!!それなら快斗さんの故郷の話が聞きたいです。」
「時間空いた時にな。悪い少しの間抜けるぞ。」
と俺は手を振り一息つく。まぁとりあえずと俺は台車に乗るとするとフードを深くかぶったリリィが一瞬驚くすぐに下を向く
俺はそうして台車に乗るとリリィの隣に座る
「何があった?」
緊迫したように俺が尋ねるとリリィは少しだけ驚いたようにしてから少しだけ息を飲みこういった
「雫さんと愛子さんが攫われました。」
「……っ!!」
その一言に俺が思っていたことよりも最悪な状況を悟ってしまう
愛子先生は恐らく力を持ちすぎたこと
問題は雫が攫われたことに関してでありそれが何を意味しているかというと
俺に対しての宣戦布告
ということだろう。
俺と恵里は最近はちょっと遠出することがありほとんど王宮にはいないし、ほとんど雫と一緒にいたのが災いしている
リリィ曰く最近、王宮内の空気が何処かおかしく、ずっと違和感を覚えていたらしい。エリヒド国王は、今まで以上に聖教教会に傾倒し、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていった。
各地で暗躍している魔人族のことが相次いで報告されている事から、聖教教会との連携を強化する上での副作用のようなものだと、半ば自分に言い聞かせていたのだがそれだけにとどまらなかった。妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていったのだ。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとするものの、どこか機械的というか、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようだった。
そのことを、騎士の中でもっとも信頼を寄せるメルドに相談しようにも、少し前から姿が見えず、時折、光輝達の訓練に顔を見せては忙しそうにして直ぐに何処かへ行ってしまう。結局、一度もメルドを捕まえることが出来なかった。
そうこうしている内に、愛子が王都に帰還し、ウルの町での詳細が報告された。その席にはリリィも同席したらしい。そして、普段からは考えられない強行採決がなされた。それが、ハジメの異端者認定だ。ウルの町や勇者一行を救った功績も、〝豊穣の女神〟として大変な知名度と人気を誇る愛子の異議・意見も、全てを無視して決定されてしまった。
有り得ない決議に、父であるエリヒドに猛抗議をしたが、何を言ってもハジメを神敵とする考えを変える気はないようだった。まるで、強迫観念に囚われているかのように頑なだった。むしろ、抗議するリリィに対して、信仰心が足りない等と言い始め、次第に、娘ではなく敵を見るような目で見始めたのこと。
恐ろしくなったので、咄嗟に理解した振りをして逃げ出した。そして、王宮の異変について相談するべく、悄然と出て行った愛子や雫を追いかけ自らの懸念を伝えた。すると愛子から、ハジメが奈落の底で知った神の事や旅の目的を夕食時に生徒達に話すので、リリアーナも同席して欲しいと頼まれたのだそうだ。
愛子の部屋を辞したリリィは、夕刻になり愛子達が食事をとる部屋に向かい、その途中、廊下の曲がり角の向こうから愛子と何者かが言い争うのを耳にした。何事かと壁から覗き見れば、愛子と雫が銀髪の教会修道服を着た女に気絶させられ担がれているところだった。
リリィは、その銀髪の女に底知れぬ恐怖を感じ、咄嗟にすぐ近くの客室に入り込むと、王族のみが知る隠し通路に入り込み息を潜めた。
銀髪の女が探しに来たが、結局、隠し通路自体に気配隠蔽のアーティファクトが使用されていたこともあり気がつかなかったようで、リリィを見つけることなく去っていった。銀髪の女が異変の黒幕か、少なくとも黒幕と繋がっていると考え、そのことを誰かに伝えなければと立ち上がった。
ただ、愛子を待ち伏せていた事からすれば、生徒達は見張られていると考えるのが妥当であるし、頼りのメルドは行方知れずだ。悩んだ末、リリィは、今、唯一王都にいない頼りになる友人を思い出した。そう、香織だ。そして、香織の傍には話に聞いていた、あの南雲ハジメがいる。もはや、頼るべきは二人しかいないと、リリアーナは隠し通路から王都に出て、一路、アンカジ公国を目指したのである。
「しかし快斗さんに見つかったことはどうしたら。」
「いや。恐らく狙いは俺とハジメだ。それに恐らく俺は逆に王都にいない方がいい。」
「……理由をきいても?」
「まずは俺が魅了系統の防御を持っていない。今クラスで一番発言権が高いのは俺だ。乗っ取られたら真面目にクラスごと乗っ取られる可能性が高い。それに愛子先生と雫を戦闘不能にしたってことは恐らく魅了が効かなかった。それが原因だろう。恐らく女子に関してはある程度の耐性ができているんだと思う。」
よくよく考えればほとんどが男性ばかりが巻き込まれている
「つまり、男性の方が効きやすいってことですか?」
「あぁ。それで攫ったということは恐らくハジメの救援を防ぐって意味もあるんだろうな。……それに俺の予測では……ちょっと急いだ方が良さそうだな。おそらく……王都が魔人族の襲撃に合う可能性が高い。」
「っ!!」
「これは完全にエヒトって神が魔人族に通じていると考える方が妥当だろう。よくよく考えたらウルの街に愛子先生がいることを知られているのも俺たちがオルクスの大迷宮にいたことも全部知られていたのも不自然すぎる。」
よくよく考えればおかしいことが多々ある。
「こりゃクラスの中にも内通者がいるかな。多分あいつだろうけど。」
「知っているんですか?」
「檜山。ハジメを殺そうとした張本人。」
するとリリィが固まる。
「本当ですか?」
「あぁ、恵里も気づいているけどハジメとの会合であいつで断定していいだろう。意図的に襲う理由がある奴は檜山以外ではありえない。」
「へ?」
「ハジメを狙ったのは変化した魔弾だった。すなわち人の意思でハジメを殺そうとした。意図してやった魔法だ。即ち動機があるってことだ。檜山は誰から見ても香織のことが好きだったからな。原因は嫉妬だろう。」
俺がそういうとリリィは少し驚きの表情を見せる。しかしすると考え
「それならクラスの皆さんが危ないんじゃ。」
「だから恵里を残してある。あいつは檜山の危険性について理解しているからな。話しているときから何も企んでないだろう。それに魔人族が神代魔法を持っていることは前回の会合で話しただろ?悪いけど俺たちじゃ恐らく負ける。たった一人の魔人族を殺すのでさえ時間がかかったのだから」
「……」
「ここはもうかけるしかないんだよ。ハジメたちと合流して王都に戻るのが先か。それとも王都が滅ぶのが先か。」
確率は半々。だからこそ賭けなのだ。
ここで万が一少しでも賭けに失敗したのなら。
全員死ぬだろう。
馬車に揺られながら俺は息を吐く。
助けに行きたい気持ちを抑えて
今日も自分を押し殺す
仲間のためにひたすらに恐怖を押し殺して生きていくのだ。