Re ガンダムビルドオーバーワールド   作:らむだぜろ

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真面目なギャル対不真面目な獣

 

 

 

 

 

 

 一悶着あったが百合はその日、茜と別れた。

 ゲーセンでも、少しガンプラバトルを眺めていたが。

 思うことは、やはり馬鹿らしい。

 詰まらないバトルばかりをする。

 見ていて単調、単純、正直言えばイライラする。

(舐めている。相手に合わせて手加減して、文字通り遊んでる……。あんなもの、苛つくだけ)

 相手の技量に合わせて自分の技量を下げて戦う。なんだ、接待かなにかか?

 下らない。それで勝って何が嬉しい。それで勝たれてなぜ笑う。内心見下しているんだろう?

 手加減されて勝っただけなのに、自分のスキルが相手に勝ると掌で遊ばさせるのがそんなに楽しいか。

 そして気付かない相手も相手。なぜ理解できない。自覚しない。

 遊ばれているんだ。お前は、相手にただ遊び道具にされているだけ。

 ガンプラバトルを楽しむという行為に利用されているだけなのを分からないのか?

(まあ、無理もないか。あんな小学生相手に本気になっても)

 見ていた相手は、小学生のようだし、相手は大人だ。

 手加減しないと大人げないとか言われるわけ。

 本当にしょうもない。そんなバトルしか出来ないなら、辞めてしまえ。

 下らない。本気で思う。ここのバトルは下らなすぎる。

 弱い相手も、強い相手も。どっちも、クソ過ぎて。

(ムカつく……。見てて何が楽しいのこれ?)

 ほら、画面じゃまた空振りしたのに見逃しているぞ?

 相手は頑張れって言ってるぞ? 言ってる前に一撃入れて終わりにできたのに。

 こんな勝負、勝負以前の問題じゃないか。相手の技量をよく見ろ素人が。

 戦えれば満足なのか。自分が楽しければ満足なのか。

 どんな自己満足だ。自分が気持ちよければそれでいい。

 そんな思慮の浅い感覚でガンプラバトルをやるのか。

(……イライラする。こんなバカみたいな騒ぎ、ぶっ壊してやりたい)

 苛立ちを抑えてため息をついて、百合は茜に帰ろうと言った。

 忌々しい様に睨み付けるのを、茜は見ていた。

 横目で睨む彼女は、酷くイラついていて。

 本当に嫌悪しているのを、見てとれた。

 百合は歪んでいる。見ているだけで重なる感情を、自分で発散する。

 その為に、戦っているんだから。

(……怖い目。百合、あなた本当にガンプラバトル、してて楽しい……?)

 茜は思ったことを聞けば、楽しいわけがないと答えるだろう。

 彼女は勝ちたいのではない。楽しみたいのでもない。

 ただ、鬱憤を張らせればそれで良いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。模型部に、珍しい生徒が顔を出す。

「こんにちはー」

 ……派手な見た目の高等部の生徒。

 癖の強い金髪をサイドテールにして、高等部の制服を着崩れした状態で着て、上着は腰に巻いている。

 胸元や手首にはじゃらじゃらとアクセサリーで飾り、爪はエメラルドグリーンでネイルアートを施し、化粧をバッチリ決めたギャルだった。

 見るからに頭も軽そうな外見。模型部にいた生徒は、露骨に避けるように目を逸らす。

 北大路志帆という、高等部の一年生。割りと有名なギャルの一人。

 和樹不在のと時に来た彼女は、再び昼寝中に茜に訊ねようとするが、奥から見た百合に気付く。

「おっ、昨日の後輩ちゃんじゃん! 漸く見つけたわー」

 と、気安くこっちに来る。百合もあまり良い噂は聞かない彼女を警戒して会釈する。

 ギャルは怖い。そういうイメージが強く、中等部の生徒に何をするのか考えたくない。

 気さくなのは機嫌が良いときだけ。油断すると、カツアゲとか……。

「ちょい待ち。なんか勘違いしてない? あたしはなんもしないよ」

「ギャルの先輩は最初みんなそう言うんですよ……」

「いや、しないから。これ以上生活指導のブタに追い回されるの嫌だから」

 生活指導のブタ……ああ、高等部の生活指導、久村先生か。

 確かにオークみたいな顔と体型してて、女子生徒からエロポークとかキモブタとか言われている。

 性格は……まあ、最悪だろう。セクハラあるとか和樹も言ってた。

「……」

「そんな警戒せんでもなんもしないって。あのキモブタになに言われるか分からんしね」

 苦笑いする志帆は、首を振って用件を話す。

 即ち、昨日の一件の謝罪とお詫びに来たと。

「ゴメンね、あの世紀末に絡まれたんだって? あたしに関わってたとか居ないとかで。見境ないのは本当に困るわ。で、お詫びにちょっとお茶しない? 奢るよ後輩ちゃん」

「……はぁ」

 誰から聞いたんだろう。戻っていったはずなのに。

 兎に角絡まれたのは知っている。茜は寝ているのでまた今度にして。

 ほぼ初対面。なのにこの言動。困惑する百合に、志帆は気安いかと頬を爪でかいた。

「いや、後輩ちゃんの話は一応知ってるんよ。ほれ、あたしこれでもガンプラ部の部員だもんで。知り合いだって? あの女シャアと座敷わらしちゃんと」

「……佐藤と、沙羅?」

 女シャアって……香苗の事だろうか。

 奴は一体ガンプラ部で何をしとるんだ。

 ともかくも、幼馴染とは説明した。

「あーやっぱり。座敷わらしちゃんが昨日からなんか必死になってガンプラバトルに気合い入れてたからなにかと思ったんだけど、やっぱり後輩ちゃんの影響かー。普段は手抜きで遊んでるのに、マジになってるからなんかあったんだろうなと思ってたけど。昨日ゲーセン来てたのも、ガンプラバトルしにきたんでしょ?」

 志帆はけらけら笑って事情を言った。

 要するに、彼女は座敷わらしと女シャアの部活の先輩。

 和樹が言ってた遊んでいるってそういう意味のようだ。

 百合がガンプラバトルをしているのは言ってないが、志帆はそう思っても仕方ない。

 事情を知らないのだろうし、沙羅は本気でかかってきたのだと分かってそこは嬉しい。

 然し、百合は訂正する。

「ガンプラバトルは好きじゃないですよ。ただの、ストレス発散ですので」

「……おっ?」

 志帆も気付く。どうも、地雷を踏んだ。

 このちっこい後輩は、ガンプラバトルは好きじゃないと言った。

 確かにあの二名はこの子のガンプラに関してはなにも言わないし、ただユリンにそっくりの幼馴染が居るとは聞いてた。

「然しユリンにそっくりだね」

「誰がユリンだ私は百合だよ!!」

 先輩相手でも容赦なくそこは怒るか。聞いてた通り。

 ふむ、と志帆は考える。彼女は、物騒な雰囲気を感じる。

 何だろうか、このチラチラ見える嫌な感じは。

 この後輩の言う、ストレス発散か。

 志帆の嫌う言い分だが、同時に思う。

(そこそこ強い座敷わらしちゃんをマジにさせるってことは、これは相当の手練れか、あるいはあたしと同じか……)

 沙羅は普段は手抜きで遊んでいる。彼女も楽しければいいと言う分類。

 それが、昨日から力んで励んでいるようだし、多分影響はこの子だろうか。

 あるいは、寝ているそこの眼鏡の少女か。どちらにしても、彼女からアプローチしてみる。

 兎に角、帰り道ちょっと付き合ってとお願いすると、付き添いがほしいと言うので了承。

 彼女は丁度部室に来た、ガンプラ部が追いかけてたという美少女転校生とか言う女の子を捕獲。

 長い赤い銅の色の髪の毛と翡翠を思わせる綺麗な目のお人形さんみたいな子だった。

「ミュウ、一緒に来るの。巻き添えにしてやる」

「なにっ!? 何が起きてるの!? 百合ちゃん説明をして!!」

 小学生のような小柄な彼女のお腹に腕を回して、抱っこして誘拐する。

 訳がわからない彼女は、じたばた暴れていた。

「へぇー可愛い」

「ひぃっ!?」

 凄く可愛い女の子だった。

 素直に感想を言うと、竦み上がる女の子。

 青ざめてガンプラ部の刺客とか言われる。

「何だと思ってるんよガンプラ部……」

 酷い扱いと呆れる志帆。

 取り敢えず、皆はお茶をするべく帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よく志帆が通う駅前に来た。

 それなりに賑わう駅前通り。帰宅時のラッシュに溢れる人混み。

 その一角にあるファミレスに入った。オマケもありで。

 混雑する店内の奥の席に対面して座る。

 喧騒に響くなか、緊張で縮こまる後輩二名。

 笑ってコーヒーでも奢る志帆は、改めて謝罪をした。

 ミュウには、軽く話しておいて、成る程と納得していた。

「あの世紀末ヒャッハーはさ、あの辺じゃ有名なチンピラでね。OOのブラック系統のガンプラ使って集団で襲ってくる雑魚みたいなもんなのよ。一応顛末は見たけど大丈夫だった?」

「知り合いの師範代が物理で助けてくれたんで……」

「……ん? 女シャアが言ってた、胴着着てたあの天パか……?」

 彼の事も聞いているらしい。割りと香苗とは親しい仲のようだ。

 沙羅はそうでもないが。

「女シャア……? もしかして、香苗ちゃん……?」

 ミュウはハッキリ怯えていた。

 知り合いと言うとガタガタ震えていた。

 詰まりは、志帆がいつも通り楽しんでいたらヒャッハーが因縁つけてきた。

 纏めてブッ飛ばして、帰り際絡まれているのを見て慌てて戻ったらヤバそうな雰囲気の天パと目付きの悪い男子生徒が歩いているので任せたと。

「ここのファミレス、ガンプラバトルもできるんよ。後輩ちゃん、一戦遊んでかない? お相手するよ」

 ニコニコ笑って言い出す志帆は、一種の様子見をしていた。

 ストレス発散という意味は、戦えば大体判明する。

 誘えばどう出てくるかを見ていたが。同席の彼女は隣の百合を心配そうに見た。

 ああ、やっぱり訳ありか。察してはいたが。

 ガンプラバトルになにか、思うことがあるなら無理はしないと付け加えておく。

「……良いですよ。別に、私よりも強くて、適当なことをしないなら」

 対して百合は、妙に陰りのある顔で志帆に言った。

 濁った目で、睨むように見て。

「遊ばないでくださいね先輩。私、見下したり……舐められたり、適当なことをされるのが大嫌いなので。本気で相手して下されば、構いません」

 と、条件を出した。志帆も理解する。

(うわ、一番ヤバいタイプのファイターだこの子。スポーツ的な思考をしてて遊びに適応できてない、変な拗らせかたしてる思考だこの言い分。ヤバいなぁ……そうか、この子そっちの界隈の子だったか……)

 大体わかった。この子はスポーツのガンプラバトルの流儀の方だ。

 水と油の関係にいる。だから、こんなことも言い出すわけか。

 まあ、わかればいい。そっちがそれを望むなら、こっちも本気で行こう。

 それがきっと、楽しいガンプラバトルになると思うから。

 ……そう、この時は志帆は思っていた。

 結果は、全然違ったが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……分からない。

 後輩ちゃん、あんた何なの?

 この戦いかた、野獣みたい。

 勝ちたいの? 楽しみたいの? どっち?

 ……違うよねえ、こんなのはさ。

 これは、相手をぶっ壊す戦い。

 効率よく破壊して笑ってる。

 嗜虐的な事をしれくれるじゃん! でも、そんなのは……ちっとも面白くないんだよね!!

 何をしてもいいなら、相手の都合は無視ってそれ言ってるのヒャッハーと同じだよ!!

 この分からず屋!! あたしがその歪み、叩き直してやる!!

 次回、ガンダムビルドオーバーワールド。

『赤い流星、虹色の翼』

 あたしの切り札……トランザム!!

 って、嘘!? 追い付かれた! あれって、デスティニーの最大稼働!?


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