まちカド暗黒神   作:伝説の超三毛猫

8 / 35
今話あらすじ

クロウは じゅもんを おぼえた!




クロウの魔法修行! 暗黒神の力の真髄を体得せよ!……蜜柑と葡萄って色合い的には良さげだけど、食べ合わせ的にはどうなの?

 薄暗く、紫を基調とした床に、赤い生地に金で縁取られた豪華な玉座のある、奥行きのある部屋。

 明かりの役割は、周囲にある溶岩のような光り輝く液体が務めている。

 そんな不思議な空間の玉座に、俺は座っていた。

 

 

 目の前には、明らかに露出度の高い格好をしたシャミ子と変身した千代田とミカン、そして片方が欠けた長い角とウェーブのついた金髪が特徴的な女性が立っていて、こちらを睨んでいる。誰だこの女?

 

『…待ちかねたぞ。幾度となく我が道を遮ろうとした愚かなる者たちよ。』

 

 しかし、そんな俺の意思とは裏腹に、口が勝手にそう喋りだす。

 

『思えば完全な力を得るために長い旅をしたものだ。

 旅の途中、お互い幾度もの悲しみを味わったな。………だが今日は互いに喜び合おうじゃあないか。

 この日より光の世界と闇の世界は一つとなり、一柱の神を迎える。―――新たなる神の名は暗黒神クロウ!』

 

 我ながら何を言ってるんだろう?

 声色は間違いなく俺のものだ。でも、俺の意志に反して言葉を発する口は、まるで別人のもののようだ。

 そう思っていると、目の前の少女達がそれぞれ口を開く。

 

「そうはさせない。神原くんは私達が取り戻す!」

 

「クロ……もうやめよう……もう終わらせましょう。こんな悲しい事、続けてちゃあいけないわ!」

 

「余の支配する予定の世界をメチャクチャにしおって。落とし前はつけさせてもらうぞ?」

 

「クロウさん……貴方を倒します。私達の大切な街角を、守るために…!!!」

 

 

 その言葉に、俺は心がぐちゃぐちゃになる。誤解だと言いたかった。今の言葉は、俺の本意じゃあないと。ミカンも、千代田も、シャミ子も、俺の知っている彼女達とはまるで違って、外見だけを似せた別人のように思えた。あと一人は誰だか知らないけど。

 

 

『―――どうしても俺の前に立ちはだかるというんだな。

 よかろう! 我を崇めぬというのなら……その身を引き裂かれるほどの悲しみを……このわたしに捧げるがいいッ!!』

 

 

 俺の口は、悲しみを呟くとラプソーンのような尊大な口振りで彼女達に命じた。

 杖から稲妻がほとばしる。

 それと同時に、4人が武器を取り出して構えた。

 わけのわからぬまま、5人による戦いが始まる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――と、思ったところで。

 

「……………んぅ?」

 

 場面が切り替わった。

 そこは、見覚えのある壁と天井。そして……布団。

 

「………??」

 

 さっきまでの不思議で不気味で、心がぐちゃぐちゃにかき乱されるほど嫌なシチュエーションが夢である事に気づいたのに、あと5分はかかった。

 

 

 

◇  ◆  ◇

 

 

 

「……というワケで、朝から悪いがくたばれゴミ先祖」

『なにがというワケで、だぁぁぁっ!!? 全くもって意味がわからぬ! え、なに? 我がその夢とやらを見せたと本気で思っておるのか!? 濡れ衣にもほどがあるぞぉぉぉぉっ!!?』

 

 意識が完全に覚醒し、朝食を食べた後も嫌なモヤモヤした気分が収まらなかったので、俺は元凶を叩くことにした。ひとりでに動くゴミ先祖の杖を追いかけ回す。一見するとただの八つ当たりだろうが、俺の言い分も聞いてほしい。

 

 何度も言ってきたことだが、俺は暗黒神の座を継ぐ気はない。後継者になったのは魔法少女に襲われ緊急的になったことであるし、ミカンや千代田、シャミ子といった友達の為に強くなることにしたとはいえ、道を違えるつもりはない。

 つまり、俺が「光と闇を一つにし、唯一神として降臨する」という夢を見てしまったのは、間違いなくコイツの仕業なのだ。だから悪いのはゴミ先祖だ。俺は悪くない。

 

「光と闇を一つにして唯一神になることがゴミ先祖の目標でしょ?」

 

『だからといってクロウにそんなピンポイントな夢を見せる事など出来ぬ!!』

 

「えぇ〜、そうかなぁ? 暗黒神たるもの、どんな分野でもある程度力業で何とか出来そうだけど」

 

『貴様、こういう時に限って暗黒神を持ち出すのは卑怯だぞ!? いくら力業には慣れてると言えども、流石に指定した人に具体的な夢を見せることなど全盛期の我でも出来ぬわ!! 精々洗脳して人格を書き換えるくらいしか……』

 

「え、ゴミ先祖、そんな事出来るの?」

 

『し…しまったッ! つい口が滑って……』

 

「もう有罪でいいな、このゴミ先祖」

 

 とゆーか、隙を突いて俺を乗っ取ろうとしたんじゃないのかコイツ? そろそろ焼却して反省してもらおうかな。

 そう思っていると、玄関のチャイムが鳴った。誰かわからないが、ちょうど良い。

 

「クロー、起きてるー?」

 

「おう、おはようミカン。ちょうど良かった、ゴミ先祖を焼却処分すんの手伝ってー」

 

「……………は?」

 

 俺のお願いに、玄関の前にいた人物―――ミカンは、ぽかんとしていた。

 

 

 

 単刀直入な俺のお願いをミカンはなかなか理解してくれなかったので、面倒だがいちから詳しく説明することにした。大体の説明が終わると、ミカンは深いため息をついた。そして、こう言った。

 

「……それは流石にクロの八つ当たりだと思うわ」

 

「がァーーーん……!! う、嘘だ……!」

 

「いや嘘じゃないし、こんな事で嘘をつく必要性私にはないからね。」

 

『だから言ったであろう! クロウの夢には一切関与していないと! 確かにクロウの見た夢は我が悲願であり、クロウが進むべき未来ではあるが、我が干渉した結果などではないし、偶然の産物であるということになるのだ!!』

 

 ミカンが断言すると、ゴミ先祖はその尻馬に乗って俺の事を煽りまくる。どうしよう、超殴りたい。

 

「ラプソーンはラプソーンでかなりヤバい切り札持ってたみたいだけどね」

 

『うっ!! ………陽夏木ミカンよ、忘れてはくれまいか? クロウよ、確かアールグレイティーがまだあった筈だ、それを彼女に』

 

「賄賂で誤魔化していい能力じゃあないのよ」

 

 しかし、ミカンは俺の夢の件よりもゴミ先祖の『洗脳して人格を書き換える能力』を危険視したようだ。

 

「ラプソーン。今、クロを操れる?」

 

『む、無理に決まっておろう!! だいいち我は封印されているのだ! どれだけ頑張っても、今の我は口しか出せぬしクロウの補助しか出来ぬ!』

 

「………クロ、どう思う?」

 

 ミカンの危惧も分かる。俺はゴミ先祖の復活に消極的だが、ゴミ先祖本人は復活を誰よりも望んでいる。そうなると、最悪俺を直接乗っ取って、賢者を皆殺しにかかる可能性もある。

 ミカンの真剣な質問にゴミ先祖が答えると、次は俺にその質問を振ってきた。真面目な意見を言うべく、必死に暗黒神の子孫に目覚めてからの記憶を辿る。

 

「…限りなく怪しい。が、今まで俺が操られたことはない。」

 

「そう……本当に使えないのか、あるいは隠しているか……」

 

『本当に使えないの! 我、封印中ぞ!? この忌々しい杖に絶賛封印中だぞ!!?』

 

 ゴミ先祖がなにかわめくが、ぶっちゃけコイツは前科しかないので全くもって信用できない。

 だから、信用できる情報源に頼んでみようかな。

 

「……クロ、どこに電話かけるの?」

「暗黒神について信用出来る情報の持ち主だよ」

 

 電話帳から、番号を探す。この時間なら、彼女も起きていることだろう。再びこちらの都合で呼び出す形になってしまうが、ラプソーンの情報交換という名目なら、快く引き受けてくれるに違いない。

 通話ボタンをタッチすると、スマホのコール音が数回鳴り響く。そして、ガチャリと電話を取る音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暗黒神…貴様を殺す…!』

 

「ンブッフ…!」

「クロ……?」

 

 ごめん。流石にそれは予測出来なかった。不二にかけたと思ったのにペット……じゃない、ナビゲーターが出てくるとは思わんわ。

 突如耳元から聞こえてきた絶妙に良い声………もとい、インコのイケボに吹き出してしまう。心配してくれたミカンを手で制し、平静を装って会話を試みる。………このインコに話が通用するとは思えないけど。

 

「えーと……不二さんのおたくでしょうか……?」

 

『わるまぞく……貴様を殺す…!』

 

「実里さんにご用があるのですが……」

 

『貴様を殺す……貴様を殺す…!』

 

「………………………ラファエル、お前それ、ご主人のスマホじゃあねーのかよ」

 

『…………………貴様を殺す…ッ!』

 

「早く不二に繫いで」

『貴様を殺すッ!!!』

「…っ…………ずっるいわ……」

 

「クロ…何で笑ってるの……?」

 

 ミカンにちょっと引かれてしまう。色んな意味で俺は悪くないので超弁明したい。やはり、「貴様を殺す」しか喋れないインコと会話を試みた俺がバカだったのかなぁ。

 

『こら! ラファエル! またわたくしのスマホで遊んで…!』

『貴様を殺す……』

『……え? 電話?』

 

 スマホに話しかけるラファエルを見つけたのか、不二の声が小さく聞こえてくる。彼女は、ラファエルとどうやって会話してるんだろうか?

 

『…お電話変わりました。先ほどは申し訳ございません。うちのインコがご迷惑を……』

 

 ついに電話の相手がラファエルから不二へ変わった。これ以上ラファエルの殺害宣言に悩まされることのなくなった俺は―――

 

「……不二。お前はズルいな。ずる魔法少女だな。」

 

『はい!? ずる魔法少女とは一体……?』

 

 ―――そう、不二に言ってやった。

 ラファエルの殺害宣言のゴリ押しで受けた風評被害がそこそこあったので、飼い主にこれくらい言ってもいいと思う。

 

 

 

 お前はズルいと言った後で、ラプソーンが力を隠し持ってやがったからちょっと立ち会って聞いて欲しいとお願いしたところ、「多魔川の河原でお待ちしております」と快く引き受けてくれた。あとラファエルがしでかした謝罪も。

 

 ただ、ミカンに電話の相手を告げると、苦虫を噛んだような顔をされた。

 

「……クロ、本当に大丈夫なの? その人……」

 

「不二とは契約をしたんだ。俺の黙認と情報交換という契約をさ。それに、母さんが魔法少女だって事や神鳥レティスについて教えてくれたのも不二なんだぜ?」

 

 先日の会談の内容も交えてミカンに説明する。でもどこか納得していないらしく、ミカンも着いてきてくれるみたいだ。ま、もとよりミカンも同行させるつもりだったけど。

 ちなみにいちおう千代田にも連絡したが、シャミ子へのネットリテラシー講座中だから行けないと断られた。それでいいのか魔法少女。

 

 

「タマゴはエライッ! 誰がなんと言おうがタマゴの方がえらいわっ!」

「いーや、ニワトリの方が断然エラいねッ!!」

 

「………クロ、お隣から声が……」

「無視でいい。なんかアレに関わるのは良くないって勘が告げてるんだ」

 

 よく分からない事でケンカしているお隣さんをよそに、家を出た俺とミカンは多魔川の河原へ歩き出した。

 

 

 

◇  ◆  ◇

 

 

 

 河原へ辿り着くと、そこには既にワンピース姿の不二がいた。川の流れとスマホを見ながら俺達を待っていたようで、俺達が現れると彼女はスマホをしまってこちらを見た。

 

「待たせたな、不二」

 

「いいえ……わたくしも先程こちらに来たばかりですので」

 

 俺の挨拶に返事をすると、ミカンの方を見て―――

 

「おはようございます、陽夏木さん。先日はご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ございません」

 

 会釈つきの挨拶をした。

 挨拶だけでここまで優雅で気品のある立ち振る舞いをするとは、流石ブルジョワ魔法少女。余程、失った信頼(少なくとも不二は失ったと思っている)を取り戻したいようだ。

 

「……えぇ、おはよう、不二さん」

 

 不二の挨拶にミカンはそっけなく返す。千代田や俺相手とはえらい違いだ。

 ……なんか、気まずいなぁ。どうにかして、和解できないモンかな……俺が原因だから、尚の事何とかしてやりたい。

 

 でも、取り敢えずはゴミ先祖の案件が先だ。

 

「さぁ、ゴミ先祖。きりきり吐け」

 

『クロウ、お前本当に我の子孫か!!? 御先祖様に対する何かこう……ないのか!?』

 

「そういうのはあるけどお前に対してはないかな」

 

 しかし、思った通りというか、ゴミ先祖は渋る。脅して、貶すだけじゃあきっとコイツは教えてくれないだろうしなぁ。

 あんまり気は進まないけど、仕方ないか。

 

「ゴミ先祖。何かやりたい事、あるか?」

 

『え、なに急に? ………ふむ、そうだなぁ―――』

 

「勿論封印解除以外でな」

 

『心を読まれた!? 待てクロウよ、それ以外だとすぐには思いつか―――』

 

 鞭が駄目なら飴作戦。やりたい事をやらせる代わりに乗っ取りについて教えて貰おうという算段だ。コイツのやりたい事をやらせたらいつか俺が世界の宿敵になりそうで怖いが、ミカンと不二にラプソーンの隠した技を教える為だ。

 といっても、コイツにはやりたい事なんてすぐに浮かぶわけが……

 

『……………クロウよ。我の魔法適正チェックとそれに伴う魔法の修行を受けてくれ。それなら良いだろう?』

 

 なん……だと……!?

 このゴミ先祖が封印解除以外でやりたい事が浮かんだ……!?

 一体、何を企んでいるんだ!?

 

 

「み、ミカン……不二……どうしよう、ゴミ先祖がまた何か企んでるよ……!」

「よし、粉々にしましょ」

「助太刀いたします」

 

『クロウ!!! お前から言ってきた事だろうが!!!!』

 

「ごめんごめん。冗談だよ、冗談」

 

 不二とミカンに武器を降ろさせた後、ゴミ先祖の真意を聞いてみる。魔法の適正とは一体……?

 

『適正と言ったが、まぁ簡単に言ってしまえばその人それぞれの魔法の形といったところだ。陽夏木ミカンが遠距離射撃を、不二実里が二刀流を交えた魔法を、千代田桃が拳の魔法を得意とするのと同じようなものだ』

 

「千代田の拳の魔法………?」

 

「聞いたことないわよ…?」

 

『あの物理が得意な魔法少女のことだ。「フレッシュピーチハートシャワー」とやらもどうせ拳の雨だろう』

 

「桃に言っとくわね」

 

『待て陽夏木ミカンよ、本気にするな。暗黒神ジョークだろうが』

 

 あーあ、ゴミ先祖は後で千代田に粉々にされること確定だな。俺知ーらないっと。

 

「要するに、俺が得意な魔法をこれからゴミ先祖が調べるって事なのか。」

 

『そうだ。クロウにはその適正調査と修行に付き合って貰う。その代わり、我の乗っ取りの秘術について嘘偽りなく陽夏木ミカンと不二実里だけに教えようではないか!

 こんなことは特別だぞ、光栄に思うがいい…!』

 

 

 特別とか言ってオトク感を演出してるけど、絶対これミカンや不二が仲間に漏らすぞ。

 俺は内心でそんなツッコミを入れながら、ゴミ先祖の言葉の続きを聞く。

 

 

『この秘術は魔力を込めた杖などを通して対象に言葉をかけ、その者の持つ欲望を増幅させ、理性のブレーキを徐々に壊していく、というものだ。』

 

「ふーん……今は使えないのか?」

 

『クロウが我が力を行使することは出来ても、レティスが我を封じ込めたこの杖自体に、我は魔力を込めることが出来ぬ。前提条件を満たせぬ以上、誰かを乗っ取ることは出来ぬのだ』

 

「………不二、ほんとか?」

 

「はい。先祖代々から伝わる日記や魔導書の情報に、その記述がありましたわ」

 

 どうやら、レティスや七賢者は、ラプソーンの「人を洗脳して操る秘術」をしっかり把握し、封印した時に対策をしていたようだ。ひとまず、俺が知らぬ間に洗脳され、凶行に及ぶようなことはないと判明し、安心のため息をつく。

 

 

「………その秘術で、だれか操ったことある?」

 

 ミカンからそんな質問がゴミ先祖に投げかけられる。

 

 

『何度かやったが………一番上手くいったのは封印される少し前……ドルマゲスの時だな』

 

 ラプソーンは杖の鳥の頭の部分をミカンに向けると、さらりと答えた。

 

「ドルマゲス?」

 

『奴はかつて錬金術師の弟子であった。しかし、驚くほど才能がなくてだな。いつも師に怒られていた。奴なりに努力はしていたが認める人間はいなくてな。そして奴は我に願ったのだ………みなを見返すほどの力を。』

 

「おいゴミ先祖、まさかお前………」

 

『与えたぞ? 力』

 

「典型的にダメなやつ!!!」

 

 そういう虐げられたり不遇な扱いを受けてた人が、周りを見返すために力を得るなんて、ロクでもない結果になると相場が決まっている。むしろ、そういう結果になると分かっていてやっていたのか、コイツは?

 

「……ともあれ、現在はその忌むべき力はしっかり神鳥レティスと七賢者達が封印した、と。取り敢えずは、ひと安心ってところね。

 ―――良かった。もし乗っ取られる危険性があったら全力で杖を消し飛ばしてたところよ」

 

『あれ? ひょっとして我、さっきまで命の危機だった??』

 

 

 まぁミカンと不二の言うとおり、本当にゴミ先祖に乗っ取られる可能性がないということは証明されたから、一応は大丈夫か。

 

 

 

◇  ◆  ◇

 

 

 

 ラプソーンの隠していた能力の詳細が明らかになり、それがしっかり封印されてると知った後、俺は約束通りラプソーンの魔法適正調査と魔法修行を受けることとなった。不二やミカンは残って様子を見てくれるらしい。

 

『では早速適正を調べるぞ。変身してくれ』

 

「お、おう………“トランスフォーム”」

 

 変身してカラス風のコスチュームを身に纏うと、杖がひとりでに俺の目の前に立ち、そのまま静かになった。おそらく俺の中の何かを調べているんだろう。

 性根がゴミなラプソーンが珍しく真面目にやっている事は分かる。分かるんだけど………

 

「…………ミカン、不二? この絵面、大丈夫? 俺、怪しくない?」

 

 

 黒や紫の、鳥をモチーフにした鎧兜を身に着けた男が突っ立ち……目の前には紅い宝珠をくわえた鳥の頭が象られた杖がまっすぐ立っている。

 想像するだけで一般ピープルが二度見するタイプの絵面だと思う。

 

 

「え、えーと……怪しくない、と思うわ」

 

「そう、ですね……初めて見た方からすれば『何かのイベントかコスプレか?』と思うくらいで……法的には…問題ないかと」

 

「おいこっちを見ろ魔法少女」

 

 流石に目を逸らしながらその答えは「怪しい」と言ってるようなモンだろうが。

 ミカンはそれなりにフォローができる人だと思っていたのに、完全に俺へのフォローを諦めている。

 不二に至ってはフォローのつもりが全くフォローになっていない。何かのイベントかコスプレと思われる時点で大分アウトなんですけど。あと法的に問題ないのは当たり前だもんね、ちょっと職務質問されるだけだもんねってバカ野郎。

 このままでは俺が回覧板デビューしてしまいかねないので、リテイクした方が良さそうだなぁ、このコスチューム。

 

「…………ご先祖」

 

『少し静かにしろクロウ』

 

 まだなにも言ってないのに。解せぬ。

 

 

 

 そうして俺はゴミ先祖の杖の前で立ち続けた。通りすがった犬が吠え、その飼い主に二度見されても、街の子供たちにすげーかっけーと囃したてられても、魔法の適正のために弁明することなく静かにただ立っていた。不二とミカンが何かを話していても、俺は内容を聞くことの出来ないまま、数分の時は流れた。

 

 ――そして。

 

『……うむ、把握できた。もう動いて良いぞクロウ』

 

 ようやく、不動の時間から解放された。

 

『クロウ、前々から思っていたが、お前才能あるぞ。特にメラ系やヒャド系、イオ系や回復が最高だ』

 

 ゴミ先祖は興奮気味にそう告げるが、回復以外が全く分からない。イオ系はなんとなく予想つくけど。

 

『メラ系は炎。火の玉で敵を攻撃する魔法だ。攻撃力が高く、ダメージを与えやすい傾向にある。メラの派生で広範囲の炎で敵を焼く閃熱呪文(ギラ)系にも発展するぞ。』

 

 つまり……この前戦った人魂が使ってきたみたいな呪文か。

 

『ヒャド系は氷。敵を凍らせ凍傷を与えたり拘束することが可能という特徴を持つ。』

 

「…………で、イオ系と回復というのは不二と戦った時の爆発系……」

 

『然り。練度を上げれば爆発の威力がより出て、より良き回復ができるだろうがな。』

 

 なるほどな。

 それらの呪文が俺の覚えやすい魔法、と。

 

 

「……火が使えるならガス代が浮くか。氷もものを冷やせるからやり方次第で電気代の節約になる……回復も使えそうだな……」

 

「……え?」

「く、クロ?」

 

 不二があり得ないものを見る目でこっちを見てくる。ミカンも、なにやら変な人を見るような目だ。

 なに? どうかしたのか?

 

「いえ…その……随分………えと……家庭的な使い方だなと…思いまして」

 

「そういう魔法の使い方するまぞく初めて見たわ」

 

 なに言ってんのこの人たち。日常使いできるものは日常使いするのは当たり前でしょ?

 

 

『……………………クロウよ。お前は馬鹿なのか? おバカなのだな?

 そんなチャチい魔法を我が教える訳なかろうが。全て戦闘用の魔法だ』

 

「え、俺がおかしいの?」

 

 その質問に、ミカンも不二もゴミ先祖も、全力で首を縦に振ったのであった。全くもって納得いかない。

 後で聞いたことなのだが、魔力・魔法といえば、魔法少女の体(高濃度のエーテル体)を形作るものだったり、攻撃の手段だったりしたのであって、日常使いはあんまりしないという。また、ミカンや不二は、悪意を持つまぞくと何度か武器を交えた事があるらしく、その全てが魔力を悪用していたのだそうだ。故に、俺みたいに魔法を家庭的に使おうとした奴は初めて見たんだと。やっぱり納得いかねぇ。

 

『早速だがクロウよ。火の魔法と氷の魔法を使ってみるのだ』

 

「え、えーと………メラとヒャド、だよね。」

 

 ゴミ先祖がそう言うので、納得いかない部分を頭の隅に押し込めながら、右手を広げる。

 

 

「―――火呪文(メラ)

 

 人魂が放ってきた炎を思い出しながら魔力を感じ、呪文を唱える。すると、広げた手の上で、手のひら大の火の玉がボウっと燃え上がり、ボールの形を維持したままそこに現れた。

 

 

「おおお!! 出た! ミカン、不二!!! 出たよ、火の玉!!!」

 

「わ、分かったからこっち向けないで! 見てるだけで熱いわ!!」

 

「んえ? ………………」

 

 ミカンにそう言われ、出した火の玉をジッと見つめてみる。真ん丸の火球は、めらめらと燃えている。周りが赤く、中心に行けば行くほど白に近くなっていって…………夏の日差しもあり、とても暑い。

 

 

 

「―――()っっっっつァァァァ!!!!? 今、夏だった!!」

 

 慌てて火の玉を投げ捨て、魔法を解除した。

 そうだ……今は夏休みの真っ只中だった。しかもいい天気。そら、こんな炎天下で火の呪文使ったら熱いに決まってるよ!!

 

『…………クロウ、次は氷だ。早くしろ』

 

 ゴミ先祖が呆れ果てたような声で言ってくる。今のは俺の自業自得だけど、なんかムカつく。

 それはともかく、早く氷を出して、涼しくなりたい所だ。イメージは………コンビニとかで売っている、透明度の高いヤツ、だろうか………?

 

「―――氷呪文(ヒャド)

 

 

 再び呪文を唱えると、今度は目の前に身長の半分くらいの氷がひとりでに現れた。

 

 

「うおっ!? で、デカくないか……?」

 

『別に問題ないだろうが……氷の方が制御が甘いな。火の方が上手く行ったのは、人魂戦で火の魔法を見たからイメージしやすかったのだろう』

 

 おもむろに氷に触ってみる。

 本物の氷のようにひんやりと冷たく、暑いこの日には心地いい。

 ………良いこと思いついた。

 

 

「ヒャド………ヒャド………!!」

 

『クロウ??』

 

 魔力の無理が祟らない程度に氷の群れを製造する。

 その中から、ちょうど座れるような場所を見つけると、俺は氷をイスのように座り、氷の壁に身をもたれた。

 

 すると全身に伝わってきたのは―――爽やかな冷たさ。真夏日の中魔法でできたそれは、普通の氷に比べて溶けにくいのか、天国の空間を再現していた。冷気に抱かれているかのような心地よさは、俺からここから抜け出す気力を奪っていく。

 

『……何をしているのだ?』

 

「見て解らなければ訊いても分からん……!」

 

『見て解らぬから訊いているのだが』

 

「おーいミカン、不二!! こっち来いよ、最高だぜ〜〜!!!」

 

 ゴミ先祖をスルーした俺の呼びかけに、ミカンと不二がやって来る。二人とも俺製造の氷の群れに驚いていたが、氷に触り始めると二人の表情に快感が宿り始めた。

 

「わっ! 冷たい!涼しい!! これ、クロが作ったの!?」

「あんまりこれに浸っていると、風邪を引きますわよ? ……でも、冷たくて夏には快適ですわ……!」

「だろ? しばらくコレで涼もうぜ?」

 

 こうして俺達三人は、なんの変哲もない高校生特有のバカげたノリで魔法の氷と冷気を堪能したのであった。

 

『それで良いのか後継者と魔法少女!!!』

 

 

 うっせえゴミ先祖燃やすぞ。

 

 

 

◇  ◆  ◇

 

 

 

 ひとしきり氷で涼んだ後は日が傾き始めたこともあって不二は帰り際に「お紅茶、ご馳走様でした」とお礼を言ってから帰っていき、俺達も家に帰ることになった。

 

「―――なぁミカン」

「なに?」

「俺が魔法適正調査で動けなかった時さ、不二となに話してたの?」

 

 帰路についている途中、そんな事を聞いてみた。

 

「……クロと二人で会った時にね、何話したのって聞いてたの。

 『ジャハガロスの所在を尋ねた』って事と、不二さんがクロと契約したってことをね……答えてくれた。その理由もね。」

「そういや、俺には借りがある、って言ってたな」

「クロと初めて会った時、不二さんは相討ちする覚悟で来たそうよ。……ラプソーンの子孫と戦うって、そういう意味があったって。」

 

 そんな事を言っていたのか。じゃあつまり、俺と不二が初めて出会ったあの日、アイツは死を覚悟してあそこに来たって事になる。となると、不二が言ってた「借り」とは一体……?

 

「借りっていうのは……見逃してもらったこと、なのかな?」

『いや、不二実里は千代田桃や陽夏木ミカンと比べて魔の者に対する態度は未だ固い。むしろ宿敵に見逃されたら矜持(プライド)が許さないだろうな』

「不二さんは、私達と出会ったあの日に気付かされたんだって………『まぞくにも大切なものや人や日常があって、それを守るために戦うんだ』ってこと」

「そうだったのか……!?」

 

 全くもって想像つかなかった。俺が極大爆裂呪文(イオナズン)でぶっ飛ばした後言ったあの言葉が、不二の態度の軟化の原因だったなんて。

 

「『青天の霹靂でしたわ』って言ってた。『今までは平和維持の為にただまぞくを倒していただけでしたので』とも。でも、クロを知った事で戸惑ってたんだって。そこで、クロから誘いの連絡が来たって言ってたわ」

「あの間違いRINEの件か………」

 

 要するに、俺みたいなタイプを初めて知って迷っているところで俺は不二を呼んだってわけか。何だか悪いことしちゃったかなぁ。

 

「ミカンは、それで納得したか?」

「……正直、まだ信用してないわ。でも、クロが行動したからこそ、不二さんの中の何かが変わり始めてるって事を知れた事は……良かったと思う」

「そっか」

 

 完全に仲直りするまでまだ時間が要る……というと、色々語弊を生みそうだけど、二人の間の溝をほんの少し埋めることが出来たみたいで、気まずい気持ちが少しだけ雲散した気がした。

 

「あ、そうだミカン。この動画見るかい?」

「え、なんの動画?」

「不二のナビゲーターの動画なんだがな。ラファエルっつうインコらしい。確かここに保存した気が……あった」

「どれどれ?」

『紅玉リンゴ…貴様を殺す…! シャクシャク……貴様を殺しゅっシャクシャク』

「ぷッッアハハハハハ!! なんでこのインコ『リンゴ貴様を殺す』って言いながらリンゴ食べてるの!!」

「コイツと意思疎通出来るらしいぜ、不二」

「どうやって!!!? 色々ツッコミ所しかないわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――帰宅後。俺は早速、氷呪文(ヒャド)で冷凍庫を一杯にして電気代水道代の節約を図ろうとしたのだが………

 

『クロウ、何だこの有様は?』

「うううっ………氷を作ろうと思ったら冷凍庫とチルドが……冷蔵庫の下半分が凍っちまった……」

『馬鹿だな。魔法の氷はなかなか溶けんぞ? どうするつもりだ』

「仕方ない、火呪文(メラ)で溶かして」

『冷蔵庫をオシャカにする気かド阿呆が。大人しく溶けるのを待つことだな』

 

 制御がまだ甘いせいで、冷蔵庫半分が暫く使えなくなってしまった。ドチクショウ。

 

「くそぅ………これで勝ったと思うなよ……」

『何にだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がんばれクロウ! 魔法の制御をマスターして、練度の高い暗黒神になるのだ!




オリジナル&ゲストキャラクター紹介

神原クロウ
 ついに魔法が使えるようになったオリ主。メラ系は前回のさまようたましい戦で見た経験から簡単に使えるようになるが、ヒャド系はイメージ不足のため制御不能。楽しようとした結果冷蔵庫を半分凍らせてしまった。

不二実里
 まだクロウを暗黒神の後継者として見ている隣町の青色魔法少女。ミカンとは気まずい関係だったものの、今回のミカンとの会話で少し距離感が掴めるようになった。いずれ、彼女がメインの回を書きたいところだが、今はまだシャミ子に会わせられないので気長に書いていき桃やミカンよりの穏健派に育てていくしかない。

ラファエル
 スマートフォンで電話を取るというインコどころかほぼすべてのペットでも不可能ではないかという所業をやってのけた光の御使いインコ。しかし、やっぱり「貴様を殺す」しか言わない。もうラファエルはこのネタのゴリ押しでいく予定。

ドルマゲス
 ドラゴンクエストⅧにおける、主人公たちの宿敵。テラ子安。
「悲しいなぁ」を口癖とし、賢者の子孫の命を狙っている道化師姿の男。3DS版ではその衝撃的な過去も明らかになる。というか、ネタバレ甚だしい描写してしまった。え?ラプソーンの時点でお察し?まさかぁ。
 拙作では、どうしても設定を噛み合わせることが出来なかったので、泣く泣く過去の人に。声といいキャラといいすごく立っていただけあり、我ながらとても残念。



今回の呪文辞典

・メラ
 敵一体に火の玉を放ち、ダメージを与える。

・ヒャド
 敵一体に氷の刃(または氷塊)を放ち、ダメージを与える。

・イオナズン
 比類なき大爆発を起こして、敵全体に大ダメージを与える。





あとがき
今回のお話は、次回以降のフラグ建築と説明回でした。ちなみに、ドラクエⅧ以外から何故か出張してきてる奴らもいるぞ!分かったら作者と握手だ!

拙作で一番好きなオリジナルorゲストキャラは?

  • 神原クロウ
  • ラプソーン
  • 不二実里
  • ラファエル
  • 神原玲奈
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。