忍びの王 作:焼肉定食
「お前何でうちにいるの?」
入学してから半年が経ったある日のこと
部活が終わり家に帰ると家主より早く帰宅している同居人。いや勝手に住み込み始めた奴がすでにソファーで寛いでいる学校の同級生がいるのを見てため息を吐く
「いいじゃん。一応僕の家はここってことになっているんだよ?それに毎週僕の家に来るのは面倒くさいでしょ。」
「…いや。確かにそうしたのは俺だし監視して報告書を書くのは俺だけど、最近雫や香織に谷口からジト目で見られるんだぞ。」
「僕は気にしないから大丈夫だよ。それに僕の秘密を話さないって保証もないしね。」
「…お前女子。俺男子。流石に狂っているとはいえ同級生の女子がうちにいるのはまずいんだけど。」
「狂っているって酷いなぁ。ただ僕は君のことが好きなだけなのに。襲ってもいいよ?」
「……襲うかよバカ。それじゃあお前のとこのクソ野郎と同じじゃねーか。お前は自分のことをもっと大事にしろや。」
俺は少しため息を吐く。
ショートカットの髪に学校ではメガネをかけているのだが今はメガネを外しニヤニヤと笑っていた中村恵里が少し驚いたようにしている。
「……」
「どうしたんだ?」
「い、いや。意外に心配してくれているんだと思ってね。」
「これくらい普通だ。お前は普通じゃない家庭で育ったからだろ。」
「…忍者の君に言われても。」
「……ごめん言ってて俺の家の方がおかしいことに気づいたわ。」
そういえば表が探偵であることに気づき俺は少しため息を吐く
なぜ中村がここにいるのかというと
昨年俺と光輝は道場のランニング中に上半身が大きく欄干の外へとはみ出ている少女を発見し俺も流石に何をするのか分かったので急いで助けにいった。
光輝は覚えがなかったらしいが、俺は警察からの依頼で監視目的、いわゆる虐待の被害者として要注意人物として取り上げられた人物だったのだ。
しつこく事情を尋ねる光輝に、恵里はかなり省略した説明をした。そうしなければ、光輝が放してくれそうになかったからだ。端折りに端折った恵里の説明を聞いた光輝は、こう理解したらしい。
学校で孤立している恵里は、そのことで父親に厳しい躾を受けた。母親に助けを求めたら、母親まで父親と一緒に自分を叱った。味方がいなくて、悲しんだ恵里は自殺しようとした。
……事実はもっと悲惨だと感じていた俺はすぐに冷や汗をかいたいたが、その光輝が暴走。偶然にも雫がいない時だったので光輝は、当時から女の子達を虜にした笑顔と力強さを以て、恵里の頬を両手で挟みながら至近距離で宣言した。
――もう一人じゃない。俺が恵里を守ってやる
言ってしまったのだ。壊れた少女の心に、自分は誰にとっても無価値なのだと理解した直後に〝守る〟と。いつも通りに。学校で一番人気のある王子様のような男の子から、ある意味、劇的とも言えるシチュエーションで、恵里はそんなことを言われたのだ。
心の底で、ずっと誰かからの愛情を求め続けた幼い少女にとって、その言葉は余りに強烈だった。
しかも、その日、どうにか自殺を思い止まり、母親に追い出されるように学校へ行かされた恵里は、クラスの女子達が次々と明るく自分に話しかけてくるという状況に驚愕し、しかもそれが、光輝の一言でなされたということを知って……有り体に言えば、落ちたわけである。
その後 恵里は、これも全て光輝の――突然あらわれ自分を守ると誓ってくれた王子様のおかげだと確信した。あの日、王子様が自分を救い、変えてくれたのだと。自分は、光輝によって生まれ変わったのだと。だから、これからの人生は、輝く光のような彼と共に、同じように光の中を生きていけるのだと。
だけどそう簡単に行くわけがない。
光輝にとって恵里は、正義のヒーローが助けるべき一人に過ぎなかった。クラスメイトに一言声を掛けて、孤立している恵里と仲良くしてもらえば、それで光輝の救済は終わったのだ。アニメでヒーローによって助けられた人々が、次の話からは全く出てこないのと同じように、光輝にとって恵里のことは〝既に終わった物語〟だった。
だから俺が後始末をしないといけなくなったのだ
ことが事柄だけに警察や八重樫家の力をフルに使い去年の夏に恵里の母親を逮捕。その時に俺が色々動いていたのがバレ、しばらくはしがらみがあったものの、さらに裏で中村の生活の保障や授業費などを俺が払っていることをバカ師範がバラしたのをきっかけに俺に対象を変えたらしい
そしていつの間にか自分の荷物を少しずつ運んでいき完全に今は住み込んでいる
「……しかし忍者っているんだね。雫ちゃんもくノ一なの?」
「いや、あいつは違うな。というよりも俺が忍者ってことすら知らないし家が忍者屋敷ってことすら知らないんじゃないのかな?」
「……不遇だね。」
「それが俺と雫の運命なんだよ。こういう勝手に持ってくるトラブルに巻き込まれるっていうな。そして後処理は全部俺だし。」
「いやな運命だね。」
「お前もその持ってきたトラブルの一つなんだけどな。」
呆れたようにいうと恵里はそっぽを向き話を逸らすため学校の話にし始める
……まぁこれはこれでいっか。
狂った少女が家にいても両親も受け入れているし、何よりも嫌ではない自分がいるのは事実だ
「夕飯作るから手伝えよ。今度薬入れるようならマジで追い出すからな。」
「……チッ。」
「おいてめぇ何入れようとした。」
多分媚薬だとは思うが本当に狂っている同居人に問い詰めるところから始まるのだった