ユウナたちの件がないバージョンも完成できたので、別件として投稿しました。
今後どっちで進めるかは検討中です。
オーブ沖での戦闘が終結した当日の夜に行われた、オーブからの声明を妨害するかのような『プラントのラクス・クライン』からの発信、その発信を途中から否定するように発せられた『オーブ擁護のラクス・クライン』
そして突然に現れた2人のラクス・クラインたちについて明かされたデュランダル議長からの『ラクスたちの出生秘話』
あまりにも短時間の内に連続して放たれた情報の爆弾投下と、その爆発を制御するように放たれる情報のアンチ爆弾の放ち合い。
それらを耳にした誰もが、どれが本当で、誰が正しく、なにが真実なのか?――と近くにいた者たち同士で疑問と疑問をぶつけ合い、答えの出るはずのない問答を繰り返すことしかできなくなった状態で夜は更けて朝になり、混乱は翌日に持ち越されて次の日にも続いていき・・・・・・衝撃発表の連続だった日から数日が経った頃。
既にプラント本国へと戻っていた議長ギルバート・デュランダルは、表面こそ普段と変わらぬものの内心では焦りを感じ始めていた。
地球を脱して月基地の地球軍と合流したロード・ジブリールが、その後なんの動きも見せぬまま、完全に沈黙を決め込んでしまっていることが、その焦りの原因だった。
「議長、艦隊司令部から発進準備完了との報告がありました。いつでも出航は可能です」
「ああ、ありがとう。状況変化に対応できるよう、こちらも急ぎ《メサイア》へ上がろう。
――その後、月の連合軍に動きは?」
「いえ、報告部隊からは今のところ何も」
「そうか・・・・・・」
何気ない口調と表情での問いかけに、秘書官から返された不本意な返答。
まったく! ジブリールはなにをグズグズしているのだろう?
これでは折角、月の地球軍と合流させてやった意味がない――彼としては声に出さず、そう罵らずにはいられない。
後半まではほぼ予定通りに事態が進行していた計画表が、終盤に来てから思いがけないアクシデントの続発によって厄介な事態になりつつある。
まず、ヘブンズベースでの思いがけぬ攻略失敗があった。
次いでフリーダム――キラ・ヤマトの生還、オーブを陥とせなかったこと、予期せぬタイミングでラクス・クラインが現れたこと。
本物のラクス・クラインから『自分を支持していない』と声明を出されたときには、大衆好みのゴシップに混ぜ返すことで何とか切り抜けることができたが、その効果も日を追うごとに薄まっているのを肌で実感させられる昨今になりつつある。
たしかにラクス・クラインは、公の立場としては亡き政治家の娘でしかなく、自分自身がなにかの政策や戦略を実行させて成功した実績があるという訳でもない。
合理主義者のタリアなどからは、『自分たちの上官はラクスではない』とでも評するかもしれない。その程度の存在。少なくとも公的身分としては、そうなっている。
だが、そうではない。違うのだ。
結局のところ人々は、『自分たちが信じて愛好する存在』に従うことを望むものだった。
過去の歴史がそれを証明している。
仮にデュランダルが選挙で敗れて議長でなくなった後、ザフト軍兵士の多くは自分の命令に従うだろうか?
では、父親の政治家が亡くなった後である今のラクス・クラインは?・・・・・・それが答えだろう。
近代以降の軍隊は、民衆たち出身の兵士たちで構成されている。民衆から好かれない指導者は、軍隊からも支持を得られず、やがて命令にも従ってくれなくなる。
政治というものが上意下達の結果でしかない社会しか知らぬ者や、軍隊とは民衆たちの事なのだという事実を認識できない者達には、それが分からない。
元々ギルバート・デュランダルという政治家の弱点は、自分個人の勢力や基盤がないことだった。
パトリック・ザラの《ザラ派》や、シーゲル・クラインの《クライン派》あるいはジブリール率いるブルーコスモスも、彼ら個人個人がもつ勢力であり政治基盤と言っていい。
前政権首班だったカナーバから、後継の指名を受けただけのデュランダルにはそれがない。なかった。だから当初は前大戦のアイドル・ラクスの後ろ盾が必要だったのだ。
その後に自身の実績を積み続け、今では確固たる《デュランダル派》とも呼ぶべき独自の勢力と支持基盤を築き上げることに成功することができている。
・・・・・・いるのだが、戦乱の混乱と敵の悪辣さを利用して急速に築き上げた基盤は、やはり脆い。
民衆の不安と不信は、自分を次の選挙で落選させる危険性を徐々に熟成しつつある。
プラント議長という職を失えば、ザフト軍を動かして“プラン”実現のために戦わせられる合法的権力を失うことに繋がる。
この状況を打破するためにも、デュランダルには『戦い』か『悪行』が必要だった。自分たちの『敵が犯す悪行』が。
だからこそジブリールを敢えて逃がす計画を立てたのだ。
(時間さえかければ、ジブリールは必ずや“アレ”を使う。
使わずにはいられないのが、彼の『運命』である以上、撃たずにいられる時間は多くない。だが、このままでは・・・・・・)
“アレ”が完成し、手元に確保してしまった以上、ジブリールは必ず先手を取って使ってくる。その確信がデュランダルにはある。
その一発さえ撃たせてしまえば、その攻撃でプラント市民かザフト軍に多数の犠牲者が出ただけで、情勢は一気にヘブンズベース以前の頃へと逆戻りさせることが可能になるだろう。
世論は再び『ロゴス憎し』『ジブリール憎し』で沸騰し、ザフト軍は『ブルーコスモスの脅威から祖国を守る』という目的によって一つになり、祖国防衛のため自分の指揮下で戦いに望むことが可能にできるのだ。
だからこそデュランダルは、今は敵が動き出すのを待つべきと判断していた。
他者からすれば面倒なだけの段取りに見えるだろうが、制度化された独裁者ではないデュランダルには、手順を踏まざるを得ない必要がある。
民主国家であるプラントの制度が、今ばかりはデュランダルにとっては疎ましい・・・・・・
そんな焦燥の中で虚しく日を送っていたデュランダルのもとに、彼にとっての吉報がもたらされる事になる。
プラント付近の宙域――とはいえ、防衛警戒エリアには距離がある位置にて、連合艦隊と巨大な物体が確認されたという報告がもたらされたのだ。
「一二宙域に妙な動きだと? 連合軍の部隊によるものか?」
「はい、オニール型コロニーが連合艦隊を鱗形陣に配した護衛の陣容を整えさせた状態で、プラントへ向けて少しずつ動いているとの事です」
それは月面に籠城し続けている連合軍からの離反勢力――呼称として『連合軍』と呼んでいるが事実上の『ロゴス軍』あるいは『ブルーコスモス軍』――への投降呼びかけと、応じぬ時には攻略作戦を仕掛けるための前線基地となる機動要塞メサイアに到着した、その翌日のことだった。
知らぬ者が聞けば奇妙としか言いようのない報告の内容に、デュランダルは内心で「ホッ」と安堵で胸をなで下ろしながら、表面的には深刻な表情を崩さぬまま秘書官への確認を続ける。
「もっとも、プラントを直接攻撃できるような距離ではなく、防衛警戒エリア外での移動でしたので反応と対応が遅れてしまったようですが・・・・・・念のため、ジュール隊とチャニス隊を出動させて警戒に当たらせました。まもなく護衛艦隊と接触している頃合いのはずです」
「しかし、旧式のコロニーなどを使って、彼らは何をする気でいるのだ? それもこんな場所で何をしようとしている?」
「わかりません。なんらかの拠点を、プラント攻略の前線基地として設営する気なのかもしれませんが、情報が不足していますので・・・・・・」
「ふむ・・・・・・」
秘書官と共に困惑した表情を浮かべて“見せながら”、デュランダルは満足できる結果に頷いてから念のため、この件での報告を最優先にするよう言い含めたうえで相手を下がらせる。
そうだ。これでいい――指揮シートにもたれかかりながら、デュランダルはそう思った。
こうなる結果そのものは予測できていることだった。如何に連合の新司令が手強い相手だろうと、オモチャを手に入れた子供の欲望をいつまでの抑え続けられるものではない。
いずれはトップに立つジブリールの我慢も限界に達して、自分の予測した範囲内で“アレ”を使ってくることだけは確実だったのだ。
只それが、何時になるのか? 何時まで待たされねばならないのか? それだけが重要視すべき難題だった。
早い分に越したことはないが、あまりにも遅ければ、月の地球軍を放置し続けることが問題にならざるを得ない。
仮にそうなったとしても同じような結果に至らせることは不可能ではないが、成功率は大きく低下するのは避けられない。
現状での“アレ”は、そこまで完璧な仕上がりとして完成できるだけの技術力がもてていない。
地球の同盟者が密かに研究させている新技術を用いれば別かもしれなかったが、ナチュラルの軍隊である連合軍用としては今の性能が精一杯だろうし、あまり強くなられすぎては敵である自分が困る。
出来れば、この戦乱の中で最終局面としてアレを手に入れ、本来の使用方法で用いれる状況まで持って行きたかった。
余計な横やりが入る前に、戦乱の終局まで駒を進めておきたい想いもあるのだ。
敵も、味方も、第三勢力にあたる者達さえ。
彼らは自分の思惑どおりに踊ってくれさえすれば、それでいいのだから。
いま現在、きっと月で有頂天になっているであろう“あの男”と同じように誰しもが――
・・・・・・だが・・・・・・
「――しかし、完全に私の読んだとおりの動きという点だけは少々気になる・・・。敵の新司令が、そこまで無能な相手ではなかったはず・・・・・・それなのに何故・・・?」
その疑問を抱かされながら、現に自分の予定したとおりに事が進んでいく状況を前にして変更する決心が付かないまま、デュランダルは僅かな不安を胸に感じつつも事態の進行を見守る道を選択することになる。
だが、どれほど彼が事態を先読みし、敵を侮蔑しながらも敵将を過小評価しようとはせず、自らの戦略を絶対視することなく有事の際に備える慎重さを有していたとしても。
どこまでいっても彼の思考は、ジブリールのように『殺させる側』の主張ではなかったが、『死なせる側』の主張だったことに違いはなかった。
ジブリールや地球軍は、自分たちの目的達成のため『多くの民衆たち』を虐殺しようとしていたが、それを知りながら『民衆たちの犠牲』を自分の目的達成のために利用するため見逃そうと計画している。
民衆たちを『生贄』にして、自分たちが望む世界を現実のものとする――その点でデュランダルとジブリールには、何の違いもありはしない。
その行為の結果として、『生まれる世界だけ』が異なる、同じ行為を望む者たち同士のぶつかり合い。
敵と味方のどちら共が、同じ作戦を“途中までは”成功させるために軍隊と軍隊をぶつけ合う、今次大戦でさえ最も歪で希少な戦いが始まろうとしている事実を、ほとんど両軍兵士たちは知るよしもなかった―――。
後世において、この時代の人々は一つの社会的疾患を問題視していたという。
『社会は公正ではない。世の中は不公平だ』
と言うのがソレである。
資源の枯渇からくる富の分配の不平等。地位階級によって左右される命の重さ。
平等でもなければ公平でもない社会で生きていくため、人々は内部ストレスによる圧力を感じさせられながら生活している。
このような状況下の仲で戦乱がおこれば、人々が日々抱き続けてきた不平や不満が爆発して、憎しみと憎悪の悪感情がマグマのように溢れ出して全てを焼き尽くすのは自然な流れである、と。
その説に従えば、たしかにC.E.73の世界は不公平であり不平等な社会だったと言えるだろう。
『誰もが平和に暮らせる未来の世界』を築くために必要な犠牲を出させるため。
『一定量以上の犠牲を出させること』を望んでいる敵の作戦を「阻止するため」ザフト軍への出撃と戦闘命令が出されていた、本国に近い後方の移動式要塞。
後方にある要塞から出撃を命じられた兵士たちが、敵を倒すため赴かされた遙か前方にある場所は、現在進行形で人と人が殺し合う血生臭い戦場“ではなかった”からである。
いつの時代の戦争だろうと、本国のお偉方から命令された兵士たちが出撃させられていく遙か前方にある場所は、戦場では決してない。
後方にある本国から遠く、遙か前方にあるものは、何時の時代も一つだけ。
『敵の司令部』であり、対立する勢力の後方こそが、本国から遙か前方にある『もう一つの後方』でしかない事実は、全ての時代の戦争で変わることは決して出来ないのだから。
そして今の時代、現在の戦闘における敵の後方司令部に当たる場所の名は、《地球軍月面基地ダイダロス》と駐留する兵士たちからは呼ばれていた。
『《グノー》、予定ポイントまであと20分です』
『《レクイエム》、ジェレネーター稼働率85パーセント』
『23番から55番、臨界』
レアメタル採掘基地として建設され、プラント攻略のための拠点《アルザッヘル基地》を機能させるための支援拠点だったこの場所の地下オペレーションルームでは今、大勢の兵士たちが忙しく動き回り、作戦成功のための報告と応答の声が飛び交わされている。
それは現在、プラントに向けて接近させている移動中の旧型コロニー《グノー》の機動と、今ひとつの“装置”を連動させて使用するためのものだ。
『パワーフロー良好、超鏡面リフレクター臨界偏差3129』
『予備冷却系GRを起動。バイパス接続』
『《グノー》、減速用ブースター、テスト。問題なし』
慌ただしく指示を出し合いながら、一方で彼らの言動には悲壮さがなく、どこかしら証券取引所の喧噪と混乱を彷彿とさせるものがある。
一見すると混沌として見えながら、その実ルールを知る者たち同士でだけ通用する一定の秩序があり、無秩序なカオスとは程遠い落ち着き払った忙しなさ――そんな矛盾を感じさせられる。そんな光景。
その場所で交わされている、彼らのコールを聞けば分かるように、基地司令部の機能の大半はコロニー操作の方に回されており、残りの過半は装置の起動に従事するよう配されている。
これは彼ら地球軍が切り札として用いる作戦を遂に発動させた、超兵器を使用するため技術レベルで必須となる条件だった。
異なる複数の装置を連動させて使用される、その特殊な機構を実現するため彼らはコンマ01の誤差すら起きないよう綿密な計算と、スケジュールに基づいた作業の遂行が求められていたのである。
冷静な喧噪に満ちた作戦を実行させているのは、兵士たちがひしめくオペレーションルームを、上部に設置された司令ブースから見下ろしている色白の優男。
「フンッ!・・・デュランダルめ。我らを世界から孤立させ、追い込んだつもりでいるのだろうが、実際にはそうではないのだと教えてやる」
ロード・ジブリール。
思想結社ブルーコスモスの現盟主。
あくまで立場だけを評価すればだが、ギルバート・デュランダルが持っていない全てのものを持ち続けることが出来ている男が、今回の作戦始動の指示と許可を出している人物だった。
大西洋連邦という大国への支配力を《ロゴス》の存在暴露によって奪われ、自らが属する巨大企業連合体《ロゴス》のメンバーも半数近くが殺され、ユニウスセブン落下によって得られた市民たちの支持も今やない。
にも関わらず、地球軍兵士たちはジブリールの指示に従い、もとの所属である大西洋連邦政府からのコントロールを脱して、大統領の命令より彼の作戦許可をこそ優先してくれているからだ。
もし仮にデュランダルが彼と同じことが可能であったなら、今のように面倒な手間はかける必要はなかったろう。
前任者の後を継いで後任となった点で、デュランダル議長とジブリールは同じ立場にある者同士でありながら、《ブルーコスモス盟主》という地位に対して忠誠を誓ってくれる彼の方が、その点でだけはデュランダルより遙かに恵まれている立場にあったのは事実である。
「――しかし、あなたは本当に撃つ気だったのですな、コレを」
「・・・・・・ん?」
そんな彼の横合いから水を差すように、むっつりとした陰気な声がかけられる。
自らの傍らにあって、もともとの現場責任者が座る席に座っているままになっている、面長な顔立ちをした初老の将校。
先日に、自らの貴下にあった艦隊の指揮権を奪われた男からのものだった。
「いや失礼。ですが、この基地にお出でになってから今日まで、撃つのを迷われておられたようにお見受けしたもので、つい・・・・・・」
「ハッ、当たり前だろう? そのためにアルザッヘルではなく、わざわざこちらを選んで上がったのだからな。今日まで待っていたのも、撃つために必要だっただけのこと。
持っていれば嬉しいコレクションではないのだ。高い金を払ってまで造ったのは、使う為なのだからな」
声をかけてきたダイダロス基地の基地司令官に向かって、ジブリールは居丈高な口調で切り返す。
この期に及んで尻込みするかに見られていたという事実は、彼にとって思いがけないモノだったので不快さに知らず顔が歪む。
実際その言葉自体に嘘はなく、複数の兵器を同時に連結させて使用する新機軸の超大型兵器である“コレ”は、便利ではあるが問題点も多い代物でもあった。
使用するときには、コロニーを完全に同調させて移動させる必要があるのだ。
コロニーだけが目的地へと早く到着しすぎてしまえば、装置を使用する前にザフト軍によって破壊されてしまうリスクが増大し、作戦開始前に装置を使用可能にしたままでは膨大すぎるエネルギーが暴発する危険度が高まり過ぎてしまう。
使用と同時に、コロニーも目的地への移動を完了させねばならない。
そのためには僅かな計算ミスも、移動の誤差すらも決して許されなかった。
更にはモノが巨大すぎるせいで、使用した後の再使用までの長すぎるチャージ時間が大きな課題となって立ち塞がる。
一撃必殺でなければならないのである。
流石のジブリールでさえ万全を期すため、時間をかけたくなるのも仕方がなかった。
無論のこと、追い詰められているなら話は別になるところだが、今はそうではない。
ラクス・クラインと、“もう一人のラクス・クライン”の一件で、連日デュランダルがやり玉に挙げられているテレビ映像を見物しながら悦に浸って満喫したうえでの一大作戦の始動を発令。
あくまで彼なりにではあるものの、ジブリールは使命感に燃えており、着々と作戦が進行しつつあることを示すパネルを、心躍らせながら経過を見守っている最中だった。
少なくとも彼の中では、『地球を守るため使命感に燃える自分』を心から彼自身は信じていたのだから。
「それは頼もしいお言葉だ。嬉しく思いますよ。
それでこそ我々も懸命に働いた甲斐があるというものです、こんなところでもね」
「ほう?」
そんな彼に基地司令は、追従ではなく本心からの言葉を言ってのけ、意外そうな顔を上司から向けられ、陰気そうな顔に笑みを浮かべる。
「いやなに、最近はなぜか『必要だ』と巨費を投じて造っておきながら、肝心なときに撃てない“心優しい政治家たち”が多いものでね。つい疑問に思ってしまうのですよ。
それでは我々軍人は、いったい何のためにある存在なのか・・・・・・とね」
「フン! 生憎と私はコープラント大統領のような臆病者でも、デュランダルのような夢想家でもない。
理想もよく、平和もよいが、敵の脅威があるときには、撃たなければ守れんだろう。
撃つべき時には撃つさ。――守るために」
「・・・・・・なるほど、ご尤もですな。ご慧眼恐れ入ります」
相手なりの決意を込めた発言を聞かされて、基地司令はほくそ笑むと納得したように何度も頷く。
それが彼ら大西洋連邦に所属していた軍人たちが、自分たちの国や大統領の命令を振り切ってまで、ジブリールのような思想結社のドンに付き従う道を選んでいる理由でもあったからだ。
――現場の人間というものは、多くの場合に『必要性からの強攻策』こそが現実的な解決方法として求めやすい傾向にあり。
それらの使用を『政治的配慮』や『組織秩序と規則』などの理由で規制してくる上層部を無能と見なして、不平不満と反感を募らせていくことは、平時においてすら日常的によくある心理と言っていい。
C.E.の地球軍兵士たちの判断には常に、この心理が影響を及ぼしている者が多数派になって久しい。
現実問題として、いざ開戦して戦争となったら真っ先に矢面に立って、敵の銃口に身をさらさせられるのは彼ら自身である以上、力づくでの国防を担う現場の担当者たちの心情としては。
『政治のゴタゴタを現場に押しつけてくるお役所仕事の官僚共』や、『戦場を知らぬ平和ボケした市民たちの人気取りで戦争を指揮する無能な政府』に愛想を尽かし、もっと効率的で迅速な指示と対応ができる政権の方が優れている―――そう信じたい気持ちになるのも無理からぬもの。
そんな彼らにとって、強攻策への許可を政府に命じて現場に与えさせるジブリールのような存在は、『どんなことをしてでもテロと戦うべき』と信ずる者達にとっては頼れる後ろ盾としてヒーローに見えるのだろう。
――だが一方で。
自分たち『現場のやりたがっている行動』に許可を与えてくれる後ろ盾のヒーローとしては全面的に支持するが、『現場の指揮にまで口を挟んでくるお偉方』としての側面には反発を抱いてしまうのが、彼のような立場にはよくある心理なのも、また事実。
『《グノー》護衛艦隊より敵影発見との報告あり』
『距離、200。急速に接近中』
『約200秒後には戦闘状態に突入すると推測されます』
「艦隊には、コロニー護衛の陣形を崩さないよう命令を徹底してください。敵が来ても、自分からは仕掛けないこと。
出来るだけ引きつけて、母艦の対空砲火や味方機との連携がとれる距離まで近づいてから戦闘を開始するよう、各MS隊には今一度警告を。違反者には勝敗に関係なく厳罰に処す、と」
静かな声で、オペレーションルームの小さな一角から聞こえてくる報告に応答している“異物の混じった景色”が基地司令の視界の端をわずかに穢す。
チラリ――と横目で見やった先に映ったモノは、自分の部下を横取りされた『新米指揮官の青二才』が我が物顔で青臭い指示を下している不愉快な姿だった。
頭髪規定など知らぬとばかりに、長すぎる銀色の髪。
およそ肉体を鍛えているとは思えないほど筋肉の乏しい、小さな矮躯。
セックスアピールで軍服が盛り上がっている、兵士の慰安にだけ使えそうな局部。
その存在を形成している何もかもが、自己の人生の大半を軍隊に捧げてきた基地司令にとっては、許しがたく感じられて仕方のない存在。
そんな彼にとっての“穢らわしいだけの存在”が、自分の傍らに立って、先日まで自分の部下だった艦隊を、自分が司令官を務める基地から指揮している・・・・・・嘆かわしい!!
「下手に迎撃のため突出すると、個別に各個撃破される恐れが高くなるだけです。
立体戦闘の宇宙空間ではOSの動きに制限のある私たちの方が不利。数の優位を生かせる戦いに持ち込めなければ勝ち目はありません。下手なプライドは捨てることですね」
(・・・苦労知らずで生意気なだけの青二才がッ! 自分を何様だと思っておるのだ!?)
つい先日に地上から上がってきたジブリールの懐刀だと紹介された少女指揮官のことを、基地司令はまったく好いていない地球軍士官の一人だった。
別に彼だけの話ではなく、長らく軍に身を置き続けてきた古参の将校にとっては大半の者が同様だったろう。
自分たちの上役の身内で、着任したばかりの若手士官でありながら、着任早々に指揮権を与えられた艦隊指揮官――そんな存在に好意をもって迎えられる現場指揮官などありえるだろうか?
特に基地司令にとっては、基地内に駐留艦隊として配属されていた部隊を指揮権ごと丸々奪い取られて譲渡させられてしまった身。
存在そのものが気にくわないと感じたところで文句を言われる筋合いは一つもない。そのはずだと彼は心に固く信じている。
成る程、地上での戦闘における作戦指揮はなかなかのものだと評価せざるを得ないものがある。教示された新戦術もザフトとの制宙権をめぐる戦いでは有効な成果を上げたのも事実だ。
だが実戦と理論は、やはり異なるものだ。地形や気象条件などが利用できる地上での戦場と宇宙での戦いは勝手が違う。
そこのところを実戦参加の経験もない司令官に正しく理解できるはずもない。その程度の存在に、縁故とコネだけで自分と同格の地位身分階級が与えられてしまっている現状が、基地司令官には耐えがたい屈辱を感じさせられて仕方がなかった。
そんな基地司令官からの悪意ある無言の視線を感じ取ったのか、信任の若造司令官殿はクルリと身体ごと向きを変え、相手を横目に見ていた自分と向き合う姿勢になった後。
―――文句でもあるのか? あるなら言ってみろ―――
そんな風に年甲斐もなく、喧嘩腰の態度を心の中だけとは言え取ってしまっていた自分の座す方に向かい、
「・・・すいません、喉が渇いたので飲み物を持ってきてもらえますか?
私の分は紅茶のアールグレイに砂糖少なめで。ジブリールさんは、基地内に常備されてる高級茶葉の中ではミントティーが好みには合っていた――で良かったんでしたよね? たしか」
声をかけられた背後から、「ハッ!すぐにお持ちしますっ」と駆けだしていく下士官の応答と足音が去って行くのが聞こえてきて、基地司令官はなんとも言えない表情のまま無言のうちに指揮シートに深く座り直すしかない。
「ふむ。自分の分だけでなく、私の分も頼んでくれるとは気が利くねセレニア君。それに私の好みまで、よく覚えていたものだ」
「商売柄の癖みたいなものです。父が存命だったときに家にいた頃は、供応接待ばかりやらされてたので自然に身についてしまいまして。
基地司令殿も如何です? 作戦開始からそれなりに経ちました。ザフト軍迎撃部隊との戦闘も、もう少しで始まりそうですし、最後の喉を湿らせておくのも悪くないのではと」
「・・・・・・・・・ご相伴に与りましょう。気遣いに感謝しますよ、艦隊司令殿」
視線と言葉に皮肉のトゲを張り巡らせながら好意を受け入れた基地司令の分も追加で注文し直しながら、セレニアは心の中だけで肩をすくめる。
(・・・こんな対ザフト戦線における脇役基地でしかないところに、司令官として左遷らせられて手柄を立てる機会もろくに得られなかった恨みと僻みを、私にぶつけられても困ることしか出来ないんですけどね・・・・・・)
と、内心で基地司令官の言葉の内容と、そこに込められていた意味合いとを正確に理解しながら、理解したからこそ口にせずに黙ってやり過ごす気遣いを発揮してやりながら。
――軍を率いる総帥が『運命』を理由のために、敵対する軍を率いる総帥が『計画予定表』を実行するために行われた、『完全な失敗を敵味方共に望んでいなかった作戦』のために二つの軍がぶつかり合おうとしている戦場予定場。
その場所は、たとえデュランダル議長が『運命のプラン』を実現に至らせる作戦の成否について、懸念を抱く思いが本物だったとしても。
彼のプランには記されていない『運命』というものに振り回され、逆に切り開いている者達が無数に存在している場所でもあった事実を、彼はどこまで認識していただろうか?
それはデュランダルにも決めることが出来ない運命。
そのプラン実現のための戦いで――『いつ誰が死ぬか?』という、最前線で戦う兵士たちの生き死にを決める運命の予定表が、気まぐれな女神が転がすサイコロによってだけ決められてしまう場所だったから・・・・・・。
「チッ! 報告どおり、けっこうな数だな!」
イザーク・ジュールは母艦から発進して、太陽光を受けて光る超巨大な建造物と、それを守るように配置されて整然と並ぶ敵艦隊を目にした瞬間、思わず舌打ちせずにはいられなかった。
目前に浮かび上がり、ゆっくりとした速度でプラントへ向かって移動している超巨大な物体は、旧式のスペースコロニーだった。
直径六キロメートルにも及ぶ円筒の形状をした、宇宙に浮かぶ超巨大な銀色のリング。それが今から自分たちが攻撃して、接近を阻止しなければならない標的だった。
これほどの巨大建造物ともなれば、護衛する側にも相当の数が必須にならざるを得ない。
彼が率いる部隊がコロニー破砕任務にあたるのは二度目だが、明らかに護衛部隊の数は前回の時とは比較にならないほどの大兵力とみて間違いなかった。
まったく! 本国のボンクラ共はなにを呆けていたのか!?
レーダーなどの測敵装置がアテにならなくなった今日の戦場とはいえ――いや、だからこそ索敵は厳にしなければならないというのに、これほどのデカブツを今日まで見落とすとは職務怠慢にもほどがあった。
「本国から見れば、プラントを叩くには遠すぎる位置とはいえ、近づいているのがコロニーならば護衛艦隊の数はどれほどのものか、考えればバカでも分かるだろうに!!
揃いも揃ってボンクラばかりが雁首を並べおって! 後始末する方の身にもなれ! コレだけの数を俺たちは、たった二部隊だけで倒さねばならんのか!?」
『ああ、今回ばかりはオレも全く以て同感。今度あったときにでも、お偉方の顔に一発たたき込んどいてくれよ。オレたち下っ端には無理だからさ、隊長殿』
「ふざけるな! やりたければ貴様がやれ! 都合のいいときだけ隊長扱いするなッ!!」
自機として新たに受領された《グフ・イグナイテッド》の、すぐ斜め後ろを追従してくるダークグレイの《ザク・ファントム》を与えられた部下で戦友のディアッカ・エルスマンに茶化された返事で混ぜっ返され、不機嫌そうにイザークは応じて怒りの矛先を逸らさせる。
どうにもコントロールされている感がある対応なのは不満だが、相手は相手で状況の厄介さは言われずとも理解しているらしい。
『けど、いったい何故こんなところに、こんなデカブツを運んできたんだ? ユニウスセブンの時と違って《メテオ・ブレイカー》ないゼ、今のオレたち』
「さあな! それぐらい自分で考えろ! 少なくとも、有効使節じゃないことだけは確かだからな」
鋭い目つきで敵護衛部隊を眺めやりながらイザークは答える。
モニター上に映し出された、前方に展開している護衛部隊の数はかなりのもので、艦隊からはモビルスーツ隊の発進も確認されているが、自分たちの方へ向かってくる様子もなく、こちらの攻撃を待ち構えるようにコロニー護衛の陣形を崩そうとしない。
今までであれば、発見された途端に動きを阻止するため、真っ直ぐこちらへ向かってきたものだったが、地球上空で制宙権を奪い返されたときの戦いから敵の動きには、明らかな変化が見て取れていた。
感情に逸ることなく統制され、先手を取って強襲してくるより、味方と連携して少しでも数の優位を生かせる戦い方をするよう徹底された戦法が、今の地球軍の新たな戦い方になっている。
「いいか!? 後詰めとしてヒル隊が増援に派遣されたからと油断して、抜かれるなよ!
今までの奴らと同じと思って侮るな、後がないと思って挑めッ!!」
『了解ッ!!』
隊長であり部隊内最強のエースでもあるイザークの叫びにディアッカが応え、ザフト軍部隊からの先制攻撃によって戦いの幕が切って落とされることになる。
ペールブルーにカラーリングされたイザークの《グフ・イグナイテッド》が地球上でも飛行可能な機動力を生かして虚空ごと敵機を切り裂き。
ディアッカの《ブレイズ・ザク・ファントム》がミサイルポッドを開いて弾頭を撒き散らしながら火花を散らす。
彼らの部隊は、地球軌道上における連合艦隊との戦いにおいて、唯一の勝ちを収めることができたはずの部隊だった。
とはいえ勝っているのが自分たちだけでは、どうする事もできなかったため結局は被害を抑えるため殿を担い、他部隊と共に撤退するしかなかった苦い記憶が焼き付いている。
今回の戦いは、いわば彼らにとって雪辱戦だ。今度こそ勝利で終わらせるため、エース2機は縦横無尽の活躍ぶりを示しているが、敵も中々に手強い。
「チィッ! こいつ、またかッ!!」
――グォン!
猛スピードで真横にある空間を突っ切っていく巨大な移動物体、連合軍の新型巨大MA《ゲルズゲー》
陽電子リフレクターでビームによるシールドを発生させながら、ただ高速で突っ込んで突撃してくる攻撃を回避した直後に、数機だけとはいえ遠距離の配置されたままの位置から《ザムザザー》が巨大なビーム砲が襲いかかるっ。
更にはMA群の周囲に艦載機のように配されていた通常タイプの旧式MA《メビウス》の部隊が、弾幕を張るようにミサイルの雨を降り注がせてくるという徹底ぶり。
現在の戦場で核ミサイルを装填しているわけでもない旧型MAの大量投入など、戦争博物館かと見まがう程度の脅威度しかない存在だったが、時間稼ぎとしてなら現役の戦法にはなれることを証明されているようなものだった。
ノスタルジーへの再評価はイザークの趣味には合うものではあったが、その証明作業にかり出される“やられ役”として出演させられるのは不愉快でしかない。
「クソッ! こいつら・・・コッチの射程をよく調べてきている! 手強いッ!!」
『ああ、まったくな! 宇宙用の高火力量産型MS開発でも上申しとくべきだったゼ!』
イザークとディアッカが、同じような理由と戦い方でコロニーへの接近を防がれつつも回避軌道を取って距離をとりながら、ほぼ同時に舌打ちする音を通信回線に響かせ合う。
現在のザフト軍量産型MSにおいて、最も高性能な機体はイザークが受領したばかりの《グフ・イグナイテッド》であり、次いでディアッカの駆る《ザク・ファントム》が現時点では2トップを飾っている。
両機ともに機動力に優れた高性能MSではあるものの、中距離までの射撃武装しかもたない火力不足が否めないのが難点になっている機体でもあったことが、舌打ちの原因だった。
パイロット能力が活かせる機体性能はコーディネイターが操るのには向いていたのだが、こと今のような戦場においては不利な条件にならざるを得ない欠点にもなっていたのだ。
《グフ》に関しては、ザフト軍量産型MSでは初めて重力下での飛行移動中の接近格闘戦をも可能にした出力の高さと機動性は、それまで《ザク》が最高性能だった地上軍にとって十分な価値と戦略的意義を発揮してくれた機体ではあったものの、宇宙空間での戦闘では長所を大部分失わされたようなもの。
噂では、火力面を強化した新型の量産機が開発中だとのことだったが、その後もグフを回されてきたところから見て噂に過ぎなかったか、開発に失敗したかのいずれかか・・・・・・どちらにしろ現状では無い物ねだりにしかなりようがない。
挙げ句、敵MS部隊は最初の突入時に自分から切り込んでいったもの以外は、イザークにもディアッカの周りにも一機たりと寄ってこないとくる。
「あいつら、また! 俺たち以外ばかり狙ってくるとは!!」
背後を映し出すモニターの一つを見下ろしてイザークは激しく舌打ちを響かせる。
コロニーを目指して一目散に向かおうとする彼やディアッカに対してはMA隊ばかりが迎撃に当たってくるのとは反比例して、敵MS隊はグリーンノーマルスーツをまとった一般兵の量産型MSだけを担当する極端な分業制での戦闘を仕掛けられてきていた。
対ミネルバ戦略に見られるように、連合軍のザフト軍対策は『全体の中核をなしている少数のエースを倒すことで全体の動きをも抑止させる』という、優秀だが数は少ない少数部隊に精鋭をぶつける方針が多く採用されるものだったが――セレニアの方針は真逆のものだ。
「敵MS隊の中で、他の者達とカラーリングの異なる少数の機体はエースです。まともに戦って勝てる人は多くないでしょう、大抵は負けます。無駄死にですよ。
エース相手には逃げに徹して時間を稼ぎ、他の機体と同じ形と同じ色の量産型MSをこそ真っ先に倒すことを優先するのが重要です。
量産機部隊の中でも、特に動きの悪いMSを見つけたら数機がかりで真っ先に撃墜させ、一番弱い機体を落としたら、次に弱い機体を多勢に無勢で。
確実に数の優位を増していくことを優先させ、『隊』としての『敵部隊』を倒すことをこそ考えた方が現実的ですよ」
「戦争において、敵軍相手に弱い者虐めができない兵は、味方を死なせる無能です。死になさい。
民間人に軍隊がおこなう弱い者虐めは、虐めじゃなくて虐殺ですが、軍隊と軍隊で行う虐めは正義とかいう代物の別名。
虐めを民間人にはできても敵軍相手にはできない無能に用はありません。ヴァルハラか死かを選ぶ権利と自由だけは認めてあげますよ」
それが連合軍新司令官セレニアの示した、新たな戦略方針だった。
弱兵から率先して全力で殺していき、経験豊富なベテランほど狙われにくくなる戦法は、出生率に課題を抱えるコーディネイター国家プラントにとって嫌すぎる方針だったことだろう。
できればイザークたちとしては、味方の兵達の支援に回りたい思いがあったが、彼らには正面の敵だけに戦力を集中しきれない理由を今ひとつ抱えさせられている。
『こち・・・《ヴォルテール》・・・現ざ・・・・・・敵MAの強襲を受け・・・』
「ッ!! やはり母艦を狙ってくる奴がいたかッ!! 損傷はッ!? 艦の機能は維持できそうか!?」
『艦載MSによ・・・・・・本艦の損しょ・・・・・・小破・・・み。ですが僚艦・・・・・・は、中破の模よ・・・・・・』
突如として状態の悪い通信が母艦から届けられ、イザークは予期していた事態が現実となったことを告げる知らせに歯ぎしりせんばかりの怒りに駆られさせられる。
これも地球軍が新たに用いるようになった新戦術の一つで、地球上空における制宙権の奪い合いでもザフト軍に大きな被害をもたらした戦法でもあった。
母艦から発したMS隊と互いのMS隊とを正面からぶつかり合わせている合間に、機動力のある大型MAを隕石や小惑星に紛れるように戦場を大きく迂回させ、艦載機が遠く戦場まで出払っている母艦を一撃離脱で強襲させる――というのが、この戦法の骨子だった。
地球上空での戦いでは、多くの味方部隊がコレを同時多発的に仕掛けられたことで、撤退に追い込まれている。
本国から遠く地球まで出兵していたザフト軍艦隊にとって、母艦を失わされることは帰り道を失わされたに等しい状況へと追い込まれたことを意味せざるを得ない。
そのような状況に突如として追い落とされてしまえば、たとえ母艦が落とされることなく防ぎ切れた場合でも、艦載機パイロットたちには平常心を維持したまま戦闘を続けることは難しい。
コレを続けることで精神的にも物理的にも追い込まれていったザフト軍は、やがて撤退を余儀なくされ、制宙権を地球軍側に奪い返されるという屈辱を味わうことになる。
イザーク達にとって、この戦法は記憶にあるものだった。
前大戦で連合軍の《足つき》から、かつての母艦《ヴェサリウス》に仕掛けられた作戦を応用したものだと察することができたからだ。
身をもって一度思い知らされている奇襲作戦だったからこそイザークたちは対応することができ、一度の経験をするまでは当時の隊長『ラウ・ル・クルーゼ』でさえ引っかけられた戦法だ。到底一般のザフト艦艇の多くに適切な対処など望みうるわけもない。
この戦法を警戒したからこそ、イザークは攻めだけを意識して戦力を集中させることが出来なかったのだが、これだけ徹底した布陣で防御を固めている代物が、何の意味もないただのデカブツであろうはずもない。
「――止めろ! なにをする気かは分からんが、ディアッカ! とにかく止めるんだ! 俺の部下は、そう簡単にやられるような奴らじゃない! とにかく進むぞ!!」
『おうさッ!! グゥレイトっ!!!』
危機感に煽られ、とにかく今は前へと進み、前進することこそを優先すべきであると本能的に直感したイザークは決断し、損傷や被害を顧みることなくコロニーへとひたすらに肉薄するため全速力で機体を機動させ続ける!!!
そんな中。
現場である戦場で、兵と兵、指揮官と指揮官、戦術と戦術とがぶつかり合っている最中。
1人の人物が、時計の針を示す数字を確認する。
そうして万感の思いを、言葉として声に出しながら、その作戦の成功を確信する。
「さぁ、奏でてやろう。
この一撃が、我らにとって創世の光とならんことを願って―――」
今1人の人物が、時計の針を示す数字を確認する。
そうして万感の思いを、言葉にはできず声には出せぬまま、その作戦の成功を確信する。
(さぁ、奏でるがいい。
この一撃が、我々すべてにとって創世の光とならんことを願って―――)
共に同じ結果をもたらすことを望みながら。
共に同じ行動が行われることを望みながら。
その行動と結果と、先に待つものが違う道へと続いていく未来へ至らせるために。
新しい世界のため、生け贄として殺される、殺させる、プラント市民達へ。
「「おまえ達を弔う――レクイエムを」」
今、鎮魂の光は奏でられる。
つづく