BLACKSOULSⅡ腹パンRTA 0:19:19:19   作:メアリィ・スーザン・ふ美子

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誤字脱字報告ありがとナス!
ダブルチェック、ヨシ!(現場猫)



混沌虚無配信2

 

 

 

 

 ――混沌虚無配信のRTAって、コンセプトが怖いだろ。終わりが無い。無限に走り続けるってのが、怖いんだよ。

 ――心が折れそうだ。あんたもそうなんだろう?

 ――宿敵は、折れぬ。故に我もまた折れぬ

 ――あんたら良い関係だな。そういう相手がいるのは羨ましいよ

 

 

 今夜のホストはメイベル。

 プリケットは招待客。

 という体裁をとっているからか、メイベルは一度席を立ち、あたらと見通せぬ暗闇の領域に向かい、容易に口にせざる飲料物であるツドグミルクを準備していく……観測者の方々の中に暗視を習得している者がいたとしても、直視はしないほうが良いだろう。

 

 一方、なんだかんだと雑談の絶えぬコメント群では、突如あらわれたチン入者が騒ぎを起こしていた。

 

 

 ――ハヒッ……ハヒッ……ハヒッ……!

 ――たまらねぇッ! 気持ち良しゅぎるぅうううウウゥゥッッ!!

 ――アイドルだ女だアクマアクメキメてやるぜぇっ!!

 ――うおおオオオオオッ! 交尾してェェェェェッ!!

 ――我慢、できねェェェェッ!!

 ――交尾ッ交尾させてくれェェェェェエェッッ!!

 ――サテュロス失せろ。これだから混沌虚無配信は。

 ――ああ、駄目だ……妄想が止まらんッッッ

 ――くっ! プリケット! メイベル! ああああああ出すぞ出すぞ出すぞ!

 ――ちょっとやめないか!

 ――どぴゅ! どぴゅどぴゅっ!

 ――あぁぁぁぁぁぁぁきぼぢぃいいいいいぃいぃぃいい!!

 ――そういうの、やめろ!

 

「きゃ~ひど~いっ! 変態に文章レイプされちゃってる!

 プリケットはみんなのアイドルなのにっ♪

 そんなこと言ったらメッ! だよっ☆

 あかばっきゅんっ☆」

 

 

 プリケットは特徴的過ぎて即座に個人特定できるそのコメントを軽く受け流すと、指を銃の形に模して、弾丸を撃つかのように振る舞う。直後、窓に血と白くべたつく何かが飛び散り、窓の縁から血が滴り落ちた。ナムアミダブツ!

 

 伝播を発信する観測者の中には変態は多数いる(断言)

 ただ変態なだけなら許されよう。

 しかしいまのように[破滅の嵐]でも唱えるかの如く配信者への懸想を発信することは許されないのだ。

 

 メイベルは騒動を横目に、自分用の黄金の蜂蜜酒を杯に注ぎ終えるとツドグミルクとともに銀のトレイに乗せ、さっと席に戻った。その間に先ほどの醜い痕跡は右から左へ流れる血文字で洗い流されていく。

 

 

『ガバガバムーブで追走者を誘発しようとするRTA、はーじまーるよー。

 今回は図書室の夢で目覚めるところから』

 

 

 ビクビクと見るからに危険な痙攣をしつつそう告げるのは緑髪の少女メアリィ・アン。その時報を機にメイベルが再開を告げた。

 

 

 ――全裸待機済み(王者の風格)

 ――よっシャ! 待ってタゼ! そろそろ緑髪の絶望顔見せロヤ!

 ――何だって良い! ビルちゃんを見るチャンスだ!

 

「それじゃあ、おじさん、ふぁいと、おー、なのですよ~♪」

 

「なにいまの可愛いっ☆

 でもでもっ、メイちゃんにはあんまり似合ってないと思うケドー?」

 

「フフ……その怪訝な表情はどういう意かしら? 

 人間の男は無知で非力で愛らしい少女が好きなんでしょう?

 ……それじゃ、つづきを始めようかしら」

 

 ぺしっ。バチンッ!

 

「あっ♪ また失敗してるぅ~☆」

 

「うっさいわね。羞恥という感情でワタシを殺すつもり?

 おしゃけが美味しいから仕方ないじゃない♪」

 

「生姜ないねっ♪」

 

 

 さっそく黄金の蜂蜜酒を呷るメイベルをさておき、時が動き始めた映像内では、ドリームランドを想起させるかのような図書室領域に目覚めたおじさんが、司書のように働くウサミミ少女へ比較的友好的に話しかけたところであった。

 

 

『進行度0のうちに偽りのアリスと偽りのまぐわいをすることで進行度が増えるので、首狩りのビースト等を倒さずともノーデンス(アバターの姿)と接触できます。さっそく売るもん売って30000ソウル確保してレベル上げしてもらいましょ。モットォイッパイイッパイホシイ!』

 

 ――これがかのノーデンスとはな。変われば変わるものだ。馬にも化身、と言ったところか

 ――いま誰かウマ娘の話した?

 ――ウマ娘? どこの次元の神話生物?

 ――それを言うなら馬子にも衣装、である。

 ――知らないコトワザですね?

 

「さあて、と。酔ってばかりもいられないわ。

 まずはさっそくのガバポイント」

 

『ああああぁぁァアああ!? てめェェェェェェ!! 何してんだぁぁああああ↑!!

 ソウル!暴力!SEX!ソウル!暴力!SEX! 強姦なんて盗賊として恥ずかしくないのか!』

 

 ――虚無生える

 ――これはメアリィ=サンのケジメ案件では?

 ――売女が……ところかまわず繁殖しやがって……一匹残らず駆除しなければッ!

 ――オォ! ガバ発狂きたぜきタゼ! いいぞもっとヤレ!

 

「先に言っておくけど著しく性的感情を刺激する行動描写はしていないわよ?」

 

「メイちゃんったらやらしーしーっ☆

 そんなの誰も気にしないジャンっ♪」

 

「滅茶苦茶気にしてるくせに無理しないほうが良いわよ。

 取扱説明書を読んだの」

 

「どこのぉ~?」

 

「どこだっていいでしょ。外宇宙学者なのかしら?」

 

 ――また性的描写が十秒程度で終わった件

 ――そういう種族なんだよ。ううん良く知らないけど絶対にそう

 

『こんの腐れ発情ウサギがぁぁぁあああ……いやでも、奉仕スルーすればリカバリできる……はず! ここでアドリブが利かないやつは完走できない!

 このあと予定通り血涙の池に転移してくれたら続行しますっ!』

 

「けれどガバはガバを呼ぶ。

 乱数調整しているつもりになっているならなおさら。

 さながらバタフライ・エフェクトのように」

 

 

 事前の示唆からアイディア連携が繋がったのか、メアリィ・アンの望みどおり図書室の夢から血涙の池に転移するおじさん。しかしその後見当違いの方向へ駆け出す事で彼女の顔面がより一層崩壊する。

 

 

『くああああぁぁぁぁあああああそっちじゃねぇええええええええぇぇえぇえええ!!! 引き返して引き返して! 死なないでおじさんっ!

 おっ助言気付いた! よーしナイス助言! えらいぞー♡

 ……は? なに立ち止まってんだ走れオッサン走れ! でも万能鍵は拾い忘れないでくださいお願いしますお願いします! 今だ! ご都合主義起きろ!』

 

 ――実に無様。

 ――yapaaaaaaaaaaa!!!

 

「あっ。でも万能鍵は拾ったみたいだよっ♪

 よかったねメアリィちゃん☆」

 

 ――チッ

 ――どうして今は誘導しないんだろう?

 

「次の誘導音声をできるかぎり確実に通したいからでしょうね。次の誘導をガバするとリカバリ不可能だから、確実に声が通るよう、クールタイムを置いているというわけね」

 

 

 右上枠でメアリィ・アンが百面相を混沌・虚無・外宇宙へと無修正で晒す中、おじさんは順調に血涙の池の下層へと滑り落ちて行く。

 

 

『コーサスレース中の動物殺さないで……よしっ! 素性盗賊は無駄な戦闘を嫌う傾向にあるので狩人とかいうアホ素性とは違ってイチイチ狩りの時間を静止する必要はないです」

 

 ――狩人が阿呆と申したか

 ――なんだアイツ! おっぱいばるんばるんしよる!

 ――その胸は豊満であった。

 ――ドドっぱいばんじゃい!

 

「ドドちゃんったらみんなに大人気だねっ☆

 って、およよ? おじさん、今日は拷問部屋のほうにいくんだねっ♪」

 

「これもガバ。最善手はリデル墓地方面に向かってから引き返すことだけれど……誘導せず自然に引き返させるという意味ではこれでベスト」

 

 ――どきどき。愚鳥も出てきたことだし、そろそろビルちゃんの出番か……ごくり

 

『拷問部屋から道なりに引き返すことで橋にある助言に気付き、ドドと誓約させることができます。前の童話では無かったものですが……前の童話? ボクは何を言ってるんだ?』

 

 

 にやり。とメイベルは思わせぶりに嗤った。

 そして窓の奥の深遠に向けてウインクをひとつ。

 戯れだろう。きっと意味はない。

 一方その頃、窓に流れるコメントは魔乳を崇め奉る不浄の邪教集団が占有していた。

 

 

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――さて誓約だが……

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――どこもかしこも巨乳派ばかりだ……

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!

 ――っ!!!

 ――や、やった!

 

『ガバァ! なにパイオツ堪能してんだテメェェェェェふざけんなっ! ああっ! ボクの乱数調整が! チャートが!』

 

 ――おっぱいは宇宙だ

 ――宇宙の心はドドだったんですね

 ――なぜ乳を揉む必要があるのか

 ――そこに乳があるからだ

 

「男のコって、やっぱりおっぱい大きい娘が好きなのかな……」

 

「アナタだって十分大きいと思うけどね。

 フフッ……乱れる乳袋を肴にして呑むおしゃけは美味しいわ……♪」

 

『あの場所に、あの場所に行きさえすれば……まだ終わってない! 続行!

 ボクのタァイムを奪って堪能する魔乳は気持ちよかったかコラ? なんとか言えよ変態!(パァン!)』

 

 ――どっちも気持ち良さそうだったと思います(こなみ)

 

「さて、そろそろ残念なお知らせを伝える必要があるわね」

 

「残念なお知らせってなあに?」

 

「カマホモクソトカゲことトカゲのビルの出番なのだけれど……今回は一切無いわ」

 

 ――??????????

 ――白馬の王子が石化して幸福の王子になった件

 ――いと哀れなり

 

『あんまり行きたくないんですよねあそこ。

 なんだよアレ。

 ビックリ系はやめろよ。

 いや怖くないよ? ホントホント。

 ボクをビビらせたら大したもんだし?

 ビビッてないウザイだけ何の意味もないしビックリするだけだし(心停止)

 だからボクへのダイレクトアタックはやめろ繰り返すボクへのダイレクトアタックはやめろ

 じゃけんリデル墓地の篝火から堕落部屋、ウサギ穴、燻りの森、ビリングズゲート魚市場と経由して屠殺場と向かいましょ~ね~』

 

 ――はあ?

 

「なーんか白馬の王子サマはもうダメみたいだね☆

 でも大丈夫っ☆ 次の再走ではきっと出番あるよっ♪

 

「フフッ……何を盛っているのかしら?

 また見たかったら気まぐれに見せてあげるわ

 今はその時ではなかっただけ」

 

 ――畜生メアリィ・アンは馬鹿だ。死ね。氏ねじゃなくて死ね

 ――そうだそうダッ! 死ネ! メアリィ・アンは死ネッ!

 

「あらあら。メアリィったら大人気ねぇ?

 クスクスッ」

 

「きゃははっ☆ ぶち殺っちょり~☆

 でも踊り子さんには手を触れないでくださ~いっ♪

 ……私、気付いたの。

 何もしなくても、こうして見てるだけで、メアリィちゃんは勝手に踊ってくれるんだって。

 彼女は童話【赤い靴】を履いてたじゃない?

 死ぬまで踊り狂って、死んでも靴は脱げなやしない。

 足を斬りおとしてくれる親切な人はいないわ。

 でも神様は優しいから、何回だってチャンスをあげちゃう。

 きっと結魂指輪の代わりなんだね。

 そこまで想ってくれるヒトがいるなんて、ちょっと妬ましいな……

 でもいつかきっと、私にも運命の日がくるのっ☆

 混沌虚無配信をつづけてたらねっ♪

 だってだって、宇宙から降り注ぐラヴの波動が世界の果てまで届いてるって、私分かるもん♪」

 

 ――ポエット!

 ――あんたもワンダーランドで変わったな

 ――ちょっと赤い靴読んでくる

 

 

 プリケットに向けての微笑ましいコメント群で窓が血文字に染まる中、右上別枠では我関せずといった様子でメアリィ・アンは言葉を続ける。彼女は配信されている事実を知らず、かくあれかしと定められたBiim兄貴リスペクトを繰り返すだけだ。

 

 

『赤い扉の先のこのキッチンで、オレンジママレードをパクってもらいます。はいゲット! 食卓には悪夢霊の死刑執行人ケッチが待ち構えているので、先に死んでおいて一般通過亡者に、なっておこうね!』

 

「ミス・マープルはエルキュール・ポアロに次ぐクリスティ作品の代表的な主人公。

 オレンジママレードが登場した【ポケットにライ麦を】はマザー・グースの童謡をなぞって殺人が起きる、見立て殺人をテーマにした作品なの」

 

「マザーグースは不思議の国のアリスや鏡の国のアリスにも引用されてるよっ♪」

 

「かの童謡はメアリィ・スーの素材の窓口を大いに広げたわ。

 童話を堪能したら似たようなものを読みたくなる。だから童謡へも食指が動き、更にそれらをリスペクトした作品群にも魔の手を伸ばした……でも私でさえ全にして一なる製造レシピを把握しているわけではないわ。ワンダーランドという箱庭構造を活用された所為でね」

 

 ――は~……あんたにも知らないことがあんのか。ワンダーランドすげえのな

 ――詳細教えてくれよー頼むよー

 ――ビルちゃん……どうして……

 ――失望しているようだな。尻を貸そう

 ――やっぱりホモばかりじゃないか! まともなのは僕だけか! こんなところにいられるか! 家に帰らせてもらう!

 

『昇降機降りて……燻りの森について直ぐにある藁の中から糞団子を拾ってくれます。

 ポジ昏睡アイテム三種の神器まで後一つですね。

 サーッ!(迫真)

 って感じでね。

 おまたせ!アイスティーしかなかったんだけどいいかな?

 って感じでね。ベルマンをホモコロリしちゃいますんで』

 

 ――っ! ビルちゃん! お前のことが好きだったんだよ!

 ――ミームが感染したか。申し訳ないがホモNTRはNG

 ――ビルの出番は消えたんだ。いくら呼んでも帰っては来ないんだ。もう良い眺めの時間は終わって、君も混沌ダンジョンと向き合う時なんだ

 

 

 燻りの森は自然豊かな古都イザリスといった様相をした土地だ。ただしマグマの中を進む必要は無く、地続きに進むべき道が続いている。メアリィ・スーの素材元が必ずしも童話だけではなかったという証明のひとつであり……ロストエンパイアにおいて出番のなかったそれらを大いに引用したであろうニャルラトホテプの創造力の拙さ、あるいはジャバウォックが何らかの形で介入したことを察しうる一帯だ。

 

 

 ――魔王様……どうして我々を捨てたのですか……

 ――つーかこのへんの連中はどこの神話生物だ? ぜんっぜん知らねぇ連中ばっかだぞ?

 

「この辺の雑魚はジャバウォックの詩に登場するモブに下等な神話生物が融合失敗した慣れの果てね」

 

「森は森でも、胞子の森とはぜんぜん違うんだねっ☆」

 

『あそこに見えるのは童話【かちかち山】のタヌキさんだねっ。昔話だけどアレ祈り主から童話おっぶぇ! テメェボクの話の邪魔してんじゃねぇよ! おじさんナイス回避♡ 駆けぬけろ!』

 

「さて、そろそろチェシャ猫から貰った見えざる胡椒の使い時よ。

 フフッ……でもそのソウル傾向で、果たして使ってくれるかしら?」

 

「ガバかな?」

 

「ガバよ」

 

『はい篝火。ぼんふぁいやー! 次に待ちうけるのは燻りの森の霧ボスであるバンダースナッチですが、アホなので見えざる胡椒を使えばスルー出来ます……スルー出来ます……見えざる胡椒を使えば』

 

 ――ん?

 ――流れ変わったな

 ――おや、緑髪のアンの様子が……!?

 

『まだ大丈夫。直前に助言もあるし。アレ見たら使うでしょ? 使え。

 おい……おい! 聞けよ!』

 

 ――滑稽

 ――わからなくなってきました

 

「わくわくっ☆」

 

『うんいまヤバイやつドバーッって出てきたよね?

 胡椒使え?

 危ないぞー?

 死にたいの?

 おいやめろ。

 おい。おい!』

 

 ――※このコメントは規制されています※

 

「おさけおさけおさけ~♪」

 

 

 ザバーン。

 と飛び出す燻り狂えるバンダースナッチが溶岩から飛び出した瞬間、メアリィ・アンの今日一番の顔面崩壊が窓枠一杯に映った。

 

 

『あああぁァァアアアあああああああァアああああアアあああああぁあアぁああらめぇぇえええええぇぇぇぇぇっぇえええいっちゃらめぇええええええェェェエエエエエエえええらめなのぉぉおおおおおお!?!?!?!?」

 

 ――Yes! もっと見セロ! ガバ顔見セロ! 顔面崩壊シロ! ザマァ見やがれってんダッ! この緑髪野郎ッ!

 ――これにはピノキオくんもニッコリ

 ――鼻が伸びる余地なし

 

「何時観てもおもろーだねっ☆彡

 メアリィちゃん輝いてるよっ♪」

 

「クスクスッ……♪ 予測可能回避不可能というやつね」

 

 ――んー……たぶん、ンラス=ゴル、か? なんであんなアバターに……っつーか変だな。むしろアバターに着せられた感あるぞ

 ――よくわかんねーけど不思議の国ならしょーがない

 ――ワンダーランド万能説。

 

 

 その後再び右上隅にズームアウトしていくメアリィ・アンは、恨み節をたっぷりこめて挑発することでおじさんに見えざる胡椒を使わせ、燻り狂えるバンダースナッチの目を欺かせることに成功する。だがメアリィの頬は高潮し、およそ正気とは思えない(これは元からだが)

 しかし繰り返し『あの場所に行きさえすれば』と繰り返すさまはどこか病的な拘りがあるような印象を与えた。

 

 

「ねーねーメイちゃんっ☆

 メアリィちゃんが言ってるあの場所ってどこ?」

 

「すぐにわかることだけれど、さてどこだと思う?

 ウフフ……」

 

「ぷっぷくぷーっ。

 じゃあまたみんなで当てっこしようよ☆

 あの場所ってどーこだっ?」

 

 ――普通に屠殺場ってとこじゃね?

 ――そこのどこかって話だろ

 ――隠し扉的な?

 ――ここは満員だ。入ることはできね-ぜ。予約はずっと先まで満室だ。

 ――むしろそこ行ったらなにかあんの?

 ――つまりこうだ。屠殺場で成功率の低いショートカット。

 ――ねーよ

 ――鐘が鳴っている! 鐘を鳴らす女は殺せ! 手遅れになっても知らんぞ! 

 

 

 議論は踊り、されど進まず。その間も[見えない体]を取得したおじさんは黙々と駆け続ける。いかなる視覚効果か、彼は映像において半透明となり、半魚人どもに見えずとも観測者には姿を半ば見せていた。やがてビリングズゲート魚市場の篝火に到達し……メアリィ・アンの言うあの場所とはここだと判明する。

 

 

『ついたぁ! ぼんふぁいあっ!

 ここで祈ります。祈祷力が試される!

 リンゴの指輪について言及したら黙りましょう。

 上手くいけばクリア。失敗すればリセです。

 NEW GAME開始前の64周の間にあった思い出をこーいい感じに回想してもらって……乱数調整が完璧でも成功率はおよそ6割。だからここまで続行する必要が、あったんですね」

 

 ――それ乱数調整ちゃんとできてないんじゃ……

 

「今回のガバが良い様に作用すればお釣りが来ますが……来い来い来い来い来い!!』

 

「んー? わっかんにゃいなぁ☆ミ

 こんなところで何するの?」

 

「歯車バグ」

 

「歯車バグ?」

 

「あるいは歯車ショトカというべきかしら?

 長官(チーフ)モード限定のバグで、狂気の歯車を脱輪させるものなのだけれど……詳細はギアチェンジした後に語りましょう。

 まあ見てなさい」

 

 

 篝火から立ち上がったおじさんは、あきらかに正体をなくしている様子であった。否。逆だ。素面となり我に返りつつあるといった様子であった。メアリィ・アンの意図が分からないといったようなコメントが散見される。

 

 彼が篝火に何を見出したのか?

 映像を見る限りでは何も分からない。

 

 レザーフェイスでも出現し、チェーンソーを持って暴れまわり実走者をフックに引っ掛けてきそうな冷凍アパートを道なりに走るおじさんの駆け足は、階段を降りるころになると歩みに変わっていた。

 

 

『よしよしよしよし歩いてる歩いてる!

 成功かな? 成功してろっ!

 篝火からの立ち上がりが予定より断然速い! 死ねばタイムが縮むのかなあ?

 バンスナに殺されたのがよかったのかも……収支プラスじゃない!?

 次走のためにもちゃーんとチャートに書き加えておきましょーねー』

 

 ――再走のことを忘れないチルドレンの鑑

 ――チルドレンとしては発言がやや邪悪ですね。精神病棟自我科で自我研修だ!

 

 

 階段を降り切り、狭く長い直線通路を歩くおじさん。観測視点はゲイのサディストであるかのように執拗に彼の背や尻を追いかけているためその表情は窺えない。

 

 だがその先にある助言を見た瞬間……何かが弾けたかのように硬直し、そして走り出す。

 

 

『キタキタキタ―――(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)―――!!』

 

 ――すげぇ顔動かしてる。

 ――殴りテェ……!

 ――意味分からんね。解説はよ

 

「歯車バグについて説明するには、彼のソウルを最も簡略化した例をあげて説明しましょう。

 まず、五桁の十六進数、を、思い浮かべなさい。

 それが私が最小限に表現出来る、最小単位なの。

 十六進数はお分かり?」

 

「えっと、ぜろわんつーすりーふぉーふぁいぶしっくすせぶんえいとないん、の次がえーびーしーでぃーいーえふ、その次がやっと10になるやつでしょ?」

 

「正解。00000からFFFFFまで、百四万八千五百七十五通りの英数字。

 細かいことは全部脇においといて、仮にその組み合わせによって表に出る人格が微妙に変化すると考えて見て頂戴。そのうちの四万から五万通りは、自我すら定かではないまっさらな状態なの。不思議なことにね。私にもその原因は分からない。

 ノーデンスは周回毎にこの空白の人格とでも呼ぶべき領域を表層に引き出しているようだけれど、メアリィ・アンもまた独自の調査によってソウル傾向の合間を縫い、空白の人格を引き出したというわけね。

 このような処置を専門用語でソフトリセット、というらしいわ」

 

 ――はえーすっごい。

 ――理解した。ショータイム!

 ――でっていう

 ――なるほど。で、それが何の役に立つ?

 ――↑お前ら仲いいな

 

「ま、これだけなら特に意味はないのよ。

 記憶を忘却するだけ。

 記憶喪失なんて別に珍しくもない。

 ただしおじさんの場合、それによって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 より重要なのは、以後に受ける精神的衝撃や刷り込みの影響が相対的に大きくなり、その内容に応じた乱数(グニキガチャ)を表層に浮かべやすくなるということ」

 

 ――いまのは、エルマ?

 

「それって、乱数調整?」

 

「と、言っていいわね。時間が経つにつれて歯車バグ以前の影響が戻ってきたりと色々あるのだけれど、そのへんは面倒くさいから割愛するわ。おしゃけおしゃけ」

 

 

 メイベルが長々と解説する合間に緑髪のアンは自慢げに己の功績を語っていたが誰も聞いてなかった。屠殺場を巡っていたおじさんは篝火へとたどり着き、チェシャ猫の話を聞き流しつつリンゴの指輪を手に入れている。

 

 

『しょうがねぇなぁ……じゃあ俺が勃たせてやるか!

 チェシャ猫が童話【子どもたちが屠殺ごっこをした話2】をしてくれるおかげで初期素性にはない隠し素性のひとつである探偵になります。うっそ~♪ 正しくは自分が探偵だと思い込んでる精神異常者だねっ! きゃひひっ!

 それはそれとしてボクはこの屠殺ごっこの童話が好きでねぇ! きゃひひひあはあははっ! どぉーしてグリム童話第二版以降から削除されちゃったかなぁ? 納得いかないよっ! こんなにおんもしろいのにっ!』

 

 ――あおーんっ!(憤慨)

 ――頭がズキズキしやがる……この…………嘘吐きめ………ッ!

 

「ほんとメアリィちゃんは性格悪いなぁ☆ミ

 そこが面白いんだけどっ♪」

 

 ――あー確かにこのドヤ顔ムカつくな。曇らせて嗤ってやりたい

 ――畜生……次のガバはマダなのかヨッ!

 

「喋りすぎて疲れたわ。ちょっと休憩させて頂戴」

 

 

 メイベルは勝手にそこで指を鳴らし、映像を静止させて一区切りいれた。

 そして黄金の蜂蜜酒を呷って渇きを癒しつつ、流星群の如く流れる血文字の境から窓の向こう側を見つめようとする。

 窓は鑑のように反射して、室内にある大きなのっぽの古時計が見せた。

 彼女はあざとくオルゴール調にそのBGMを流し、銀の杯から唇を離して嘆息する。

 

 今はまだ、その時ではないらしい。

 時間の問題ではあるが、問題はそれがいつかということだ。

 

 

 

 








 補足

 やあ、釣れているかい?
 僕は釣り人
 右から左へ流れていくのは多種多様な言語のパレードなのだけれど
 ほんやくかの頭を通して言語統一されているのは地の文に書いたよね?
 彼は己のほんやく能力を憎んでいるだろうか?
 不思議の国の不思議なリクツでどんな動物の言葉でも分かるのは、平和なワンダーランドだったらさぞ楽しそうだけれど……ないものねだりがすぎるよね。

 そのほんやく作業の終わりを告げる夜明けは来ない。

 波打つドラムロール。
 灰のカーテン。
 そして再びパレードだ。

 アリスを釣り出す事ができれば終わりは来るのに――


 

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