まちカド暗黒神   作:伝説の超三毛猫

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今回の話は超長くなったので2つに分けました。


今回のあらすじ

吉田一家のすきやきアタック!


※2020-4-13:あらすじを追記しました。


かつてのミカンの古巣に迫る! 千代田桜と過去の記憶を探れ!……すき焼きもあるよ!というか一番最初がすき焼きだろ!編

 ミカンと千代田にお裾分けしようとしたら、シャミ子に出会ってしまった。

 

 何してるのと聞いたところ、千代田がシャミ子の隣に越してきた記念品に送った牛肉ですき焼きパーティーを行う事になったのだという。ミカンは、シャミ子の妹と買い出しに行っているそうだ。多分牛肉あたりにレモン汁かけようとして厄介払いされたな。

 

「……そういうクロウさんは?」

 

「両親から貰ったお土産のお裾分けだ。食べ物メインでな。」

 

 紙袋から色々と出していく。

 チョリソーに唐辛子、唐辛子パウダーに月餅、ドライフルーツの数々、紅茶のティーバッグ、ココナッツオイル、そしてマヨネーズだ。

 そしてそれらを、落ち着いた雰囲気の大人の女性―――シャミ子のお母さんに差し出す。

 

「あの、シャミ子のお母さん、こちらを。少し前に越してきて、挨拶も遅れてしまった上につまらないものですが………」

 

「まぁ、ご丁寧にありがとうございます。」

 

「いえ、当然の礼儀というものです」

 

「クロウさん!?」

 

 慌てふためくシャミ子をよそに、シャミ子のお母さんは俺のお裾分けを快くいただいてくれた。

 ミカンの借家の隣から出てきたシャミ子と千代田に会った後、シャミ子のお母さんまで出てきて、お裾分けをする流れになったのだ。しかも―――

 

「――しかし、良いのですか? 俺まですき焼きパーティーに招いてくださるなんて」

 

「新しいご近所さんですもの。それに、お父さんも隣人とは分かち合え的な事を言っていましたし!

 神原くん、チョリソーを数本くださいますか?」

 

「あ、はい」

 

 俺からチョリソーを受け取ると、シャミ子のお母さんはそれを斜めに切っていく。その後ろ姿から、先日話したばかりの母さんを思い出した。

 

 現実主義者で、オカルトを信じない人だとばっかり思っていたのに、イメージが逆転してしまった。不二と千代田の協力によって、母さんが魔法少女であることが判明したのだ。……しかもかなりヤベーイタイプの。

 今はだいぶ…いや、超丸くなったと思われるとはいえ、衝撃的だった事には間違いない。こうなってくると、父さんの方にも何かあるな。というか父さん側が暗黒神の血筋だと思われる。暗黒神の血筋の持ち主が光の一族と契約なんて結べなさそうだし。

 

「クロウさん、何考えてたんですか?」

 

「ん? ……ちょっと、母さんのことをな」

 

「おかーさんの? そういえば、クロウさんのおかーさんってどんな人なんですか?」

 

 両親はまだ何か隠してるのかなとか考えていると、食材の盛り付けをしているシャミ子からそんな質問をされる。

 どんな、と言われても……数日前に印象がガラリと変わったからな……なんて答えるべきか。パーティーに使うテーブルを用意し、布巾で拭きながら考える。とはいえ、嘘をつく理由もないし、普通に答えちゃおうか。

 

「父さんと世界各地を回って仕事してる人だよ。最近大ベテランの魔法少女だって判明した」

 

「魔法少女だったんですか!?」

 

「俺も驚きだよ…」

 

 しかも過去にかなりの事をしでかしてる可能性大だからな。まぞくには聞かせられないレベルで。

 

「どんな魔法少女だったんですか!? 教えて教えてー!!」

 

「教えられない」

 

「何でですかー!!」

 

「黙秘する。どうしてもと言うなら千代田に聞いてくれ」

 

 だから、具体的な情報は出せない。『魔族スレイヤーと言われる程にまぞくをちぎって投げる人でした』なんて言おうものなら、シャミ子に怖がられてつまみ出されるかもしれないからな。

 

「ただいまー」

 

「あら、おかえり良、ミカンさん」

 

 シャミ子を我ながら上手く千代田に押し付けた所で、幼い声とシャミ子のお母さんの声が聞こえてきた。玄関の方へ振り向くと、そこには買い物袋を抱えたミカンと小さな女の子が立っていた。女の子の方は、どことなくシャミ子に似ている。

 

「クロ!? 何でここに?」

 

「ミカンにお裾分けしようとしたら入れ違った上に色々あってな。俺もパーティーに参加させていただくことになった」

 

「その色々を教えなさいよ」

 

「色々は色々だ。はいこれミカンへのお裾分け、ティーバッグと唐辛子軍団とドライフルーツ」

 

「えっ!? 急になんなの? 唐辛子軍団って何!?」

 

 ミカンに量の多かったお土産をお裾分けす(押しつけ)ると、シャミ子似の小さな子がこちらを見ているのに気がついた。

 

「えーと、はじめまして、だよね?

 俺は神原クロウ。シャミ子や千代田、ミカンの友達で暗黒神の後継者だ」

 

「吉田良子です。優子の妹です」

 

 良子ちゃんか。学校でよく見る、千代田に勝負を挑んでは返り討ちにされるお姉さんからは想像できないくらいの良い子のオーラが―――

 

「クロウさんはお姉の軍門のまぞくなんですか?」

 

 ―――はい?

 ぐんもんって、軍の門って書いて軍門? この子、何を言うとるんだろうか?

 

『貴様、出会い頭に何を言って痛ァァァァァァァァァァァァイ!?!?!?!?』

 

「クロ、ちょっといい?」

 

「はいぃ!!?」

 

 いきなりな質問に混乱している間に、ミカンがラプソーン(杖)をへし折り、体を引っ張る。状況が飲み込めてない俺からすれば、ただただ戸惑うばかりだ。一体なんなの?

 

「良ちゃんの話に合わせて、お願い!」

 

「お、おう……?」

 

「良ちゃんの夢はシャミ子の軍師になる事だからそれを壊さない方向で行く協力をして」

 

「千代田まで……何があったんだ……?」

 

 何だかよく分からないけど、魔法少女二人がここまで必死になることに、友人として協力しない訳にもいかないよな。

 

 

「お姉すごい……! 暗黒神さんって言う強そうな男の人まで配下にしちゃうなんて…!」

 

「ハハハ、まだ後継者だけどね。これからよろしこ、シャドウミストレスさん」

 

「プレッシャーをかけるなきさま!」

 

『うぅ……我の子孫がどこの馬の骨とも知れぬ木っ端魔族の配下に…………』

 

『誰の子孫が木っ端まぞくだラプソーン!!!』

 

 こうして俺は、小さな軍師の夢を守るためにシャミ子の配下(仮)になりました。一応、千代田とミカンも良子ちゃんの前ではシャミ子の配下として通してるらしい。ま、子供の夢は壊しちゃダメだよね。

 あと封印されてるコンビは静かにしててね。

 

 

 

◇  ◆  ◇

 

 

 

 買い出しと盛り付けが終わり、全員が席についた。そして、シャミ子のお母さんの号令のもと、乾杯の音頭があがり、パーティーが始まった。

 大きめのテーブルの真ん中にある鍋の中で、醤油と砂糖とみりんで作られたすき焼きのタレがひと煮立ちすると、ネギや椎茸、レタスや人参や豆腐、牛肉にカットされたチョリソーが投入される。ぐつぐつと心地良い音と、醤油とみりん独特の良い香りが、小さな部屋に充満する。野菜がしなっと熱が通り、牛肉の色が完全に変わると、それらは各自の皿の溶き卵の中に移された。

 

「私牛すき焼きって初めて食べま……………………!」

 

「シャミ子!!?」

 

「はっ!? ごめんなさい、キャパ以上の旨味で変な感じに……!」

 

 シャミ子はすき焼きの旨さにフリーズを起こして、千代田に心配されていた。俺も続いて牛肉を食べてみるが、キャパオーバーは起こさない。あいつは今、何を見たんだろうか?

 

「良ちゃん、レモン入れてみる? 酸味が増して美味しくなるわよ」

 

「結構ですミカンさん」

 

 ミカンは相変わらずというべきか、柑橘バカを発揮して良子ちゃんにレモンを勧めていた。まったく、純真無垢な子供に変な味覚を覚えさせようとするんじゃねーよ。

 

「ミカン………お前な、あんまり良ちゃんに変な事を吹き込むなよ?」

 

「変な事とは何よ? 私はただ親切心で……」

 

「ハードルが高いって言ってるの。どこにレモンを足してすき焼きを食べる人がいるのさ。もっとメジャーなものを教えるべきだ」

 

「メジャーってマヨネーズの事じゃないでしょうね?」

 

「むしろそれ以外の何があるというんだ。はい良ちゃん、マヨネーズ」

 

「結構ですクロウさん」

 

「クロだって良ちゃんにおかしな味覚教えこもうとしてるじゃないの!」

 

 相変わらず失礼な事を言う。マヨネーズをつかまえて「おかしな味覚」とは喧嘩を売っているのか? 買うぞ? ただしガチの喧嘩はしないけど。

 

「二人とも、そういうのは自分のお皿でやってくださいね」

「……あ、はい、すみません……」

「ご、ごめんなさい……」

 

 しかし、俺とミカンによる第X次(何度もやったから何度目か忘れた)レモン・マヨネーズ論争は焼酎で顔が赤くなりつつあるシャミ子のお母さんによって勃発する前に終戦した。

 

 

 

 仕方ないから席を外し、厨房へ行って余った牛肉で何か作ることにする。引っ越す前はミカンと当番制で料理を作ってたし、今は一人暮らしだからな。自炊はできる。

 ブロッコリーと合わせて、マヨネーズ炒めにするとしようか。これはマヨネーズを使えば使うほど美味しくなる料理だ。牛肉が高いからあまり作らない分味は格別なんだよな。

 ま、良子ちゃんがいるしシャミ子のお母さんの貰い物なのでマヨネーズ控えめに―――

 

「クロ」

 

 切った牛肉にマヨネーズをかけようとした所で、マヨネーズを持った右手が動かなくなる。右手を見ると、俺の右手を隣に立つミカンがガッチリと掴んでいた。

 

「……一応聞くけどなにしてるの?」

 

「見て分からないのか? マヨネーズ炒めを作ろうとしてるに決まってるだろ? ちゃんとシャミ子母には許可を取ったから。手を離して」

 

「駄目よ。クロのマヨネーズ炒め、マヨネーズが多すぎてほぼマヨネーズだもの。食べ物を粗末にしないで」

 

「流石に良ちゃんにアレは早いだろ。マヨネーズは控えめにするつもりだ」

 

「マヨネーズ2本使うのを1本半にする程度よね? それでも十分かけすぎなの。控えめとは言わないの。」

 

「ミカンこそ、なにしにここへ来たんだよ」

 

「話を逸らさない。私も塩レモン焼きを作るつもりだったけど」

 

 ミカンも似たような事考えてるじゃあないか。余った牛肉でレモン料理を作るなんて、余った牛肉でマヨネーズ料理を作るのと何が違うんだ? レモンかマヨネーズかの違いしかないでしょうに。

 でもまぁ、ミカンも料理しに来たというのなら。

 

「なら両方作るか」

 

「えっ?」

 

「それなら塩レモンもマヨ炒めもできんだろ。どっちかだけなんて物足りないだろうが。」

 

「クロ……」

 

 ミカンが意外そうな顔をする。まぁ、こういうのは今までどっちかが折れるまでお互い譲らなかったしね。

 俺は暗黒神の後継者であるからして……という訳ではないが、懐を深くしようと最近、思ったんだ。色々あったしね。色々と……

 

「それに、美味いマヨ炒めをミカンに教えるいい機会だと思ったんでな!」

 

「まったく、調子いいわね……」

 

 そして、二人で並んで料理を始めようとしたところで。

 

「あれ? クロ、フライパンが一個しかないわよ?」

「え?」

「うちは基本的な調理器具は一個しかないですよ」

「えっえっ」

 

 良子ちゃんによって非情な現実を思い知らされた。塩レモン焼きもマヨネーズ炒めもフライパンを使う。それはつまり、どっちかの完成が遅れるということに他ならず……

 

「…………どうするの?」

 

「言いたい事は色々あるがまたシャミ子母のご迷惑になるのもアレだ。ジャンケンで決めようぜ」

 

「望むところよ」

 

 厳正にして神聖なる相談(ジャンケン)の結果、ミカンが先に塩レモン焼きを作ることになった。正直泣きそうだった。

 

『すまないな、吉田清子よ。我にまですき焼きを振る舞っ(そなえ)てくれるとはな。ハッハッハ』

「いえいえ〜、大事なお隣さんですから〜〜」

『ラプソーン貴様、余の義子孫(しそん)に何させているのだ!』

『お? ネギと豆腐が食べ頃だな。早く片付けてうどんとやらに移行しようではないか!』

『余の家のすき焼きだぞ!! きさまが舵を取るなッ!!!』

 

 ゴミ先祖はゴミ先祖で図々しいことしてんじゃねーよ。

 

 

 

 シャミ子達に後から出来たマヨネーズ炒めを振る舞いつつ、ゴミ先祖の傍若無人な態度について謝っていると、シャミ子がダンボールの上にすき焼きやら塩レモン焼きやらを乗っけているのを見つけた。「おとーさんにも美味しいものをお供えしないと」とか言っている。

 

 何でシャミ子の父親がダンボールなのかは知らないが、俺はそのシンプルなみかんがデザインされているダンボールに見覚えがあった。

 

「なぁミカン」

 

「なに?」

 

「あの箱、ミカンのおやっさんの工場のじゃあねーか?」

 

「……あ、ほんとだわ! うちの実家の工場で使ってる箱とおそろい……」

 

「「えっ!?」」

 

 陽夏木の工場の梱包用ダンボールについて話していると、シャミ子と千代田が二人して素っ頓狂な声をあげる。

 

「どうしたんだ、二人して?」

「い、今……ミカンさんの工場で使ってたって……」

「今も私の部屋にいくつかあるわよ? 引っ越しする時に持ってきたから」

 

 ミカンが部屋からダンボールを持ってきて見せてみれば、確かにシャミ子が「おとーさん」と呼んでいたダンボールとデザインが瓜二つであり、千代田はどういう訳か頭を抱え始めた。

 

「意味が分からない……つまり、えっと…………姉は……ヨシュアさんを流通用のダンボールに封印したってこと、でしょうか………?」

 

 あれ。

 ひょっとしてこれ、あんまり俺が聞いちゃいけないタイプのやつですか? 千代田家と吉田家の事情、ってやつか?

 

「あの、俺……お暇した方が良いですか?」

 

「このタイミングで!?」

 

「神原さん、お気遣いなら無用です。同じ魔族の方なのでしょう?」

 

「た、確かにそうですが………」

 

 シャミ子のお母さんはもう顔が真っ赤で(したた)かに酔っている事がひと目で分かる。ほら、お父さんとやらでシャッフルクイズやりだしたし。あんまり長居するのも良くないと思うんだけどなぁ。

 

『何を言うかクロウ! 千代田桃としゃみ子のオトクな情報が手に入るこの機会をみすみす逃すつもりか!?』

 

「ゴミ先祖はいい加減自重しろや」

 

『ギャアアアアァァァァァッ!!!!!!?』

 

 調子に乗って最低な打算を練りだしたゴミ先祖をへし折って、俺は帰ることにした。

 その後、俺はミカンからのRINEで、千代田の姉で桜さんという魔法少女が、シャミ子の父親・ヨシュアをやむをえず封印した事を知った。

 ちなみに母さんに千代田桜さんについて聞いてみたところ……

 

 

『桜ちゃん? 面白い子だったわよ〜、出会った頃はちょっとアレだったけど、桃ちゃんを引き取ってからはすごく仲良くなれたんだから!』

「アレって何だアレって」

『あとね〜〜、結界や呪いをいじったり、敵を死なない程度に面白くボコるのが得意な子だったわ〜。私も桜ちゃんから面白いボコり方を教わったようなものよ〜』

「聞けよ」

 

 

 ―――とのこと。まったく要領を得なかった。とゆーか、ちょっとアレとか、千代田を引き取ったとか、死なない程度に面白くボコるとか、気になるワードを連発してきたせいで話がほとんど入ってこなかった。

 

 

 

◇  ◆  ◇

 

 

 

 翌日、ミカンからの連絡で多魔市の外れにあるミカンの旧実家を調べることになったと知り、ミカンに会ったり千代田桜さんについて調べるために、地図にあった陽夏木工場の跡地へ向かった。

 俺がシャミ子や千代田と一緒に千代田桜さんを探そうと思ったのはラプソーンや母さんについて訊くためだ。

 ゴミ先祖は反対しなかった。むしろ、ゴミ先祖自身も知りたいことが出来たのだという。

 

『クロウは気づかなかったようだが、神原玲奈は、「千代田桜は千代田桃を引き取った」と示唆する事を言っていた。これが事実なら、我の復活の条件が大きく変わるやもしれぬ』

 

「どういう事だ?」

 

『我を封印したのが七賢者と神鳥レティスであり、封印を解く方法が全ての賢者の血を絶やすしかないという事は伝えたな? しかし、千代田桜と千代田桃に直接的な血縁はないかもしれない……となると、他の賢者の子孫は必ずしも魔法少女とは限らぬという事になる』

 

「なるほど」

 

『我はこれまで、「賢者の子孫は魔法少女」だと思っていた。事実、千代田桃や不二実里がそうだったからな。しかし………賢者の子孫とやらは、闇の一族やどちらにも属さない一般人の中にもいるかもしれない』

 

 つまり、賢者自身は魔法少女だったとしても、時が流れていくにつれ、闇の一族と混ざったり、光と闇の抗争から遠ざかったりした可能性もあるワケだ。もっとも、俺はゴミ先祖の封印を解く気はないのでどうでもいいが。

 

「あっそ。俺にはあんま関係ない話だね」

 

『むしろ貴様が一番関係ある話だ!!』

 

 ゴミ先祖の怒鳴り声をスルーしながら歩みを進めると、廃工場とその前で立っている二人の少女が見えてきた。言うまでもなくミカンとシャミ子だ。二人は何かを話している。

 

「よぅ、ミカン、シャミ―――」

 

「まぞくのトラウマ製造工場っ……!!」

 

 マジかよ!? 引っ越しする前はそんなもん作ってたのか!?

 陽夏木家は、神原家とは深い付き合いだが、本格的に付き合いだしたのは陽夏木家が引っ越してきてからだ。幼かった俺は、何度か引っ越す前の暮らしを聞いたことがある。しかし、ミカンもおやっさんもミカンのママも、誰一人として「工場をやってたこと」以外は答えてくれなかった。詳しく聞こうとしても常にはぐらかされてしまっていたのだ。その正体が魔族のトラウマ製造工場なら納得がいく。

 

 

「…家族ぐるみで隠してたというのか………」

 

「違うわよっ! そんなもん作ってない!! 素敵なお菓子をいっぱい作ってました!!」

 

 あれ、違った。

 その後聞いた話によると、シャミ子がまぞくに目覚めたての頃、千代田とここで修行してただけのことだという。なんだよ驚かせやがって。

 

「しっかしこの工場、派手にぶっ壊れてるなぁ……

 …………ミカン、本当に―――」

 

「くどいわね!! ただの素敵なお菓子工場だったって言ってるでしょっ!!」

 

「……でも、工場が壊れるなんて……いったい何があったんですか?」

 

 シャミ子のその質問で、ミカンは語り始めた。多魔市に工場があった頃の過去を。俺と出会う前のミカンの話を。

 

「……昔ね、工場の経営が傾いた事があって。追い詰められたうちのパパが……手を出してはいけない儀式に手を染めたの」

 

 ミカンのおやっさんは、背の高く男らしい顔つきと体型をしており、ヒゲがよく似合う男だ。ハードボイルドなドラマに出てくる、タバコを吸いながら世の犯罪を憂う刑事役の俳優さんとかによく似てる。まぁ、実際は吸ってないらしいけど。

 

「儀式ってなんですか!? どんな儀式ですか!? ミカンさんのパパとは!?」

「儀式は悪魔召喚系……うちのパパは衛生服が似合う素敵なヒゲダンディーで……」

「もっとくわしくだッ!!!」

「どうしてそんなにコーフンしてるの!?」

「すみません何かわくわくする単語がいっぱい出てきて!!」

 

 シャミ子がミカンにグイグイ迫っている。確かに儀式をするダンディーなミカンのおやっさんとか、ロマンを感じる気持ちは分からんでもないが、今はそこに引っかからなくていいだろ。

 

「……悪魔召喚?」

 

「うん。パパの望みは『工場と家族を守る』こと。見よう見まねの作法と裏道の触媒で――――呼び出された悪魔がけっこうキてる存在だったの。

 その子はパパの望みを超解釈して『一人っ子の私を困らせたものを無制限に破壊する』呪いをかけた」

 

「どうしてそうなった……」

「ひどい! 国語ならマイナス100点です!」

 

 かつておやっさんが呼び出したという悪魔が願いを解釈してミカンに呪いをかけたという所業。その本末転倒さに俺は呆れ、シャミ子は憤慨した。しかし、そんな状況で笑っていやがる奴がいた。

 

『あっはっはっはっはっはっ!! 悲しいなぁ……人間のサガというやつは!』

 

 そう。このゴミ先祖である。こいつは確かに人の欲望につけこみ人の悲しみを食らう暗黒神ではあるが、時と場合と相手を考えろ。

 

「なにがおかしいんですか!」

 

『決まっておろうがシャドウミストレス優子よ。陽夏木ミカンの父親は、工場と家族を守ろうとしたばかりに娘に呪いをかける結果をもたらしたのだ。これが笑わずにいられるか!!』

 

 案の定ラプソーンに噛み付くシャミ子に対して、ラプソーンはミカンのおやっさんの動機と結果を強調しつつあざ笑う。俺にはそれが、ひどく不快で仕方がない。

 黙ったままゴミ先祖の杖を手に取る。

 

『人間とは楽をしたがる生き物だ。得られる結果がデカければデカいほどそれが顕著になる。そういう手合いは一番利用しやす痛ッだァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッ!!!?』

 

 そしてそのまま、力を加える。まるで、ゆっくりと木の枝を折るかのように、木の繊維ひとつひとつを千切るかのように。

 

『クロウ、へし折ろうとするな! 地味に痛いではないか!?』

「へし折ろうとする? 違うな、今から『ゆっくりとへし折る』んだ」

『待て、待つのだ! どうせ折るならひと思いにやれ! ゆっくりとやられるのは普通に折られるよりも痛いのだ!!』

「ふーん、ゴミ先祖には珍しく殊勝な態度だな。だが無意味だ」

『ギィヤアアアアアアアァァァァァァーーー!!!?』

 

 やかましいゴミ先祖をひとしきり二つ折りにすると、今度は四つ折りにすべくゆっくりと杖に力を入れながら、ミカンに声をかけた。

 

「………ミカン、怒るなら怒っていいんだぞ?」

 

「大丈夫。クロ、いま結構怒ってるでしょ?」

 

「おこってないよ」

 

「怒ってるじゃない。それに、私も分かってるから。近道で大きな願いを叶えようなんて、つけこみポイント以外の何物でもないし、叶った所でまがいものだもの」

 

「…………」

 

 そう言うミカンは、暗く影がさしていたが、無理をしているわけではなく、「悟った」といった面持ちだった。あと、シャミ子は何故メモを取っている?

 

「……話がちと逸れたな。それで、その後どうなったんだ?」

 

「悪魔が私の心を勝手に間借りして、壊したもののエネルギーを吸いながら成長しだしたの。……それで桜さんに相談がいったのよ。そのときに私は初めて桃に会ったわ」

 

「桃!! 小さかった頃の桃ってどんな感じだったんですか?」

 

「一言で言うなら大天使」

 

「あの千代田が!!!?」

「天使の桃!!!」

 

 そんな馬鹿な。シャミ子にハードなトレーニングを課して、頑なに筋肉をつけさせようとし、時たま「たまさくらちゃん」とかいうマイナーなゆるキャラを推してくるあの千代田が、『大天使』だと……? あり得ないッ!

 いや、待てよ………? 母さんも10年前は「魔族スレイヤー」と呼ばれる魔法少女で、片っ端からまぞくを粉々にしていたという。それが今では、ゆるゆるな俺の母さんだ。勿論、今のあの人から「魔族スレイヤー」は到底連想できない。

 10年もあれば、性格の大変身など、あってもおかしくないというのか。

 

 

 そう思いながら、嬉々としたミカンによるミニ千代田の話が始まった。

 

 曰く、呪いが酷くミカンのママにすら怪我をさせたこと。

 曰く、呪いで周りを傷つけるのを恐れて倉庫に籠もっていたこと。

 そこに千代田がやってきて、呪いを喰らいつつもミカンの手を取ったこと。

 「泣いてもいいから独りになるな」と言ったこと。

 桜さんによって、ミカンの悪魔が沈静化したこと。

 千代田のおにぎりの味だけ奇麗さっぱり記憶から消えていること。

 

 その思い出話から、俺はミニ千代田の人物像が浮かび上がってきた。

 例え拒絶されても、呪いを喰らっても、平気な顔をして手を差し伸べる姿。絶望している人に希望の灯火をつけるような言葉。

 

 そっか。

 ミカンにとって、千代田はヒーローなんだな。

 

 こんな事を言うと、ミカンの呪いで服がずぶ濡れになるだろうから言わないでおくか。

 と思ったところで千代田がやってきて、ミニ千代田の思い出話はお開きになってしまった。

 

 

 

 千代田は、廃工場の鍵を持ってきていたのだという。

 ミカンが悪魔に取り憑かれた事件の際、桜さんが工場を大破させたので陽夏木家から買い取ったのだそうだ。

 

 人っ子一人いない雰囲気を醸し出す、ヒビの入った建物の数々や上半分が吹き飛び、下半分に花のような穴が空いてる建物の壁だったもの……そして、粉々になっているコンクリートの地面に放置したせいか雑草が生え放題になっている様子が、間違いなくこの工場が今は使われていないことを示していた。

 

 

「壊れてるー!!?」

 

 荒れ放題な廃工場に目を奪われていると、突然ミカンの悲鳴が響き渡った。

 

「無い! 甘くて酸っぱい蜜柑味の思い出の倉庫が……綺麗さっぱりぶっ壊されてるわ!!」

 

 視線を向けると、ミカンが千代田に雨を降らしながら壁だったものを見て狼狽していた……って!! 俺の服まで濡れている!

 

「ミカン! 俺にも呪いかかってる!! ゲリラ豪雨止めてー!!!」

 

「ごめんクロ! でも文句は桃に言って!! なんで私の思い出が消し飛んでるのよ!」

 

 呪いの雨が止んで、ミカンが千代田に詰め寄ると、千代田は「姉がミカンの悪魔を抑えた時に工場をぶっ壊した」と答えた。

 

「私の事件で壊れたのは工場の機関部とインフラ! この倉庫は壊れてなかった! 引っ越す前に目に焼き付けたんだから! そこは忘れないわよ!」

 

「勘違いしてるんじゃないの?」

 

「……ピンク飯で記憶が消えたのでは」

 

「あれは意図的に消してるだけよっ!」

 

「二人とも私のごはんの話はやめない?」

 

 壊れた、壊れてなかったで言い争うミカンと千代田。シャミ子が千代田のごはんのせいではとか言っているが、そんなに千代田の飯はアレなのだろうか?興味は湧くがミカンやシャミ子が酷評するものを食べる勇気は沸かない。

 まぁミカンの事件の時はどうあれ、現在目の前には残骸しかないのは確か。俺なりにフォローを入れておくとしようか。

 

「……形がなくなろうが思い出は心に残り続けるものだろ」

「いい感じ風にまとめないでクロ!!」

 

 いい感じにまとめるのは逆効果だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がんばれクロウ! 的確に空気を読んで、フォローもイケてるいい男になるんだ!

拙作で一番好きなオリジナルorゲストキャラは?

  • 神原クロウ
  • ラプソーン
  • 不二実里
  • ラファエル
  • 神原玲奈
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