すぎやまこういち先生、我々の心に永遠に残る、不朽の楽曲の数々をありがとう。揺るぎない尊敬の念とささやかな哀悼の意を込めて、敬礼。
今回のあらすじ
奥々多魔の蛟があらわれた!
ゴミ先祖の消しゴムサイズの依り代が寿命を迎え、朝起きたら土の塊になっていたその日の放課後の帰宅途中、俺はばんだ荘の前でレジャーシートを敷き、悟ったような顔で安酒を開けているリリスさんを見つけた。
『いちおう訊くがリリスよ。……何があった?』
魂が杖に戻ったゴミ先祖がついうっかりそう声をかけてしまうくらいには様子がおかしい。
そんなゴミ先祖の質問に、リリスさんは表情を穏やかな悟り顔を崩さぬままこっちを見ていった。
「あぁ……お帰り、クロウや。
なんかね…余が求めてるのと違うの」
「は?」
「ごせんぞおおおおお!? どうしたんですか!!?」
不気味すぎる雰囲気のまま、どうすればいいか分からない空気が流れると、シャミ子の声が聞こえてきた。魂が文字通り抜けかかっているリリスさんの嘆きが始まる。
「シャミ子……精一杯楽しんでるのにぜんぜん心がはずまないのだ……疲れた…もう封印世界に帰りたい…」
「……シャミ子、リリスさんが何でこうなったのか知らないか?」
「…ひょっとして――」
なんでこんなことになっているのか聞くと、心当たりがあったのかすぐに教えてくれた。
なんでも、受肉した日から数分単位でスケジュールを組み、ありとあらゆるアクティビティやら何やらを周っていたらしい。
楽しみ方は人それぞれだと思うが、大盛ラーメンの後にホットヨガはよく考えなくてもダメだろ。全部戻しちゃいそうだよ?
「余はもうここで安酒をあおって残りの人生を過ごすの……」
「「……………」」
完全にこの世界に疲れ切ってヤケ酒をおっぱじめているリリスさんに、そこはかとないいたたまれなさを覚えた。
「あの、最後くらいは自然豊かな所でゆっくりするのはどうですか?」
「そうだね…私も協力するよ。リリスさんは少し休んだ方が良い」
すると、シャミ子と千代田がそんな提案をしたのだ。
二人とも優しいなぁ、なんて思っていると。
「山で死んでくれた方が、遺体の処理も楽だし」
「言い方ァァァ!!!!」
最悪だ!まるで今から殺しに行くみたいな言い方じゃねーか!!
ちょっ…だ、誰かに聞かれてないよな? 聞かれたら間違いなく誤解されるタイプだぞ! 同級生がポリスメンのお世話になるのは勘弁してほしい!
ひとまず千代田の殺害宣言(誤解)が第三者に聞かれてないことを確認したシャミ子たち一行はリリスさんのためにおくおくたまでBBQキャンプを企画することにしたそうだ。
ただ、キャンプするのに「石を枕にして川辺で寝る予定でした」はないだろ。キャンプにあんま詳しくない俺でもそれはダメだと分かる。佐田が電話越しに騒いでいたが、10月の山で寝ると凍死するんだな。これは、俺もキャンプ道具を引っ張り出さないといけない。必要に応じて新しく毛布とか買う必要も出てくるかもな。
「…で、どうすんだ?キャンプ道具」
「杏里ちゃんが何とかしてくれるようです!」
「俺もテントとか持ってきとくか」
「クロウさんも持って来るんですか?」
「……シャミ子、お前…高校生の男女が一つテントの中はダメだろ。常識的に考えて」
「!!!」
懇切丁寧に説明してやっと気づくあたり、ほんとにキャンプ知識ゼロだったのな、シャミ子。千代田もうんうんと頷いている。
とにかく、女子組は佐田がテントを用意し、また俺も俺でテントを用意して持っていく形で落ち着いた。シャミ子から「クロウさんがひとりぼっちになるじゃないですか」って意見も出たけど、女子に混じって一人は流石にこっちの気が引けるよ。
あと、小倉は不参加らしい。おくおくたまに行くって伝えたら、「霊水汲んできてねぇ」ってシャミ子に頼んでいたけど。
「うわーーーーーーーーー!めっちゃ山ーーーーー!」
「山だからな」
「やっほーーーーーーーーーーーーー!!」
「うっせえ」
最終的にキャンプに参加することになったのは、俺・シャミ子・千代田・ミカン・佐田・ウガルル・チロル・リリスさんの計7人(?)だ。
スラリンを含めたスライム達とゲモンはお留守番だ。なんか行く直前にピエールが上がりこんでいて、「我が暗黒神のご自宅の警備はお任せあれ!!」って言ってたけど、まぁいい。ネットで変なモン買うとかしない限りはいいだろう。
周囲の開けた景色も圧巻だ。広い草原に川の流れ。雨ざらしにされボロついたちっちゃな祠。まさに大自然の中に入ってきたかのようで空気も澄んでいるかのようだ。
「あったか~い!」
「焚火もイイね~」
佐田がノリでちっちゃな祠におそなえをした後に、テントを設営開始。バーベキューセットを展開して、しかるのちに木炭を積んで着火剤に火をつける。炎が揺らめきと共にだんだん大きくなっていって、周囲の空気を暖かくする。
『熱い…うるさいぞ。我が眠りを妨げるのは誰ぞ…』
「…? ゴミ先祖、なんか言ったか?」
『え、我じゃないぞ?』
「?? まぁいいか」
途中なんか聞こえた気がしたが、バーベキューは決行する。
「いまからこの巨大牛肉を~、ダッチオーブンでローストしまーす!」
「おお~~~~~!!」
「ニ…肉……ゴクリ」
「待つんだウガルル。ステイだステイ」
「クロ、そのマヨネーズをしまいなさい」
「ミカンだってそのかんきつ類をしまえよ」
「2人そろってその手の余計なモンをおろしなさい」
メガビーフをローストしたり、各々持ってきた野菜に火を通しながら、俺達は食事を楽しんだ。
「杏里よ、これを丁度良く燗してくれ」
「うちお酒は分からんから自分でやって」
…中には、未成年にお酒をつけさせようとするダメ魔族も………否、
「クロウよ、我にも何か用意せい。具体的には強めの果実酒を希望する!」
「俺が持ってきてるワケねーだろこのゴミ先祖」
ダメ暗黒神もいたわけだが。
ミカンが持ってきてくれた飲み物を飲みながら俺も肉を焼くためにパックの肉をトングで掴もうとして。
「ねぇクロ!それ、ホットカクテルよ!」
ミカンの焦る声が聞こえた途端、頭がふわっとしてきた。
目の前の少女の、蜜柑色の髪が、ツヤのある唇が、綺麗な目が、シャレたファッションが……いつも以上に美しく見える。
あれ?ミカンって、こんなに可愛かったっけ?10年くらいの付き合いだけど今までそんな風に思った事なかったのに……
さっき喉を通った温かい飲み物が、全身を温めていって、思考が回らなくなってきた。でも、それでも良い気がした。
「ミカン……美味しいよ、これ」
「え……あ、ありがと?」
首をかしげてちょっと困ったような顔をするミカン。可愛いな。もっとそういう顔を見てみたい。
「おかわり貰ってもイイ?」
「え…だ、ダメよ! 未成年飲酒はダメなのよ!?」
飲み物のおかわりを要求したらミカンは首を横に振って、ダメって言われて貰えなかった。いいじゃないか、おかわりしても。
「そんな顔をしないでくれよ、ミカン。もっと笑って?」
「く、クロ!? 一体何を…」
「可愛いんだよ、笑顔が。普段から思ってた事なんだけどさ……」
「ほんとに何を言っちゃってるのかしら!!?」
ミカンの顔がどんどん赤くなる。何か変な事を言っただろうか?
近づいて話を聞きたいが、ミカンに逃げられた上に座った俺の膝にチロルが乗っているから動くこともできない。
「? どうしたんだ、ミカン。俺はおかしなことを言ったか?」
「おかしなこと言ったっつーか、クロがおかしくなってるっつーの!」
「おかしい?なにを言ってるんだミカン。俺は本当のことしか言ってないぞ」
「ほ、本当のこと!!?」
一体、何を焦っているんだ。ミカンが焦って騒いだことで佐田やシャミ子や千代田まで寄ってきて、俺の顔をマジマジと見てくる。
佐田と千代田は呆れたような顔で、シャミ子は困っているように見える。
「クロウ君……なに飲んだのさ」
「実は、リリスさん用に作ったホットカクテルを間違って飲んじゃったみたいで…」
「お酒じゃないですか! それで、クロウさんはこんなにへべれけに…」
「俺は酔ってない!」
「酔っぱらいの台詞だよそれ」
口を揃えて酔っ払いだのへべれけだの失礼な奴らめ。俺は飲み物飲んだだけだぞ?アルコールなんて口にしていない!仮に飲んだとしても、あの程度で酔ってたまるか!
『く、クロウよ…流石に酔っているだろう?』
「ゴミ先祖までそんなこと言うのかよ……俺は酔ってないぞ!」
『いや、酔っている。我の知る限り、陽夏木ミカンを堂々と口説く貴様など今まで見たことがない。アルコールで頭があっぱらぱーになっている証拠だ』
「誰があっぱらぱーだこの野郎!」
『うわぁ!待て!メラで脅すな馬鹿者!!』
「ちょっ!アルコールに火が移る!!」
「待って神原くん!今だけはそれはダメ!」
「火事になっちゃいますよ!!」
いつものとおりにゴミ先祖を燃やそうとしたら何故か止められた。抵抗するが、魔法少女が二人がかりの時点で俺にはなすすべもない。
仕方ないから、この場でゴミ先祖を燃やすことは諦めることにした。頭のふわふわ感がさっきよりも増してきた気がするし、瞼も重くなってきた。焚き火もあったかいから、意識が滑り落ちそう………
『みなさーーん!聞こえますかーー!!!』
「ほわーーーーーーーー!!?」
しばらくして、俺は音響兵器のような声で叩き起こされた。
全員が跳ね起きた俺同様突然脳内に響いた声にビックリしていた。
『あっ成功っぽい!! 朝に見た古い祠まで来られますかー?』
『…テレパス初心者め、音量を下げろ』
え?リリスさん、テレパスってなんの―――
『…えっ? どうやるんですかー!!?』
「ぎゃーーーーーーーー!!!」
「「フギャーーーーーーー!!?」」
立て続けに襲い来る音響兵器。俺は2連撃でまどろみが完全にどこかへ行ってしまった。ウガルルとチロルに至っては悲鳴とともに目を回してぶっ倒れてしまってる…!
「お…おい、ミカン!これはどういう事だ!?」
「お、起きたのね、クロ」
「さっきの声で、起きない、方が…無理だろ」
『まったく、あれしきの度数の酒で意識を手放しおって馬鹿者が。いいか、今少々厄介な事になっている』
「ゴミ先祖?」
厄介な事になっていると言うのでどういうことかと、ウガルルを休めながら詳しく聞いてみる。
なんでも、シャミ子がリリスさんの酔い覚ましの散歩から帰ってきた時にはシャミ子の意識が無かったという。
同行していたリリスさんが言うには、カップを川に落とした瞬間に何者かに怒られ、その直後に倒れたのだという。リリスさんが触れても夢に入れないことから魂が抜き取られていると思われ、このままじゃあシャミ子の脳みそがおばかになってしまうってところであのテレパシーが来たらしい。
「魂を抜かれた!!?」
『然り。魂とは、そいつ自身の重要なアイデンティティーなのだ。我らの使用する魔法には死んだものを生き返らせる魔法があるが……魂を持っていかれては
だがしゃみ子自身も言っていたように、祠に何かがあるようだ。とはいえ、この件はリリスと千代田桃に任せよう』
「俺も行った方が―――っ、」
立ち上がったところで、自分自身がグラついた。
ミカンが咄嗟に支えてくれなかったら、ぶっ倒れていたかもしれない。
けど、こんなところで倒れる訳には……!
「クロ!無茶しないで!」
「でも…シャミ子の、魂が」
『今行ったところでなんになると言うのだ。フラッフラの貴様に出来ることは何もないぞ』
「ちょっとラプソーン!」
『事実ではないか、陽夏木ミカンよ。佐田杏里も、そのような顔をするでない。交渉にはリリスと千代田桃が向かったのだ、何とかするだろう、筋肉で』
「筋肉で交渉はできねーだろ………」
ゴミ先祖の言葉にツッコミながら立ち上がろうとする。が、今度は頭が痛くなる。うぅ、さっきの飲み物のせいか?う、動けそうにない………!!
「無理しちゃダメよ。
私、ここでウガルルとチロルを見てる係だから、あなたも一緒に休んでなさい」
「でも…」
「でもじゃない。さっさと横になる!」
「うわっ」
……力づくで、ウガルルとチロルの隣で横にされてしまった。毛布もかけられ、完全にお休みタイムみたいになっている。さっき寝落ちしたからか、眠気は襲ってこなかった。
「大丈夫。桃達と交渉してるやつ、狙えそうだったらここから撃つわ」
「暴力はやめてもらっていいすか…?」
千代田といいミカンといい、魔法少女はパッパパワァで解決しすぎじゃありませんか?
魔法使えよ。いや、魔法っちゃ魔法なんだろうけどさぁ…もっとこう、攻撃魔法以外で何とかできないのか?
その後、ずっと眠っていたシャミ子が目覚め、リリスさんと千代田が戻ってきた。
リリスさんが身を呈して封印されていた蛟を説得したことで、シャミ子の魂を取り戻すことに成功したんだとか。
……俺、何もできなかったなぁ。
その事実が、小さいけど、確かなしこりを心に残していった。
キャンプが終わった後、リリスさんの体が中々朽ちないことに疑問を覚えた俺達は、リリスさん本人から体を張って蛇と交渉した状況を詳しく聞いていた。
ふむふむ…シャミ子を返すときに、何だか珠を埋め込まれた? 約定の龍玉?とか言って、毎日三貫のゴミ拾いを命じられて、お酒のお供えも頼まれたと……なるほど。あと三日で土に還ると思って逃げ切れると思ったのか、リリスさん。
「……フブキ、小倉。どう思う?」
「100万%その龍玉の効果なんじゃないかな?」
「蛇は古来より龍の子供として人々に崇められてきた…。龍の宝を受け取った人が不老不死になった伝承もあるし、リリスさんの体が崩れないのはその龍玉の効力だと思うよぉ」
「え!!? つまり余、ずっとこのまま!?」
「約定破ったら焼かれるのもほんとだと思う」
「嫌だぁぁぁぁぁ!!!」
吉田家は、新しく布団を買わなくちゃいけなくなったみたいだ。
リリスさんの新たな戦いが始まったのを見届けてから、俺は俺で気になることができたので、おくおくたまの祠の前に来ていた。
おそなえの日本酒と煮干を置いて、鏡を持って念じてみた。
すると、鏡には俺自身ではなく、とぐろを巻いた大きな蛇が映った。
「おぉ、やっぱりリリスさんの言うとおりに映った」
『我を起こすのは何者だ……』
「あ、えーと……俺、神原クロウです。
ちょっと前に貴方が拉致ったシャミ子の友達の」
『嗚呼、あの者の連れか………何用だ、我への御礼参りか?』
「違います。聞きたいことがあったから来たんだ」
『聞きたいこと…?』
「光の一族・闇の一族って何なんです?」
聞きたかったこと……光と闇の事について蛇に尋ねると、蛇はしばし沈黙した。
このことを尋ねたのは、シャミ子に「蛇と一緒にいたとき、なにがあったんだ?」と聞いた際に、それっぽい話をしていたのを思い出したからだ。ただ、シャミ子の説明はふわふわ過ぎてまったく頭に入ってこなかったので蛇に直接聞きに来たという訳だ。
『闇の一族とは――光の一族が定めた世界の
「のり……」
『
「たとい………じょう………」
『
「…………」
『…………』
「…………………………あ、あの、蛇さん」
『…………? なんだ』
「もうちょっと分かりやすく話してくれませんか?」
蛇さんの答えを聞いていた俺がそう言うと、蛇さんは封印空間の中で体をずっこけさせた。同行していたゴミ先祖も、『クロぉぉぉぉウ!!!?』と素っ頓狂な悲鳴をあげる。
『お前ェ! このタイミングでそれはないだろう!? もっと空気読めよ!!!』
「いや、しょうがねーだろ。だってこの蛇さんの言う事、ほとんど古っぽくて分からなかったんだもんさー」
『……そんなに、難しかった?』
「はい…」
『威厳ある話し方に真っ正面からケンカを売るんじゃあない! 我ら魔族や暗黒神には必要なことだぞ!!』
「気持ちはわかるけど、意味も伝わらないと」
ロマンを求めたい気持ちは十分分かっているつもりだが、それと今回のこれは話が別だ。ゴミ先祖は『なんてことを言うんだ貴様は!』と憤っているが、蛇さんの方は存外優しかった。
『つまりね、世界が生まれた時にルールを作ったのが光の一族で、そのルールから外れてるのが我ら闇の一族ってこと』
「あ~」
『そのルールだけが今も残ってるから、光の一族・闇の一族もまたこの世にいるってこと』
「なるほど~」
『ほら見ろ!! 分かりやすさ重視でいったら威厳とか色んなものが台無しになってしまうのだ!!』
ゴミ先祖の言う威厳云々はともかく、これで光の一族と闇の一族がどういうものかは大体分かった。
しっかし、最初にルールを定めた者が光の一族だったのか…
なんというか………
「それだけ聞くと、まるでルール作ったモン勝ち、みたいですね……」
『そうなんだよ。そのルールに則ってるから汝も闇の一族として扱われるんだよね。汝は、普通の闇の一族とはまったく違うというのに』
「! わかるんですか?」
『汝の魂、まるでこの世界の住人じゃないみたいだよ?』
『然り、然り!! 多魔の大蛟よ、我こそは暗黒神ラプソーン!この光の世界とは別の「闇の世界」の主宰神である! そしてこの少年は、その暗黒神の正当なる後継者・神原クロウであるのだ!』
ゴミ先祖が意気揚々かつ堂々と俺達の自己紹介をする様子を見て、蛇さんは「なるほど~」などと言っているが、俺はこのゴミ先祖の力を継ぐ気はないからな?
ごめんなさい蛇さん。うちのゴミ先祖が迷惑かけてごめんなさい。こういう
「ごめんなさいねうちのご先祖様が」
『その言い方はなんだ貴様ァ!! 我が誰かに迷惑をかけているとでも言うつもりか!』
「自覚症状ねーとか本格的に重症じゃねーか」
『黙れ愚か者ォ!! 大体貴様、力に無頓着すぎるぞ!それで本当に良いと思っているのか!!』
「当たり前だろっと」
『ホギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?!?!?』
ゴミ先祖をへし折って持ってきたゴミ袋の中に入れた。
『な、汝……もうちょっとこう、ご先祖様大切にした方がいいんじゃないの?』
「いいんですよ。隙あらば復活してこの世界を支配しようと考えるようなご先祖様なので」
『えぇ……』
「それじゃあ、俺はこの辺で。お話聞かせてくれてありがとうございます」
蛇さんはその様子に疑問を呈したけど、俺とゴミ先祖いつもこんな感じだから。
そういう風に振る舞うと、蛇さんは引いた。リリスさんが身を張ってシャミ子を助けようとしたのを見た後だからそういう風に見えるのかもしれない。
聞きたいことも聞けたし、帰ろうかと思った時、蛇さんは口を開いて―――
『待たれよ、神を継ぐ小さき者よ』
「蛇さん?」
『我は、暗黒神を知らぬゆえ口出し出来る事は少ないが……これだけは忠告しておこう。
―――力を得る事に躊躇しては、ならぬ』
「え……」
帰り際にちょっと威厳の増した蛇さんはそう言った。
力を得ることに躊躇すんなって……どういうことだ?
『150年前、人は我が領域に鉱毒を流した。我は怒り、暴れ―――巫女に封じられた。これがどういう意味か、分からぬ訳ではあるまい?』
「巫女……つまり魔法少女か。それに封印されたってことは……負けたん、ですよね?」
『口惜しきことにな。今もなお人は川にゴミを捨てている。川が汚れれば森や魚や、それらを糧にしている生き物たちが死ぬ。
我はそれをこれまで、ちっさい封印空間の窓から眺める事しか出来なかった。―――すべて、巫女に敗れ封印を受けた結末よ』
「……」
『人が力を畏怖するのはある意味、古代から続く本能のようなものだ。それを今更否定はせぬ…が。
力なき者は時に、力あるものや理不尽を前に膝を屈するしかなくなる。これもまた、光の一族が定めた世界の矩であるのだ。
力を使わずとも往ける道があるように……力によってしか切り拓けぬ道もある。汝の目的が何かにもよるが…』
「俺の目的は、この街で皆と平穏に暮らす事です!」
『なればその目的を果たす為に出来るだけの事はするべきだと言っておこう』
蛇さんの言っている事は…良くわかった。さっきのような古っぽい言葉が少なかったからな。
つまり……暗黒神の力を得ることを恐れるなと言っている。強くなれと言っている。へし折ったはずのゴミ先祖が、露骨にゴミ袋から顔(杖の頭部)を出してこっちを見ている。蛇さんの意外な助言に気を良くして調子に乗っていそうだし、純粋に腹立つから燃やしておきたかったが、蛇さん自身が大真面目にアドバイスをしているのでそれは勘弁しておいた。
「……ありがとうございました。あと、おそなえの好みとかあったら言ってください」
『そうだね…肉と魚のおそなえを交互に持ってきてくれると嬉しいかな。あと、昔はなかったお菓子とかあるとなお良し』
「わかりました」
お礼だけ言うと、俺は山から立ち去った。
下山が終わった後、誰もいない野外ホームで夕陽に照らされながら電車を待っていると、ふとゴミ先祖が口を開いた。
『クロウよ。貴様が力を得る事を後回しするのは勝手だ。
だが、所詮この世は弱肉強食。我としては、貴様には強き立場にあってほしいのだ。暗黒神の血を絶やすわけにはいかぬからな』
相変わらずの腹の立つ言い方で、地味に反論しづらい事を言ってきやがった。
表情は見えないが、明らかに笑っている。俺を諭す真剣さよりも、自分の正しさが証明された時のような愉悦が、声色から伝わってきた。
だから俺も、黙っているわけにはいかなかった。
「ゴミ先祖。確かに『この世は弱肉強食』なんて言われたら、簡単に否定できなくなっちまうのは確かだ」
『ならば……』
「でも、ホントに弱肉強食なのか?
もし、そうだとするなら……シャミ子はどうなる」
俺の友人のひとりを思い出す。ポンコツだけど、俺やミカンに良くしてくれる友達の一人だ。夢魔としての力はあるみたいだけど、リアルの戦闘力は低い。
「白澤さんはどうなる」
俺の通う喫茶店の、バクの店長を思い出す。
あの人は、自分自身で「戦う力はない」と言っていた。特技はあったみたいだけど、それも戦いとは無縁のものだ。
「チロルやスラリン達はどうなる」
はじめて俺の手で救った、まだ小さい子猫を思い出す。
本来はゴミ先祖がキラーパンサーを呼び出す為に用意した生贄だったが、俺の家に住み着いて懐いている。
スラリン達もそうだ。俺の料理目当てで集まって、気づけば俺ん家の家族の仲間入りだ。彼らも、そこまで強くはないのだろう。アレで実は魔族の精鋭でしたとかなったら俺は心折れるぞ。
「桜さんはどうなる」
そして……この街のシステムを作り、シャミ子の命を救った魔法少女を思い出す。
あの人は、魔族と魔法少女の共存の為にこの街を作った筈だ。それは、ひとえに……どうにかしたかったんじゃないのだろうか? 今の、光と闇の現状を。
ゴミ先祖の言っている事は、おそらく長年世界を見てきたことで知っている現実問題なのかもしれない。まぁただの老害の偏見かもしれんけど。でも………
「弱肉強食を受け入れて、強い立場になろうとするだけじゃあ、そういった人たちをないがしろにするだろう。それじゃダメだと思うんだ。
ゴミ先祖……俺は、俺なりのやり方で生きてみようと思う。その結果、暗黒神になってしまったら……それはそれで、今までとは違う、最善の神として生きてみせるよ」
自分の意志を、再確認する。
ゴミ先祖のような暗黒神になるつもりはない。でも、その時その時の最善を尽くした結果暗黒神を継いじゃったとしたら……その時は、正しく生きてみようと思う。皆が幸せに生きていけるように。
『………フン、好きにするがいい』
俺の言葉を聞いたゴミ先祖は、ちょっと機嫌悪そうに、鼻を鳴らした。
がんばれクロウ! 新たな目標を胸に人生を生きるんだ!
オリジナル&ゲストキャラクター紹介
神原クロウ
シャミ子の蛇騒動を受け、力を得ることも模索し始めた暗黒神後継者。今までは何だかんだで強くなるのをどこか恐れていたが、今回で少し強くなってみようと考える。当然、七賢者の子孫を狙う気はない。
酒耐性はほぼない。秒で酔うカクテルを飲むと口が回りやすくなる。
暗黒神ラプソーン
久しぶりのゴミ先祖。クロウには暗黒神を継いで貰いたいが、まだまだ甘いと考える。封印解除には七賢者の子孫を殺る必要があるのだぞクロウよ。
多魔の蛟
原作でシャミ子を閉じ込めた蛇。尊大で威厳ある言い回しをするが、相手に伝わらないと分かると分かりやすく言い換えたりする寛大さも持つ。
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