忍びの王   作:焼肉定食

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原作開始 一巻〜三巻
最後の日常


月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。

朝練が終え俺は教室に向かうと

 

「あっ。おはよう。快斗。」

「快斗くんおはよ〜。」

「おはよう快斗くん。」

「よっ。雫は朝剣道場であっただろ?」

 

と俺に話しかけてくるいつものメンバーの雫と、香織、そして中村恵里の親友(恵里曰く互いに仮面を被っていて本心を見せ合わないので結構気に入っているらしい)の谷口鈴が俺に挨拶をする

と俺は適当に返すと自分の席に座る。すると雫と鈴が近づいてくる

 

「それとこれとは別よ、恵里は?」

「図書委員だってさ。今日図書の整理があるから遅れる可能性があるって言っていたな。」

「あ〜やっぱり恵里が遅れること珍しいからね。」

「ハジメくんは?最近は結構朝早かったはずだよね?」

「父親の依頼でプログラム打っていたらしいぞ。」

「あぁ。いつものね。」

 

俺がそういうと雫は苦笑している

 

「おはよう。」

「あっおはようエリリン。」

 

すると今度は恵里がやってくる。普段は大和撫子タイプで比較的大人しいように見せている。裏の顔に少し呆れながらも全員が話し始める。

高校では比較的俺たちはこのグループでいることが多い。光輝と龍太郎がいないのはハジメのことをよく思っていないし、元々光輝が香織のことを好きなので嫉妬も混ざっているだろう。

俺もそのことが分かっているが優先順位は明らかに香織の方に偏っているし、どうやら雫も同じ考えだったらしい。

雫の香織好きも結構度が超えている気がするんだけどな

噂をすると影がさしたのかすると香織待望の人物がやってきた

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

どうやらハジメが来たらしくいつものメンバーがため息をはく

 

「おはようさん。ハジメ。」

「あっ。おはよう。快斗くん。」

 

俺がす早く挨拶すると檜山たちの顔がうっと嫌な顔をする。

このクラスが二つの派閥に別れているといっていい。

一つ目はハジメ否定派。もう一つはハジメのことを気にしないでいたり仲がいいグループだ

 

「ほれ。頼まれたドリンク。」

「ありがとう。」

 

そういって栄養ドリンクをハジメに投げるとハジメはそれをキャッチし飲み始める

 

「ハジメくん、おはよう! 今日もギリギリだね。」

「おはよう。南雲くん。」

「おはよう〜。」

「おはよう。」

 

いわゆるこれが全員となっている。いつの間にか学校ではこのグループでいるのが当たり前になっていた。

 

「香織、雫また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に二人は優しいな」

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

と光輝と龍太郎がこっちにやってくる

 

「おいこら。俺らのことは無視かよ。」

「…あっ。悪い。てかお前最近影薄くね?」

「……正直な答えありがとう龍太郎。お前後からしばくからな。」

「げっ。」

「てか遠藤よりは薄くないと思う。多分。きっと。」

「えっ?遠藤?」

「「「えっ?」」」

 

すると俺以外は首を傾げる。そんな人居たっけ?と言いたげな顔だ。するとほろりと涙を流す遠藤がいた。

 

「……お前ら。」

「そんな忘れていたはずがないじゃないと思う。」

「そうだよ。ちょっと顔を思い出せなかっただけで。」

「龍太郎くん、鈴。なんの弁解にもなってないよ。」

 

恵里のツッコミに俺も頷く。

 

「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

 ざわっと教室が騒がしくなる。男子達はギリッと歯を鳴らし呪い殺さんばかりにハジメを睨み、檜山達四人組に至っては昼休みにハジメを連れて行く場所の検討を始めている。

 

「え?……ああ、ホント、香織は優しいよな」

 

 どうやら光輝の中で香織の発言はハジメに気を遣ったと解釈されたようだ。完璧超人なのだが、そのせいか少々自分の正しさを疑わなさ過ぎるという欠点があり、そこが厄介なんだよなぁ~とハジメは現実逃避気味に教室の窓から青空を眺めた。

 

「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……」

「後で言っとくけど悪いな。」

 

頼みを守っていることに礼をいう俺とこの場で最も人間関係や各人の心情を把握している雫が、こっそりハジメに謝罪する。ハジメはやはり「仕方ない」と肩を竦めて苦笑いするのだった。

そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして、いつものようにハジメが夢の世界に旅立ち、当然のように授業が開始された。

 

 

「雫サンキュー。」

「えぇ。私のやつ作るついでだから別にいいわよ。」

 

と雫からお弁当を貰うとそれを永山や遠藤、後女子の辻と一緒に食い始める

 

「今日も愛妻弁当かよ羨ましい限りだぜ。」

「アホ。幼馴染の弁当だって。」

「でもお前って本当に変だよなぁ。中村さんの親の都合とはいえ同居してて、八重樫さんと白崎さんと幼馴染なんだろ?」

「天之河くんや坂上くんとも仲いいしね。」

「運動もできるし勉強はそこまで悪くないもんなぁ。」

「雫に教えてもらっている分赤点取るとぶった斬られるからな。」

 

冗談だと分かっている分全員が笑う。そこには何もなくただの友達と呼べる関係があった

 

「そういや遠藤、お前進路決めた?」

「いや、まだだけど。何で?」

「何でって進路希望表先週渡されただろ?だから大体こいつらは予想つくけど遠藤はどこ志望なのかって。」

「お前は?」

「八重樫の道場と探偵業を継ぐ予定。」

「「「あ〜。」」」

 

全員が納得したようにしている

 

「それじゃあもしかして婿入りとか雫ちゃんが奥さんになったりするの?」

「いや、それはないな。そんなんだったら継いでないし。」

「何でだ?」

「俺もあいつの両親も恋愛ごとに関しては雫に任せてるしな。人に押し付けられた結婚なんて嫌だと思うし、俺だって嫌だしな。ちゃんと幸せになって欲しいんだよ。それに夢くらいちゃんと叶えさせたいしな。」

「夢?」

「あいつのプライベートな件になっているから内緒。」

 

と話している途中だったが 凍りついた。

光輝を中心に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

自分の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。

この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして、大いに世間を騒がせるのだが、それはまた別の話。

 


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