まちカド暗黒神   作:伝説の超三毛猫

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今話あらすじ

あらたな なかまが くわわった!


※2020-1-29:日間ランキング20位を獲得しました。応援ありがとうございます。


小さき猫を救え! ゴミ先祖の怪しき慈善事業!……おのれ、ここには悪魔しかいないのか!?

 

 

 

 

 ―――これから述べるのは全て俺の主観だが。

 

 

 俺、神原黒男(クロウ)は友達付き合い『は』良い方だと自負している。

 

 隣に越してきたミカンとあっという間に親友になり、転校前の学校でも、それなりに上手く世渡りできていた。転校後は千代田やシャミ子、佐田とすぐに仲良くなり、男子ともある程度話す間柄になれた。……特に仲いい奴がミカンだからか、今も昔も「陽夏木はお前の彼女なのかァ? おおん?」って誤解が多いけど。え、小倉? 知らんわ。

 

 

 陽夏木ミカンは、人付き合いがとても上手だ。

 

 俺がミカンと同居するまでの間柄になったのは、互いの親が家を空けてたのもそうだが、ミカン自身が俺をある程度受け入れてくれたからだと思う。また、小さい頃から女子のグループに入っていける人だ。感情が大きく揺れると呪いが出るため、呪いが出ないように色々と努力こそしているが、本来は喜怒哀楽が豊かな人なのだ。俺を含めてミカンと長い付き合いの人はそれを見抜いている。

 

 

 千代田桃は、基本的に物静かな少女だと考える。

 

 シャミ子と共に行動してることが多い千代田だが、決まってシャミ子がパパパッて喋り、千代田が嬉しそうに相槌を打つ、という形が基本的だ。ただ、シャミ子は「筋肉とたまさくらちゃんの話をする時の桃はよく喋る」とも言っていたので、全く話せないという訳ではないらしい。取り敢えず千代田に筋肉やたまさくらちゃんの話を振るときは気をつけよう。

 

 

 小倉しおんは、恐らく人に合わせるということをしないだろう。

 

 一に実験、二に実験、三四がなくて五に人体実験みたいな奴だ。オマケに、倫理観らしい倫理観も持ち合わせていない。マッドサイエンティストという言葉が恐ろしくピッタリ合う彼女に、協調性を求めるだけ無駄だとさえ思う。

 

 

 

 

 ―――まぁ色々と言ってきた訳だが。

 

 そんな俺たちが今どうなっているかというと。

 

 

 

「神原くん……その猫をこっちに渡してくれないかな?」

「クロ………お願い。桃の言うとおりにして」

 

「ま……待て! この子をどうするつもりだ!! まだ…生まれたての命なんだぞ!」

 

「この街の為なの。お願い」

 

「クソッ……小倉、なんとかして……小倉?」

『小倉しおんなら魔法少女どものカチコミが来るだいぶ前に帰ったぞ』

「小倉ァァァァァ!!!!!」

「ニャー」

 

 

 学校にある小倉のラボにて、二人の変身済魔法少女から背中の猫を俺は必死で守ろうとしていた。魔法陣の中心にいた豹柄の子猫は、ただ今の事態を全く分かっていないかのようにニャーと鳴いているだけだ。

 

 ……どうして、こんな状況が生まれたのか?

 

 それを説明するには、この日の昼頃まで時計の針を巻き戻す必要がある。

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 その日は、多魔市の事についてよく調べるため、家をゴミ先祖に任せて普段は寄らないような学校付近を散策していたのだ。

 

 すると突然、スマホが震えて電話の呼び出しBGMが流れた。

 

 

「……もしもし?」

 

『あ、神原君? 今ヒマ? ちょっとラプソーンさんと一緒に付き合って欲しい実験』

 

 すぐさま電話を切った。

 ……俺、小倉に電話番号教えてないはずなんだけど。というか今、ゴミ先祖の名前まで出た気がする。

 しかし、すぐにスマホが震える。着信先はやっぱり小倉。

 

『神原君。人の電話を途中で切るの、良くないと思うんだけど』

 

「……人をロクでもない実験に―――」

 

『そうそう。でね、実験に付き合ってほしいんだけど』

 

 再び電話を切る。

 やっぱり、コイツに話は通用しないわ。俺は前回小倉と話した時の「気を失うほどの猛毒団子事件」を忘れてないからな。

 

「……ったく。小倉は着信拒否した方が良さそうだな」

 

「えー。そんなの傷つくなぁ、神原君」

 

「おめーが人の話を聞かなかったり倫理を無視したりするからだろうが」

 

「その必要性を感じないよねぇ」

 

「いつか警察に捕まるぞおま…………………ん??」

 

 

 ………ちょっと待て。今…俺は誰と話している? しかも、電話の声と似ているような………

 首をゆっくり、油が切れて錆びついたブリキ人形のように声のした方に向ける。すると、そこには女子制服の上から黒い外套を羽織った―――小倉が。

 

「こんにちわ、神原君」

 

「うわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! で、出たアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!?」

 

「ふふっ、何そのオバケを見たみたいな反応」

 

「オバケの10倍はタチ悪いのに出くわしたんだよ! 今!」

 

 しかも何故俺がここにいると分かったんだ!?

 小倉はニコニコしながら答えを言う。

 

「神原君のスマホに発信器仕込んでおいて良かった♪」

 

「いつ付けたの!? 怖いッ!!」

 

 

 

 恐怖に震える俺を、小倉は相変わらずニコニコしながら引っ張っていく。何処に連れて行かれるのかと思ったら、思った通りというか、いつか連れてこられた学校にある小倉のラボだった。

 

『待ちかねたぞ、クロウ。そして小倉しおんよ』

 

 しかもなんかそこに留守番してる筈のゴミ先祖までいた。

 

「おいなんでテメーがここにいんだゴミ先祖」

 

『家には鍵をかけたから安心するが良い』

 

「そこじゃねーわ」

 

 家に鍵をかけてきてくれたのは地味にありがたいけどさ。

 俺は、小倉とゴミ先祖にラボへ俺を連れてきた理由を問いただす。二人の言い分はこうだった。

 

『先日の適正調査でクロウが回復も得意である事が判明した。回復は戦闘の生命線。欠かせば己や仲間の死に繋がる。ゆえに、今のうちに練習すべきと判断した。小倉しおんは協力者だ』

 

「言いたいことは分かるけどさ……」

 

「私、回復呪文を間近で見てデータを取りたいでーす!」

 

「アー小倉サンハ素直デヨロシイデスネー」

 

 ゴミ先祖の言い分は今後のことを考えると合理的ではある。たとえ攻撃魔法がまだ未熟でも、回復を習得することができれば千代田やミカンのサポートに回ることができるからだ。あと小倉は小倉で素直すぎて後が怖い。

 

 

「……それで? 回復魔法の練習って何やるのさ?」

 

「この子に協力してもらいまーす」

 

 小倉が持ってきたのは、ドーム状の鳥かご。中には、クチバシのとがった黒い鳥がいた。ラファエルと比べて、体が全体的に丸い。

 小倉が鳥かごを開けると、その鳥が彼女の指先に止まる。

 

「トリタロウくんでーす」

「ボクハトリタロウ」

 

「わっ、喋った! ……小倉、この子をどこで」

 

「千代田さんが譲ってもらったのを引き取ったんだー」

 

 へぇ。千代田が誰から譲って貰ったのか知らないけど、マトモに喋る鳥とは珍しいな。……喋る鳥にいい思い出ないけど、これならいい思い出になりそうだ。

 

『では小倉しおん。早速始めてほしい』

 

「え、始めるって何を―――」

 

「はーい!」

「ボクハトリタグワーーーッ!!!

 

「!?!?!?!?」

 

 

 目の前で起きた事に動揺を隠せなかった。

 何故って―――小倉がどこからか取り出したサバイバルナイフで、トリタロウ君の背中をぶっ刺したのだから。

 トリタロウ君の悲鳴がラボ内に響き渡り、小倉の指先からトリタロウ君がぽとりと落ちる。

 

 

「な…何してんの!? 小倉、なにしてるの!!?」

 

「トリタロウくんをちょっと刺したんだよ」

 

「その意図を聞いたつもりなんですけど!!?」

 

『魔法の反復使用だ。基本にして王道。繰り返すことで練度を高める訓練だ。

 ―――さぁ、早くトリタロウを回復してやれ。それとも……見殺しにするつもりか?』

 

「………こんのゴミ先祖!」

 

 愉悦に浸るゴミ先祖を一瞥すると、俺はすぐさまピクピク震えるトリタロウ君に両手を添える。……まだ温かい体温の感覚と視界に映る血で吐きそうだ。

 

 

大回復呪文(ベホイミ)!」

 

 

 吐き気を我慢して魔法を行使する。両手が穏やかに光ると、その光がトリタロウ君の刺し傷を塞いでいく。周囲の血も、逆再生のようにトリタロウ君の体に戻っていく。

 

 

「―――よし、できた!」

 

「すごーい神原君! じゃあ()()()()()()激し目にいくね?」

 

「えっ、今度はって――」

 

「ボクハグワーーーッ!!!

 

「トリタロウくーーーーーーーんッ!!?」

 

 なんてこった! 小倉のやつ、トリタロウ君を治した側からナイフを突き立てやがった! しかもさっきより激しく!!

 

「やめろ小倉! トリタロウ君が死んじまうッ!!」

 

『ならさっさと治さないか、クロウ!』

 

「……ちくしょうッ!!」

 

 俺は再び傷ついたトリタロウ君を大回復呪文(ベホイミ)で回復する。しかし、また回復したそばから小倉がトリタロウ君を刺そうとする。

 

「やめてくれ! トリタロウ君のHP(ヒットポイント)はもうゼロだ!」

 

「神原君どいて? トリタロウくんに刺せない」

 

「刺したら駄目だから! 動物愛護団体に訴えられるから!!」

 

『ならば我が』

 

グワーーーッ!!!

 

「トリタロォォォォォォォォ!!? ゴミ先祖テメエェェ!!!」

 

 踏んづけるようにトリタロウ君を先端で貫いたゴミ先祖(杖)を殴り飛ばして、トリタロウ君に回復呪文を施す。

 ―――最悪だ。ここには、トリタロウ君を傷つけようとする悪魔が二人いる! ひとり暗黒神だけど。

 

 

「もう十分だろ? トリタロウ君は許してやれよ!!」

 

「神原君の魔力とトリタロウくんの体力的にあと10回はできるよぉ」

 

「トリタロウ君が死んじゃうよ!!!」

 

『いい加減にしないか、クロウ』

 

 いい加減にするのはお前らだよ。

 そう思いながらも、言葉が出てこない。さっきから繰り広げられる悲惨な光景に喉が辛くなった証左だ。

 

『回復呪文というのはだな、練習がしにくい上に取り返しがつかない戦場で重宝するのだ。

 攻撃呪文は少しずつ練習し確実にモノにすれば良い。だが、回復呪文がここぞという時に機能しなかったら―――お前が言っていた「大切なもの」を守ることが出来なくなるぞ?』

 

「!!!」

 

 不二や人魂と戦う時に言っていた事が脳裏に思い浮かぶ。次に、倒れたミカンや不二に押されていく千代田の姿が浮かぶ。あの時に、回復呪文が上手く使えれば、あるいは……

 

『選べクロウよ。今ここでトリタロウ君を使い回復の練習をするか―――さもなくば、陽夏木ミカンが傷ついた時にぶっつけ本番で回復呪文を使うか』

 

「いや………そんな極端な二択、あるわけ」

 

『ない、とは言わせぬぞ? さぁ、選べ』

 

「……………」

 

 

 俺は、ゴミ先祖が提示した究極の二択に反論出来なかった。それはゴミ先祖が提示した二択が有り得ないと断言出来なかった事であり、俺が最悪な未来を想像してしまった事を意味していた。

 確かに千代田やミカンは強い。ゴミ先祖の杖を一瞬で粉々に出来ることから明らかだ。しかし、常に自分に有利に戦える訳じゃない。

 例えば、この前の人魂戦。狭い謎空間に閉じ込められた俺は地形の狭さから極大爆裂呪文(イオナズン)が使えず、実質的に魔法を封じられた。もしあの時に魔力で攻撃する事が上手くいかなかったら、俺はゴミ先祖の希望を無視して杖で殴って戦うことを強いられていただろう。

 

 故に俺は、何も言えなかった。

 それからはただ、感情を押し殺して目の前で傷つけられたトリタロウ君を治し続ける機械に徹した。

 

「えいっ」

グワーーーッ!!!

大回復呪文(ベホイミ)

 

「えい」

グワーーーッ!!

「…大回復呪文(ベホイミ)

 

「……」

グワーーッ!

「………回復呪文(ホイミ)

 

 

 回数を重ねるうちに精神が摩耗している俺はもちろん、小倉まで無言になって、ラボ内にはトリタロウ君の弱くなっていく悲鳴と無機質な俺の詠唱しか音がしなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

『協力感謝するぞ、小倉しおん』

 

「いいよぉ〜〜! 私もほいみとべほいみのデータ取れたし! シャミ子ちゃん達もそうだけど、神原君とラプソーンさんも面白いねぇ!」

 

『これから()()()()()()()()を見せてやろう。小倉しおんよ、()()()()は準備できたか』

 

「うん。でもどうして()()を……?」

 

『すぐに分かる』

 

 

 トリタロウ君が体力の限界になり、回復呪文の練習(地獄)から解放されると、俺はラボのイスに力なくもたれかかっていた。もう、ゴミ先祖と小倉の企みに注意する気力も残っていない。

 ……で、今度は何をするつもりだ……?

 

 

『クロウ、休めたか?』

 

「他人事のように……っ!」

 

『さぁ、次の実験に行くぞ!』

 

「もう……やめて……許して……」

 

『なんだその虐待された犬みたいなリアクションは。お前は癒やしてただけだろう』

 

 やり方が最悪なんだよ。大抵の悪人がもう少しは自重するだろってくらいえげつない事をされ続けたら、こうなるのも無理ないと思う。

 

『安心せよ、これから行うのは命を救う実験だ』

 

「………命を救う?」

 

 ゴミ先祖から出た全くもってらしくない言葉に首を傾げる。どう考えても怪しさムンムンなんだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい、まず用意しますは、カラスに襲われていたものの我が助け小倉しおんの投薬で辛うじて生きている子猫~!』

 

 ………思った通り、最初から最悪だった。小倉が嬉しそうに黄色い瀕死の子猫を横たえる。

 なんだよゴミ先祖が助けたって超怪しい。あと小倉の投薬で辛うじて生きてるって、それ小倉の薬がトドメ寸前まで行ってるの間違いでないの?

 

『これからこの子猫を“転生”させる』

 

「転生?」

 

 再び聞き慣れないワードだ。少なくとも、神様がやりそうなことではなさそうだが……いや、待て。

 

「暗黒『神』だから……できるというつもりか……?」

 

『然り。最も、転生のクオリティはクロウ次第だけどな』

 

 小倉が魔法陣を床に描いているのをよそに、ゴミ先祖は続ける。

 

『お前は子猫を癒やすのに集中すれば良い。完全回復呪文(ベホマ)はまだできないにしても、大回復呪文(ベホイミ)の練度は上がっている。不安なら魔力が尽きるまで連打すれば良い。

 我が細かい調節と詠唱を行い、この子猫をお前の眷属に生まれ変わらせてやろうじゃあないか!!』

 

「大丈夫なんだろうな……色々と」

 

 眷属というのは、魂の家族的なものだと聞いた。つまり……ゴミ先祖は、この死にかけの子猫を最初から俺の眷属にするつもりで助けたのだ。文句しかなかったが、今更何を言ったって小倉もゴミ先祖も止まりそうにないし、何より傷ついた動物を見殺しにはできない……………できないんだ。

 ―――ネコのエサ代ってどれくらいだろう。

 

 

「準備できたよー」

 

『……行くぞ、クロウ。子猫が死んでは我と小倉しおんの延命措置が水泡に()す』

 

「……分かってる」

 

 俺自身、憔悴しきってるだろうなと思いつつも、小さな命を救うために魔法陣の中心に横たえてある、子猫のすぐそばに立った。

 杖を立てて、俺は深呼吸をする。

 ……見ててくれ、トリタロウ君。キミの命の痛みは、決して無駄にはしないッ!!

 

 

「―――大回復呪文(ベホイミ)

 

『万物の神たるラプソーンが命じる。

 消えゆく命よ、我らの力を持って新たなる生に目覚めよ……

 祖先たるラプソーンと父たるクロウの御名において生まれよ……』

 

 

 今まで聞いたこともないほど真剣な声色で詠唱するご先祖に気を取られぬよう、子猫を回復することに専念する。大回復呪文(ベホイミ)の効果が切れそうになるのを見計らって再び癒やしの魔法をかける。

 子猫の傷は見る見るうちに癒えていくが、動き出す気配はない。

 

 

『我らが手となり足となり、魂の眷属への祝福をここに授けん!

 今ここに転生せよ!

 

 

 ――――――()()()()()()()!!!』

 

 

「はアァ!!!?」

 

 変な声が出る。それと共に、子猫が光に包まれた。

 ……このゴミ先祖、最後の最後でぶっこみやがった!

 

「なんだキラーパンサーって!? なに呼び出しやがった!!? 名前からして明らかに不穏なヤツじゃねーか!!」

 

『クックック……クロウよ、見てみるがいい、件の子猫を』

 

 

 ゴミ先祖をへし折ろうとして子猫を思い出し、さっきまで子猫が横たわっていた場所を見やる。殺し屋(キラー)(パンサー)なんて勘弁して欲しいと願いながら。

 

 ―――そこには、変わり果てた姿の子猫が座っていた。

 黄色の体毛には、黒い豹柄模様が浮かび。首からしっぽの付け根にわたって、背中にちょっとした赤いたてがみが生え揃っている。

 猫の体型(フォルム)や特有のつぶらな瞳、座り方は俺のイメージ通りの猫だが……………まるでソイツは、ヒョウの子供のようであった。

 

「ニャーン」

 

「かわいい」

 

 ……訂正、元気になった子猫だった。

 

『……一応、成功だ。そやつは転生したのだ。キラーパンサーの子供に』

 

「こんなかわいい子猫ちゃんのどこがキラーパンサーなのよ。確かに違う意味でキラーしそうだけどさ。なぁ?」

 

「ごろごろ」

 

『…………お前な』

 

 下あごを撫でてやると、目を閉じて心地よさそうに鳴く。まんま猫じゃん。ゴミ先祖が「キラーパンサー」なんて言うからヤバい実験に手を貸しちまったんじゃあないかと思ったけど、生まれたのがヒョウ柄の猫ちゃんで良かった。

 

『……クロウ、最後に名前をつけてやれ。それで契約は成立―――』

 

 

 ゴミ先祖がそう言い終える瞬間、バタン!! と。

 

「!!?」

 

 ラボの扉が開かれた。

 入口を見ると、そこにいたのは千代田とミカンだった。しかも変身姿の。

 

「え………?」

 

『チッ…………魔法少女め、もう嗅ぎつけたか』

 

「ゴミ先祖?」

 

 何故舌打ちした? あと嗅ぎつけたって何だ? 俺……なんか悪いことをしちゃったのだろうか…?

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 ―――そして、今に至る。

 

「儀式の光が見えたと思ってやってきたら……ラプさんと神原くんが絡んでいたなんてね」

 

「クロ、早くその子猫を渡して。お願い」

 

 千代田とミカンは、逃しはしないと言わんばかりにじりじりと近寄ってくる。こいつら、子猫ちゃんを捕まえてどうするつもりだ? ま、まさか……

 

 

「…俺より先に抱っこしてモフるつもりなのか……!!」

「違うけど」

 

 あれ、違った。なら、一体……

 

 

「99%ラプさんの仕業だろうけど……まさか、この街で『地獄の殺し屋』を呼ぶなんてね」

 

「は?」

 

 地獄の殺し屋? この子猫ちゃんが? ウソだろ?

 ゴミ先祖を見やる。杖は、不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

「え、そうなの?」

 

『……そうだ。クロウの戦力として、申し分ない』

 

「何を想定してんだゴミ先祖!」

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?』

 

 馬鹿げたことを抜かすゴミ先祖をへし折る。こんな可愛い子猫ちゃんを戦力とか頭イカレてんのか? イカレてんのは最初からなんだろうけど。

 

「でもクロ、あなたキラーパンサーって知ってる?」

 

「……生憎(あいにく)、知らないしゴミ先祖からも何も聞かされてない」

 

「別名『地獄の殺し屋』。猫を使い魔化させた時に稀に変化する魔物。滅多に人に懐かず、疾風のように獲物を狩る存在よ」

 

 どうやらゴミ先祖は、俺をダマクラかしてそいつを呼び出し、何かの駒に使うつもりだったのだろう。

 ミカンが説明する限りでは、キラーパンサーという魔物は相当ヤバいヤツのようだが………

 

「………あれがか? ミカン……」

 

「ごろごろごろ………」

 

「…………………えっと」

 

 俺をすり抜けていつの間にか近づいてた千代田の足にスインスインと頭を擦り付けているあの子猫ちゃんが、そうとは思えないんだよなぁ。千代田も千代田で、そんなことされると思ってなかったのか、困ったように子猫を見つめたまま、固まってしまっている。

 その様子に困惑しだしたのは、さっきへし折られた所を少しずつ再生しているゴミ先祖だ。

 

『お、おかしいぞ……キラーパンサーの子はもう少しヤンチャだと思ったのだが…』

 

「あ……神原くん、ミカン、この子不完全だよ」

 

『何ィ!!?』

 

 再生中のゴミ先祖が千代田の言葉に驚く。

 

「不完全とは?」

 

「体毛とかたてがみはキラーパンサーのそれだけど、体格や性格まではラプさんの魔の手が及んでいない……力とかも、普通の猫よりちょっと強い程度かな?

 多分、術者が途中で集中を切らしちゃったからだと思う。この手の儀式は集中力がとても必要だから。あと単純に魔力が足りなかったのもある」

 

「あっ、あの時……!」

 

 儀式の最中、ゴミ先祖が「キラーパンサー」というヤバめの単語を出した時、俺がそれに反応してしまったことで、儀式が不完全になったってことか。つまり……

 

『クロウ……貴様が最後の最後で集中を切らさなければ、キラーパンサーを召喚できたというのに……!!』

 

「いや単純な魔力不足もあるだろ。俺にはまだ早い超上級儀式だったってことだ」

 

「そうね」

 

 本物のキラーパンサーは、どう足掻いても召喚出来なかったって事だ。小倉も半分近くそれを察してたから魔法陣を描いたあとで帰っちゃったのかなぁ。まぁこの様子も何かを通して見てそうだけど。

 

 

「まぁこの子はキラーパンサー似で神原くんの眷属だけど今はただの子猫ってことだね。危険はないかな」

 

『…………クロウ、やり直しだ。ソイツに名前をつけたら取り返しが―――』

 

「認める訳ないでしょ!」

 

『グワァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーッ!!!!?』

 

「……なら、あとは名前をつけるだけだな。可愛いし、俺が飼ってもいいでしょ?」

 

 ゴミ先祖を魔法の矢で粉砕したミカンをチラ見しつつ千代田に尋ねると、千代田が頷く。これで、ゴミ先祖の企むキラーパンサー計画を阻止できるなら、俺は喜んでこの子の飼い主になろう。

 

 

 名前……名前ねぇ……………

 

 

「待ってクロ。……その子猫になんて名付けるつもりなの?」

 

「え? 『ゲレゲレ』か『ボロンゴ』の二択で迷ってるんだけど……」

 

「か…神原くん……その名前、本気?」

 

「え、千代田? なんか問題か?」

 

「…………流石、小学校のメダカに『グリル』『フライ』『ボイル』って名付けようとしただけはあるわね。

 悪いけど、私と桃がこの子の名付け親になるわ」

 

「なんでだよッ!!!」

 

 ゲレゲレやボロンゴの何がダメなんだよ!!?

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 ―――あの後、俺はなんちゃってキラーパンサーの子猫を飼うことにした。両親に事情を説明したら、少し驚かれ「責任は持てよ」と念を押されたものの、最終的に飼うことを認めてくれた。

 

 また千代田の希望で、シャミ子とリリスさんにも子猫を紹介することにした。

 

「かわいいです! クロウさん、この子なんてお名前なんですか?」

 

「『チロル』ちゃんだ。存分に遊んでやれ」

 

 猫じゃらしで子猫―――チロルと遊ぶ、目をこれでもかと輝かせたシャミ子に、俺はそう告げた。

 

 あの後、千代田とミカンが名付け親になるとは言ったものの、出てくる名前がことごとく柑橘系だったり頑なに「たまさくらちゃん」にちなんだ名前だったりでうんざりした俺は、再び名付け親になろうとした。「プックル」や「アンドレ」、「ソロ」で惨敗し、第6候補の「チロル」でやっと勝利をもぎ取ったのである。

 

 

『心遣いは有難いがクロウよ。余はチロルちゃんと遊ぶ事ができないのだが……』

 

「ニャーン」

 

『お?』

 

 文字通り手も足も出ないリリスさんの像にチロルは近寄ると、前足で像を倒す。

 あ、なんとなくこの後が想像できた、と思った所で。

 

「にゃっ!」

 

『ぬおああぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 余は子猫ちゃんの遊び道具ではなぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!』

 

「ごせんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」

 

 チロルはリリスさん像をヒョイヒョイと転がし、ドリブルしながら部屋中を駆け回り始めた。ドタバタという楽しげな音とリリスさんとシャミ子の悲鳴が聞こえる。

 

 

「クロウさぁぁぁん!! ごせんぞを助けてください!」

 

「お断る」

 

「きさまどっちの味方なのだ!!?」

 

「チロルちゃんに決まってるでしょ」

 

「おのれ暗黒神! これで勝ったと思うなよーーーーーーーーーーーっ!!」

『ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!』

 

「あっはっはっはっはっ!」

 

 シャミ子がリリスさんで遊ぶチロルを追いかけ回しながらその台詞を言う光景に、俺は笑いが溢れたのであった。

 ……ゴミ先祖? 残骸を庭に埋めておいた。まぁ、明日になれば復活するっしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がんばれまぞくたち! 頼れる仲間を増やして強くなっていくんだ!!




オリジナル&ゲストキャラクター紹介

神原クロウ
 メンタルの弱さとネーミングセンスが課題になっている暗黒神後継者。ベホイミの反復練習ついでにトンデモないものを召喚してしまったと思ったら、ただの可愛い子猫で安心している。ちなみに、彼にチーム名を考えさせたらモリー並に面白い事になること間違いなしだが、どのタイミングで入れるべきか……?

キラーパンサー
 ドラゴンクエストⅤやⅧなどで登場する、赤いタテガミのヒョウの魔物。Ⅴでは「ベビーパンサー」というキラーパンサーの子供も登場する。『地獄の殺し屋』と恐れられ、人には懐かないが、主人公にのみ認められる上、名前も決められる特別な仲間として扱われる。Ⅷではラパンハウスなどで飼育されている上に、「バウムレンの鈴」でキラーパンサーに乗ることができる。また、このような乗り物兼相棒的な役割ではⅪでも登場し、スライムやドラキーに続いて愛されているモンスターの一匹だと伺える。

キラーパンサーの名前
 オリジナル版のⅤでは「ボロンゴ」「プックル」「チロル」「ゲレゲレ」の4種類。リメイク版に「アンドレ」「ソロ」等が追加される。Ⅷではスカウトモンスターに「ゲレゲレ」として登場。ドラクエの創始者は「ゲレゲレ」がイチオシらしい。


今回の呪文辞典

・ホイミ
 味方ひとりのHPを少し回復する。

・ベホイミ
 味方ひとりのHPを中程度回復する。

・ベホマ
 味方ひとりのHPを完全に回復する。


あとがき
さーて、次はリコくん&店長編だね。どうしようかな。

拙作で一番好きなオリジナルorゲストキャラは?

  • 神原クロウ
  • ラプソーン
  • 不二実里
  • ラファエル
  • 神原玲奈
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