まちカド暗黒神   作:伝説の超三毛猫

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今回のあらすじ

エッグラがあらわれた!
チキーラがあらわれた!





まぞく大捜査線! 俺とシャミ子の新たなる人探し!……卵とニワトリどっちが…あっ!親子丼が好きです!……え?そういう玉虫色の答えはナシ?…デスヨネー

 

 

 ばんだ荘、吉田家のもう片方のお隣、千代田の部屋にて。

 

 

「今日は町に出てまぞくを探そう」

 

「? まぞくならここに二人います」

 

 千代田の思い立ったような言葉にシャミ子がナントカの杖を指さし棒に変化させて自分と俺を指す。どう見てもフォークにしか見えない杖が指さし棒に変化する瞬間始めて見た。なんかシュールだな。

 

「そうじゃなくて、シャミ子言ってたよね、この町にいるまぞくを探して千代田桜を探し出すって」

 

 忘れちゃったのかな? と千代田が指さし棒に変化したナントカの杖でシャミ子を指す。まぁ夏休み入ってからすき焼きやったり人魂と戦ったりチロルを召喚したりで色々あったから、結構時間が経った気もするが。あ、人魂とチロルは俺だけか?

 

「今回の捜索はシャミ子と神原くんに任せる形になる。昔からいるまぞくは姉の結界に守られてるから魔法少女が同行すると近づけない」

 

 結界を見つけたら様子だけ見てくればいいと言っていたが、シャミ子がそんな器用なことできるとは思えないな。

 

「神原くんもほら、お願いね」

 

「気が進まねぇ……チロルとメタ子に埋もれてたいよ……」

 

「駄目よクロ。シャミ子だけに仕事押し付けるのは感心しないわ」

「時は来た」

「…ってことよ! さぁ、キリキリと働きなさい!」

 

「というか何でここにチロルを連れてきたの?」

 

「だってチロルが『一人は寂しい』って言うから」

 

「分かるの? 言葉」

 

 そう。俺は何となくだが、チロルの言ってることが分かるのだ。眷属だからか、大体の感情と意志が鳴き声から伝わってくる。俺がここに来ようとした時も「おいてかないでー、ひとりにしないでー」って脳内に伝わってきた。そんなん連れてきちゃうに決まってるやろがい。

 

「はいはい。じゃあ、メタ子とチロルは私が相手しといてあげるから、行ってらっしゃいな」

 

「……チロルを取るなよ?」

 

「神原くんチロルが絡むと面倒くさいね」

 

「冗談だよ。とりあえず、チロルの教育に悪そうなゴミ先祖はへし折って捨ててから行ってくる」

 

『今までの話の流れで我がへし折られる理由がわからないんですけど!!?』

 

「それも私がやるから。ラプさん、私の中技(フレッシュピーチハートシャワー)のこと拳の雨って言ったでしょ」

 

『あれは我渾身の暗黒神ジョークぞ!!? 本気になるんじゃあない千代田桃!!』

 

「じゃあ行ってきまーす」

「行ってきます!」

 

『クロぉぉぉぉウ! しゃみ子ぉぉぉぉ!! 助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!』

 

 チロルをミカンに預け、ゴミ先祖の処刑を千代田に任せた俺達まぞくタッグは、この多魔市に昔から住むまぞくを探しに行くことにした。

 

 

「よし……多魔市まぞく捜索部隊・『ハリキリやりくり団』、出動!」

 

「クロウさんなんですかそのネーミングセンス!」

 

「気に入った?」

 

「はい!! なんか語呂が良いです!」

 

 良かった。ミカンは俺のネーミングセンスあんまり好きじゃないみたいだし、シャミ子に気に入って貰えて何よりだ。

 さて、意気揚々と出発したはいいものの、何か手がかりがなくてはまぞくを探しようがない。こういう時は情報を集めるのが定石なのだが……顔が広い人に連絡すればなにか得られるだろうか。

 

「最初に佐田に電話したいと思う」

 

「なるほど! 杏里ちゃんならなにか知ってそうですね!」

 

 

 

 電話をかければ3コールで佐田の明るい声が聞こえてきた。この町のまぞくについて聞きたいから会えないかと尋ねれば、部活の休憩時間が空いているからそこで会って話をしようという流れになり。学校まで歩いていけば、校門前で佐田がテニスボールを弄っていた。こっちを見つけるなり、「おーい」と手を振ってくる。

 

「クロウ君から聞いたよ! まぞくのすみかが知りたいんだって?」

 

「ごめんなさい、練習で忙しいのに……」

 

「ほんとだよな。まぁ、知ってるんだけどね。魔族のすみか」

 

「さらっと言ったね?」

 

 もっと勿体ぶるかと思ったんだが、案外あっさりと教えてくれた。

 

「商店街の喫茶店にね、『あすら』って店があるの。そこのマスターが魔族だよ」

 

 しかも商店街って。俺ん家からちょっと歩いたところだよな?

 そんな近くにまぞくがいるとは。引っ越してきたばかりとはいえ、喫茶店なんて滅多に行かないから全くわからなかった。

 

「あそこのマスターけっこうパンチ強いから行くなら気を付けてね。」

 

「はい。ありがとうございます、杏里ちゃん」

 

「あ、あとね…」

 

「?」

 

「数年前から変な二人組を町内で見かける人が増えてるんだって。」

 

 なんだその情報は。まぞくを探すために急いでいるのだが、関係あることなのだろうか?

 

「あたしは回覧板の情報でしか見たことないんだけど、もしかしたらそっちもまぞくかもしれないからさ。一応伝えておくよ」

 

「もうちょっと詳しく教えてくれないか?」

 

「背の高いモヒカン男と背の低い頭巾をした男の二人組だそうだよ」

 

 それただの不審者じゃないの? まぞくの出る幕じゃあないよね、事案だよね。確実にポリスメンのお仕事だよね? 回覧板に出てるとか、不審者情報でしかないじゃねーか。

 

「あっ! 思い出した! その回覧板なら私も何度か見たことあります!」

 

「え、シャミ子?」

 

「ニワトリとかタマゴとか言ってたって目撃情報もあったみたいです。もしかしたらニワトリと卵のまぞくなのかもしれません……!」

 

「ニワトリと卵の魔族とは一体………」

 

 うそでしょ。もしかして、その不審者情報知らないの俺だけなの? 地味にショックだな。あと、この町の治安がちょっと不安になってきた。

 モヤモヤした気分のまま佐田にお礼を告げて、俺達は情報が確実な方である、商店街の喫茶店「あすら」を目指すことにした。

 

 ……ニワトリと卵に聞き覚えがあるのは気のせいだろうか?

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

「喫茶店『あすら』……一体どんなまぞくがいるのでしょう」

 

「佐田をして『パンチが強い』と言わしめるからな。ひと目で分かるんじゃあないか?」

 

 佐田から有益な情報を貰った俺達は、まだ見ぬまぞくに思いを馳せながら、歩みを進めていた。俺の家の目の前を通りすぎれば、商店街まであと少しだ。

 

「そういえばクロウさんはどうして千代田桜さんを探しているのですか?」

 

「あれ、シャミ子には言わなかったっけ?

 ……ラプソーンと母さんの事について聞きたいからだよ」

 

「あ、そうだ! 桃にクロウさんのおかーさんについて尋ねたら『クロウさんに訊いて』って突き返されましたよ? たらい回しは良くないと思います」

 

 俺の母さんについては、すき焼きパーティの時に説明を千代田に任せたはずなのに、千代田は千代田で俺に投げ返してきやがった。え、「魔族スレイヤー」の件、俺が伝えないといけないの? 

 うーん、どうしよう。どこまでオブラートに包めばいい?

 

「……………俺の母さんは今は優しい人だよ。ほぼ毎日電話はかけてきてくれるし、お土産もくれる。それを踏まえて言うんだけどな……

 ……昔、『魔族スレイヤー』なんて呼ばれる過激派だったらしい」

 

 オブラートに梱包できるだけ梱包して、伝えてみる。

 ……思った通りと言うべきか、二人の間を沈黙が支配した。

 なんか申し訳なくなってきたから、目をチラリとシャミ子に向けると……

 

 

「ま………まぞくスレイヤーとは……!!!?」

 

「わあぁぁぁシャミ子!? 泣くな! 泣かないで!? 昔の話! 昔の話だから!! 今は違うから! どこにでもいる優しいお母さんだから!!!」

 

 こうなるから話したくなかったのに……「あすら」に行く前にシャミ子に戦意喪失されたら超困る!

 泣きそうになるシャミ子をどうやって慰めようか、と考えていた時だった。

 

 

「お前はタマゴの愛らしさ・美しさ・つるつるの美学がお前にはわからんのかッ!」

 

「たとえ何を言われてもしょせんニワトリの羽毛とカラーリングには敵わんぞぅ!」

 

 俺の家のお隣さんからケンカの声が聞こえてきたのは。

 俺はあまりに偶然すぎるこの状況を恨んだ。シャミ子の精神は今、俺の「魔族スレイヤー(お母さん)」の話で折れかかっている。こんな時に男二人のケンカ声を聞いたらポッキリ逝ってしまう!!

 

 おそるおそるシャミ子を見る。どうか折れてませんようにと。だが……シャミ子本人は、俺の想像とは違って涙を引っ込めて、何かを見つけた時のような表情で言った。

 

「クロウさん……今の声、ニワトリと卵のまぞくかもしれません……!」

 

「いや、ただのお隣さんのケンカだから」

 

 思った以上にたくましかった。つーか、佐田とシャミ子が言ってたニワトリと卵のまぞく疑惑の人って、お隣さんだったの!?

 

「あとさ、お隣さんはあくまでまぞく()()の人だろ? 佐田が確信を持って言ってた『あすら』の方はどうするんだよ」

 

「あっ……! そ、そうですよね…でも、なんかニワトリと卵の人も気になります……」

 

「タマゴはニワトリから生まれるのだからな!」

 

「あほかお前は!? ニワトリこそタマゴから生まれるに決まっとるだろうが!」

 

「ほら! なんかすごく難しい話をしていますし! ケンカしてるからちょっと怖いまぞくなのかもしれません!」

 

 アレを難しい話と捉えちゃうんだ、シャミ子。ただの好みの違いからのケンカだとばっかし思ってたんだけど。

 でもなぁ。俺としては、お隣さんもだけど「あすら」も十分気になる。優先順位は「あすら」の方が上だ。

 

「……なら、こうしよう。シャミ子はまっすぐ『あすら』に行ってくれ。俺はこのお隣さんに結界がないか調べて、ないと分かったらすぐに追いかける」

 

「大丈夫ですか、クロウさん? ちょっと怖い人達ですよ? そ、それに……あっちのまぞくも怖い人だったらどうしよう……」

 

「パンチが強いとは言ってたが佐田が仲良くできる人達だ。別に戦いにいくわけじゃあない、そこまで悪い人たちじゃあないはずだ。それに俺もいちおう、戦うことはできるしな」

 

 シャミ子の懸念に指パッチンで火を出し、そのまま火を振り消した。ゴミ先祖の魔法訓練が生きたのか、変身せずとも軽い魔法くらいは出せるようになった。目くらまし程度には使えるだろう。いざとなったら逃げればいい。

 ……俺とてあのお隣さんに関わりたくはないが、シャミ子がお隣さんと関わるのはもっとヤバい予感がした。

 

「………分かりました。クロウさん、気を付けてくださいね?」

 

「あぁ。シャミ子も注意しろよ」

 

 

 商店街へ向かうシャミ子を見送る。

 さて、俺もお隣さんを調べるとしよう。なんか罪悪感があるが、門や玄関を調べて結界らしいものがなければそのまま「あすら」へ向かえばよし、もしあったら写真を撮って後で千代田やミカンに見せて確認すればいい。あんまり時間を取るのもお隣さんに悪いしな。

 

 まずは外観をパッと眺める。

 特になんの変哲もない、二階建ての一軒家だ。こうして見てると、ただの一般人の家に見えてくる。塀に囲まれており、入口らしいところには簡易な柵の門が備え付けられている。門には結界らしいものは見られない。

 

「あとは玄関だな……」

 

 門に手をかけると簡単に開く。鍵はかけられてないようだ。不用心だなと思いつつも、不法侵入しているような背徳感が湧いたため、半開きの門越しに玄関を見てみると―――やはりというべきか、シャミ子の家の扉に貼ってあるような結界は見当たらなかった。

 

「……外れか」

 

 いくら聖と魔が共存する多魔市といえども、そう簡単にまぞくが見つかるわけないな、と門を閉めて商店街へ行こうとしたその時。

 

 

 

 

 

 

「おい! そこの少年!!」

 

 体がビクッと跳ねた。

 ま、マズい。お隣さんに見つかった……!?

 

 ゆっくり振り返ると、そこには二人の男がいた。二人とも奇抜な格好をしており、凄まじい印象を俺に与えた。

 

 一人は、俺よりも背が高い。真っ赤なモヒカンヘアーとあごひげ、目元には赤い隈取りをとった筋肉質な男だ。

 

 もう一人は、俺の半分ほどしか身長がない。頭をすっぽり覆ってしまう緑の帽子を被った、小太りの男で、ハンプティ・ダンプティといった感じだ。

 

 

(………なるほど…!)

 

 これが佐田とシャミ子の言ってたまぞく疑惑のある人か、と納得してしまう。こんな人たちが町を歩いていたら、回覧板に不審者情報として登録されてもおかしくないな、と。

 それと同時に、勝手に入ってきてしまって申し訳ないなと思っていると。

 

「お前さん、ワシらの隣に越してきた少年じゃろ?」

 

「え? あ、はい……神原と申します」

 

「ちょうど良いところに来てくれた!」

 

「え? えーっと……?」

 

「お前さん、タマゴとニワトリ、どっちが好きだ?」

 

「は?」

 

 パンチの強すぎる男二人に門の中に入れられたかと思うと、わけの分からない質問を問われた。しかも二人してイイ笑顔で。

 何とかして話を有耶無耶にして超逃げたい……!

 

「ニワトリだろ?」

 

 モヒカンヘアの大男が問う。

 

「タマゴだよな?」

 

 盗賊のような小男が問う。

 

 馬鹿真面目にどっちかを答えてどちらかの恨みを買いたくないので、ここは折衷案でお茶を濁して誤魔化すしかない!

 

「……俺はお」

 

「おっとぉ、面白い冗談だな、少年! まさか『()()()』というつもりはなかろうて!!」

「あっはっはっはっ! いくらなんでも、そんな()()()()()()()を言うはずないじゃろうがよ!!」

 

 

 ………1秒で逃げ道を封じられた。

 

「「……で、どっちなんだ??」」

 

 

 もう冷や汗ダラダラだ。足が自然に後ずさる。ジリジリと近寄ってくる二人に色んな意味で恐怖する。しかし、いつまでも後ろに逃げてはいられない。塀にぶつかり、追い詰められたと思ったその時。

 

「………ん?」

 

「これは……マヨネーズ?」

 

「あっ……それ、俺の……!!」

 

 ついうっかり落としたマイマヨネーズを、小太りの男に拾われてしまった。

 

「「………………………」」

 

「……………??」

 

 二人が固まる。いつまでも動かない二人に声をかけるか迷いながらも、おそるおそる話しかけようとして―――

 

 

「………フン、タマゴ派か……」

「なぁぁんじゃ!! タマゴ派なら最初からそう言わないか!」

 

「え?」

 

「マヨネーズはタマゴが原料! そんなものを普段から持ち歩くのであれば当然、お前はタマゴ派じゃて!!」

 

 大男が若干不機嫌そうに家の中に入り、小男が嬉しそうに俺の両手を捕まえて握手をしだした。一体なんなの?

 

「え、えーと……あのでっかい人? が機嫌悪くしちゃったんですけど、いいんですか?」

 

「よいよい! アイツはタマゴ派が増えるといつもああだからな!!

 ……あ! 自己紹介がまだじゃったか! ワシはエッグラ! いまスネて家ン中に入っちまったのがチキーラよ!」

 

「……………神原クロウと申します」

 

 ツッコミどころしかない二人の言動や豪快に笑うエッグラさんを前に、俺はもう死んだ目で自己紹介を返すしかなかった。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

「……で、お前さんはどうして今ここに来たんじゃ?」

 

 あの後、エッグラさんに縁側に通された俺は彼の隣に座って、二人を訪ねた事情を説明したのである。

 

「本来はとある魔法少女を探すためにこの町に昔からいるまぞくを探していたんです。

 友人から『ニワトリやらタマゴやら言い争ってる、モヒカンの男と頭巾をした男』の不審者情報を聞いて、まぞくかどうか確かめるためにここに」

 

「ほぉ〜〜〜〜、なるほどな。

 おいチキーラ! 言われとるぞ、『不審者』だって! わっはっはっはっ!」

 

 奥の方へエッグラさんが声をかけると、俺とエッグラさんの間にドン! と皿が置かれた。皿を置いた手の主は、未だに機嫌が治っていないチキーラさんだ。

 

「…ぬかせエッグラ。その不審者情報、どう考えてもお前のことだろうが」

 

 いや、十中八九どころか十中十でお二人のことだと思います。

 そう言いたいのを我慢して、皿の上を見てみれば、そこには真っ白な蒸し鶏たちが。しかも、ご丁寧に梅干しが乗っけてある。

 

「……食っていきな。そんで、ニワトリの良さをしっかり噛みしめるんだ。マヨネーズ抜きでな」

 

「あ、あの、どうして……」

 

「ニワトリの良さを味わうには素材本来の良さを味わうのが一番だ。そのうちの一つがこの蒸し鶏よ」

 

 そういう事を聞いてるんじゃないんですけど。こういう時は普通お茶を出すんじゃないの?

 聞きたいのは山々だったが、俺の反対側の隣に座った、機嫌の悪そうなチキーラさんを前にそれを聞けそうにはなかった。

 

「…………いただきます」

 

 蒸し鶏をひとつ手に取りかぶりつく。すると、しっとりとしたちょうどいい食感と淡泊で素朴な鶏の脂が口の中いっぱいに染み渡った。さっぱりとした梅干しが良いアクセントになっている。この手の蒸し鶏は口の中の水分が持ってかれるイメージを持っていたから驚きだ。

 

「………美味しい……!!」

 

「だろ? わしの育てたニワトリちゃんを甘く見るでないわ!」

 

「育てた?」

 

「わしとエッグラは多魔市の端っこでニワトリを育てているのだ!」

 

 蒸し鶏の素直な感想に機嫌が戻ったチキーラさんが、「詳しくはこのチラシを見てみぃ!」とチラシを俺に押し付けた。そこには『卵も鶏も丹精こめて育ててます』のキャッチコピーと共に『ゴットサイド養鶏場』という名前が。ネーミングからして超強そう。

 

「……で、エッグラ? こやつはなぜウチに来たって?」

 

「なんでも魔法少女を探してるらしい」

 

「魔法少女……魔法少女ねぇ…」

 

「『千代田桜』っていうんですけど、心当たりはありませんか?」

 

 魔法少女の名前を出すと、二人は腕を組み、目を閉じてうんうんと唸り始めた。まさかこの人達、魔法少女と会ったことがあるのだろうか?

 

「……すまんのぅ。7年前にここに越してくるまでは各地を転々としてたから魔法少女には結構会ったんじゃが……」

「……『千代田桜』と名乗る魔法少女には会ってないのぉ」

「……そうですか」

 

 ダメで元々というのは分かってはいたのだが、情報収集が空振りになると少し残念な気分になる。今頃「あすら」で色々聞いているであろうシャミ子に申し訳が立たない………

 

 …………待てよ?

 

 ―――シャミ子、ちゃんと情報収集出来てるのか?

 

 

「あ、あの! 俺、ちょっと用事を思い出したのでここら辺で失礼―――」

 

 ポンコツまぞくのことを思い出して喫茶「あすら」へ急ごうとするも、両手をチキーラさんとエッグラさんに掴まれてしまう。

 

「まぁ待てよ、少年」

「もう少しわしらの話に付き合ってくれんか」

 

「いえ、そういう訳にもいきません。友人が困っているかもしれないんです。『千代田桜』さんの事をちゃんと聞き出せてるかどうか、見に行かないと…」

 

「なら少年。ひとつ勝負といこうか」

 

「へ? …………っ!!!!?」

 

 勝負という単語に、俺は振り向くと、チキーラさんとエッグラさんの表情が好戦的なそれへと変わっていた。思わず身震いがする。

 

「なに、真剣勝負などではない。ちょっとした()()()()()()……もとい、()()()()じゃよ」

 

「ルールは簡単。お前さんは商店街まで走る。ワシとチキーラがそれを追いかける。入口まで逃げ切れたらお前さんの勝ち。捕まったらワシらの勝ちじゃ」

 

「な、何を…勝手に……」

 

「これでも結構譲歩した方だ。なんなら、門から出て30秒…40秒……いや、50秒くらいはハンデをくれてやってもいいんじゃよ?」

 

 そう言う二人の雰囲気は、さっきまでのニワトリとタマゴ好きのオッサンとは思えなかった。まるで、地獄の底からラプソーンのような純度の高い力が湧き出てきたかのような、底知れぬ何かがあると感じた………いや、()()()()()()()

 

「……ここから50秒走ったら、もう商店街は目と鼻の先ですよ?」

 

「構わん。それでも問題ないわい」

 

 何をもってこの人達はここまで自信たっぷりに断言するのだろうか? 分からないが、ルールを決めてハンデまで貰ったこの状況でなお、勝てる気がしなかった。かといって、断れる空気でもない。

 

「………お手柔らかにお願いします」

 

 ……選択肢は、一つしかなかった。

 

 

 

 

 

 勝負は、俺が門を出た瞬間。それから計測が始まり、50秒たったらチキーラさんとエッグラさんが追いかけてくる、とのことだった。

 深呼吸をして息を整える。俺の50メートル走の成績はクラス順位で中くらいだ。早くもなければ決して遅くはない。たまさくら商店街など、1分もあれば走って辿り着ける。しかし……

 

「準備ができたらいつでもいいぞ」

「全力で逃げてくれよ、ガハハハ!」

 

 二人が動き出す残り10秒で、何が起こるか分からない。

 

 一応、二人からは殺気を感じなかったので勝負に応じたが、全力を出したほうが良さそうだ。

 

 

 門を飛び出た瞬間、雰囲気が変わる。

 全力で両手と両足を動かす。商店街が見えてくると共に、緊張感が全身を走り、魔力が両手にこもるのを感じる。

 

 30秒、いまだに追ってくる気配はない。

 

 

 40秒、いつもはすぐ近くに感じられるたまさくら商店街の入口が遠い。そして、そろそろ二人が追ってくる時間帯だ。いつでも対応できるようにしなければ。

 

 

 

 ―――そして、50秒―――

 

 

「―――っ!!?」

 

 

 ……理由はなかった。ただなんとなくなのか、本能的な危機を感じたからか、体をほんの少し、一歩分、右にずらした。

 

 その次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ほぉ」

 

(――――――ウッソだろ)

 

 さっきまで俺がいた場所を、跳び蹴りの姿勢をしたチキーラさんが通り過ぎた。そして……商店街の入口のド真ん中に着地した。

 

 思わず走っていた足が止まる。

 

(そんなんアリなの…!?)

 

 1秒。それがチキーラさんが50秒かけて走った俺に追いつくまでの時間だった。彼は入口に立つと、ここから先は通さんと言わんばかりにファイティングポーズをとる。

 

(戦って切り抜けろって事か……!!)

 

 

 すぐさまその意味を理解した俺は、チキーラさんに向かって魔力の紫電を放つ。

 

「うぐっ………!?」

 

 しかし。それが手元を離れた瞬間、頭に何者かの衝撃を受けた俺は、倒れゆく視界の端で着地するエッグラさんを見つけて。

 

(これは、勝てないわ………)

 

 

 力の差を悟った直後、意識を手放した。

 

 

 

◇  ◆  ◇

 

 

 

「……………う、ん……あれ、ここは……?」

 

 気がついたら、そこはチキーラさんとエッグラさんの家の縁側だった。

 

「おお! 気がついたか少年! 手加減はしたつもりだったが、つい強く打ちすぎたかと肝を冷やしたぞ!」

 

「………何が起こったんです? 体感的にワケもわからぬまま負けた記憶しかないんですけど」

 

「まずわしが跳び蹴りをかましたが、少年は避けた。で、わしと戦おうと身構えた隙にエッグラが後ろからゴツンよ」

 

 チキーラさんが説明するも、まったく頭に入ってこない。とにかく、レベルが違いすぎたことしか理解できなかった。おまけにあの勝負は二人がかりだったから……

 

「…………勝たせる気ありませんでしたよね」

 

「わっはっはっ! そう言うな! ワシらとて、面白い魔力を持ったまぞくだと思って期待してしまったんだよ!」

 

「……俺がまぞくだって分かるんですか?」

 

「おう。わしらと会う前に、ちょっと火ィ起こしてたろ? アレを感じたら誰だって分かるってものよ」

 

「!!?」

 

 チキーラさんが言ってるのって、ちょっとシャミ子に見せた指パッチンチャッカマンの事か!? まさか、アレで感知されたというのか!?

 別に隠してるつもりはなかったが、魔法は慎重に使わないといけなくなりそうだなぁ。

 ……それにしても。

 

「お二人は一体何者なんですか?」

 

「「わしらはただの養鶏業者の一般人だよ」」

 

 お前らみたいな一般人がいてたまるか。

 スゴいツッコミたいが、負けたものは負けなので言い訳はやめておこう。

 

「……それで、話ってなんですか?」

 

「お前さん、あの魔法少女……えっと…、神原玲奈、じゃったか。……を知っているかね?」

 

「―――っ!!!?」

 

 本日何度目か分からないほどの驚きと衝撃が身を走る。かつて世界最強魔法少女だったとされる母さんの、知り合いだというのだろうか。それならば……あの一般人………もとい逸般人具合も理解できるかもしれない。

 

「母さんを………母を知ってるんですか!?」

 

「母さん? となるとお前、黒男くんか?」

 

「え、俺の事知ってるんですか?」

 

「まぁの。君のお母さんとは今でも年賀状を贈り合う仲じゃて」

 

 あっけらかんとエッグラさんが答え、一枚の年賀状を渡される。それは、両親と俺が写った、今年の1月の年賀状だった。なんでこの人達に年賀状送ってんだあの人。

 

「しかし…世の中分からんもんじゃの。冷酷無比と思われてたあの神原玲奈が、今や旦那と子持ちとはな!」

 

「ワシらと剣を交えた『魔族スレイヤー』とは思えんな!」

 

 年賀状を掘り出しながら笑うチキーラさんとエッグラさん。気になる事がさらっと出てきたが……

 

「剣を交えた? ………って事はお二人はまぞくなんですか?」

 

「「いいや、違うぞ?」」

 

 時が止まった。正確には、俺が固まっただけなんだけど。アレだけの実力を持っていながら、まぞくじゃない?

 

「え? え? う……うそだぁ……俺のことを一瞬でノシておいて………あれ?」

 

「ウソじゃないぞ。ワシらの実力は、お互いがお互いに負けないように研鑽しあった結果なのじゃよ」

「というか言ったはずだろう。わしらは一般人だと」

 

「じゃあ……『魔族スレイヤー』だった頃の母さんと戦ったことがある、って…………?」

 

「あれは……17、8年くらい前じゃったかな。二人がかりで戦ったよ。」

 

 魔族でもないのに、チキーラさんとエッグラさんが魔法少女である母さんと戦った。一体なぜ……?

 

 

「晩メシの卵料理が血の臭いで台無しになりそうだったから」

「晩メシの鶏料理が血の臭いで台無しになりそうだったから」

 

「だと思った!!!」

 

 この人達はニワトリとタマゴのどっちが好きかで言い争うような変人だった。その程度の事でケンカを売るなんて十分にありえる話だ。

 

「その日のメシの時間にな、魔法少女が()()()()()()()()()()()()()()魔族を狩りまくる様子を見て、おかしいと気づいたワシがチキーラを誘って取り押さえようとしたのだ」

 

「違うぞエッグラ! 玲奈ちゃんの様子がおかしいと先に気づいたのはわしだろが!」

 

「どっちでもいいです。……それにしても、取り憑かれたように、ですか……」

 

「ワシが思うにあの時の玲奈ちゃんを突き動かしてたのは()()()だったんじゃないか? と思うのだ」

「意見が合うな。わしもそう思ってたところだ」

 

「憎しみ…………!?」

 

 母さんは、昔まぞくに何かされたのだろうか? 相当のことをされなければ、それこそ取り憑かれたように魔族を狩りまくる事もしないだろう。でも皆目検討もつかない話だ。

 

「………母さんに訊いたら、教えてくれるでしょうか。まぞくをそこまで憎んでた理由を…?」

 

「「!」」

 

「俺の知っている神原玲奈は、とても優しい母さんです。それが、かつてはそこまで過激だったのが信じられないんです。」

 

 母さんがかつて過激な魔法少女だった事は分かった。でも、どうしてそんな過激になったのか、『魔族をどうして恨んでいたのか』、『今の優しい母さんになるまでに何があったのか』を俺は知りたい。でも……尋ねるにも答えるにもかなりの勇気がいるだろうな。

 

「………それは、分からんの。全ては玲奈ちゃん次第じゃ」

「焦ることはないぞ、黒男くん。いつか必ず、教えてもらえる時が来るさ。」

 

 お二人の答えは、まぁ当たり障りのないものではあった。しかし……それが心なしか不安が取り除かれ、落ち着いていくような気持ちにさせた。

 

 ―――母さん。昔のことを知られるのを嫌がっている様子はあったけど、いつか俺に教えてくれる時がくるだろうか?

 もし、憎しみが消えないのならば、それが和らぐように手を貸したいと思うのは、余計なお世話だろうか?

 

 

 

 

「……ちなみに、母さんとお二人の戦いはどうなったんですか?」

 

「ワシらの勝利条件を満たせたから、ワシらの勝ち、かのぅ?

 ワシらは玲奈ちゃんを落ち着かせる為に卵料理と鶏料理を無理やり食わせたからな」

「いやー、食わせるまでが大変だった! 話は聞かないわ、普通に殺しに来るわでな!」

 

「お二人ともちょっと何言ってるかわからないです」

 

 憎しみに取り憑かれたように魔族を狩りまくる魔法少女(魔族スレイヤー)にタマゴと鶏を食わせるとかどんな神経してたらそんな発想が思いつくの?

 

 

 

◇  ◆  ◇

 

 

 

 その日は、日が沈みかけてた事もあり、チキーラさんとエッグラさんに別れを告げた後、「あすら」に行くのは諦めて千代田とミカンとチロルが待つばんだ荘に引き上げることにした。

 

 母さんについての思わぬ収穫こそあったものの、千代田桜さんについての収穫はゼロ。他に得たものといえば、チキーラさんとエッグラさんに貰った手土産の鶏肉と卵のみ(これも、彼らの養鶏場で育てたものらしい)。

 

 

 俺の残念な報告に肩を落としつつも、明日があると励ましてくれた千代田とミカンに感謝し、バイトが決まったというシャミ子を祝いながら貰った肉と卵で料理しようとした時。

 ……帰り際のやり取りを思い出してしまった。

 

 

『そうだ、黒男くん! 手土産にコレを持っていくといい!』

 

『ありがとうございます。鶏肉と卵と……このバッジは?』

 

『タマゴバッジじゃ。お前さん、タマゴ派だったからな。ワシ手書きのお手製缶バッジをプレゼントしよう!

 これを機にお前さんも恋人にも聞いてみるといい! タマゴとニワトリ、どっちが好きかをな!』

 

『こ、恋人??』

 

『ほら、今朝わしらの家の前で別れた巻き角の女の子だよ!』

 

『シャミ子はただの友人です!』

 

『じゃあ、あれかの? 時折お前さん()に来る、ミカン色の髪の女の子……』

 

『ミカンはただの幼馴染です!!』

 

 

 

「……………っ」

 

 そう。ミカンはただの幼馴染だ。引っ越す前だって同じ屋根の下で何日過ごした? 深く考えることはないだろうが。いつものことだ。いつものこと……そのはずなのに、顔が熱い。

 なにか聞かれる前に誤魔化さなければ。

 

 

「なぁ、三人とも」

 

「はい?」

「ん?」

「なに?」

 

「お前ら、タマゴとニワトリどっちが好きだ?」

 

 

 鶏肉と卵を取り出しながら尋ねれば、あたりに沈黙が訪れる。シャミ子もミカンも千代田も、たいへんおかしなものを見たって顔をしている。

 ………うん、そうだよね。普通、こんな質問されたらそういう顔するよね。

 

「クロウさん、何で今その質問を………??」

 

「ちょっとクロ、なに言ってるの? 頭打った?」

 

「どちらかというとニワトリだけど……なんでいきなりそんな事聞くの……?」

 

 そうそう。そういう答えするよね。

 あ、なんか恥ずかしくなってきた。

 

 

「そうだよな………普通、そう答えるよな……」

 

「え、なに? ホントにどうしたの?」

 

 

 だから、この顔の熱さは今ヘンなことを聞いたことに対する羞恥心から来たものだ。そうに決まってる。絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がんばれクロウ! 鶏肉と卵は、意外とポテンシャルがある食材だから知識と経験量を増やして豊かな料理を作るんだ!




オリジナル&ゲストキャラクター紹介

神原クロウ
 ニワトリとタマゴの極地(笑)を見た暗黒神後継者。千代田桜の情報収集をしていたつもりが、母親の秘密をまたひとつ知った。なお、クロウがエッグラ&チキーラと色々やってた時と同じ頃、シャミ子はしっかり「あすら」に雇われている。

エッグラ
 ドラゴンクエストⅣに登場する、緑の帽子を被った盗賊風の小太りの男。チキーラと「タマゴとニワトリ、どっちが偉いか」で日々議論しており、彼はタマゴ派。ふざけた格好とは裏腹に裏ボスを勤めるほどに強く、かがやく息や灼熱の炎、メダパニダンスやベホマラー、ザオラルと多彩な技を放ってくる。拙作では、クロウのお隣さんにして養鶏場を経営するイッパン人のオッサンとして登場。
誕生日/血液型:6月9日、タマゴの日生まれのO型だ。
趣味:タマゴを極めることかの。
座右の銘:卵が先。

チキーラ
 ドラゴンクエストⅣに登場する、赤いモヒカンヘアとあごひげ、赤い隈取りをとった筋肉質な男。エッグラと「タマゴとニワトリ、どっちが偉いか」で日々議論しており、彼はニワトリ派。ふざけた格好とは裏腹に裏ボスを勤めるほどに強く、岩石落としや回し蹴り、痛恨の一撃や体当たりなど鍛え上げた肉体にモノを言わせた猛攻を行う。拙作では、クロウのお隣さんにして養鶏場を経営するイッパン人のオッサンとして登場。
誕生日/血液型:2月8日、ニワトリの日生まれのB型だ。
趣味:ニワトリを極めることだな。
座右の銘:鶏が先。


今日の呪文辞典

・ベホマラー
 味方全体のHPを100〜回復する。
※本編には出てないがあとがきに出したので一応登録。

・ザオラル
 味方ひとりを50%の確率で生き返らせる。
※本編には出てないがあとがきに出したので一応登録。

拙作で一番好きなオリジナルorゲストキャラは?

  • 神原クロウ
  • ラプソーン
  • 不二実里
  • ラファエル
  • 神原玲奈
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