機動戦士ガンダム 死のデスティニー   作:ひきがやもとまち

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PHASE-4

「クソッ! なんなのだ!? これは! 一体!?」

 

 ザフト軍の、ナスカ級高速戦闘艦《ボルテール》の艦橋に怒声が轟く。

 今では白服をまとう隊長にまで出世したイザーク・ジュールが、オペレーターから伝え聞かされたヘブンズ・ベース攻略戦の戦況に憤り、怒鳴り声を上げていたのである。

 

「味方は何をやっている!? 敵に先手先手を読まれて・・・これでは無駄に損害が増すばかりじゃないか!!」

 

 バンッ!と、掌を戦術モニターを映し出させていた机にたたきつけて大きな音を立てるイザーク。

 傍らに立つ副官と言うより女房役のディアッカ・エルスマンも正直、心情的には上官でもある親友の意見に賛成なのだが、声に出しては諫めなければならない立場でもあり、本心を殺して皮肉じみた諫言のみを口に出す。

 

「・・・つっても、しょうがないじゃん? ここでいくら怒鳴ってみたところで今から地上に助けにいけるわけでもないんだしさ。オレ達はオレ達で、やることやるしかないでしょ?」

 

 彼らは今、衛星軌道上に集結を完了させたザフト軍宇宙艦隊から、ヘブンズベース攻略部隊を支援するためモビルスーツ部隊を降下させるという目的でこの場に来ている。その部隊の降下準備が完了していない現状においては出来ることは準備を急ぐよう指示するだけ・・・それが現実の作戦指揮というものだろう。

 

「その程度のことは言われんでもわかっている! 降下部隊の準備を急がせろと言っているだけだ!!」

 

 親友に対して、先ほどよりさらに大きな声で怒鳴り返してそっぽを向くイザーク・ジュール。

 実際、彼もディアッカに言われた程度のことは理解した上で言った言葉であり、諫めてくれる女房役あってこその“甘え”であった。それが理解できているからこそ、周囲も彼の短気と感情論を受け入れられている。怒鳴り散らしはしても指揮官としての冷静な判断力までは失わないヤツだと解ってくれているから・・・・・・。

 

 

 ――だが、結果的に見てこのとき彼らの下した判断は間違っていたことが、しばらくして判明させられる。前大戦経験者であるイザークやディアッカを含む彼ら全員は、このとき忘れていたのだ。

 

 こちらが敵を滅ぼすため、味方の被害を可能な限り少なくするため準備万端ととのえてから出撃させようと努力している時。

 ――敵もまた、同じことを同じように迎撃準備を余念なく進めているものだという当たり前の現実を、彼らはこのとき一時的に失念していたという苦い現実を・・・・・・。

 

 その油断と思い上がりが、一機残らず全滅させられた降下部隊という分かり易い結果によって彼らに苦い教訓を与えさせられることになるのである・・・。

 

 

 

 

 

 一方、地上のヘブンズ・ベース攻略部隊内においても味方の置かれた状況に憤って叫び声を上げている一人のザフト軍兵士がいた。

 最新鋭機《デスティニー》のパイロット、シン・アスカである。

 

 レイとルナマリアを置いて先に単独出撃していた彼は、デスティニーの圧倒的性能にモノを言わせて迎撃に出てきた敵部隊を次々と撃破しながらヘブンズベース上空へと向かっていた。

 

「クソォッ!! コイツらぁ!!」

 

 ・・・もっとも。彼の場合は一方的にやられてばかりの味方に不甲斐なさを感じる気持ちは微塵もなく、ただただ仲間たちを『身勝手でバカな理由』で殺しまくってくる悪い奴らロゴスと、その手先たちの理不尽な暴力に対しての殺意と憎しみだけがそこにある・・・。

 

 ――この時、彼は自覚していない。

 自分が今戦っている敵からすれば、自分こそがデストロイなのだという事実をだ。

 

 自分たちを追い詰めて、大勢で取り囲んで逃げ道を塞ぎ、「撃て」と命令されたから必死の思いで出撃してきただけの自分や仲間たちを殺戮しながら無傷のままで突き進み、命を捨てて抵抗しても掠り傷一つ追わせられない彼こそが。

 ――敵にとっては『赤い翼を持つ悪魔のような大量殺戮者』でしかない事実を、この時の彼には理解できない。したくない――

 

「もう好きになんかさせるかァッ!!」

 

 右手に持ったMA-BAR73/S高エネルギービームライフルを連射して数機がかりで迎撃に出た敵のウィンダム部隊を羽虫のように落としまくり、多くの犠牲を払いながらも火線を掻い潜り抜けて一矢報いようとした一機を腰部に据えられたM20000GX高エネルギー超射程砲で撃ち貫き爆散させ、通常兵器しか保有しない量産機ウィンダムを独特の軌道を描いて飛来する特殊武装RQM60Fフラッシュエッジ2ビームブーメランで二機まとめて両断しながら、“味方を一方的に蹂躙している黒い巨人を倒すため”先を急ぐ《デスティニー》とシン・アスカ・・・。

 そして、敵に多くの無駄な犠牲を払わせながらもヘブンズベース上空に到着した彼の眼下で、黒色で禍々しい姿をした敵の巨人《X1デストロイ》の圧倒的火力と防御力の前に数機まとめて爆散させられていく味方の最期の姿が目に映る。

 

「コイツぅっ! くっそぉ!!」

 

 自分が出撃した目的――『倒すべき敵』の姿を前にして、彼の感情は激しく燃え上がり激情となる。

 

「お前たちは・・・っ、お前たちも・・・・・・っ!!」

 

 だが、その心にデストロイへの憎しみと怒りはあっても、ベルリンで出撃したときのようなパイロットまでも憎む気持ちはわずかもなく、むしろ哀れみと同情と・・・・・・殺すことでしか救うことができない自分の無力さから来る罪悪感がそこにある。

 

 ――思い出されるのは、ステラ・ルーシェの名を持つ少女。

 ベルリンでデストロイのパイロットだった女の子。自分が『守る』と約束しながら死なせることしか出来なかった悲運の少女。

 遺伝子操作を忌み嫌う連合・ブルーコスモスが、薬やその他の様々な手段を使って作り上げている生きた兵器。戦うためだけの人間。

 一定期間内になにか特殊な措置を施さないと身体機能を維持できなくされてしまった哀れな戦争の被害者たる子供たち・・・・・・。

 

 シンが『守るために』『死なせないために』手に入れた《デスティニー》の力では、『殺すことでしか』守れないし救うことも出来ない『強さが無意味になる存在』・・・・・・

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」

 

 はたして、その罵倒は誰に対して向けられたモノであったのだろうか?

 事実をあらためて認識した瞬間に彼の頭は冴え渡り、激情は一気に冷却されて冷静さを保ちながらも敵への憎しみは失われていない。

 新型エンジンを最大出力で稼働させて、赤い翼状のビーム光を背部にまとわせたデスティニーにMMI-714アロンダイト対艦刀を構えさせる。

 

「こんなことをする・・・こんなことをする奴ら、ロゴス!!」

 

 そして、すべての元凶たるロゴスを討つため、目の前に立ち塞がり彼らを守ろうとする黒い巨人X-1デストロイを倒してでも先へ進む決意を固めさせる。

 

 すべての責任はロゴスにあると信じて。すべての悲劇の原因はロゴスにあると信じて。

 ステラも、ハイネも、マユも、父さんも母さんもみんなみんな、戦争なんかで死ぬ必要のなかった良い人たちが死んでしまったのは、自分たちの身勝手でバカな理由で世界を戦争に巻き込もうとするロゴスこそが・・・・・・すべての原因!!

 

 

「許すもんかぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

 

 

 叫んで、機体をデストロイに向け加速させるシン・アスカ。

 デストロイ一号機に乗る生体CPUスティング・オークレーが彼に気づいて迎撃しようとするが、如何せん。

 出力と口径が大きすぎるデストロイの射撃武装は迎撃に向いておらず、斜角の自由も利かないため、デストロイと比べれば遙かに小型であるデスティニーには掠り傷一つ追わせられないまま容易に懐の内側へと入り込まれてしまう。

 

 敵が狙いづらいよう急降下しながら接近して、鈍重な敵の目の前まで到達したら逆に急上昇をかけてからアロンダイトを振り下ろす!!

 

 

 今まで積もり積もった行き場のない怒りと憎しみをすべて込めて彼は叫び、斬撃を放つ!

 すべての戦争の元凶であるロゴスを討ち、世界を平和にするために!! 二度と戦争を起こす必要のない平和な世界を築くために!

 今まで払ってきた犠牲を無駄にしない為にも! 戦争で死んでいった人たちの為にも!!

 

 たとえ、その為にデストロイに乗せられた哀れな被害者の少年少女たちを殺すことになろうとも、彼らのような犠牲者を二度と出さずに済むため! 戦争を終わらせるため!! ロゴスを討つのだ!! 絶対に! 何があっても! 誰を倒すことになったとしても!!

 

 

『ロゴスさえ討てば戦争は終わり、平和な世界がやってくる――』

 

 

 ディランダル議長の言葉が彼の脳裏によみがえり、そしてまた――彼は“すがる”。

 

 彼は気づいていない。自分が彼の言葉を『信じたわけではない』という事実に。

 ただ、それが真実なのだと『信じたいから信じただけ』でしかない自分自身の真実に。

 

 正義の味方や神のような人間がいて欲しいと願った彼に、『自分がそうだ』と言ってくれた人がいて。

 

 悪の軍団や魔王のような人間たちがいて、そいつらさえ倒せば世界が平和になるような、分かり易い悪党たちがいて欲しいと願った彼に、『ロゴスこそがそうだ』と、その人が世界が隠してきた真実を教えてくれたから。

 

 そうであって欲しいと願ったから。

 それが真実であってくれたら良いと願い求めたから。

 

 だから彼を信じた。彼の言葉にすがりついた。

 それが彼にとって最も都合がよかったから・・・・・・。

 

 だから信じた。

 自分の夢が、理想が、信じ貫きたい正しさこそが『正しいのだ』と言ってくれた人間の甘言を。美辞麗句を。自分にとって都合のいい言い分を。

 すべては自分の願望を全肯定してくれたから!! だから―――ッ!!!

 

 

「お前たちなんかがいるから!! 世界はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 だから、だからこそ。

 ―――世界は彼の“甘え”を許容してくれる人間ばかりは用意してくれないのだ。絶対に・・・・・・。

 

 

『・・・迂闊な人ですねぇ~。飛んでるんですから、下にも目をつけとかないと撃たれちゃいますよぉ~?』

 

 

「――!? 反応! 真下か!?」

 

 突然、コクピット内に全方位チャンネルによる誰かの声が届けられたと思った次の瞬間に、今度は危機を告げる警報が鳴り響いてシンの意表を突く。慌てたシンが機体に再度の急上昇をかけさせる!

 

 今自分が飛び上がってきたばかりの位置に、雪を上からかぶせてエンジンを切った敵機が隠れ潜んでいたのである!

 その敵がビームライフルの安全装置を外して、急上昇させたデスティーが切り下ろしのため急降下に移った瞬間を狙い澄まして待ち続けていたタイミングに発砲してきた以上、彼のとるべき選択肢は斜め上への急上昇しか他にない。

 

 なまじ、刃渡りがデカすぎる対艦刀のアロンダイトは斬撃パターンの数が少なく、切り払うか、切り下ろすか、振り上げるか、あるいは切っ先を突き出しながら突撃するかの四パターンだけしかなく、どれも途中で横合いから邪魔が入り止められてしまうと、いったん後退して距離をおいての仕切り直しが要求される武装だからだ。

 

(チクショウ! せっかくここまで来たって言うのに!!)

 

 不条理な敵の奇襲に怒りの声を心の中で絶叫しながらも、彼は声に出しては何も言わない。

 言えなくなっていたからだ。

 いくらナチュラルと比べて頑丈に出来ていようと、コーディネーター用の特別機であるデスティニーで急上昇をかけ急降下に移らせた直後に再度の急上昇をかけさせたのでは機体はよくてもパイロットの体が保たない。

 猛烈なGが負荷としてシンの肉体に与えられ、彼はその衝撃を耐え抜くために歯を食いしばって我慢しづけるしかなかったのだ。

 

 翼の力も借りて、残り二機のデストロイからの追撃も回避して安全圏まで後退することに成功したデスティニーのコクピットの中でシンは、口の中にかすかな血の味を感じて舌打ちした。

 

 そして、ヘルメットのバイザーを上げてから「ペッ!」と、口内に生まれた異物を吐き出した。

 それは高Gに耐えるために全力で噛みしめた末に折れ砕け散った、自分の奥歯の残骸だった・・・。

 

 彼は自分で自分を傷つけさせた敵に、さらなる怒りと闘志を燃えたぎらせながら、先ほど自分を待ち構えて撃ってきた敵に、相手と同じ全方位チャンネルで呼びかける。

 

「誰だ!? 俺の邪魔をするヤツはァッ!!!」

 

 これから殺そうとしている敵に対して、「殺してやるから出てこい!」と告げているのと同義な質問。答えるバカな敵などいるはずがない。――本来ならば。

 

 

『――シン・アスカさんですねェ・・・?

 ザフト軍の赤服エースパイロットで、元はインパルスに乗っていた方の・・・。

 そして、ステラ・ルーシェさんを我々に返していただいた優しい男性・・・』

 

 

 本来ならば返ってくるはずのない、敵からの返事。

 だがこの敵には、返事を返すべき目的があった。

 返事をするため、相手に問わせなければいけない理由があった。

 

 

『はじめましてェ~、私は大西洋連合第八一独立機動群、通称《ファントム・ペイン》所属の・・・まっ、要するにブルー・コスモスが浚ってきたナチュラルの子供改造してロゴスの私兵集団として使ってた部隊の一員であり、ステラさんの元同僚ってヤツでしてねェ~。あなたに一言お礼を申し上げたくて待たせていただいてましたァ~。』

 

 

 そう、すべては『与えられた任務』を果たすために。

 デストロイを護衛して、敵に落とされないよう直援機として周囲に潜み、近づいてくる敵は『足止めして時間稼ぎに徹する』という任務を果たすために。

 

 

『ありがとうございました、シン・アスカさん。あなたのおかげで我々はベルリンを焼くことが出来ました。あなたが協力してくれたからこそ、ベルリンの虐殺は行うことが出来たのです。

 感謝しますよ、憎しみと怒りで敵を殺しまくるオレ達の同胞よ。アンタはオレ達の英雄だ。ベルリンを殺戮した最大の功労者で血まみれの英雄サマだ。

 どうだ? いっそのことオレ達の側につかないか? 歓迎するぜ、アンタはこっちの方が似合うと思うしな。

 自分が悪いと思った奴らを命令とか無視して撃って、自分が良いと思った奴らを組織の都合とか無視して生かして殺して、全部自分で決められる特権。

 善悪の基準を自分一人で決めちまって良い神の立場・・・それがアンタの望み求めていた至上価値のはずだ。今ならそれが手に入れられる、与えてもらえるし奪い取ることだって出来る。

 なぁ、一緒に来いよオレ達とさァ~。ロゴスとかデュランダルとか、安全な場所から命令出すだけで人に人を殺させまくる戦争指導者どもとか全部ぶっ殺してやってさァ~。自分たちが正しいと思ったことする権利ってヤツを、力尽くでもぎ取ってやってオレたち哀れで可哀想な被害者な子供たちのための世界創りに行こうぜよォ~? なァ~? きっと愉しいと思うぜェ~。どうするよォ~? え~?

 デュランダルに言われた通りに敵を殺しまくって褒められまくって最新鋭機まで与えてもらえたザフト軍のエースで、戦争指導者デュランダルの私兵シン・アスカさまよゥッ!!』

 

 

 ・・・ザフト軍が大々的に流している英雄シン・アスカのプロフィールをネタに使って、嫌がらせの『口先三寸』で精神面から攻撃することで一秒でも長く時間を稼ぐ。

 

 それが彼に与えられた上司からの命令。その為の人選。その為にこそ行わせておいた敵のエースパイロット、シン・アスカの身辺調査だったのだから・・・。

 

 

 

 

 

「――薄らデカい上に鈍くさくて、しかも乗ってるパイロットは自我を奪われたモビルスーツを動かすための生体部品でしかないデストロイを狙ってくるなら、敵の進路を限定することはある程度までは可能です。

 その為の策を授けておいた彼が上手くやってくれているなら、多少は時間が稼げているはず……私たちはその間に、私たちの作戦を遂行しますよ。

 インパルスの発進は確認できましたか?」

「ハッ! 先ほどミネルバからの発進を確認しました! 未確認の新型も同時に発進した模様であります!」

「・・・おそらくそれが敵の切り札的最高戦力と見て良いと思われます。敵の主力が留守の間に、敵本体を襲いますよ。『背水の陣・調虎離山』です。

 こんな時代でもノスタルジーはたまには良いモノですからね・・・第二幕上演開始!!」

「ハッ! ホログロフィー用工作艦、第二幕を上映開始いたします!」

 

 

 

 ・・・こうして戦いは再び変化の刻を迎える。

 連合軍の最後衛に配置されていた艦が、後輩から迫り来ていた敵艦隊による危機を味方に伝え、デュランダルが必死に統制を取り戻すため『今ロゴスを討たなければ!』と唱え続けている中で。

 

 ――灰色の雲で覆われた空に、その時の映像が静かに映し出されていく・・・・・・

 

 今度の映像は望遠レンズで撮影されていたモノらしく、音声はない。

 だが、そんなモノは必要なかった。そんなモノのあるなしなど問題にならないくらいに衝撃的な映像が。隠されていた真実が。無音の中で大空に映し出されていたからである・・・・・・。

 

 

 ――それは、どこかの島国の映像だ。

 どこかの島国にある瀟洒な洋館の映像であると同時に、その洋館がザフト正規軍が今次大戦から正式採用した最新鋭機《アッシュ》部隊によって取り囲まれて一方的に砲撃を受けている映像でもあり、そして攻撃を受けたのか撮影途中で途切れる映像でもあった――

 

 

「ば、バカな・・・そんなバカなこと有るわけがない・・・ッ」

 

 その映像を撮影していたカメラマンの“サクラ”が、デュランダル議長に招かれたテレビ局スタッフのリポーターの相方だからついてきただけの戦災で家族を失って困窮していた下っ端スタッフが、生中継しているカメラにも聞こえてしまう位置から呻くような声で『真実だけ』を大声で口にする。

 

 

「あれは・・・あの映像に映し出されていた砂浜はオーブの砂浜だぞ!! なんでザフト軍がオーブの民間人を攻撃してるんだ! おかしいじゃないか! 議長は・・・デュランダル議長は最後まで平和的解決を望んでいた平和な世界を目指している人じゃなかったのか!!

 だとしたら俺の家族は! 息子は! 父さんや母さんや妹たちは!!

 ザフト軍との戦闘に巻き込まれて死んでいった俺の家族たちの恨みや憎しみは誰に対してぶつければいいと言うんだ―――――――ッ!!!!」

 

 

 

 ――その誰でも視ようとと思えば視ることが出来る民需放送を垂れ流しながら聞いていた潜水艦のブリッジにいたクルーたちの視線が一斉に、自分たちを率いる新司令官セレニアに集まってくるのを目視で認識させられながらセレニアは軽く肩をすくめて、こう答えるのみ。

 

 

「・・・こちらが買収したにせよ、敵の謀略で招かれたにせよ、敵の軍事工廠内に忍び込んで新型機を強奪するまでやってのけた私たちロゴスが保有する特殊部隊です。

 オーブの笊と言うより枠みたいに穴だらけな国境監視網ぐらい合法非合法問わずいくらでも潜り抜けられるぐらいはできますよ。

 戦争で家族を奪われた哀れな男性に真実を教えて自分たちのために利用するぐらいのことも含めて、別に敵の専売特許って訳でもないですしね。

 ――では、下準備が整ったところで私たちも始めるとましょうか・・・・・・全艦、第二戦速、攻撃開始。撃ちはじめて下さい」

 

 

 こうして、ザフト軍にとっての終わりが幕を開けた。

 開けられてしまったのである・・・・・・・・・。

 

つづく

 

 

オマケ『オリジナルキャラクター設定紹介』

フェイ・ウォン(ファントム・ペイン隊員)

 大西洋連合第八一独立機動群、通称《ファントム・ペイン》所属のパイロットであると同時にセレニア子飼いの部下でもある青年。

 ガンダム系の機体に乗ってはいるが、実はブーステッドマンでもエクステンデッドでもなく、簡単な処置を施しただけで改造までには至っていない強化ナチュラル。モビルスーツを操縦できているのは単なる偶然で適正を持っていたからに過ぎない(切り裂きエドなど、一部にはそういうナチュラルが実在しており、その内の一人という設定)

 

 もともとエクステンデッドは、ブルー・コスモスの前盟主ムルタ・アズラエルが設立させた施設で開発されたブーステッドマンの技術を、彼の死とともに没落した組織の再興すると同時にジブリールが継承し発展させていったモノだった。

 その継承時の混乱でいくつかの施設が記録ごと忘れ去られてしまっていたのだが、セレニアがその内の一部を分け前として接収していたため彼の存在が誕生することに繋がっていくことになる。

 

 プラント非理事国の生まれで、エネルギー不足と貧困故に勃発していた内戦の最中、危険な国内から脱出しようとプラント理事国行きの船に密航していたところをブルー・コスモスのテロに対するコーディネーター側からの報復攻撃に巻き込まれて吹き飛ばされた母親の胎内から引きずり出されて生を受けたという複雑すぎる生まれの事情を持っており、兵士として生きてくる以外に生きる道を許されてこなかった。

 その後、セレニアに見出されて施設へと招かれ、簡単な強化処置を終えてからファントム・ペインに配属された。ステラたちとは部署が異なり、どちらかと言えばスウェン・カル・バヤンたちの方と面識がある。

 

 地獄の中を生き残ってきたため、今では人の血を見なくては収まりのつかない性格になってしまっており、改造されようがされなかろうが人が殺せる戦争が出来るなら誰にだって付くつもりでいる。

 主義主張や民俗宗教その他諸々はどーでもいいことだと感じている人物で、コーディネーターだろうとナチュラルだろうと、流れる血が赤ければそれでいいとさえ断言してしまえる程の危険人物。

 

乗っている機体名は《カミナシ》

 前大戦時の《カラミティ》《フォビドゥン》《レイダー》の三つの機体の特徴を併せ持たせた特殊戦タイプの機体でありながら攻撃力が低く、フェイズシフト装甲が基本のガンダムタイプを相手取るにはビーム兵器が不足している代わりとして、騙し討ちのような武装で時間稼ぎに特化させた武装が選出して装備されている。

 

 

 ・・・あくまで殺すこと、敵に血を流させることのみに特化して、手段や経過にこだわりを持たないフェイにとって、敵を殺すよりも先に殺されてしまったのでは殺せなくて愉しめないからこそ、この機体を悦んで受領した経緯を持っている。

 

 ある意味で、シンが罵る『身勝手でバカな理由で人を殺す悪そのもの』な男なのだが、そんな自分を自覚しており、普通の人間が持つべき倫理観が崩壊していることも解っていて、それでも『殺さなければ我慢できないからこそ殺している男』であり、人殺しは悪いことだと理解した上で『心の底から愉しんで殺っている』人物でもある。

 

 

 ――尚、機体名には当初ジブリールが別の名前を付ける予定になっていたのだが、パイロットがエクステンデッドではない特殊な事情もちナチュラルのフェイが選ばれたことから仕様が一部変更となり、その際にセレニアが識別のために変えさせたという経緯が存在している。

 が、一方で連合軍兵士たちの間では『形式主義が苦手なセレニアが神話系の名前ばかりから引用したがるザフト連合双方の首脳陣に付き合い切れなくなったからテキトーな名付け方に変えたかっただけではないのか?』という噂話が実しやかに囁かれていたりもする…。


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