今回のあらすじ
暗黒神ラプソーンがあらわれた!
※2020-1-7:キャラクター紹介を追記しました。
※2020-4-13:あらすじを追記しました。
※2020-11-12:本文の誤植を修正しました。
※2022-6-29:誤字報告をいただき、誤字を修正しました。
ジリリリ、ジリリリ、と目覚まし時計が鳴る。
重い目を擦って、布団から上半身を起こす。
寝巻から制服に着替えて、自作の朝食を食べた後は、何の変哲もない一軒家から学校へ行くための駅へと歩いていく。
そして。
『ようやく起きたかわが子孫よ! 今日こそ我を封印した賢者の一族の血を絶やし、我の復活の足掛かりといこうではないか!!』
俺の後ろにぴったりついてきて、ぴょんぴょん飛び跳ねながら聞くからに中二的なことをのたまう
「黙れゴミ先祖。殺人教唆は犯罪だっつってんだろーが」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?』
―――両腕と膝を使ってへし折る。
これが、俺、
始まりは数ヶ月前。あまりに突然のことだった。
『初めまして我が子孫よ! 我が名は暗黒神ラプソーン! 我の力をもって、光の世界と闇の世界を支配してみないか?』
いつものように目が覚めたと思ったら、血のように真っ赤な宝珠を咥えた鳥の頭を
何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった。
まず自分の頬をつねった。痛かった。夢じゃあなかった。
その後、俺は杖本人(?)に「お前は誰だ」と素性を聞いてみた。
杖は、自分自身を「暗黒神ラプソーン」と名乗った。
暗黒神ラプソーン。
それは、かつて人間がサヘラントロプス*1であった頃から闇の世界に存在していた、邪神の中の最高神であるらしい。
「あいつが羨ましい」「だれそれが憎い」「闘争に勝ち残りたい」といった思いを反映し、人々に争いを振りまいた。光の一族の巫女(のちの魔法少女)の中の、強力な7人の巫女(ラプソーンはこれを“賢者”と呼び、敵視している)によって、魂を杖に封印されたのだという。俺は、そんな暗黒神の唯一の末裔なのだそうだ。
封印から解かれる方法はただひとつ。ラプソーンが封じられた杖を使い賢者全員の末裔を殺し、血筋を絶たせることだという。
俺はこの話を長々と自慢気に胸を張るような杖から聞いてこう思った。
アホくせぇと。
いやだって、暗黒神とか光・闇の世界とか、封印とか魔法少女とかそんな中学生が思いつきそうな設定がリアルである訳ねーだろ。
それに、仮にこの杖の言った事が本当だったとして、だ。封印の解除方法が物騒すぎる。要するに賢者の末裔を殺せってことだよね? 俺へのメリット皆無どころの話じゃあない。普通に殺人罪だよバカヤロウ。
とどのつまり、俺はこの杖を全くもって信用しなかった。
この杖の言っている事を真面目に取り合うのはやめよう、と杖をへし折って燃えるゴミに出すべく杖を両手で持った時、更なる異変に気づいた。
「な、なんっ!!? な……なんだコリャああああああ!!!?」
―――右手だけが、溶鉱炉の炎のような白に近い黄色に変色していたのだ。
『そうそう、その右手のビジュアルなのだが……我の力を受け取った代償と思ってくれたまえ。どうせ我の説明だけでは信じぬだろう?』
杖曰く、寝ている間に子孫たる俺に力の一端を無理やり押しつけた証として、右手を変色させたそう。何てことしてくれてんだ。
後にこの右手、見た目さえ気にしなければ普通に日常生活に支障はない(ただし、メチャクチャ目立つ)ことに気づくが、当時の俺は気が気でなかった。
外国を転々としながら勤務しておられる両親にこのことをテレビ電話で相談したところ、母に「寂しいのならそう言ってくれ。時間を作って必ず帰る」と精神の心配をされた。泣きそう。父がコッソリ「父さんも一時期そういう幻視・幻聴に悩まされた」と教えてくれたけど、それ絶対ラプソーンとやらの声をそう思い続けただけだな。
杖に確認を取ったところ、『
両親もマトモに取り合ってくれなかった以上、混沌とした我が家の事情をなんとかする手は一つしかなかった。
「……幻聴に幻覚?」
「そうなんだよミカン。馬鹿馬鹿しいかもしれないけど……」
そう。幼馴染に相談することである。
物心ついた時から親の都合で一人だった俺と一緒に遊んだ、オレンジ色のお団子ヘアーがトレードマークの少女である。神原家と陽夏木家では家族ぐるみの付き合いをしており、数えるのが面倒になるほど同じ屋根の下で寝泊まりした。俺のことは「クロ」と呼ぶ。お互い両親が家を空けていることが多いので気づけば大体同じ家にいるのだ。なんなら親の顔よりもミカンの顔を見ているまである。故に、微妙な災難に何度も巻き込まれている。
『馬鹿馬鹿しいとは何だ愚か者! それに、お前、魔法少女と付き合っているというのか!!?』
「ほら、また喋った。右手の色もおかしいままだし、俺、疲れてるのかな……」
「……ちょっ、それラプソーンの杖じゃない!!?」
「…………え、ちょっと、なにその反応?」
ミカンの部屋に……正確には
ミカンが慌てたり動揺したりして、精神が揺さぶられると、決まって俺は雨に降られる。しかも、俺以外はまったく濡れないという理不尽つきだ。それはもう慣れたんだが、今回の降り具合と風の強さからして、いつも以上に動揺しているな。なんでだ?
「まさか……クロがラプソーンの!?」
「なんだ? お前までこの杖の言う事を信じるってのか? もしかしてアレか、あらゆる料理にレモンを振りかけるもんだから、遂に味覚だけじゃなくて頭もおかしくなったか?」
「違うわよ!! というか、味覚については料理どころか果物にまでマヨネーズをかけるあなたに言われたくない!!」
「ミカンが勝手に俺の分の飯にまでレモンをかけるからだろうが。この前だって唐揚げ全部にレモンかけやがって…!」
「そのレモンをかけた唐揚げ全部にマヨネーズかけた人が言う、普通!?」
『おいバカ舌共。我を無視して痴話喧嘩するな』
「誰がバカ舌だ!? あんまマヨネーズ馬鹿にしてるとへし折って燃やすぞ!!」
「そうよ、レモン美味しいじゃない!!」
『ギャアアアアア!? 折ってる! もう折ってる!! というかコレ我が悪いの!!?』
当たり前だろ。
マヨラーとレモラー*2を敵に回した自称暗黒神の杖は、あわれ見事にへし折られ、「燃えるゴミ」の袋にぶち込まれた。
「それで、話を戻すんだけれど。クロはさっきの杖に、『お前は暗黒神ラプソーンの子孫だ』って言われたのよね?」
「お、おう……そうだけど…?」
ミカンが念を押すように確認をしてくる。またレモンの過剰摂取で脳まで麻痺したか、と茶化そうと思ったが、俺の思った以上に大真面目な幼馴染の雰囲気に飲まれ、普通に答えてしまう。
「あのね。―――暗黒神ラプソーンは、実在していたの」
「───────は??」
十年以上の付き合いの幼馴染の口からそう聞いた時、俺はしばし言葉を失った。
それからミカンは、様々なことを……本当に様々なことを話してくれた。
光の一族のこと。
闇の一族のこと。
数百年前、突如暗黒神ラプソーンなる邪神が、闇の世界から現れたこと。
ラプソーンが、
光の一族は勿論、一部の闇の一族も協力して、ラプソーンに立ち向かったこと。
多大な犠牲を払い、ようやくラプソーンを杖に封印することに成功したこと。
封印を強化するために、7人の魔法少女が血筋の封印を重ね掛けし、ほぼ突破不可能な封印に仕立てたこと。
そうしてラプソーンが封印された杖が、さきほど俺がへし折り、「燃えるゴミ」の袋にブチ込んだ杖であること。
話の
到底、信じられない。だが、信じるしかないだろう。
だって………
「流石に、目の前で変身されたら信じるしかないな……」
これが証拠だと言わんばかりにミカンが変身したのだから。
一瞬で姿が変わり、ボウガンのような武器も自在に取り出せる。しかも、下手なマジックよりもクオリティが高すぎる。それと杖や俺の右手の異変を鑑みたら、もう夢だ幻覚だとか言ってられなかった。
ちなみに、ミカンが慌てると雨が降ったり強風が吹いたりするアレは本人曰わく呪いらしい。
「信じるしかないと思ったのは私のほうよ。ただでさえ桃からの頼みもあるのに、まさかクロが暗黒神ラプソーンの子孫だったなんて」
『ククク………悲しいなぁ、魔法少女よ。我はこうみえてしぶとくてな。封印前に子孫くらい残しておるわ。
それに……我とそなたら光の一族はかつて世界と命を賭けて闘った仲ではないか。それを忘れるなんてとても悲しい』
「悲しいのはおめーの頭の中だろ」
頭を抱えるミカンをこれでもかと煽るラプソーン(杖)。というか、さっき俺がへし折ったはずなのに、それが何事もなかったかのように直ってやがる。
『さぁ、我が子孫・クロオよ! 我の封印を解き放つ為、我を封じた忌々しい杖を賢者の末裔どもの血に染め上げるのだ!!』
「…………」
ラプソーン(杖)が高らかに俺に向かって期待の眼差しを向けて(いるような気がする)、ミカンが俺を心配そうに見つめる中、俺は杖を手に取った。
『そうだ、それでいい、クロオ! 我の力を存分に……ってアレ? 聞いてる?』
「………………………」
全く学習していない俺の先祖に対する答えは一つ。
「地獄へ落ちろゴミ先祖」
『ちょ!? や、やめ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?』
その一言と共に俺は杖を再びへし折った。
「……そんな感じで、俺はこの杖ことゴミ先祖と会ったんだ」
「な、なるほど……クロさんにはそんな事が……」
「確かに神原くんのご先祖はゴミだね。性根が」
『我の扱い、酷くない!!?』
河原に腰かけて、数ヶ月前の出来事を懐かしむように話すと、その隣で俺の話を聞いていた、転校先で出会った新しい友人二人はそれぞれ個性的な感想を口にした。
渦を巻いた角を頭に生やした彼女は、俺と同じように数ヶ月前からまぞく――闇の一族のことだ――に目覚めた少女だ。『シャドウミストレス優子』と名乗っており、略してシャミ子と呼ばれている(俺もそう呼んでいる)。
桃色のショートヘアの彼女は、ミカンと同じ魔法少女の一人だ。ミカンがクロスボウを使った遠距離型なら、千代田はガチの近接戦闘型で、殴り合いで戦う魔法少女らしい。その力は、片手でダンプカーを止めるほどだとか。
二人は、ミカンが友人に頼まれたことがきっかけで一緒に多魔市せいいき桜ヶ丘に引っ越した際にできた友人だ。
シャミ子と千代田の二人は、お互い「月4万円生活の呪い」を受けたまぞくと呪いをかけ封印した魔法少女という関係で、いわば宿敵…………らしい。
らしい、といったのは俺から見て、二人にはそんな因縁があるとは到底思えなかったからだ。
シャミ子は筋金入りの病弱体質で、千代田は前述したとおりの脳筋(チョット失礼だが)なのだ。勝負になるわけがない。そこでシャミ子は千代田からトレーニングを受け、鍛えてもらっているのだが……あまりにも仲睦まじいのだ。
例えば、こうして二人に俺とゴミ先祖の出会いの話をする前に千代田の家に失礼した時に……
『桃ー、足どけてください』
『ん』
『足上げるだけじゃなくて。ソファに足乗っけてください』
『ん』
『……そうだ、桃。今日のお昼はどうしますか?』
『なんでもいい』
『なんでもいいって…それが一番困ります』
玄関から目に入ったのは、主婦のような恰好で世話を焼くシャミ子とソファに寝っ転がる千代田。二人の会話は、まるで『休日の旦那と家事をしながらお節介を焼く奥さん』、控えめに見積もっても『休日に彼氏の世話を焼く彼女』のそれで………
俺は玄関の扉をそっ閉じした。
ミカンから千代田の家に来るよう連絡を受けた筈なのに、いざ来てみたらシャミ子と千代田が距離感のおかしいやり取りをしていたら当然だ。
その後、玄関の扉を開けたシャミ子に気づかれ、「クロさんも入ってきていいですよ」と言われた時にうっかり「入れるワケねーだろ超気まずい」って答えちゃった俺は絶対に悪くないと思う。
『ええい、図に乗るなよ人間ども! 我を誰と心得るか!!』
あのままの関係が続いたらいつか千代田がシャミ子を押し倒すかもしれないな……と冗談半分な妄想していたところで、ラプソーン(杖)の怒り心頭の声によって現実に引き戻される。またゴミ先祖が二人に迷惑かけてんのか。
「なに偉ぶってんだゴミ先祖。ゴミ先祖はゴミ先祖だろうが鬱陶しい。いい加減にしないとマジで燃えるゴミに出すぞゴミ先祖」
『ゴミゴミ連呼するなぁ! 大体お前からは御先祖への敬意や畏怖が一ミリたりとも感じられないんだよ! そこのしゃみ子は自分の御先祖を大事にしてるというに! しゃみ子を見習え!!』
「シャミ子のご先祖はまだ可愛げがあんだろーが。お前は世界の敵しかしてねーだろ? 千代田と初めて会った時も、『賢者の末裔、覚悟!』っつって一人で特攻した挙句、木屑にされたくせに」
『お・ま・え・が! 我が子孫としての役割を果たそうとしないからだろ!! 自分の力と立ち位置を分かっておるのか、馬鹿者!!』
「千代田、ゴミ先祖の杖、折る?」
「折らない。筋トレにならないから。」
「え? でも、シャミ子はこの杖、折れなかったって……」
「シャミ子はまだよわよわまぞくだから」
「なにをーー!!」
『聞かんかぁ!!』
シャミ子と
というか、このゴミ先祖は、かつて自分が何をしでかそうとしたか分かっているのだろうか?
光の世界と闇の世界の融合とほざいているが、ようするに世界征服だ。それも魔法少女とまぞくの両方を相手にした。
ご先祖が両サイドに喧嘩を売った身からすれば、聖と魔が共存するこの街を出入り禁止にされるのではないかと不安に思っていたが、「元凶は厳重に封印されている上に子孫のクロは悪い人じゃないから」とミカンが励ましてくれた時は気持ちが楽になった。現にこうしてこの街で日常生活が送れているのは、暗にこの街に認められている証だろう。
「さ、トレーニング再開するよ、シャミ子」
「望むところです! 今日はもう少し頑張れそうですからね!」
「じゃあ今日こそはこれ引っ張って走ってみよう」
「それは無理です~~~~~~ッ!!?」
千代田が立ち上がり、シャミ子を連れてなぜここにあるのか分からないロードローラーをくくりつけようとする。多魔川の河原にシャミ子の弱音が響いた。
『しかし、お主も難儀なやつだな、クロオ』
「リリスさん?」
千代田とシャミ子がトレーニングを再開すると、片方欠けた角を生やした独特な形の像に話しかけられる。
この話す像はリリスさんと言い、封印されているシャミ子のご先祖なのだそうだ。「他人の夢に潜り、夢を操る能力」を持つまぞくだという。
『余を完全に解き放つには魔法少女の生き血だけで十分なのに、ラプソーンは賢者とやらの後継者七人を絶やさねばならないのだろう?』
「うちのゴミ先祖の所業を考えれば当然だと思いますがね」
『お陰で我は杖を持った者に力の10%も与えることができんのだぞ! 一人でも賢者の後継を絶やしていればもっと力を引き出せたものを……!』
『くやしいのう、ラプソーン? 今のお主は余以下かも知れないな? お?』
『クロオ! 我を手に取れ! このガラクタ、粉々に打ち砕いてくれるわッ!!』
「やってられるかゴミ先祖」
『アッーーーーーーーーーー!!!!?』
リリスさんの挑発に見事に釣られ、逆上するラプソーン(杖)をへし折って、そばに捨てる。
『ラプソーンは兎も角、お主はどうするのだ?』
「どうする、って?」
『決まっておろう。杖の封印のことだ』
俺の杖をちょいと見た後でリリスさんが封印について尋ねてくる。
杖の封印のこと……はっきり言うなら、「迷惑」以外の何者でもないだろう。いきなり現れたと思ったら賢者の血を絶やせって殺人教唆そのものをしでかしてくる。杖だから警察にも相談できないし、折っても燃やしてもなぜかすぐ復活するから尚更面倒だ。
「…このままでいいでしょう。
俺は、大切な人達と平穏に過ごせればそれでいいんです。
行き過ぎた力は平穏を必ず遠ざける。だから俺にはゴミ先祖の封印を解く気もゴミ先祖の力を継ぐ気もありませんよ」
『…ま、それがクロオの望むことならそうするがよい。うちのシャミ子にはもうちょい頑張って貰いたいけどな』
「…リリスさんはゴミ先祖から『取るに足らない阿呆』と聞かされてましたが普通にいい人ですね。俺の祖先とチェンジしたいくらいです」
『ラプソーン貴様ァ!!』
リリスさんの像が修復中のラプソーンに突っかかるのを皮切りに、二人の口喧嘩が始まる。
その様子はどこかコミカルかつシュールで、笑いながらずっと見ていられた。
「今日も異常なかったよ、ミカン」
「ありがと、クロ」
シャミ子と桃のトレーニングが終わってから暫く。
俺は合流したミカンに今日の二人の様子を報告していた。
そもそも、ミカンがここ、多魔市に来たのには理由がある。
多魔市は聖なるものと魔なるものが出会わないように結界が張ってある。歩合制であることをいいことにまぞくを狩りまくろうとしている好戦的な魔法少女からまぞくを守るためにあるのだそうだ。
そして、その多魔市の魔法少女・千代田が最近弱体化してきているせいで結界が不安定になりつつあるのだという。そこで千代田は、元々別の市に住んでいたミカンに助っ人を頼んだ。
ちなみに俺は、ミカンの付き添い兼連絡係として一緒に来た。というか気がついたらミカンのご両親とうちの両親が勝手に話をつけてた。いいのかそれで。
『しかし、千代田桃はなにゆえしゃみ子を鍛えようとしているのだ? いずれ己に剣を向けるであろう宿敵を育てようなんざ理解できん。我だったら不穏分子は育つ前に刈るぞ』
「てめーと一緒にすんな」
「桃はシャミ子と契約しているんだって」
『契約?』
「シャミ子は桃と一緒に街を守ったり、桜さんを探したりする為に強くなる。桃はシャミ子を鍛えて守る。最近そういう関係になったらしいのよ」
桜さんというのは千代田の姉と聞いた。10年くらい前に行方不明になっている千代田の前の魔法少女なんだとか。
『ほほぅ……人間特有の“献身”というヤツか……いつの時代の人間の献身も、理解に苦しむ。』
「お前ぼっちだもんな」
『貴様、言ってはならんことを!!! 我は断じてぼっちなどではない! ジャハガロスとかゲモンとか他にも沢山いるから!!』
「ジャハガロスにゲモン………それ、多分両方とも配下よね。対等なお友達は?」
『…………………………………………………神は唯一にして絶対であるからな。』
「やっぱりぼっちなんじゃねえか」
というか、こいつは腐っても神様なんだから人間の献身は「自分への信仰」って形で理解してそうなもんだけどな。
そんなことを考えている時であった。
―――ミカンがこれまでにないほど警戒しだしたのは。
「クロ、逃げて!」
「は???」
突然変身し、振り返ったミカンの言葉の意図を理解するよりも先に、土煙が上がり、強風が駆け抜けた。
「「!!?」」
土煙が晴れた先に現れたのは、青いロングヘアの少女。年齢はパッと見俺と同じくらいで、スカイブルーを基調としたコスチュームを着ていることから、彼女も魔法少女であること、そして彼女が土煙の正体であることを理解した。
ただ、彼女は明確にこちらに敵意を向けている。一体何があったのだろうか?
『ほう! まさかこうも簡単に賢者の子孫が釣れるとは! 結界をすり抜けて、我がオーラをアピールした甲斐があったというものよ!』
「………………………」
つまり、ラプソーンが結界をすり抜けてアピールした結果、それを探知した賢者の子孫たる魔法少女がすっ飛んできた、と。
……100%てめぇの仕業じゃねえか。
大馬鹿をやらかしたゴミ先祖をへし折りたくなる気持ちを抑えながら、ミカンの言うとおり俺は少しずつ下がっていく。
「逃がしませんわよ、暗黒神の末裔!」
……が、駄目だった。どうやら逃げられないようだ。
「あー、誤解です、青髪の人。オーラを出していたのも、うちのゴミ先――」
『フハハハ!! 悲しいなぁ賢者の末裔よ! 我に気づかれぬよう日陰で生き続けていればよいものを、のこのこ現れるとは! さぁ、そなたの魂と引き裂かれるほどの悲しみを、この暗黒神ラプソーンに捧げるが良い!!』
「……………………」
煽るなこの馬鹿野郎! お陰でミカンも青髪魔法少女も目が点になってるだろーが!!
「……やはり、ここで滅ぼすべき、ですわね…!」
だが、青髪魔法少女は手元に片刃の剣のような武器を召喚しながら殺気を込めた目でこちらを睨んでくる。
やっぱりこうなるんじゃねえかよ!
俺の杖をチラ見したが、ラプソーン(杖)はどこ吹く風と言わんばかりに闘争心をむき出しにしていた。お前、杖単体じゃあ何もできないくせに、なんでそんな偉そうなんだよ。
「待って」
しかし、ここで待ったがかかる。ミカンだ。
「この街は聖と魔が共存する場所なの。荒事はお引き取り願えないかしら?」
「なりませんわ。暗黒神ラプソーンは、必ず滅ぼさなくてはならない人類の敵。封印を解かれたら、世界は闇に包まれる。わたくしたち魔法少女は、暗黒神の復活する可能性を摘み取らなくてはなりません。」
ミカンの説得にも耳を貸さないこの青髪魔法少女は、どうやら俺を狩ることが目的らしい。
おまけに彼女、かなり厳格で潔癖、自分の使命や義務感を他の魔法少女に押し付けがちなタイプとみた。こんな人がシャミ子と出会ってしまったら、一瞬でシャミ子がブチ転がされる未来しか見えない。というか先に俺がブチ転がされる。
「ラプソーンはもう封印されたわ。彼に………クロに封印を解く意思はない!」
「どうかしらね。何より重要なのはする・しないではなくできるか否か…だと思いますけどねッ!!」
その言葉とともに、青髪魔法少女は、俺に向かって剣を振り下ろし魔法を放つ。
青い光の斬撃のようなものだ。それも複数。
いきなり攻撃されて戸惑っているうちに、ミカンが持っていたボウガンですべてを撃ち落とす。
「クロ! 下がってて!!」
「わ、悪い…!」
『気をつけろクロオよ。あの攻撃、全盛期の我なら兎も角、お前が一発食らえば致命傷間違いなしの威力だぞ』
「はぁ!!?」
冗談じゃない。
魔法一発で死ぬとか勘弁してほしいので、ミカンとラプソーンの言うとおり下がっておく。
『クロオ! 我が力を使え!』
「ダメだ。どうせあの青髪を殺すつもりなんだろ!? それに、俺達に戦う理由なんてない!」
『このバカ子孫が…!!』
ラプソーンが憤っているが、本当に戦う理由なんてない。
こういう時のために、千代田はミカンを呼んだんだ。
俺は大人しく下がって、ミカンの戦いの邪魔をしないように専念するべきだ。ましてや、戦うなんて言語道断。どさくさに紛れてラプソーンが何かしでかす可能性が高いし。
異変を察知した千代田も、もうじきここへ来るはず。
あとはミカンと千代田がなんとか守ってくれる―――
「はあああああっ!!!」
「くっ………!!」
――!?
ミカンが……押されている、だと!?
確かにミカンの武器は見るからに遠距離向けで、相手は見るからに近距離が得意そうな剣持ちだけど、そんなことがあるのか……?
突風が吹き抜ける。
青髪魔法少女が放つ魔法の嵐を紙一重で避けながらミカンはボウガンによる攻撃を放つ―――そのはずが、なぜかミカンの攻撃は青髪魔法少女のいない所に着弾し、盛大に砂煙を上げるばかり。
まさかミカン、さっきのやりとりの内に、何らかの妨害魔法を食らったんじゃあ……!!
『いや、違うな、クロオ。』
「違うって、何が!?」
『陽夏木ミカンを見てみよ。あの娘、緊張のせいかさっきからまともに敵に狙いを定められておらぬ。なまじ強い力を持っているだけにもったいないぞ』
ラプソーン(杖)に言われてめまぐるしく変化する二人の攻防をよく見てみると、確かにミカンの射撃は、青髪魔法少女の足元付近に着弾している。もっとも、矢の軌道が早すぎて全く見えない上、魔法少女の戦いにおいてど素人な俺目線ではどうも「惜しい」ようにしか見えない。
『戦いにおいて「惜しい」攻撃は隙を生み死に繋がる。
尤も、本命の攻撃を当てる為にブラフを蒔くことはあるが、陽夏木ミカンのアレはブラフどころではない。場数は踏んでいるのだろうが、おそらく近距離で戦ったことがないのだろう。もったいないことだ。
それに、相手の魔法少女も、流石賢者の末裔というべきか、陽夏木ミカンよりも戦いに慣れているというべきか――』
なんか急に解説し始めたラプソーンを見て、何だか少し冷静さを取り戻せたような気がする。
しかし、それも束の間。
「きゃあああああ!!」
「ミカン!!?」
爆発音がしたかと思ったら、ミカンが青髪魔法少女の魔法に当たったのか思い切り吹き飛ばされる。それを皮切りに、青髪魔法少女は、ミカンに追撃の魔法を加え―――思わず目を逸らしてしまいたくなる程の大爆発を起こした。
ミカンの体は一度ゴム鞠のように地面を跳ねると、そのまま倒れ伏した。いくら待っても起き上がる気配が見えない。
「み、かん………?」
嘘だろ?
嘘だって言えよ。
何度そう思っても、ミカンは動かなかった。
雨が降り始める。それはやがて、豪雨といっても差し支えないほどに激しくなる。
雨に塗れたせいか、目の前の光景を信じたくないからか、全身から体温がなくなっていく感覚がする。
……ま、まさか………死―――
『落ち着け! 陽夏木ミカンは気絶しただけだ。我の知る魔法少女はあの程度では死なん。
現にこの雨は―――』
「邪魔者はいなくなりましたわね」
「っ!!!?」
落ち着かせようとするラプソーンの声を遮るように、青髪魔法少女が俺の目の前に立ちふさがる。
どうしようもない、死の予感が、背筋に走る。
目の前の少女の目に迷いはない。
きっと、俺を一太刀に殺すだろう。
―――暗黒神を、永遠に封印するために。
「あなたに恨みはありませんが……世界を守る為。ラプソーンの封印を確実なものにするためにも……死んでいただきます。」
青髪の少女は剣を振り上げる。
暗黒神ラプソーンが光の一族にとってどんなものかは知らない。けれど、見ず知らずの魔法少女がここまで警戒するんだ。それだけ、光の世界と闇の世界の融合はおぞましい行為だったんだろう。
そんなコトをしようとしたヤツの復活が出来るのは俺だけ。俺が死んだら……きっと、ラプソーンは二度と復活できなくなるだろう。
それなら、ここで斬られても、仕方ない―――
―――って思う訳ねえだろ。
ふざけんな。
ふざけんな――ッ!!
「ふざけんなよ!! 俺が一体…何をしたんだよッ!!
俺はただ……皆と…家族と、生きたかっただけなのに……っ!!
何が暗黒神の子孫だっ!何が魔法少女だっ! お前のやろうとしてることは―――ただの人殺しだろうがっ!!」
「―――ッ!!!」
『…………』
ひざをついて、みっともなく慟哭する。
それを聞いて青髪魔法少女の表情は弱点を突かれたような、悲痛なものになり、ラプソーンは何も答えない。
当然だろう。
いくら暗黒神が凶悪だろうが、俺にとってはただのコミカルなゴミ先祖にすぎない。そんなもののために殺されてたまるか。
でも、俺は戦えない。だから、当たり前の事を言うしかなかった。
人を殺したら罪。そんな当たり前のことを。
そして……何十分とも思える沈黙の末に、青髪魔法少女は、重い口をようやく開いた。
「……分かっています。貴方が何も悪くない事は。
でも……わたくしと貴方の命で世界の全ての人を永遠に救えるのなら……これほど割に合うものはない……っ!」
彼女も彼女なりに苦悩していたのだろう。
一族総出で準備していたに違いない。
暗黒神の子孫が現れた時、いつでも戦えるように。いつでも殺せるように。いつでも十字架を背負えるように。
―――でも、彼女はなにも分かっていない…!
「でも、せめてわたくしの口から、魔法少女を代表して一言だけ。
本当に……本当に申し訳ございません……っ!」
今にも泣きそうな顔をしながら振り下ろされた魔法少女の剣は―――
「そんなの駄目に決まってるでしょ」
振り下ろそうとした魔法少女ごと、桃色の突風に吹っ飛ばされた。
見上げると、そこには変身を済ませ、ピンクの魔法少女フォームに身を包んだ千代田の姿があった。
「千代田………!!」
「ミカン以外の魔法少女の反応を感じ取ったから飛んできた。
まぁ……間に合ったとは言えないみたいだけど」
未だに倒れているミカンを見ながら千代田は言う。その言葉には、怒りが孕んでいた。
「そこの同僚さん。これ以上痛い目に会いたくなかったら―――お引き取りを。」
「わたくしは………暗黒神を封印した者の末裔として、為すべき事を為すのみ! 貴方もそのはずでしょう!!」
「私に以前の力は残っていません。
出来るのは……大切な人を、守ることくらいです。」
「だったら……引っ込んでてくださいませ!!」
青髪魔法少女が千代田に突進したかと思えば、青の光と桃色の光が激突した。
パンチが、キックが、肘鉄が、斬撃が、貫突が。台風のように二人の間に絶えず巻き起こり、千代田には切り傷が、青髪の魔法少女には擦り傷が増えていく。
端から見たら、二人の両手両足が残像を持っている。
俺はそれを、呆けたようにただ見ているだけだった。
「………すげえ」
『クロオ、クロオ』
「……!」
ラプソーンの呼び声に気づく。
俺は二人に気づかれないように会話を始めた。
「何だよ、今度は」
『今のうちに我が力を借り受け、我が魔法であの青髪のを倒すのだ』
「いや、もう千代田に任せればいいだろ」
『それでは駄目だ。二人の足元を見てみよ』
チラリと激戦が起こっている二人の足元を見てみた。
すると、荒れている地面が青髪魔法少女の後ろにあった。
どういうことか分からずにじっくり見ると、少しずつ……ほんの少しずつだが、千代田が押されているのが分かった。
弱体化されているっていうミカンの話、本当だったのか……!!
「千代田………!!」
『解ったようだな。このままでは、千代田桃は変身時間切れまでにあの女を行動不能に出来ん。』
「じゃあ、どうすれば……!!」
『我が力を得たお前ならできる』
「!!?」
いきなりコイツは何を言っているんだ!?
弱点を突かれたとはいえミカンがやられ、千代田さえ苦戦する相手に俺がどうこうできるとは思えない。
『今のクロオは杖を通して我が力を受け取っても反動で爆散しない状態に体を作り替えただけだ。
まだ一割ほどだが、実際に我が今使える魔力をお前に流し込めば、恐らくあの女程度何てことない』
成る程。だからあれほど余裕ぶっこいて挑発したりミカンを分析したりできたのか。
さらっと聞き捨てならない事が聞こえたが細かいことは後だ。
「……で、どうすればいい?」
『クロオには暗黒神の後継としてコードネーム、及び変身の掛け声を決めて貰う』
「は!? なんで今そんな事を――」
『正式にこの二つを決めねば我が魔力が使えぬのだ!
何でもいいから早く決めよ!』
「えええええええっ!? んな事イキナリ言われても……」
ラプソーンから飛んできた凄まじいキラーパスに頭を悩ませる。
このタイミングであまりにふざけた条件だが、ラプソーンの声色はマジだし、早く決めなければ千代田がやられてしまうかもしれない。
「はぁっ!」
「うっ!? ……はっ!」
「きゃあっ!?」
『むぅ、千代田桃が押され始めた……辛うじてまだなんとかなる、が……』
ここで千代田に青髪魔法少女の肘鉄が入った。千代田が殴り返したことで再び持ち直したが―――
ヤバい。千代田が負けたら次は俺だ。変身前のままでは、普通に瞬殺される。
―――仕方ない。拘っている時間なんてない…!
「頼むよ、
『待ちかねたぞ、我が子孫…!』
「“トランスフォーム・クロウ”!!!」
「「―――ッ!!!?」」
身につけているものが変わっていく。
上下のジャージは、紫と黒のカラスを模したような鎧になり。
右手だけでなく左手も溶鉱炉の炎のような白っぽい黄色になり。
頭には鳥の頭を模して鳥の羽根があしらわれた兜が現れ。
黒と赤の裏地の、翼のようなマントが背中から生えた。
黒いカラスか大鷲をイメージしたかのようなコスチューム。
これが―――俺の戦闘フォーム。
今は余裕ないから後でじっくり鏡見よう。
「させませんわッ!!」
「―――っ! 神原くん!!」
ここで、千代田と戦っていた青髪魔法少女が、千代田を振り切って俺に向かって剣を振り抜こうと肉薄してくる。
しかし……どういうことか。
スローモーションで見える。
(我が子孫よ、戦いのいろはを教えてしんぜよう。
まず戦いで一番重要な事は、落ち着くことだ。いつ、如何なる時も)
脳内からご先祖の声が聞こえる。
戦闘のチュートリアルってことか、ありがたい。
(最初は目の前の少女の剣の一閃を、最低限の動きでかわすのだ。)
声の導かれるまま、剣の縦振りを、体を少し捻ることで攻撃の射程から逃れる。
(そして相手を見据え、杖を向けたら呪文を唱えるのだ。
現役時代の我が使っていた呪文を教えるから、脳裏に浮かんだままのソレを唱えてみよ…!!)
そして、声の言うとおりに脳裏に浮かんだ呪文を―――唱える!
「
「「っ!!!?」」
次の瞬間、目の前が真っ白になった。
凄まじい光が、爆発と共に発生したのだ。
それは、つまるところ―――
―――どうあがいても、光をモロに見ることを意味していた。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」
「うわあああああああああああああああああああああああああああっ、ぐああああああああああっ!?」
凄まじい爆発音と青髪魔法少女の絹を裂くような悲鳴と、俺の悲鳴が同時に響いた。
ひとしきり全てが収まった後。俺は目を押さえていた。
目が痛い。
「あああああっ、目がぁっ、目があああああああああああああああああああああああ!!!」
『大袈裟な奴よ。おのれの魔法で失明などせんというに』
「二人は大袈裟というよりやり過ぎだよ」
目の苦痛に耐えていると、ラプソーンと千代田が声をかけてくる。
『流石、我が子孫。全盛期の我の
「ラプさん、何だったんですかさっきの魔法。私もミカンも巻き込まれるかと思いましたけど」
『かつて我が不届きもの共を拠点ごと吹き飛ばすのに使っていた、大爆発を起こす魔法だ』
「神原くんに何使わせてるんですか」
「お、おい二人とも、一体これは…?」
「神原くん、目大丈夫?
……さっきの呪文で、とんでもないことになってるよ」
「へ?」
回復した視力が映したものは、俺を絶句させた。
目の前の緑豊かだったはずの河原が、一帯焼け野原になっていたのだ。
確かに凄まじい光だったし、青髪魔法少女もさっきので倒せたとは思うが……ここまで周囲の被害がデカいなんて聞いてない。
パッと見、家が一軒も巻き込まれていないのが不幸中の幸いか。
「―――そうだ、ミカンは!!?」
まさか、これに巻き込まれたんじゃあないだろうな!? もしそうだったらいくらご先祖でも許さん。
「大丈夫。私が移動させた。」
顔から血が引いていく俺に再び千代田が後ろから声をかける。
見ると、千代田がミカンを安静に寝かせていた。
安堵の息が漏れる。
「……ご先祖、回復とか、できるか?」
『あまり得意ではないが……不可能ではない』
「じゃあ、頼む」
俺の頼みに呼応するように杖に光が収束する。でもそれは、さっきとは違う、やさしそうで、温かな光だった。
「…
その一言で、俺自身から力が抜けるような感覚と共に、ミカンの体を杖の光が包んだ。
ミカンが戦いで受けた傷がみるみるうちに塞がっていく。
「………さて」
ミカンの安全も確保したし、あとは……
目の前に倒れている、青髪魔法少女だけだな。
彼女は倒れたまま、動かない。ただ、苦しそうに息をしているだけだ。
俺は彼女の方へ歩き始める。
「……殺しなさい」
息も絶え絶えで、声を出すのがやっとの筈なのに、喉の力を振り絞って彼女はそう言った。
俺は杖をゆっくりと高く掲げる。
「―――っ!!? 神原くん、ダメッ!!」
千代田が何かを察したように俺に掴みかかろうとするが、それより先に、俺は―――
ラプソーンの杖をへし折った。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 何でェェェッ!!!?』
「「!?!?!?!?」」
杖が折れると同時に、俺の戦闘フォームも、元のジャージに戻る。
二人は理解できないものをみたかのように固まっている。
周囲に沈黙が訪れる。
「青髪の人。俺は………ぶっちゃけ、封印なんてどうでもいいんです。」
だが、二人とも黙っているということはこっちの言う事が聞こえるということ。
だから、思いのたけをここで全て言ってやろう。
「そりゃあ、確かにうちのゴミ先祖は小うるさいし、隙あらば魔法少女に突貫するし、俺に殺人を教唆する最低なゴミ先祖ですが……だからと言って俺は手を汚したりしませんよ。
俺が欲しいのは大切な人たちと過ごす穏やかな日々なんです」
「神原くん……」
「…………」
『な!? じゃあ何か? 我の封印を解くつもりは微塵もないと!!?』
「当たり前だろゴミ先祖。大体今日は好き勝手なことばっかりしやがって。お陰で死にかけたわ!」
『ギャアアアアーーーー!? 痛い痛い!!!』
余計に出しゃばってくる
「俺は今の毎日で十分なんです。
封印を解くつもりも、力を継ぐつもりもない。
でも……ミカンを…俺の大切な人を傷つけるような奴が現れたとしたら……
きっと俺は、その人を守るために戦います。」
そして……ソイツには、死んでも消えない恐怖を、魂に刻み付けてやる。
まぁ流石にそこまでは言わないしやらないけど。実行しちゃったらもはや魔王だよ。
風が強くなり、大雨が降り始める。
「大切な、人を、守る……」
「はい。俺にとっては、ミカンがそうなんです。
青髪の人にも―――」
「実里……」
「ん?」
「
「……不二さんにもあるはずです。
守りたい人が………」
「………………………えぇ。仰るとおり……」
そう言って、青髪魔法少女―――不二実里は、目を閉じた。きっと気絶したのだろう。
「神原くん………」
千代田が駆け寄ってくる。
その表情は、なぜだかおかしいものを堪えているように見える。この雰囲気にはそぐわないものだ。
「? どうした、千代田? そんな顔をして?」
「その辺にしてあげて。ミカンが大変だよ」
「はぁ? それってどういう―――」
そこまで言って気づいた。
先程から雨が降っているにも関わらず、千代田が全く濡れていないことに。
俺は千代田に促されミカンを見た。すると、そこには……
目を見開き、顔を真っ赤にし、震えながらこっちを見ているミカンが。
「あ、あの……ミカン、さん?」
「ひゃいいっ!!?」
降っている雨がもっとひどくなる。それで漸く気づいた。
この雨、ミカンの呪いだ。
それにしても何なんだよ本当に。こっちを見ていたんたら、声をかけられることくらいわかるだろうに。
「…何か俺、変なこと言ったか?」
「~~~~~~~~~~ッ!!」
「黙ってたって分からないよミカン。はっきり言ってくれないとぶるあああああああああああっ!!!?」
「クロの馬鹿っ!!!」
返事はミカンの鉄拳だった。
世界が回って、意識が遠くなった。
不二実里は、多魔市から帰っていった。
ちゃっかり千代田とミカンとメアドを交換してから、「暗黒神復活の危険性はぐっと減りましたから」と言ってもといた街に帰ったそうだ。あと、なんか俺のメアドリストに「不二実里」の名前がいつの間に追加されてた時は超たまげた。
俺達さっきまで戦ってたよね? よくメアド交換なんてしたもんだ。まぁどうせワケを聞いてもなぁなぁにされるだけだろうからいいけどさ。
でだ。今、俺は何をしているかというと…
「なぁミカン。もう動いても良くないか? 家ん中なら問題なく歩き回れるしよ」
「ダメに決まってるでしょ! クロはまだ怪我人なんだから!」
『そうだ。それに我が呪文によるクロウは魔力消費は予想以上だった。回復にはまだ時間がかかるぞ』
「クロウさん、あんまりミカンさんに迷惑かけちゃだめですよ」
―――新たに構えた自宅にて、ミカンとラプソーン(杖)から看病を受けていた。お見舞いに千代田とシャミ子も来ている。
……聞いたところによると、ミカンのパンチで俺の意識が吹っ飛んだあと、千代田を追いかけてきたシャミ子と合流した二人は、シャミ子がラプソーンの杖を、千代田が俺と不二の二人を担いで不二を千代田の家に、俺を自宅に放り込んだ後、手当てをしたんだそうだ。不二はすぐに目覚め、千代田とミカンの話を聞いた後帰っていったが、俺は起きるのに丸一日たった上、まだ本調子じゃあないみたいで、今に至っている。
不二との戦い以降、ラプソーンとシャミ子は俺のことを「クロウ」と呼ぶようになった。あの土壇場で思いついた、何の捻りもないコードネームだけれども、ラプソーンにとっては「立派な後継の名前」なんだそうだ。シャミ子については、ラプソーンから「闇の者同士コードネームで呼び合うのが礼儀」と吹き込まれたことが原因だった。勝手なことしやがってあの野郎。
「はい、クロ。早く元気になってね」
「お、おお。ありがと、ミカン」
そんなことを考えていると、ミカンからお粥の乗ったプレートが手渡される。特に体調は悪くないから問題なく食えると思うんだけど……
「ねえ、神原くん」
「ん? なんだ千代田」
「これから、どうするの?」
「はい? これから、って?」
「ほら、ラプさんのせいで暗黒神の子孫をアピールしちゃったでしょ?
実里さんには戦う意思はないって伝えたけど……そこら辺は神原くんはどうするのかなって」
『そ、そうだぞクロウ! 我の封印を解かないなどと言っていたが、アレは何かの間違いか方便なのだろう!?
なぁ、そうだと言ってくれ!!』
ああ、そんなこともあったっけか。
とりあえず、アレの過失は100%ゴミ先祖なのは確実。だが、やっちゃったもんはしょうがない。
「封印を解かない方向で行くのは確実として、だ。
でもまあ、あんま変わらないよ。シャミ子や千代田、ミカンと一緒に色々楽しい事や馬鹿やったり。それだけさ。
ただ……俺は、暗黒神ラプソーンについてもっと知るべきなのかな、とは思うよ」
「「「!!」」」
「ほんの少し前まで、俺は光の一族も闇の一族も、自分のご先祖についても何も知らなかった。今でも、まだ知らないことの方が多い。
だから、少しでも多くのことを知りたい。」
『なぁんだ! 暗黒神の事なら我が一番よく知っておる! なんてったって我こそが暗黒神ラプソーンなのだからな! 何でも聞くがよい!』
「……まぁ、ラプソーンがどう伝わっているかを知るのも重要かなって思うし、何より俺自身の力に不明な点が多すぎる。それを知りたいかな。
いざという時、大切なものを守りたいから」
「―――っ!!」
『おやおや、お熱いのう、クロウ? 友人だけでなく偉大なご先祖にまで見せつけてくれるとは…将来は大物だな』
「黙れゴミ先祖」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?』
出刃亀じみたことを抜かすごみ先祖をへし折り、顔の紅潮を誤魔化すようにお粥を口に運ぶ。
そのお粥の味は、温かくも自分の今の心のように酸っぱく……アレ? これ、本当に酸っぱいぞ。
「……ミカン?」
「な、なに!?」
「これに何入れた?」
「え? えー…っと……ライム、だけど…」
「はああああ! これだから柑橘バカは!
米といったらマヨネーズと相場が決まってんだろうが!」
「決まってないわよ! なにその特殊な相場は! せっかく人が作ってあげたのに!」
「せめてかけるかどうか一言いってくれよ!」
「お、お二人とも! 喧嘩しないでください~~!!」
「二人ともおかしいよ、味覚……」
『言わぬが花ぞ千代田桃よ。我が指摘したら二人に袋叩きにされてしもうた』
『本当に仲が良いな、あの二人』
こうして、暗黒神の子孫兼後継になって初めての初夏が過ぎ去ろうとしていた。
がんばれクロウ!自分の選んだ道は困難ではあるが、不可能ではない!大切な人を守れるりっぱな暗黒神になるのだ!
オリジナル&ゲストキャラ紹介
オリ主。わけあって暗黒神ラプソーンの子孫としての力に目覚めた(というか力を押し付けられた)男。好きなものはマヨネーズ(某副長に負けないほどのマヨラー)と家族。
もともと争いを好まない性格だったが、ラプソーンの破天荒な性格がきっかけで訪れる苦難の数々に頭を悩ませる。そのおかげで、基本的にラプソーンを「ゴミ先祖」と呼び、辛辣かつぞんざいな扱いをしてきた。だが、不二との戦いを通して、「暗黒神の力を知り、大切なものを守れるようになる」ことを目標に立てた。
「クロウ」は即座に思いついた闇の者としてのコードネームであり、シャミ子で言うところの「シャドウミストレス優子」のようなものである。
誕生日/血液型:7月13日生まれ、蟹座のA型だ。
趣味:本を読んだり、出会った猫を愛でたりするけど……これは趣味って言えるのかな…?
座右の銘:人生一度きり。
ラプソーン
ドラゴンクエストⅧに登場する、世界を闇に包まんとする邪神にしてラスボス。拙作では、大体の元の設定をそのままに、「光の世界に住まう、光の一族と闇の一族に対して喧嘩を売った結果、7人の魔法少女によって一振りの杖に封印された」という設定にした。
隙あらば黒男に封印解除のカギとなる賢者の末裔の抹殺を唆したり、特攻したりと自分本位な行動ばかりする(封印されている杖の状態では戦闘力は皆無に等しいので問題はない)ので、黒男から疎まれている。しかし、仮にも世界征服を企んだ邪神として、戦いの年季はすさまじく、目覚めたてのクロウに戦いの手ほどきを施した。
シャミ子のご先祖であるリリスとは旧知の仲で、「取るに足らない阿呆」と思っている。
また、ゲモンやジャハガロスという配下がいる(現在は双方とも消息不明)。
誕生日/血液型:太陽暦どころか太陰暦もなかったからな。謎でよい。
趣味:子孫をいかに我が後継にするか考えること。今はこれだな。
座右の銘:皆は一人の為に。オール・フォー・ワンというやつだ。
オリジナル魔法少女。青いロングヘアで青いコスチュームを身にまとい、片刃の剣で戦う。どこぞのさ〇かちゃんではない。
ラプソーンを封印した魔法少女の一族の末裔であり、暗黒神を完全に封印するために暗黒神の末裔が現れた時に動けるよう準備していた。クロウに倒された後、桃とミカンの説得により改心しもといた街に帰る。
ナビゲーターは「ラファエル」という名前の、青と白のセキセイインコである。
ちなみに名前の由来は同名のブドウの品種「藤稔」から。
誕生日:12月24日。クリスマスイヴが誕生日ですわ。
血液型:AB型ですわ。皆さんに意外と言われますの。
趣味:茶葉をブレンドしてオリジナル紅茶を作ることでしょうか。
座右の銘:ノブリス・オブリージュ。魔法少女の使命ですわ。
拙作で一番好きなオリジナルorゲストキャラは?
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神原クロウ
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ラプソーン
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不二実里
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ラファエル
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神原玲奈